

結論から書きます。登山そのものが初めてなら、最初の1回からいきなり一人で登るのはおすすめしません。まずは誰かと一緒に歩くか、ガイドが同行するツアーで、コースタイムどおりに歩けるかどうかの感覚をつかむのが先です。
そのうえで一人で登るなら、始め方はほぼ決まっています。人通りの多いメジャールートの低山を、明るいうちに往復して終わる——この枠から外れない計画にすることです。初心者が一人で山に登れるかどうかは、体力や経験より、この枠を自分で守れるかどうかで決まります。
警察庁も山岳遭難の防止対策として、単独登山はトラブルが起きたときの対処がグループ登山に比べて難しくなることを挙げ、複数人での登山に努めるよう呼びかけています(令和7年における山岳遭難の概況等・2026年9月20日確認)。一人で登るというのは、その分を装備・事前の準備・撤退の判断で埋める登り方だと考えてください。
「山の中で、誰にも気を遣わずに自分のペースで歩きたい。」ソロ登山(単独登山・一人登山)には、グループ登山にはない自由さと静けさがあります。朝焼けに合わせて出発するのも、気に入った稜線で長く休むのも、判断はすべて自分次第です。
一方で、道に迷っても、怪我をしても、体調を崩しても、その場で頼れるのは自分だけという厳しさも同時に背負うことになります。警察庁の統計でも、単独登山の遭難者は複数登山に比べて死者・行方不明になる割合が明らかに高いという結果が出ています(詳しい数字は後半で紹介します)。
この記事は、ツアーではなく自分の判断で計画し行動する「ソロ登山」を対象にしています。一人での参加に不安がある場合は、ガイドが同行するツアーに申し込むという選択肢もあります。ツアーの選び方や料金の目安は登山ツアー初心者・一人参加の選び方にまとめてあるので、そちらも参考にしてください。登山そのものの基本を知りたい場合は登山とは何かから読むことをおすすめします。
ここでは、ひとりで山に登るときに何が変わるのかを場面ごとに整理したうえで、装備・登山届・撤退の基準・遭難統計という4つの軸で、一人登山への具体的な備え方を解説します。
ソロ登山(一人登山)とは何か


ソロ登山とは、同行者を伴わず、自分ひとりの判断で登山口から下山まで行動する登山のことです。ガイドが同行するツアー登山や、仲間と歩くパーティ登山とは、この「判断を分担できるかどうか」が根本的に違います。
自分のペースで歩ける自由
誰かに合わせる必要がないため、休憩のタイミングも、写真を撮る時間も、すべて自分の裁量で決められます。早朝に出発して山頂で朝日を待つことも、気に入った場所で長時間過ごすことも、ソロ登山ならではの楽しみ方です。
静けさと向き合う時間
人の話し声がない登山道では、風が木々を抜ける音や鳥の声など、パーティ登山では気づきにくい自然の音に耳を傾けられます。ひとりで歩く時間は、自分の体力や気分と静かに向き合う時間でもあります。
この自由と引き換えに、一人登山は判断を誤ったときに気づいてくれる人も、体調の変化を指摘してくれる人もいないという条件を背負います。次の章では、複数人での登山と具体的に何が違うのかを場面ごとに比較します。
何から始めればいいか — 経験の積み方の順番
「登山を始めたい」「山登りしたい」と思っても、最初の一人山行をどこから始めればいいか迷う人は多いはずです。
経験が浅いうちは、まず複数人での登山でコースタイムの感覚や休憩の取り方に慣れておくと、その後にソロ登山を始めたときも自分のペース配分を判断しやすくなります。ソロの一歩目は、人通りが多くコースタイムの短い低山を選び、日没にまだ余裕がある時間に下山できる計画にしましょう。慣れてきたら、コースタイムや標高差を少しずつ伸ばしていく、という順番が遠回りに見えて確実です。
最初の1回は、山の名前より先に「3つの数字」で枠を決める
はじめての一人山行は、どの山に登るかを考える前に、どこまでなら自分ひとりで引き返せるかで枠を決めておくと計画が崩れにくくなります。目安としては、休憩を含めた行動時間を4時間前後までに収め、登りの標高差は500m前後まで、下山予定時刻は日没の3時間前に置く。このくらいの余裕があれば、途中で30分遅れても慌てずに判断できます。
枠を先に決めておくと、山を選ぶ作業が「登ってみたい山を探す」から「この枠に収まる山はどれか」に変わります。どの山がその枠に入るのかは、標高差とコースタイムから見分ける方法を初心者の山の選び方で具体的に整理しているので、山を決めるときはそちらを見てください。
道具が一つもそろっていないなら、借りて一度試すという順番もある
一人で登ると決めたとき、最初につまずきやすいのが装備です。優先順位をつけるなら、足元(登山靴)、雨と風を防ぐもの(レインウェア)、暗くなっても歩ける明かり(ヘッドライト)の3つが先で、そのほかは後から足していけます。
ただし、年に1〜2回しか山に行かないかもしれない段階で、一式を買いそろえる必要はありません。登山用品のレンタルを使えば、靴やザック、レインウェアをまとめて借りて一度歩いてみてから、自分に必要なものだけを買い足すという順番も選べます。やまどうぐレンタル屋
のようなサービスは、「まず一度、一人で歩けるかどうか試したい」という段階と相性のいい選び方です。借りたものが自分の足や背中に合うかどうかを確かめてから買えば、買い直しも減らせます。
はじめてのソロ登山、山とコースの選び方
これから一人で山登りを始める場合は、装備をそろえる以前に「どの山のどのコースを選ぶか」が安全性を大きく左右します。1人登山にまだ慣れていないうちは、コースタイムが短く一人で登れる山を選ぶのがおすすめです。日帰りのハイキングを1人で楽しみたい場合も、考え方は同じです。
人通りの多いメジャールートを選ぶ
同じ山でも、登山者の多い時間帯・メジャールートであれば、万一のトラブルの際に他の登山者に気づいてもらえる可能性が上がります。最初のうちはマイナールートやバリエーションルートを避け、ガイドブックや登山地図で「一般ルート」として案内されているコースを選びましょう。
電波が入るエリアかどうかを事前に確認する
スマホの電波状況は山域によって大きく異なります。登山地図アプリや通信キャリアのエリアマップで、圏外区間がどのくらい続くのかを事前に確認しておくと、モバイルバッテリーや衛星通信機など通信手段の準備を判断しやすくなります。
周回よりピストン、コースタイムには余裕を持たせる
初めてのソロトレッキングでは、コース取りそのものが安全対策になります。往復で同じ道を戻る「ピストン」ルートは、一度歩いた道を戻るだけなので道迷いのリスクを抑えやすいコース取りです。周回ルートに挑戦する場合も、コースタイムに対して十分な余裕を持たせ、休憩や現在地の確認に使える時間を計画に組み込んでおきましょう。基本の歩き方を先に身につけておくと、コースタイムの見積もりもぶれにくくなります。
「低い山だから安心」ではない — 高尾山の遭難者は穂高連峰より多い
警察庁の「令和7年における山岳遭難の概況等」には、遭難者の多い主な山岳が載っています。令和7年(2025年)の遭難者数は、標高3,190mの穂高連峰が78人だったのに対し、標高599mの高尾山は106人でした。高尾山は過去5年の平均(101.4人)と比べても4.5%増えています(警察庁・令和7年における山岳遭難の概況等・2026年9月20日確認)。
標高が低く、道が整備され、人通りも多い山でも、遭難そのものは毎年起きているということです。ただし、初めての一人登山でこうした山を選ぶ意味は「安全だから」ではなく、途中でやめても帰れる逃げ道が多いからです。高尾山にはケーブルカーとリフトがあり、その日の運行時間は高尾登山電鉄の公式サイトで公表されています(2026年9月20日確認)。足が止まったときに乗り物で下りられる、途中でバス停に出られる、駅まで歩いて戻れる——最初の1回は、こういう「途中でやめる方法」が具体的に思い浮かぶ山から選んでください。
最初の1回で避けたい選び方
- 登山口までのアクセスが1日数本のバスだけで、乗り遅れると帰れないコース
- 下山口が登山口と違い、乗り継ぎを間違えると戻れないコース
- 山頂まで行かないと引き返す場所がない、逃げ道の少ないコース
- 「一人で登った」という記録が少なく、道の状況が事前に分からないコース
複数人となにが違うのか、場面別に比較する

同じトラブルでも、隣に人がいるかどうかで対応は大きく変わります。ひとり登山で起こりやすい6つの場面を、複数人での登山と比較して整理しました。
| 場面 | 複数人なら | 一人だと | 備え方 |
|---|---|---|---|
| 道に迷った | 別のメンバーが地図を確認したり、違うルートを提案できる | 自分の判断だけが頼りで、思い込みに気づきにくい | 紙地図とコンパスにGPS端末を併用し、定期的に現在地を確認する |
| 捻挫して歩けない | 誰かが荷物を持ったり、応援を呼びに先行できる | 動けない状態で救助を待つ時間が、そのまま体温低下につながる | ツェルトや非常用のシュラフカバーで防寒し、体力を温存して救助を待つ |
| 日没に間に合わない | 声を掛け合ってペース配分を調整できる | 焦りから無理な行動を選びやすい | あらかじめ撤退の時刻を決めておき、ヘッドライトを常に携帯する |
| 熊に遭った | 話し声や物音が自然と人の気配を伝える | 静かに歩く分、鉢合わせの可能性が上がる | 熊鈴を携帯し、出没情報を事前に確認する(詳しくは後述) |
| スマホの電池が切れた | 誰かの端末を借りられる | 地図アプリも家族への連絡手段も同時に失う | モバイルバッテリーを携帯し、紙地図も併用する |
| 体調を崩した | 誰かが異変に気づき、対応を相談できる | 自分では異常に気づきにくく、判断力も落ちる | 無理をする前に撤退を選ぶ基準を、事前に数字で決めておく |
この6つの場面に共通するのは、「代わりに気づいてくれる人がいない」という一点です。ここから先は、それぞれの備えを具体的な装備と行動の基準に落とし込んでいきます。
表に1つ足すとすれば「帰らなかったことに、誰が何時に気づくか」
道迷い・ケガ・体調不良は山の中で起きる問題ですが、一人登山にはもう一つ、山を下りたあとに効いてくる違いがあります。下山の連絡です。
複数人で登っていれば、誰かが戻らなければその場で気づけます。一人の場合、あなたが山から戻らなかったことに気づける人は、出発前に予定を伝えておいた相手だけです。行き先と下山予定時刻を伝えていなければ、誰も探し始めません。「何時までに連絡が無かったら通報してほしい」という時刻まで決めて家族に渡しておくと、気づかれるまでの時間が一気に短くなります。逆に言えば、ここを省くと、装備をどれだけそろえても救助の初動だけは遅いままになります。
一人で困りやすい場面は、統計でも上位に出ている
令和7年(2025年)の山岳遭難者3,623人を態様別にみると、道迷いが30.9%で最も多く、転倒19.2%、滑落17.3%と続きます。上の表で挙げた「道に迷った」「捻挫して歩けない」が、そのまま件数の上位に並んでいることになります。
通信についても数字が出ています。令和7年の発生件数3,122件のうち、遭難した現場から携帯電話や無線機で救助を要請できたのは76.3%で、残る23.7%は通信手段を使えていません(圏外や電池切れも「使用なし」に含まれます)。4件に1件近くは、その場から電話がつながっていないという前提で装備を考えたほうが安全です(警察庁・令和7年における山岳遭難の概況等・2026年9月20日確認)。
ソロ登山(一人登山)に向いている人、気をつけたい性格の傾向
装備をそろえる前に、そもそも自分にソロ登山が向いているかどうかを考えてみましょう。ひとりで山登りをする楽しさは、体力や技術以上に、性格による向き不向きに左右される部分が大きいからです。「山登りしたい」「これから登山を始めたい」と思ったときに、最初の一歩をソロにするかどうかも、この向き不向きで判断が変わります。
一人の時間を心地よく感じられるか
話し相手がいない数時間を、退屈ではなく心地よいと感じられるかどうかは、一人山登りを長く続けられるかどうかの分かれ目になります。反対に、静かな時間が苦手で不安を感じやすい人は、いきなりロングコースを選ばず、行動時間の短いコースでソロハイキングを試してから、少しずつ距離を延ばしていくのが安全です。人通りの多い時間帯を選べば、一人でも周囲に人の気配を感じながら歩けます。
「まだ大丈夫」を自分で止められる性格か
一人で登山する場合、進むか引き返すかを止めてくれる同行者がいません。予定より遅れていても「まだ大丈夫」と自分に言い聞かせやすい性格の人ほど、後述する撤退の基準を数字で決めておく必要があります。逆に、慎重すぎるくらいでちょうどいいと思える性格の人は、単独登山のリスクを先回りして考えられるタイプです。体力に自信があるかどうかより、予定からの遅れを素直に認められるかどうかのほうが、単独登山では重要な資質だといえます。
女性が一人で登山するときによく聞かれること
女性一人での登山について、周囲から心配されたり、自分自身も不安を感じたりすることがあります。ただし、備えるべきことの中身は男女で大きくは変わりません。人通りの多い時間帯・ルートを選ぶ、登山届を提出する、行程を家族に伝えておくといった対策は、単独登山男子でもひとり登山女子でも共通です。山小屋やテント場では周囲に単独登山者がいることも多く、受付で「一人で来ました」と伝えておくと、何かあったときに気づいてもらいやすくなります。日中の時間帯・人通りの多いコースを選ぶことで、性別に関わらず心細さはある程度抑えられます。
体力や経験が浅くても始められるか
体力や登山経験に自信がなくても、ソロ登山そのものを諦める必要はありません。まずは日帰りの低山で、コースタイムに余裕を持たせた計画から始め、「一人でも最後まで自分のペースで歩き切れた」という経験を積み重ねていくと、少しずつ難易度を上げていく判断がしやすくなります。焦って自分の経験以上のコースに挑戦しないことが、結果的に一番の注意点です。
ソロ登山に向いているかの目安
- 一人の時間を、退屈ではなく心地よいと感じられる
- 予定より遅れても「まだ大丈夫」と思い込まず、素直に撤退を選べる
- マイナールートより、まずは人通りの多いメジャールートを選べる
- 体力や経験の背伸びをせず、コースタイムに余裕を持たせた計画を立てられる
一人だからこそ整える装備 — 動けなくなったときの備え

複数人なら誰かが助けを呼びに走れる状況でも、一人だと自分自身がその場で救助を待つしかありません。ここでは、動けなくなった状況を想定した装備を紹介します。
ビバーク装備 — ツェルトとシュラフカバーで「動けない一晩」に備える
捻挫や道迷いで下山が翌日にずれ込んだとき、命を左右するのは食料よりも体温です。風雨と地面からの冷えを遮るシェルターがあるかどうかで、行動不能になったときの安全性は大きく変わります。ツェルトのような簡易シェルターを持っているかどうかが、一晩をやり過ごせるかの分かれ目になります。
ツェルトとシュラフカバー、エマージェンシーシートは役割が少しずつ違い、重さも収納サイズも変わります。どれを持つか迷ったときは、緊急ビバーク用のツェルトの選び方で使い分けを整理しているので、日帰りに持つ1つを決める参考にしてください。
SOLの「ニューエスケープヴィヴィ」は、透湿性のある生地でできたシュラフカバー型のビバークサックです。汗の蒸れを外へ逃がしながら、内側のアルミ蒸着面で体温を反射して保温する構造になっています。ザックの隙間に入れておける大きさなので、日帰り登山でも携帯しやすい非常用装備です。
もう少し軽量・コンパクトに済ませたい場合は、1人用の「ヒートシート エマージェンシーヴィヴィ」のような簡易タイプもあります。ニューエスケープヴィヴィより構造がシンプルな分、荷物を少しでも軽くしたい人向けの選択肢です。
スマホの電池が切れたら、地図も連絡手段も同時に消える
一人で歩いているとき、スマホは地図アプリであり、家族との連絡手段であり、万一の際の通報手段でもあります。複数人なら誰かの端末を借りられますが、一人だと電池切れがそのまま「何もできない状態」に直結します。
Anker Nano Power Bankは、10000mAh・45W出力で、持ち運ぶケーブルを1本減らせる巻取り式のUSB-Cケーブルを内蔵したモバイルバッテリーです。行動中にスマホやGPS端末を充電しながら歩ければ、電池切れによる情報の遮断を防ぎやすくなります。
電波が無くても出せる合図と、合図を出せなくなる前の備え
通信機器の話の前に、電池も電波も使わない手段を1つ持っておくと、一人のときの安心感が変わります。登山道から数十メートル外れて動けなくなると、叫び声は思ったほど遠くまで届きません。疲れていても同じ音量を出せるホイッスルは、その差を埋める道具です。使うときは一定の間隔をあけて繰り返し吹き、返事があるまで体力を使い切らないようにします。どんな形のものを選び、どこに付けておくかは遭難時の合図に使うホイッスルの選び方にまとめています。
もう一つ、一人だからこそ重いのが頭部のケガです。頭を打って意識を失えば、ホイッスルも携帯電話も使えません。警察庁は山岳遭難の防止対策として、滑落・転落のおそれがある場所や上方からの落石に備えてヘルメットを着用するよう呼びかけています(警察庁・令和7年における山岳遭難の概況等・2026年9月20日確認)。すべての山で要るわけではないので、どんな山で登山用ヘルメットが必要になるかを確認して、自分の行く山が該当するかどうかで判断してください。
圏外でも助けを呼べる手段を持つ
登山道の多くは携帯電話の電波が届きません。動けなくなったときに110番や119番が使えるとは限らないという前提で、通信手段を考えておく必要があります。
衛星通信機という選択肢
ガーミンの「GPSMAP H1i Plus」は、日本詳細地形図をプリロードしたハンドヘルドGPSに、inReachの衛星通信機能を組み合わせたモデルです。イリジウム衛星を経由するため、携帯電話の電波が届かない場所からでもテキストメッセージの送受信や、緊急時にガーミンの応答センターへSOSを発信することができます。衛星通信機能を使うには、ガーミンが提供する衛星プランへの別途契約が必要です。契約内容や料金は公式ページで確認してください。
ココヘリという選択肢
衛星通信機のほかに、日本国内では「ココヘリ」という会員制の捜索サービスもよく利用されています。年会費制の会員になると専用の発信機が渡され、遭難時にはその発信機が発する電波を専用の受信機で捕捉して位置を特定する仕組みです。公式サイトによると、電波は最長16km先まで捉えることができ、全国41都道府県の警察・消防にも受信機が導入されています。位置を特定したあとは、提携する民間ヘリコプターやドローン、地上の捜索隊が実際の捜索にあたります。自分から連絡を送る衛星通信機とは違い、ココヘリは「見つけてもらう」ための装備という点が特徴です。
紙地図・コンパスと、予備のGPS端末
衛星通信機やココヘリを持たない場合でも、スマホ以外の手段を用意しておくことが道迷いへの備えになります。
ガーミンの「eTrex SE」は、マルチGNSSに対応したGPSハンドヘルドで、2.25インチのハイコントラストスクリーンとデジタルコンパスを備えています。スマホとは別に電源を持つ端末を携帯しておけば、スマホの電池切れやアプリの不具合が起きても現在地を見失いにくくなります。
電子機器はどれも電池切れや故障のリスクを避けられません。SILVAの「コンパス レンジャー」のようなベースプレート型のコンパスを紙地図と組み合わせて携帯しておけば、電子機器がすべて使えなくなった場合でも自分の位置と進む方角を確認できます。
熊に遭う前にできること
一人で歩いていると、話し声や物音が少ない分、熊との遭遇率が上がるといわれます。複数人なら会話の声が自然と人の気配を伝えますが、一人だとその役割を道具で補う必要があります。
モンベルの「トレッキングベル スクエア サイレント」は、歩行中は音を鳴らし、テント場や休憩中など音を止めたい場面ではスイッチで消音できる熊鈴です。熊対策は装備だけでなく、出没情報の確認や食料の管理など出発前からの行動が重要になります。前夜の情報確認から下山後の対応までの詳しい熊対策は登山の熊対策にまとめてあるので、あわせて確認してください。
登山届(登山計画書)を出す — 一人ならなおさら
複数人での登山なら、誰か一人が下山していなければ仲間が異変に気づけます。しかし一人での登山は、自分から届け出ない限り、いつ・どこにいて・いつ戻る予定なのかを誰も把握していません。登山届は、その「唯一の記録」になります。
都道府県の条例で提出が義務になっている山域がある
登山届は多くの山域で任意ですが、次の4県は条例によって提出を義務付けており、違反すると罰則もあります。
| 都道府県・条例 | 対象山域・期間 | 罰則 |
|---|---|---|
| 長野県 長野県登山安全条例 |
県が指定する登山道を通行する場合(バリエーションルートや県境をまたぐ場合も対象) | 罰則規定なし |
| 岐阜県 北アルプス地区及び活火山地区における山岳遭難の防止に関する条例 |
北アルプス地区、御嶽山・焼岳・白山・乗鞍岳 | 5万円以下の過料 |
| 富山県 富山県登山届出条例 |
剱岳周辺、12月1日〜翌年5月15日(登山の20日前までに提出) | 5万円以下の罰金または科料 |
| 群馬県 群馬県谷川岳遭難防止条例 |
谷川岳の危険地区、3月1日〜11月30日(登山の10日前までに谷川岳登山指導センターへ提出。冬季は危険地区への登山自体が禁止) | 3万円以下の罰金 |
この4県以外の山域でも、登山届は捜索の初動を大きく左右します。書き方や記載すべき項目の詳細は登山計画書の立て方で解説しているので、そちらを参考にしてください。
撤退の基準を先に決めておく
一人だと「まだ行けそうだ」という感覚に歯止めがかかりません。単独登頂にこだわるほど、この歯止めは利きにくくなります。複数人なら誰かが「引き返そう」と言い出せますが、一人の場合はその判断も自分だけで下すことになります。だからこそ、出発前に撤退の基準を数字で決めておくことが重要です。地図でエスケープルート(短時間で下山できる撤退用のルート)を確認しておくと、いざというときの判断がぐっと楽になります。
時刻で決める
コースタイムをもとに、山頂や主要な通過点を「何時までに着いていなければ引き返す」と先に決めておきます。日没後の行動は道迷いのリスクを大きく上げるため、ヘッドライトの有無に関わらず、明るいうちに下山できる計画を基準にします。
天候で決める
雨具で対応できる範囲を超える雨や、雷、強風の兆候が出た時点で、稜線や山頂を目指すのをやめて安全な場所まで下がる基準を決めておきます。天候の急変は、相談できる相手がいない一人の登山ほど、早めの判断が必要です。
体調で決める
頭痛や吐き気、極端な疲労感といった体調の異変を感じた時点で、計画を中断する基準を決めておきます。一人だと自分の状態を客観視しにくいため、「少しでもおかしいと感じたら撤退する」というくらい基準を厳しめに設定しておくと安全側に倒せます。
・天候…雨具で対応できる範囲を超えたら稜線・山頂をあきらめる
・体調…「少しでもおかしい」と感じた時点で計画を中断する
一人のときの「引き返す」を、もう少し細かく決めておく
時刻・天候・体調の3つの軸は、一人のときには「誰も止めてくれない」前提でもう一段細かくしておくと使いやすくなります。山の中で考え始めると、そのときの気分に引きずられるからです。出発前に、次の5つを紙かスマホのメモに書き出しておいてください。
出発前に文字にしておく5つ
- 引き返す時刻を、山頂だけでなく主要な分岐ごとに1つずつ決める
- コースタイムに対して何分遅れたら短いほうの計画に切り替えるか(30分が一つの目安)
- エスケープルートの入口が、コースのどこにあるか
- 雨・風・雷のどの兆候が出たら稜線と山頂をあきらめるか
- 下山連絡の期限時刻と、連絡が無かったときに通報してもらう相手
警察庁も、視界不良や体調不良のときは危険が高まるとしたうえで、「道に迷ったかも」と思ったら闇雲に進まず、いま歩いてきた道をたどって正規の登山道まで引き返すこと、早めに登山を中止することを挙げています(警察庁・令和7年における山岳遭難の概況等・2026年9月20日確認)。
引き返すという判断は、失敗ではなく計画の一部です。一人で登るときほど、決めた時刻に決めたとおり引き返せたかどうかを、山頂に立てたかどうかより上に置いてください。同じ山はまた登れます。
単独登山の遭難統計 — 数字で見る一人のリスク
警察庁が公表する「令和7年における山岳遭難の概況等」によると、令和7年(2025年)の山岳遭難者は3,623人でした。このうち単独登山による遭難者は1,367人で、遭難者全体の37.7%を占めています。前年の令和6年(3,357人)と比べると、遭難者数自体が266人増えています。
単独登山の遭難者のうち、死者・行方不明者になった割合は15.3%(209人、内訳は死者182人・行方不明27人)でした。複数登山(パーティ登山)の遭難者における死者・行方不明の割合は単純計算で5.5%となり、単独登山は複数登山に比べて9.8ポイント高くなっています。
令和7年の遭難者全体における死者・行方不明者は332人でしたが、そのうち209人が単独登山者です。単純計算すると、山岳遭難で死者・行方不明になった人のおよそ63%を単独登山者が占めていることになります。
この数字は「単独登山を避けるべきだ」という結論を示すものではありません。一人での登山は複数人での登山よりも、装備・事前準備・撤退判断の基準を厳しめに設定する必要があるという裏付けとして捉えてください。登山全体の遭難件数や原因別の内訳は登山とは何かのページで、警察庁データをもとに詳しく解説しています。
この数字はいつのものか — 最新は令和7年(2025年)中の統計
ここで紹介した数字は、警察庁が2026年6月18日に公表した「令和7年における山岳遭難の概況等」によるものです(2026年9月20日確認)。山岳遭難の統計は前年分が翌年6月ごろに公表されるため、2026年9月の時点で最新なのは令和7年(2025年)中の数字になります。
令和7年の山岳遭難は、発生件数3,122件(前年比+176件)、遭難者3,623人(前年比+266人)で、いずれも前年より増えました。単独登山の遭難者数も、令和2年の1,086人から令和7年の1,367人まで増えています。
一方で、遭難者全体に占める単独登山者の割合は、令和3年の41.7%をピークに令和7年は37.7%まで下がっています。単独の遭難だけが突出して増えている、という形ではありません。それでも死者・行方不明者の割合が単独15.3%・複数5.5%と開いたままである点が、一人で登るときに備えを厚くしておく理由になります(警察庁・令和7年における山岳遭難の概況等・2026年9月20日確認)。
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よくある質問
Q. ソロ登山は登山初心者でも始められますか?
これから登山を始めたい人が、初めての登山からいきなりソロを選ぶのはおすすめできません。経験の浅いうちから、いきなり難易度の高い山を一人で目指すのも同様です。まずは歩き方の基本を身につけたうえで、コースタイムが短く人通りの多い低山から始め、経験を積みながら難易度を上げていく進め方が安全です。不安がある場合は、ガイドが同行する登山ツアーから始めるのも一つの方法です。
Q. 女性が一人で登山をするのは危険ですか?
性別に関わらず、一人での登山は複数人での登山よりもリスクへの備えが必要になる点は共通しています。人通りの多い時間帯・ルートを選ぶ、登山届を必ず提出する、行程を家族と共有しておくといった基本的な備えは、性別を問わず単独登山者全体に共通する対策です。
Q. 登山届はどこに提出すればいいですか?
多くの山域では、登山口のポストへの投函、都道府県警察のオンライン届出システム、あるいは日本山岳ガイド協会などが運営するオンライン登山届サービスから提出できます。長野・岐阜・富山・群馬など条例で提出が義務付けられている山域では、提出先や提出期限が個別に定められているため、入山前に該当する県警や自治体の公式ページで確認してください。書き方の詳細は登山計画書の立て方で解説しています。
Q. スマホの地図アプリだけで登山届の代わりになりますか?
なりません。地図アプリは自分がルートを確認するための道具であり、家族や警察に行き先を知らせる手段ではないからです。地図アプリを使う場合でも、行き先と予定を家族に伝え、必要な山域では登山届を別途提出してください。
Q. 熊鈴を鳴らしていれば熊対策は十分ですか?
十分とはいえません。熊鈴は人の気配を伝える道具の一つであり、出没情報の事前確認や食料の管理、早朝・薄暮の行動を避けるといった対策と組み合わせて初めて効果を発揮します。詳しくは登山の熊対策で解説しています。
Q. 一人でテント泊もできますか?
日帰り登山より難易度は上がります。テント泊は装備が重くなる分、行動時間が長くなり、撤退の判断も難しくなるからです。日帰りのソロ登山に十分慣れてから、テント場が近く人の出入りが多い山域で経験を積むことをおすすめします。
Q. 登山届を出さずに遭難すると、何が変わりますか?
家族や職場が下山予定を把握していない場合、異変に気づかれるタイミングそのものが遅れます。登山届は捜索隊が最初に頼る手がかりで、提出の有無がそのまま初動の早さに直結します。長野・岐阜・富山・群馬のように条例で提出が義務付けられている山域では、未提出そのものが罰則の対象になる点も忘れないでください。
Q. ソロ登山はやはり危険ですか?
装備や事前準備をしっかり整えれば、危険を大きく減らすことはできますが、ゼロにはなりません。単独登山の遭難者数や死者・行方不明者の割合は、前半の「単独登山の遭難統計」で紹介した数字を参考にしてください。数字を怖がるより、装備・登山届・撤退の基準という3つの備えを一つずつ整えることが、現実的なリスクの下げ方です。
Q. 一人登山は危険ですか? 単独の遭難は実際どのくらい起きているのですか?
令和7年(2025年)中の山岳遭難者3,623人のうち、単独での遭難者は1,367人で全体の37.7%、そのうち死者・行方不明者は209人(15.3%)でした。複数人での登山での死者・行方不明者の割合は5.5%なので、9.8ポイントの差があります(警察庁・令和7年における山岳遭難の概況等・2026年9月20日確認)。危険が無いとはいえませんが、差が出るのは「トラブルが起きたあと」の部分です。だからこそ、動けなくなったときの装備と、下山予定を誰かと共有しておくことの効き目が大きくなります。
Q. 一人ハイキングから始めてもいいですか?
行動時間の短いコースから始めるという意味では、理にかなった始め方です。ただし「ハイキングだから安全」ということではありません。令和7年の山岳遭難者を目的別にみると、ハイキング中の遭難者は209人(全体の5.8%)記録されています(警察庁・同資料)。コースが短くても、道迷いや転倒が起きる条件は変わらないので、地図・雨具・ヘッドライト・行動食は日帰りの登山と同じように持ってください。
Q. 圏外で動けなくなったら、どうやって助けを呼べばいいですか?
まず、全員が電話で呼べているわけではない、という前提を持ってください。令和7年の山岳遭難3,122件のうち、現場から携帯電話や無線機で救助を要請できたのは76.3%で、残り23.7%は通信手段を使えていません(警察庁・同資料)。電波が届く場所まで数十メートル動けることもあるので、まず地図アプリで尾根側・開けた側を確認します。動けない場合は、ホイッスルなど電波に頼らない合図と、体温を保つ装備で救助を待つことになります。衛星通信機やココヘリのような会員制の捜索サービスは、この「電話がつながらない場合」を埋めるための備えです。
Q. 登山を始めたいのですが、装備は最初から全部そろえないとだめですか?
登山靴・レインウェア・ヘッドライトを先に用意し、残りは登る山に合わせて足していく形で始められます。買う前に一度試したい場合は、レンタルで一式を借りて歩いてみてから、自分に合うものを買い足す進め方もあります。持ち物の全体像は登山の持ち物リストで確認してください。
まとめ — 一人で山に登るために

1人で登山することの魅力は、自分のペースをどこまでも守れる点にあります。ソロ登山は、自分のペースで自然と向き合える魅力的な登山スタイルです。ただし、道に迷っても、怪我をしても、電池が切れても、その場で対応できるのは自分だけという条件は変わりません。
複数人なら分担できる判断を一人で背負う分、装備・登山届・撤退の基準は、複数人での登山よりも厳しめに準備しておく必要があります。ビバーク装備で「動けない一晩」に備え、モバイルバッテリーと予備のGPS端末で通信と現在地の手段を二重に持ち、条例のある山域では登山届を必ず提出する。この記事で紹介した装備と注意点を一つずつ揃えていけば、ひとり登山のリスクは着実に減らせます。
まずは経験のある低山から、装備と登山届を整えたうえで、自分だけの登山を楽しんでください。
出典
- 警察庁「令和7年における山岳遭難の概況等」(単独登山者数・遭難者数・死者行方不明者の割合の根拠)
- 長野県「長野県登山安全条例」(指定登山道での登山計画書届出義務の根拠)
- 岐阜県「北アルプス地区・活火山地区への登山には登山届の提出が必要です」(対象山域・過料の根拠)
- 富山県「富山県登山届出条例に基づく登山届の提出について」(剱岳周辺の提出期間・期限の根拠)
- 群馬県警察「登山届の提出」(谷川岳危険地区の提出期限の根拠)
- COCOHELI「ココヘリ捜索のしくみ」(発信機・受信機による捜索の仕組みの根拠)
- Garmin「GPSMAP H1i Plus」公式製品ページ(衛星通信機能の根拠)
- 高尾登山電鉄「高尾山ケーブルカー・リフト」公式サイト(ケーブルカー・リフトの運行状況の根拠)
- 山と自然ネットワーク コンパス(オンラインでの登山届提出・下山通知の根拠)
※統計は警察庁が2026年6月18日に公表した令和7年(2025年)分を2026年9月20日に確認したものです。条例の内容は2026年8月時点で各公式ページに記載の内容です。罰則の金額や提出期限は変更される場合があるため、入山前に必ず該当する都道府県・警察の公式ページでご確認ください。

















