垂壁やスラブの課題は形になってきたのに、手前に傾いた壁に入ったとたん、数手で前腕がパンパンになって落ちてしまう。ボルダリングを続けていると、多くの人が一度はここで足踏みします。ホールドの大きさはそれほど変わらないのに、壁の角度が少し変わっただけでまるで別の競技のように感じられる——その原因は、腕の力が足りないことだけではありません。

大きく効いているのは、体の向きです。壁に正面を向いたまま登る姿勢と、体をひねって横向きに構える姿勢とでは、同じホールドを持っていても腕にかかる負担の感じ方が変わってきます。この「壁に対して横向きに構える」動きが、一般に側対(そくたい)ムーブと呼ばれているものです。

名古屋市港区のボルダリングジム「カラフルロック」編集部が、側対ムーブとは何か、正対とはどう違うのか、前傾壁でなぜ効くと言われるのか、そしてジムで何を練習すればよいのかを、順を追って整理します。用語の使い方が現場でも割れている部分については、割れていること自体もそのまま書きます。

先に結論

側対は「体をひねって壁に対して横向きに構える姿勢」、正対は「体が壁に正面を向く姿勢」。この共通部分だけが、どの解説でもほぼ一致している定義です。

前傾壁の基本姿勢は、腕を伸ばして体を壁から離すこと。腕を曲げて体を壁に引き寄せる登り方はかえって疲れやすいとされています。

側対では対角の手と足で軸をつくります。これを一般にカウンターバランスと呼びます。同じ側の手足だけで支えると、体が回転して壁からはがされやすくなります。

側対は正対の上位版ではありません。課題・傾斜・ホールドの向きによって使い分けるもので、覚えたから傾斜が登れるようになる、という性質のものでもありません。

傾斜壁で腕から先に終わってしまうのはなぜか

スラブや垂壁では、体重の多くを足で受けられます。壁が立っているぶん、足を置いたホールドの上に体を乗せてしまえば、手は姿勢を保つ役に回れるからです。ところが壁が手前にかぶってくると、何もしなければ体は壁から離れる方向へ引かれます。この引かれる分を腕で押さえ込もうとすると、一手ごとに前腕が消耗していきます。

そこで問題になるのが、体をどう置くかです。壁に正面を向いて両手両足を左右対称に使う姿勢のままだと、腕を曲げて体を壁に近づける動きになりやすい。日経Goodayに掲載された尾川とも子さん監修の入門記事では、前傾壁の基本姿勢として「腕はまっすぐ、体は壁から離す」ことが挙げられ、腕を曲げて体を壁に近づけると疲れやすいと説明されています。感覚的には壁に貼り付いたほうが安定しそうに思えるので、初心者ほど逆をやってしまいがちな部分です。

壁の角度そのものの話はボルダリングの壁の種類で整理しています。自分がどの角度でつまずいているのかが分かると、練習の順番も決めやすくなります。

側対ムーブとは何か

側対ムーブは、体をひねって壁に対して横向きになる姿勢をつくり、その状態から次のホールドへ手を伸ばしていく動きの総称です。腰から上を壁と平行に近い向きに入れ替えるイメージで、次に取りにいく手の側の肩が壁に近づき、反対側の肩が壁から離れます。

正対が「壁に正面を向いて、体の中心線を壁に向けたまま登る」姿勢だとすると、側対はその中心線をひねって斜めに使う姿勢です。この「正面か、横向きか」という区別だけは、複数の解説サイトのあいだで説明が一致しています。

側対は、腕の力を使わずに登るための技ではありません。体の向きを変えることで、腕にかかる負担の一部を足と体幹に配分し直す動き、と考えたほうが実際の感覚に近くなります。

正対の姿勢そのものが不安定だと、そこから体をひねっても軸が定まりません。順番としては正対ムーブの基本を先に固めてから側対に入るほうが、結果的に近道になることが多いです。

正対と側対はどう違うのか

両者の違いを、姿勢・体の向き・手を出すときの動き方という切り口で並べると、次のようになります。どちらが上ということではなく、成立する場面が違う、という読み方をしてください。

観点 正対 側対
体の向き 壁に対して正面 壁に対して横向き(ひねった状態)
腕の使い方 左右対称に近い形で使いやすい 伸ばした腕を軸にして体を吊る形になりやすい
足の役割 両足で体を持ち上げる形をとりやすい 対角の足で体を押さえ、もう一方の足で向きを調整する
成立しやすい場面 スラブ・垂壁、ホールドが体の正面に並ぶ課題 前傾壁、次に取る手と反対側に足のホールドがある場合など
崩れ方 腕が曲がったまま止まり、前腕が消耗する 軸が左右どちらかに寄ると、体が回転してはがされる

表にすると対立して見えますが、実際の一本の課題のなかでは、正対で処理する区間と側対で処理する区間が入れ替わります。前傾壁だから全部側対、ということにはなりません。

前傾壁で側対が効くとされる理由

理由としてよく挙げられるのは、大きく二つです。ひとつは、体をひねることで、伸ばした腕と対角の足を結んだ線の上に体重を預けやすくなること。腕を曲げて引きつけ続ける区間が減れば、そのぶん前腕の消耗は遅くなります。

もうひとつは、腰の使い方です。山と溪谷社のCLIMBING-netに掲載された体幹づくりの記事では、前傾壁において骨盤(腰)の動きが上への推進の要であり、手足の動きと骨盤の動きを連動させるのが効率的な登り方だと説明されています。体幹が弱いと手足の力に頼りすぎて疲れやすい、という指摘もあります。側対の姿勢は、この腰を入れる動きと相性がよい形だと言えます。

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カラフルロック編集部ジムでよく聞くのは「腕は伸ばしたほうが楽と言われたけれど、伸ばすと怖い」という声です。伸ばした腕にぶら下がる感覚は最初は不安定に感じるもので、いきなり強い傾斜で試すより、緩い角度で姿勢そのものに慣れる時間をとる人が多いようです。

対角の手足で軸をつくる(カウンターバランス)

側対の姿勢を支えているのは、対角にある手と足です。右手で次のホールドを取りにいくなら左手と右足、左手で取りにいくなら右手と左足、という組み合わせで軸をつくります。対角の手足でバランスを取ることを、一般にカウンターバランスと呼びます。

逆に、右手と右足のように同じ側の手足だけで体を支えると、軸が左右どちらかに寄ります。この状態では体が回転する方向に力が働き、壁からはがされやすくなります。傾斜壁で「保持はできているのに体だけ回って落ちる」という落ち方をしたときは、持てていないのではなく軸が寄っている可能性を先に疑ってみてください。

「二点支持」という言い方には注意。側対を二点支持、正対を三点支持と一対一で対応させる説明を見かけることがありますが、三点支持はもともと登攀全般で使われる安全上の原則で、特定のムーブ専用の呼び名ではありません。この対応づけを裏づける独立した資料は確認できなかったため、当記事では「対角の手足で軸をつくる」という言い方に統一しています。

どの手足を軸にできるかは、ホールドの形と向きにも左右されます。同じ位置にあっても、縦に持つホールドと横に持つホールドでは、体を預けられる方向が変わります。この部分はホールドの種類と持ち方とあわせて考えると整理しやすくなります。

呼び方が複数あることを先に知っておく

側対の姿勢をつくる動きは、「ダイアゴナル」「振り」などと呼ばれることもあります。ただし、この対応関係は資料によって説明の切り口が異なります。側対をアウトサイドダイアゴナルと呼ぶ解説がある一方、インサイドとアウトサイドの割り振り自体が別の解説と食い違って見えるものもあり、フラッギングを側対の一種として扱うか別のムーブとして並べるかも一定していません。

統一された公式定義が見当たらない以上、細分類の名前を暗記することにはあまり意味がありません。名前より先に、体の向きと軸の位置がどうなっているかを自分で説明できるようにしたほうが、課題に対して応用が利きます。

関連する動きとしては、膝を内側に落として腰を壁に寄せるドロップニーがよく併用されます。詳しくはドロップニー(キョン)で傾斜を攻略を、ムーブ全体の見取り図が欲しい場合はボルダリングのテクニック一覧を参照してください。基本の動きは正対と側対の二つだけ、という整理は現在では狭すぎる見方で、マッチ・クロス・送り・フラッギングなども並列に基本として扱われています。


ジムでの練習の進め方

いきなり強い傾斜で形をつくろうとすると、姿勢を確かめる前に落ちてしまい、何が良くて何が悪かったのかが残りません。角度を段階的に上げていくほうが、体の向きの違いを比べやすくなります。日経Goodayの入門記事でも、初心者は110度程度の傾斜から練習を始めるという段階的な助言が示されています。

壁の角度 その角度で確かめたいこと
80度スラブ・90度垂壁 足に乗る感覚と、腰を壁に寄せる動き。側対の前段として正対の安定をつくる
105度・110度 腕を伸ばしたまま体をひねる姿勢に慣れる。対角の手足で軸が中央に来ているかを確認する
115度 ひねった姿勢のまま腰を送り、手を出す動作までをつなげる
130度・170度ルーフ 姿勢が崩れる限界を知る段階。形が固まる前に無理に入ると消耗が早い

練習中に自分で確認したい項目を挙げておきます。

  • 手を出す直前、支えている腕は伸びているか(曲げたまま止まっていないか)
  • 体を支えている手と足は対角の組み合わせになっているか
  • 腰が壁から遠くに残ったままになっていないか
  • ホールドに乗っていない側の足が、ただ垂れ下がっていないか
  • 手だけで距離を出そうとしていないか
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カラフルロック編集部編集部の整理では、同じ課題を正対の姿勢と側対の姿勢で続けて登り、腕の残り具合を自分で比べる方法が分かりやすい練習になります。うまくいかない日があっても、それは姿勢の問題か保持の問題かを切り分ける材料になります。

カラフルロックの壁で練習する場合

当ジムの壁は8面、横幅は約35mです。80度のスラブ、90度の垂壁が2面、105度・110度・115度・130度の前傾壁が4面、そして170度のルーフという構成で、側対の姿勢を段階的に上げていくには角度の刻みがそろっています。MoonBoardは2016年セットを設置しています。設備の詳細は壁の構成・設備のページにまとめています。

現在、高さ約8mのリード壁は閉鎖中です。ご利用いただけるのはボルダーの壁のみとなりますので、来店前にご確認ください。

ムーブの練習は、まず自分の登り方を知るところから始まります。初回はレクチャーを行っていますので、姿勢の話も含めてスタッフにお尋ねください。持ち物や当日の流れは初めての方へのページで確認できます。

よくある質問

Q. 正対と側対は、どちらを先に覚えたほうがよいですか?

一般的には正対の姿勢を先に安定させるほうが進めやすいとされています。側対は体をひねって軸をずらす動きなので、ひねる前の基準となる姿勢が定まっていないと、どこがずれているのかを自分で判断しにくくなるためです。ただし課題によって必要な動きは変わるので、順番が一つに決まっているわけではありません。

Q. 側対は傾斜のある壁でしか使わないのですか?

前傾壁で話題になることが多い姿勢ですが、垂壁でも、次に取るホールドと反対側に足のホールドがある配置では自然に側対の形になることがあります。壁の角度だけで決まるものではなく、ホールドの位置と向きの影響も受けます。

Q. 「ダイアゴナル」や「振り」と側対は同じ意味ですか?

側対の姿勢をつくる動きをダイアゴナル、振りと呼ぶ説明は多く見られます。ただし呼び方は複数あり、インサイド/アウトサイドといった細分類の割り振りは資料によって食い違いがあります。統一された公式定義は見当たらないため、名前の暗記より姿勢の理解を優先することをおすすめします。

Q. 側対の姿勢をとると体が回ってしまいます。原因は何ですか?

よく挙げられるのは、支えている手と足が同じ側になっている場合です。軸が左右どちらかに寄ると体が回転する方向に力が働き、壁からはがされやすくなります。対角の組み合わせになっているか、ホールドに乗っていない側の足が向きの調整に使えているかを確認してみてください。

Q. 力が強くないと側対はできませんか?

側対は腕力の代わりになる技ではなく、体の向きを変えて負担のかかり方を変える姿勢です。腰と手足の動きを連動させることが要点とされており、握力や腕力の数値だけで可否が決まるものではありません。一方で、姿勢を保つには体幹が関わるため、緩い角度から段階を踏むほうが取り組みやすくなります。

Q. カラフルロックには側対を練習できる壁がありますか?

105度・110度・115度・130度の前傾壁と170度のルーフがあり、緩い傾斜から順に上げていくことができます。80度スラブと90度垂壁もあるため、正対の姿勢を確かめてから傾斜へ移る流れもとれます。なお現在、高さ約8mのリード壁は閉鎖中で、ご利用はボルダーの壁のみとなります。

角度の刻みがそろった壁で、姿勢の違いを自分の体で確かめてみませんか。名古屋市港区須成町3丁目14番、初回はレクチャーからご案内します。

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