登山の常備薬は4本柱で決める|市販薬の3分類と「持てない薬」の線引き

※本記事にはプロモーション(広告)が含まれます。

登山の道具の話は、たいてい靴とザックから始まります。そのあとレインウェア、ヘッドランプ、地図と進んで、最後のほうに「常備薬」という項目がぽつんと残る。装備リストには書いてあるのに、何をどれだけ入れればいいのかは書いていない。ドラッグストアの棚の前で効能書きを順番に読んで、結局いつも家にある箱をひとつザックに放り込んで出発する——登山歴が数年ある人でも、ここだけは毎回あいまいなまま、という話をよく聞きます。

あいまいになる理由は、入口の置き方にあります。棚に並んでいるのは「効能」で分類された商品です。ところが山で必要になるのは、効能書きの一致ではなく「自分の体でどう出るか分かっている薬かどうか」「そもそも自分が用意できる薬なのかどうか」という別の軸です。効能から入ると、この2つの軸がいつまでも立ち上がりません。

数字の面も見ておきます。警察庁の資料によると、令和7年(2025年)の山岳遭難は発生3,122件、遭難者3,623人、負傷者1,480人でした(警察庁、2026年6月18日公表/2026年8月24日時点)。原因の内訳としては、令和6年(2024年)の態様別で「病気」が256人、全体の7.6%を占めています。年度が違うので数字は並べて足せませんが、道具や技術の話とは別のところで、体調そのものが遭難の入口になる場面が一定数あることは読み取れます。

この記事では、個別の薬品を名指しして「これが効く」という書き方はしません。書けるのは、一般用医薬品の分類という制度の話と、消防庁や日本赤十字社が公表している応急手当の手順、そして「これは処方が前提だから自分では用意できない」という線引きまでです。実際に何を飲むかの判断は、必ず本人と医師・薬剤師のあいだで決めてください。

  • 常備薬は効能ではなく「ふだんの薬/市販薬の分類/処方が要るか/保管と携行」の4本柱で決める
  • 一般用医薬品の第1類・第2類・第3類と要指導医薬品が、それぞれ買うときにどう違うか
  • 高山病の薬やエピペンのように、そもそも市販では用意できない薬の扱い方
  • 日帰り・小屋泊・縦走で変わる持ち方と、高温・湿気・凍結を避ける保管の実務

この記事の考え方:効能ではなく「4本柱」で選ぶ

常備薬を効能から選ぼうとすると、候補が無限に増えます。頭痛、腹痛、下痢、便秘、かゆみ、目のゴロつき、鼻水、のどの痛み——山で起こりうる不調を数え上げれば、ザックの半分が薬になってしまう。しかも、その大半は「起こるかもしれない」というだけで、自分の体に実際に起きた記録があるわけではありません。

そこで入口を、効能から4つの問いに置き換えます。第一に、それは自分がふだん飲んでいる薬か。第二に、市販薬として買うなら、それは制度上どの分類に入るものか。第三に、そもそも医師の処方が前提で、自分では用意できないものではないか。第四に、それをどう保管し、どう取り出せる位置に入れるか。この4つ目には「人に渡さない・もらわない」という線も含みます。

編集部の4本柱:①ふだん飲んでいる薬か ②市販薬の分類のどこか ③処方が前提で持てないものではないか ④どう保管し、どこに入れ、誰の手にわたるか。この順に問えば、棚の効能書きを一つずつ読み比べる必要はなくなります。

自分に投げる問い 答えが「いいえ」なら この記事のどこ
柱1 ふだん飲んでいて、体でどう出るか分かっているか 山で初めて試さない。事前に薬剤師へ相談する 柱1の章
柱2 買うとき、どの分類として売られているものか 買う前に売り場で分類と説明を確認する 柱2の章
柱3 薬局で自分の判断で用意できるものか 処方が前提。行程の相談ごと医師へ回す 柱3・柱3の続きの章
柱4 高温・湿気・凍結を避けて、必要な瞬間に取り出せるか 入れ場所と包装から作り直す 柱4の章

この4本柱は、持つものを増やすための枠組みではありません。むしろ逆で、「持たない」と決めるための枠組みです。柱1で自分の体で結果が読めないと分かったもの、柱3で処方が要ると分かったものは、その時点で候補から外れます。外れたものを追いかけずに済むぶん、残ったものの扱い——量、包装、入れる場所——に手をかける余裕が生まれる。装備の話は、たいてい「何を減らせたか」で質が決まります。

この順番には意味があります。柱1と柱3は「そもそも持てるかどうか」を決める門で、ここを通らないものは、どれだけ効能書きが魅力的でもザックに入りません。柱2と柱4は、門を通ったものをどう扱うかの話です。順番を逆にすると、買い方と入れ方だけが上手になって、中身は毎回なんとなくのまま、という状態が続きます。

編集部の見立て:常備薬が決まらない人の多くは、柱1を飛ばして柱2から入っています。売り場の分類表示を熱心に読むのに、自分が去年の山で何に困ったかは思い出せない。順番を戻すだけで、持ち物リストは驚くほど短くなります。

薬は「効きそうなもの」ではなく「結果が読めるもの」から入れる——これが4本柱の背骨です。以降の章では、この4つを一つずつ具体的な行動に落としていきます。

薬は効能ではなく、4本柱で持つか持たないかを決める
薬は効能ではなく、4本柱で持つか持たないかを決める

柱1:まず自分がふだん飲んでいる薬を確認する

4本柱の一番目は、新しく買うものではなく、すでに家にあるものの棚卸しです。血圧や糖尿、脂質異常症、喘息、アレルギー、痛風、睡眠に関わる薬など、日常的に処方を受けて飲んでいるものがあるなら、それは山でも同じ時刻に飲む前提で計画を組みます。山に行く日だけ抜く、という選択は自分で決めるものではなく、主治医と相談して決めるものです。

市販薬の側にも「ふだんの薬」があります。頭痛のときにいつも使っている鎮痛薬、胃が重いときの胃腸薬、花粉の季節に飲んでいる薬。効き方も、眠くなるかどうかも、体で分かっている。この「分かっている」という一点が、山ではとても大きな意味を持ちます。標高を上げて、寝不足で、水分が足りていない状態は、薬の出方をふだんと変える可能性がある場面です。そこに初めて飲む薬を足すのは、変数を二つ同時に動かすことになります。

編集部の見立て:山で初めて試す薬は、装備でいえば「箱から出したての靴で縦走に入る」のと同じ構図です。うまくいけば何も起きませんが、合わなかったときに引き返す余地が小さい。試すなら、下山して受診できる日常のうちにという線を引いています。

もうひとつ確認しておきたいのが、眠気や集中力への影響です。市販薬の中には、添付文書や外箱に「服用後は乗物又は機械類の運転操作をしないでください」といった注意が書かれているものがあります。山道を歩くことはそのまま当てはまるわけではありませんが、鎖場や渡渉、雪面のトラバースのように判断と足さばきが要る場面を控えているなら、外箱の注意書きを出発前に読み直す価値はあります。読んで判断がつかなければ、購入時に薬剤師や登録販売者へ聞くのが早道です。

飲み合わせの確認も、柱1の範囲に入ります。処方薬を飲んでいる人が、山用にと市販薬を新しく足すとき、成分が重なることがあります。総合感冒薬と鎮痛薬のように、外箱の商品名が違っていても含まれる成分が近い、という組み合わせは珍しくありません。サプリメントを常用している場合も同じで、何を飲んでいるかを一覧にして持っていくと、薬剤師に見せる時間が数分で済みます。ここで確認しておけば、山中で「これとこれを一緒に飲んでよかったのか」と迷う場面が消えます。

  • 持病の薬を、行動日数分+予備日分そろえてあるか
  • 飲む時刻が決まっている薬を、その時刻に取り出せる場所に入れてあるか
  • お薬手帳、または薬の名前が分かるものを携行しているか
  • 外箱・添付文書の注意書きを、出発前に一度読み直したか
  • 山行の予定(標高・日数・寝る場所)を、事前に医師や薬剤師へ伝えてあるか

持病の薬について「山に行く日は減らす」「行動中は飲まない」といった調整を、自分の判断で行わないでください。行程・標高・宿泊の有無を具体的に伝えたうえで、主治医または薬剤師に相談して決めるべき事柄です。体調に不安が残る行程は、薬でつじつまを合わせるのではなく、計画のほうを変えるという選択肢が先にあります。

お薬手帳は、下山後に医療機関にかかったときや、救護を受けたときに「いま何を飲んでいるか」を伝える材料になります。紙の手帳をそのまま持っていくのが重いと感じるなら、表紙と直近ページを撮影した画像を端末に入れておく方法もあります。電池切れに備えて、紙のコピーを1枚だけ防水袋に入れておくと二重になります。

柱1で決まるのは「何を足すか」ではなく「何をすでに持っているか」です。ここが埋まらないうちに売り場へ行くと、家にある薬とほとんど同じものをもう一度買うことになります。

柱2:市販薬の分類を知っておく(第1類・第2類・第3類・要指導医薬品)

柱1で足りない部分を市販薬で埋めるとき、知っておくと迷いが減るのが「一般用医薬品の分類」です。厚生労働省の資料によると、一般用医薬品は第1類・第2類・第3類に区分され、第1類は使用に特に注意が必要なもの、第2類は第1類と同程度の健康被害のおそれがあるとして厚生労働大臣が指定したもの、第3類はそれ以外のもの、という位置づけになっています(2026年8月24日時点)。

買うときの手続きも分類で変わります。第1類医薬品は薬剤師による情報提供が義務づけられており、第2類・第3類は薬剤師または登録販売者から購入できます。さらに、一般用医薬品とは別枠で「要指導医薬品」という区分があり、医療用から一般用へ移行して間もないもの等が該当し、原則として対面で薬剤師から情報提供を受けることが義務づけられています。この要指導医薬品については、2026年5月1日施行の改正により、品目によっては薬剤師の判断でオンライン服薬指導を行ったうえで販売できるようになりました(厚生労働省、2026年8月24日時点)。

区分 制度上の位置づけ 買うときの説明 山に持つ前にやること
要指導医薬品 医療用から一般用へ移行して間もないもの等 原則対面で薬剤師の情報提供が義務(品目によりオンライン服薬指導後の販売も可) 説明を受けた内容を、購入時にメモしておく
第1類医薬品 使用に特に注意が必要なもの 薬剤師による情報提供が義務 山行の予定を伝えたうえで質問する
第2類医薬品 第1類と同程度の健康被害のおそれがあるとして厚生労働大臣が指定したもの 薬剤師または登録販売者から購入できる 外箱の注意書きを自分でも読む
第3類医薬品 第1類・第2類以外のもの 薬剤師または登録販売者から購入できる 使用期限と保管条件を確認する

この分類を知る目的は、「どれが強いか」を格付けすることではありません。目的は二つです。ひとつは、買うときにどこまで人の説明を受けられるかが分かること。もうひとつは、自分の判断だけで扱ってよい範囲がどこまでかの感覚をつかむことです。第1類や要指導医薬品にあたるものを山に持つなら、購入時の説明を受けた記憶がまだ新しいうちに、外箱と一緒に注意点を書き留めておくと、山中で迷いにくくなります。

編集部の見立て:分類は「買い方の違い」であって、「山でどう効くか」の順位表ではありません。第3類だから軽く扱ってよいわけでも、第1類だから山向きなわけでもない。分類は棚の読み方の地図として使うのが実用的だと考えています。

編集部の見立て:登山と薬の相性は、売り場の人に聞くと具体的な答えが返ってくることがあります。「明日から標高2,000m台で1泊、行動時間は8時間」くらいまで伝えると、話が抽象論で終わりません。分類を知っておく実利は、この会話を成立させやすくなる点にあります。

分類と並んで役に立つのが、外箱と添付文書の読み方です。一般用医薬品の外箱には、用法・用量のほかに「してはいけないこと」と「相談すること」という枠が置かれています。前者は該当したら使わない条件、後者は使う前に専門家へ確認すべき条件です。山に持つものについては、この二つの枠だけでも購入時に目を通しておくと、現場で外箱の細かい字を読み解く必要がなくなります。とくに「相談すること」の欄には、持病や妊娠、ほかに飲んでいる薬に関する項目が並ぶことが多く、柱1の棚卸しと直接つながります。

  1. 売り場で候補を手に取ったら、まず分類の表示(要指導医薬品/第1類/第2類/第3類)を確認する
  2. 外箱の「してはいけないこと」「相談すること」に、自分に当てはまる項目がないかを読む
  3. 当てはまる項目や判断に迷う点があれば、その場で薬剤師・登録販売者に山行の予定ごと伝えて聞く

山中には薬を売っている店舗がありません。第2類・第3類が登録販売者からも買えるという制度の話は、あくまで下界での買いやすさの話であって、「現地で足りなければ調達すればいい」という設計の根拠にはなりません。山小屋に置いてあるものを当てにする計画も、同じ理由で避けたいところです。

分類は買い方の地図であって、効き方の順位表ではない。この読み替えができると、棚の前で立ち止まる時間がかなり短くなります。

柱3:山で起きやすいことのうち、市販薬で手が打てる範囲

柱3では、山で起きやすい不調を並べたうえで、そのうち市販薬で手が打てる部分と、薬ではなく手当と搬送で対応する部分を分けます。公的機関が公表している応急手当の手順を見ていくと、山で頻度の高いトラブルの多くは、じつは薬より先にやることがある、という構図がはっきりします。

熱中症について、日本赤十字社は手当として、日陰など涼しい場所への移動、衣服をゆるめること、意識があり嘔吐等がない場合の水分補給、身体の冷却を挙げ、改善しなければ119番通報を案内しています。消防庁は冷却する部位として首、脇の下、太ももの付け根などを案内しています(いずれも2026年8月24日時点)。ここに市販薬の出番はありません。熱中症の対処そのものは登山の熱中症対策の記事に詳しくまとめています。

低体温症についても同様で、消防庁は低温環境からの離脱、濡れた衣類を脱がせること、保温、そして意識の有無にかかわらず医療機関へ搬送することを案内しています(2026年8月24日時点)。意識があるから大丈夫、という判断を現場でしない、という点がここでは重要です。判断の順番と現場での動き方は低体温症の見分け方と対処の記事で扱っています。

熱中症・低体温症のいずれも、公的機関の案内は「改善しなければ119番」「意識の有無にかかわらず搬送」という線を明確に置いています。行程を続けられるかどうかを薬で判断しないでください。携帯電話がつながらない場所では、つながる場所まで下ろすことも含めて、早い段階で救助要請の判断に切り替える必要があります。

虫刺され、とくにハチについては、日本赤十字社が手当として医師の診療を受けること、残った針の除去、冷湿布を案内しています。厚生労働省の資料には、蜂やムカデ等に刺された際に毒吸引器(ポイズンリムーバー)等で毒を絞り出す、という使用の案内が掲載されています。ただし、この資料は器具の臨床的な有効性を保証したり数値で示したりしているものではありません。使ったから受診しなくてよい、という話にはならず、公的資料はいずれも医療機関の受診を前提に組み立てられています。ハチとの距離の取り方や行動そのものは登山中のスズメバチ対策の記事にまとめました。

編集部の見立て:ポイズンリムーバーは「持っていると安心」という言葉で語られがちな道具ですが、公的資料で確認できるのは使い方の案内までで、効果を保証する記述は見当たりませんでした。持つなら「使ったあと受診する」までを一続きの手順として覚えるのが現実的だと考えています。

起きやすいこと 公的資料が案内する手当 薬・道具の位置づけ 続きの記事
熱中症 涼しい場所へ移動、衣服をゆるめる、水分補給、身体冷却、改善しなければ119番(日本赤十字社) 冷却と水分が主役。薬は前提に置かない 熱中症の記事へ
低体温症 低温環境から離脱、濡れた衣類を脱がせる、保温、意識の有無にかかわらず搬送(消防庁) 保温と搬送が主役 低体温症の記事へ
ハチ刺傷 医師の診療、残った針の除去、冷湿布(日本赤十字社) 毒吸引器の使用案内は厚労省資料にあるが、効果は保証されていない スズメバチ対策の記事へ
すり傷・靴擦れ 傷を覆って保護する。悪化・化膿があれば受診 絆創膏などの外用材が実際に手を打てる範囲 マメ・靴擦れの記事へ

逆に言えば、市販の外用材で実際に手が打てる代表がすり傷と靴擦れです。歩けなくなる一歩手前で止められる場面が多く、道具として持つ意味がはっきりしています。マメや靴擦れができてしまったあとの手当と、そもそも作らないための足まわりの整え方は、登山のマメ・靴擦れ対策のまとめ記事で全体を通して扱っています。

薬を使ったときの記録も、山では意味を持ちます。何時に、何を、どのくらい使ったか。これをスマートフォンのメモか、防水の紙に一行書いておくだけで、下山後に受診したときの説明が正確になります。行動中の記憶は、疲労と時間経過であっさり曖昧になるものです。パーティで動いているなら、体調の変化に気づいた時刻も一緒に残しておくと、下ろす判断をいつすべきだったかを次の山行に持ち越せます。

胃腸の不調についても触れておきます。長野県が学校向けに公開している登山資料では、常備薬の例として市販の風邪薬、痛み止め、整腸剤、目薬などが挙げられています(2026年8月24日時点)。これは「この種類を持て」というより、常備薬という言葉が指す範囲の目安として読むのが実際的です。どの製品にするかは、柱1で確認した「ふだん使っているもの」から選ぶのが筋です。

この例示のなかに目薬が入っている点は、山の環境を考えると納得のいくところです。稜線では風が強く、砂ぼこりや花粉、汗が目に入る場面が続きます。コンタクトレンズを使っている人なら、予備のレンズや眼鏡を含めて「目まわり」を一つの塊として準備しておくと、行動中に視界が定まらないという事態を避けやすくなります。ただし、ここでも選ぶ基準は同じで、ふだん自分が使っているものを持っていく、という一点です。山で初めて使うものを目に入れるのは、変数を増やす方向にしかなりません。

編集部の見立て:長野県の資料に並ぶ「風邪薬・痛み止め・整腸剤・目薬」という4つは、商品の推奨ではなく、常備薬という言葉がカバーする範囲の輪郭だと読んでいます。輪郭を知ったうえで、そのなかから自分に必要なものだけを選ぶ。全部そろえる必要はありません。

絆創膏は消耗品なので、キットに入れっぱなしにしておくと、いざ使うときに残り1枚だった、ということが起こります。ニチバンの救急絆創膏「ケアリーヴ Mサイズ CL100M」は、サイズ21mm×70mm(パッド部13mm×22mm)で100枚入りの高密度ウレタン不織布タイプ、低刺激性粘着剤を使った滅菌済一般医療機器です(ニチバン公式、2026年8月24日時点)。100枚という入数は、山行のたびに数枚ずつ補充していく使い方に向いていて、家の救急箱とザックのキットの両方に配れます。すでにキットを持っていて中身が減っている人の、補充用という位置づけで見るのが分かりやすい商品です。

  • 絆創膏の残り枚数を、出発前ではなく帰宅直後に数える習慣があるか
  • 熱中症・低体温症のとき、薬ではなく冷却・保温と搬送が先だと理解しているか
  • 刺されたあと、器具を使った場合でも受診する前提になっているか
  • 傷の手当のあと、悪化したときに誰へ連絡するかを決めてあるか

薬で手が打てる範囲は、思っているより狭い。狭いと分かったぶん、残りの部分を手当と搬送の手順で埋める、という設計に切り替えられます。

処方薬が前提のものは「持てない」/人の薬は「渡さない・もらわない」

柱3の続きとして、そもそも自分では用意できない薬の話をします。ここを知らないままだと、ネットで見かけた薬の名前を探して薬局をはしごする、という無駄な時間が発生します。代表が高山病とアナフィラキシーです。

高山病に関連してよく名前が挙がるアセタゾラミド(ダイアモックス)は、処方箋医薬品です。PMDAが公開している添付文書を確認したところ、適応として記載されているのは、てんかん、呼吸性アシドーシス・睡眠時無呼吸、心性浮腫等で、「高山病」の記載は確認できませんでした(2026年8月24日時点)。つまり、薬局の棚に並んでいないというだけでなく、この記事の側から効能を語れる薬でもありません。高山病が心配な行程を計画しているなら、薬を探すのではなく、標高と日程を持って医師に相談するのが順番です。高度への慣らし方や症状の見方は高山病の予防と対処の記事にまとめています。

高山病の予防・治療に使われる薬は、医師の処方が前提です。個人輸入や他人からの譲り受けで用意するものではありません。厚生労働省は、個人輸入した医薬品について自己使用が前提であり、第三者への販売・譲渡はできないとしています(2026年8月24日時点)。行程の相談は医療機関へ、というのがこの章の結論です。

アナフィラキシーに用いるエピペンも同様に処方箋医薬品で、厚生労働省の資料では「医師等の処方せんにより使用すること」とされています(2026年8月24日時点)。したがって、これは常備薬として買い足せるものではありません。処方を受けている人が本人で管理し、周囲の人にできるのは「今日は誰が携行しているか」「ザックのどこに入っているか」を出発前に共有しておくところまでです。

使うかどうかの判断についても、公表されているガイドラインを確認しておきます。日本小児アレルギー学会の2022年ガイドラインでは、処方を受けた本人にアナフィラキシー疑いの症状——繰り返す嘔吐や強い腹痛、喉や胸の締め付け、喘鳴、呼吸困難、意識がもうろうとするなど——が1つでもあれば使用すべきとされています。そして厚生労働省の資料は、使用後に速やかな救急搬送・医療機関受診が必要としています(いずれも2026年8月24日時点)。使ったら終わり、ではなく、使ったら搬送、という流れです。

編集部の見立て:パーティで共有すべきなのは薬そのものではなく、情報です。誰にどんな既往があり、処方薬をどこに入れているか。この一往復を出発前に済ませておくだけで、いざというときに「本人のザックを開けていいのか」で止まる時間がなくなります。

対象 制度上の位置づけ 自分で用意できるか 山でできること
高山病に関連する薬 アセタゾラミドは処方箋医薬品。添付文書の適応に高山病の記載は確認できない できない 標高と日程を持って事前に医師へ相談する
エピペン 「医師等の処方せんにより使用すること」とされる処方箋医薬品 できない(処方を受けた本人のみ) 当日誰が携行しているかを共有。使用後は速やかに救急搬送
仲間の処方薬 本人以外の使用は想定されていない もらわない 医療機関・救護へつなぐ判断に切り替える
自分の薬を人へ 医薬品の販売・授与は許可を受けた薬局開設者・販売業者でなければ業として行えない 渡さない 状況を記録し、下山と受診の相談に回す

ここから、この記事でいちばん置いておきたい線に入ります。体調を崩した仲間に自分の薬を分ける、あるいは分けてもらう。善意から出る行動ですが、山ではやらない、と決めておくのが安全側です。処方薬はそもそも本人以外の使用を想定していない制度の上に成り立っていますし、一般用医薬品を個人のあいだで単発でやり取りする場合の適法性についても、今回確認した公的な資料の範囲では、一般向けにはっきり示した解釈を見つけられませんでした。

この線を守るために、出発前にできる準備があります。ひとつは、パーティのなかで既往やアレルギーを申告し合う場を作ること。もうひとつは、「体調を崩した人が出たら、まず行程を止めて話し合う」というルールを先に決めておくことです。ルールがないと、その場の空気で「もう少し行けそう」に流れます。薬を渡すかどうかで迷う場面の多くは、じつはその手前で行程を止める判断が遅れたことの結果として現れます。

制度の話を脇に置いても、実務のリスクは残ります。相手のアレルギー、持病、いま飲んでいる薬との飲み合わせを、その場で確かめる手段が山にはありません。合わなかったときに引き返せる距離でもない。だからこの線は、法解釈の詰めを待たずに、行動の約束として先に引いておく価値があります。

編集部の線引き:山では自分の薬を人に渡さない。人の薬をもらわない。代わりにやるのは、症状と経過を記録して、下山と受診、必要なら救助要請につなぐこと。渡すかどうかで悩む時間を、つなぐ判断に使います。

編集部の見立て:この線を「冷たい」と感じる人もいると思います。ただ、渡す・もらうという選択肢を最初から持たないほうが、現場では判断が速くなります。選択肢が2つに減れば、悩む対象は「いつ下ろすか」だけになるからです。

受診を前提に動くなら、医療費まわりの段取りも計画のうちです。当日だけ加入できるタイプの保険や補償の仕組みについては、1日単位の登山保険を比べた記事で条件と申込みのタイミングを整理しています。「渡さない・もらわない」と決めるなら、その先の受け皿を用意しておくのが対になります。

持てない薬がある、と知っておくこと自体が装備の一部です。探して見つからない時間を、行程の相談に回せます。

柱4:保管と携行の実務(高温・湿気・凍結・防水・取り出しやすさ)

4本柱の最後は、選んだ薬をどう扱うかです。ここは制度ではなく物理の話なので、公的機関の案内がそのまま実務に落ちます。PMDAは、医薬品は一般に直射日光・湿気を避けて涼しい場所で保管し、特別な指示があればそれに従うよう案内しています。厚生労働省も、薬は湿気・光・熱の影響を受けやすいため高温にならない場所で保管し、冷蔵指定の薬は凍結を避けるよう案内しています(いずれも2026年8月24日時点)。

スポンサーリンク


この3つを登山に読み替えると、避けたい場面がはっきりします。夏の登山口で数時間停めた車内、ザックの雨蓋に入れたまま直射日光に当て続ける行程、冬にザックの外側へ吊るしたポーチ、テント内で朝まで冷え込む場所。どれも高温か凍結のどちらかに触れます。加えて、湿気の供給源が山では二つあります。雨と、自分の汗です。ザックの中は思っているより湿るので、防水の一手間はここに効いてきます。

編集部の見立て:薬の保管でいちばん見落とされているのが、行動中ではなく行き帰りの車内です。登山口の駐車場に置いた数時間は、行動中のどの瞬間より高温になり得ます。ザックに入れて持ち歩くほうが、結果的に条件が安定します。

包装をどう扱うかも実務です。かさばるからと外箱を捨ててしまうと、使用期限、成分、注意書き、そして「これが何の薬か」という情報が一度に失われます。すべてを持っていく必要はありませんが、外箱の該当面を切り取って一緒に入れる、あるいは薬の名前と使用期限を書いたラベルを袋に貼る、といった形で、名前が分かる状態を保つのが現実的です。救護や医療機関に引き継ぐ場面で、これが効きます。

  • 薬をジッパー袋などで防水し、さらにポーチにまとめてあるか
  • 夏場、登山口の車内に置きっぱなしにしていないか
  • 冬場、ザックの外付けやテントの隅で凍結する場所に入れていないか
  • 薬の名前と使用期限が、袋を見ただけで分かる状態か
  • 冷蔵指定の薬がある場合、凍結を避ける前提で運び方を医師・薬剤師と決めてあるか

携行では、自分以外の人が触る可能性も想定しておきます。動けなくなったとき、ザックを開けるのは同行者か救助にあたる人です。そのとき、薬がどこに入っているかを説明できる状態になっているかどうかで、時間の使われ方が変わります。凝った収納にする必要はなく、「持病の薬はこのポーチの、この色の袋」と一言で言える程度に単純化しておけば十分です。単独行が多い人ほど、この情報を計画書側に寄せておく意味が大きくなります。

取り出しやすさは、3つの階層に分けて考えると整理しやすくなります。行動中に使うもの、緊急時に他人が開ける可能性があるもの、そして就寝前後に使うもの。この3つを同じ袋に入れると、雨の中でザックを開けて全部を出す羽目になります。逆に、細かく分けすぎると今度は「どっちの袋だったか」で止まる。実際には二つか三つに分けるのが扱いやすい落としどころです。

  1. 手持ちの薬をテーブルに全部出し、「行動中に使う」「緊急」「就寝前後」の3つに分ける
  2. 行動中に使うものだけを小さな袋にまとめ、雨蓋やヒップベルトのポケットなど、ザックを下ろさずに届く場所へ入れる
  3. 残りをポーチにまとめ、名前と使用期限が分かるラベルを付けて、防水した上でザック内の定位置に固定する

使用期限のチェックは、山行前ではなく季節の変わり目にまとめてやるほうが続きます。年に2回、たとえば春の山開き前と秋の連休前に、ポーチの中身を全部出して期限を見る。出発前夜にやろうとすると、期限切れが見つかっても買いに行く時間がありません。

編集部の見立て:ポーチの中身は「増える」ことはあっても「減る」ことはめったにありません。だから定期的に全部出す作業が要ります。出してみると、去年の山で使わなかったものが半分近く残っている、というのはよくある光景です。

保管条件は下界と同じ、環境だけが厳しくなる——これが柱4の要点です。特別な工夫より、高温・湿気・凍結を避けるという基本を山の条件に当てはめ直すほうが確実です。

山行タイプ別の目安(日帰り/小屋泊/縦走)

4本柱を通したあと、最後に量と配置を山行タイプで調整します。ここで効いてくるのは薬の種類ではなく、「体調を崩したとき、どれだけ早く医療機関にたどり着けるか」という距離の感覚です。日帰りと縦走では、この距離が桁で違います。

日帰りの場合、行程を打ち切れば当日中に下山して受診できる可能性が高い。だから常備薬の役割は「今日を最後まで歩き切るため」ではなく、「安全に下りるまでの間、状態を悪くしないため」に寄ります。持病の薬と、行動中に使う外用材が中心で、量は多くなくて構いません。むしろ、取り出しやすさのほうが重要になります。

編集部の見立て:日帰りで常備薬を厚くしすぎる人がいますが、日帰りで本当に足りなくなるのは薬より水と行動食です。日帰りの薬は「量を増やす」のではなく「ザックを下ろさずに届く場所へ移す」ほうが実利があります。

季節も、量ではなく扱い方の側に効いてきます。真夏の低山は、標高が低いぶん気温も湿度も高く、ザック内の環境は年間でいちばん厳しくなります。逆に晩秋から早春は、稜線の朝夕で氷点下に落ちる日があり、外付けにしたポーチが凍る条件がそろいます。同じ日帰りでも、8月と12月では入れる場所を変えたほうがよい、という話です。

小屋泊になると、就寝時の分と翌朝の分が加わります。夜間に暗い中で取り出す場面が現実に発生するので、ヘッドランプの赤色モードでも見分けられるように、袋の形や色を変えておくと迷いません。消灯後の小屋で、ガサガサと袋を探る時間が短くなるという副次効果もあります。

縦走では、日数×服用回数に予備日分を足すのが基本の考え方になります。予備日は「天候待ち」だけでなく、体調不良で行動を落とす日も含めて見ておきたいところです。エスケープルートが遠い区間ほど、この余裕が意味を持ちます。共同装備との切り分けも縦走特有の論点で、キットの器材はパーティで分担しても、薬は個人管理のまま、というのが分かりやすい線引きです。

山行タイプ 医療機関までの距離感 量の考え方 配置で気をつける点
日帰り 行程を打ち切れば当日中に受診できることが多い 持病の薬+行動中に使う外用材が中心 ザックを下ろさずに届く位置へ
小屋泊 翌日の行動を止めれば下山できる 行動日数分+就寝時・翌朝の分 暗い中で見分けられる袋にする
縦走 エスケープが遠く、下山まで日単位 日数×服用回数+予備日分 器材は分担、薬は個人管理のまま

単独行は、このタイプ分けとは別の軸で考える必要があります。人数が1人だと、体調の変化に気づいて声をかけてくれる相手がいません。自分で「おかしい」と判断する前に行動が鈍る、という順番になることもあります。単独で入るなら、日帰りであっても引き返す条件を出発前に紙に書いておき、その条件に触れたら中身を検討せずに折り返す、という運用にしておくと、判断が体調に引きずられません。常備薬は、その折り返しを支える道具であって、条件を先延ばしにする道具ではない、という位置づけになります。

どのタイプでも共通してやっておきたいのが、計画書への書き添えです。持病の有無、常備薬の名前、緊急連絡先を計画書に載せておくと、万一のときに情報が先に届きます。計画書の作り方と提出先については登山計画書の書き方と提出の記事にまとめました。

中身を1から選ぶ時間がない、あるいはこれから登山を始めるという段階なら、既製のセットから入るという選択肢もあります。NORAHの「救急かばん 救急セット ケースタイプ」は、公式の販売ページで16種類21点の内容が表示されており、ポイズンリムーバーも同梱されたタイプです(2026年8月24日時点)。あらかじめ組まれた状態で届くので、何を入れるかを一つずつ決める負担がありません。一方で、絆創膏のような消耗品の補充と、この記事の柱1で確認した自分の常備薬の追加は、別途こちらでやる必要があります。まずセットで土台を作り、そこへ自分の薬を足していく、という順番で使う道具です。

山行タイプ別の目安は「最低これだけ」の下限を示すものではありません。持病の内容や服用の間隔によって必要量は変わりますし、飲み忘れた場合の扱いも薬ごとに違います。日数の見積もりは、行程表を見せたうえで医師・薬剤師と決めてください。

量を決めるのは行動時間ではなく、医療機関までの距離。同じ8時間行動でも、日帰りと縦走3日目では意味が変わります。

常備薬とファーストエイドキットの違い

装備リストでは「ファーストエイドキット(常備薬)」とひとまとめに書かれることが多く、この二つの境目があいまいになりがちです。実務では分けたほうが管理しやすい。ざっくり言えば、常備薬は体に入れるもの、ファーストエイドキットは体の外側に使う器材、という切り分けになります。

この切り分けが効いてくるのは、パーティで装備を分担するときです。器材は「誰か1人が持っていればパーティ全体で使える」ものが多く、はさみや手袋、三角巾のように重複させても意味の薄いものは分担の対象になります。一方で薬は、本人にしか選べず、本人にしか使えません。分担表を作るときに、この列だけは空欄のまま各自に残す、という形にしておくと、「誰かが持っているだろう」という空白が生まれにくくなります。

公的な装備案内でも、この二つは並べて書かれています。日本山岳会は携行品として常備薬・ファーストエイドキットの携行を案内していますし、長野県の登山装備チェックリスト(2026年版資料)にも「ファーストエイドキット(常備薬)」が掲載されています(いずれも2026年8月24日時点)。並記されているということは、どちらか一方では足りない、という前提が置かれているとも読めます。

項目 常備薬 ファーストエイドキット 管理の違い
中身 持病の薬、ふだん使っている市販薬 絆創膏、ガーゼ、テーピング、手袋、はさみなどの器材 薬は個人、器材は共同でも成立する
選び方 本人と医師・薬剤師で決める 行程とパーティ構成で決める 薬は他人が足せない
点検 使用期限と残量 消耗品の残数と劣化 点検の周期をそろえると忘れにくい

キットの中身や重量の一覧、どこまで持つかの取捨選択については、登山のファーストエイドキットの記事に器材ごとの整理をまとめてあります。この記事では薬の選び方に絞っているので、器材の話はそちらを合わせて読むと全体像がつながります。

器材のほうを自分で組みたい人に向いているのが、中身の入っていないケース単体という選択肢です。ドイターの「ファーストエイドキット アクティブ」(品番3971023、型番コードD3971023)は、重量60g、高さ9cm×幅12cm×奥行5cmで、国内販売はケースのみ、中身は入っていません(岩谷プリムス公式、2026年8月24日時点)。既製セットのように余分なものが入らないぶん、この記事の柱1から柱4で自分が必要と判断したものだけを詰められます。逆に、何を入れるかがまだ決まっていない段階では空のまま眠るので、選ぶ軸ができている人向けの器と考えるのが正確です。

編集部の見立て:既製セットと空ケースは対立する選択肢ではなく、順番の話だと考えています。最初はセットで基準を知り、2〜3シーズン使って「自分は何を使い、何を一度も開けなかったか」が見えたところで、空ケースに組み直す。この移行のタイミングが、装備が自分のものになる瞬間です。

  • 薬と器材を、別々の袋または別々の区画に分けてあるか
  • 器材の消耗品(絆創膏、テープ類)の残数を帰宅後に数えているか
  • パーティで共同装備にする器材と、個人管理の薬の線引きを共有してあるか
  • キットの中に、開け方が分かりにくい包装のものが混じっていないか

編集部の見立て:ポーチを買い替えるより先に、いまのポーチを一度空にしてみるほうが発見があります。入っていた理由を思い出せないものが出てきたら、それは容量の問題ではなく、選ぶ軸がないまま増えた結果です。

薬は個人管理、器材は分担できる。この一線を引いておくと、パーティ登山の装備分けが速くなります。

よくある質問

Q. 市販薬は山で調達できますか

山中には医薬品を販売する店舗がありません。第2類・第3類医薬品が薬剤師または登録販売者から購入できるという制度は、あくまで下界での買い方の話で、現地調達の根拠にはなりません。山小屋に置いてあるものを当てにする計画も避けてください。必要と判断したものは、出発前にそろえるのが前提です。

スポンサーリンク


編集部の見立て:この質問は「登山口のコンビニで買えばいい」という発想とつながっていることが多いのですが、登山口にコンビニがある山のほうが少数派です。買い足すなら、自宅を出る前という線で考えておくのが安全側になります。

Q. 常備薬はどのくらいの量を持てばよいですか

ひと律の目安を示せる性質のものではありません。行動日数と服用回数に予備日分を足す、という考え方の骨格は共通していますが、必要量は薬の種類、服用の間隔、飲み忘れたときの扱いによって変わります。行程表を見せたうえで、医師または薬剤師に決めてもらってください。この記事で示した山行タイプ別の目安も、その相談を始めるための材料という位置づけです。

Q. 高山病が心配な行程です。薬を用意しておくべきでしょうか

高山病に関連して名前が挙がるアセタゾラミド(ダイアモックス)は処方箋医薬品で、薬局で自分の判断で買えるものではありません。PMDAの添付文書でも、適応として確認できるのはてんかん、呼吸性アシドーシス・睡眠時無呼吸、心性浮腫等で、高山病の記載は確認できませんでした(2026年8月24日時点)。心配な行程があるなら、標高と日程を持って事前に医療機関へ相談するのが順番です。

個人輸入や、渡航先で入手した医薬品を高山病対策として用意する方法は、この記事では扱いません。厚生労働省は個人輸入した医薬品について自己使用が前提であり、第三者への販売・譲渡はできないとしています(2026年8月24日時点)。判断は医療者に委ねてください。

Q. 具合が悪くなった仲間に、自分の薬を渡してもよいでしょうか

渡さない、というのがこの記事の立場です。処方薬は本人以外の使用を想定していない制度の上にあり、一般用医薬品の個人間のやり取りについても、今回確認した公的資料の範囲では一般向けに明確な解釈を確認できませんでした。加えて、相手のアレルギーや持病、飲み合わせを山で確かめる手段がありません。やるべきことは、症状と経過を記録し、下山と受診、必要なら救助要請につなぐことです。逆に、人から薬を差し出された場合も同じ理由で受け取らないでください。

Q. 登山計画書に、持病や常備薬まで書く必要がありますか

書式に欄があるなら埋めておくことをすすめます。計画書は、行方が分からなくなったときや、救助を要請したときに、こちらの状況を先に伝えてくれる紙です。持病の有無、常備薬の名前、緊急連絡先が載っていれば、捜索や救護にあたる側が判断できる材料が増えます。個人情報を書くことに抵抗があるなら、家族に預ける控えにだけ詳しく書き、提出用は最小限にする、という分け方もあります。書式や提出先の選び方は登山計画書の記事にまとめてあります。

Q. 使わなかった薬は、そのままポーチに入れっぱなしで大丈夫ですか

使用期限と保管条件の両方を見る必要があります。PMDAは直射日光・湿気を避けて涼しい場所で保管するよう案内しており、厚生労働省も高温にならない場所での保管と、冷蔵指定薬の凍結回避を案内しています(いずれも2026年8月24日時点)。ザックに入れっぱなしの薬は、夏の車内や冬の低温を何度も経験している可能性があります。季節の変わり目に全部出して、期限と外観を見る習慣にするのが現実的です。

期限が切れた薬や、変色・変形など外観に変化のある薬の扱いに迷ったら、購入した薬局や調剤を受けた薬局に相談すると案内を受けられます。判断がつかないものを「たぶん大丈夫」で山へ持っていくのが、いちばん避けたい形です。

まとめ:今日やることは1つ

ここまで4本柱と山行タイプ別の目安を見てきましたが、今日この記事を閉じたあとにやることは1つで足ります。買い物ではなく、いま家にある薬を全部テーブルに出すこと。ここから先の判断は、その状態を見ないと始まりません。

この作業に必要なのは30分ほどで、道具も要りません。テーブルの上に、処方薬、市販薬、サプリメント、そしてザックのポーチに入っていたものを、種類を問わず全部並べる。それだけです。並べた状態で写真を1枚撮っておくと、次に薬局へ行くときに見せる資料になりますし、半年後に同じ作業をするときの比較対象にもなります。

出してみると、たいていの人は二つのことに気づきます。ひとつは、持病の薬と市販薬が同じ引き出しに混ざっていて、山に持っていく分と家に置く分の境目がないこと。もうひとつは、去年買ったきり一度も開けていない箱が何個か出てくることです。この二つが片付けば、常備薬の話の8割は終わります。

編集部の結論:常備薬は「足す」作業ではなく「仕分ける」作業です。効能書きを読み比べる前に、手持ちを全部出して、柱1(ふだんの薬)と柱4(保管と携行)の2つだけ通す。柱2と柱3は、その仕分けで穴が見えたときに使う判断材料です。

  1. 家にある薬を全部出し、「ふだん飲んでいる薬」と「買ったが使っていない薬」に分ける
  2. ふだん飲んでいる薬について、次の山行の行程表を持って医師または薬剤師に相談し、持っていく量と飲み方を決める
  3. 決まった分を防水して、行動中に使うものだけザックを下ろさずに届く位置へ入れ、残りをポーチにまとめて名前と期限のラベルを付ける

編集部の見立て:この3手順のうち、いちばん飛ばされやすいのが2番目です。しかし常備薬の話で唯一、他人には代われない工程がここにあります。記事も装備リストも、この相談の材料までしか用意できません。

この記事は制度と公表資料の整理であり、個別の症状に対する医学的な助言ではありません。体調に不安がある場合、また山中で症状が改善しない場合は、行程を続けるかどうかを自己判断せず、医療機関の受診や、警察・消防など公的機関への連絡に切り替えてください。

編集部の見立て:常備薬の準備がうまくいっているかどうかは、山でどれだけ使ったかでは測れません。使わずに済んだ山行のほうが多いのが正常です。測るなら「必要になった瞬間、何秒で取り出せたか」のほうが実態に合っています。

今日やることは、買うことではなく、出して分けること。次の山行の準備は、そこから始まります。

出典

  • 厚生労働省「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」関連条文(一般用医薬品の区分・販売業の許可):https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=81004000 / https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=81004000&dataType=0&pageNo=3 (確認日 2026年8月24日)
  • 厚生労働省 広報誌 特集「一般用医薬品・要指導医薬品の販売区分と情報提供」:https://www.mhlw.go.jp/stf/web_magazine/closeup/20.html (確認日 2026年8月24日)
  • 厚生労働省「医薬品等の個人輸入について」:https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iyakuhin/kojinyunyu/index.html (確認日 2026年8月24日)
  • PMDA 医療用医薬品情報(アセタゾラミド/ダイアモックス 添付文書):https://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/rdDetail/iyaku/2134001X1029_3?user=1 (確認日 2026年8月24日)
  • PMDA「くすりの相談 Q&A(保管方法)」:https://www.pmda.go.jp/safety/consultation-for-patients/on-drugs/qa/0001.html (確認日 2026年8月24日)
  • 厚生労働省「くすりの適正使用・保管に関する資料」:https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11120000-Iyakushokuhinkyoku/0000137153.pdf (確認日 2026年8月24日)
  • 厚生労働省「アドレナリン自己注射薬(エピペン)の取扱いに関する資料」:https://www.mhlw.go.jp/shingi/2010/06/dl/s0608-5e_0002.pdf / https://www.mhlw.go.jp/content/11907000/000476878.pdf (確認日 2026年8月24日)
  • 日本小児アレルギー学会「アナフィラキシーガイドライン2022」:https://www.jsaweb.jp/uploads/files/Web_AnaGL_2022_1201.pdf (確認日 2026年8月24日)
  • 厚生労働省「野外活動における虫刺されなどへの対応に関する資料」:https://www.mhlw.go.jp/content/001234813.pdf (確認日 2026年8月24日)
  • 日本赤十字社「熱中症の手当」:https://www.jrc.or.jp/study/safety/fever/ (確認日 2026年8月24日)
  • 日本赤十字社「動物・虫による傷の手当」:https://www.jrc.or.jp/study/safety/animal/ (確認日 2026年8月24日)
  • 総務省消防庁「応急手当の方法・熱中症」:https://www.fdma.go.jp/relocation/kyukyukikaku/oukyu/05kobetsu/02/05_02_24.html (確認日 2026年8月24日)
  • 総務省消防庁「応急手当の方法・低体温症」:https://www.fdma.go.jp/relocation/kyukyukikaku/oukyu/05kobetsu/05/05_05_11.html (確認日 2026年8月24日)
  • 警察庁「令和7年における山岳遭難の概況」:https://www.npa.go.jp/publications/statistics/safetylife/r07_sangakusounan_gaikyou.pdf (2026年6月18日公表/確認日 2026年8月24日)
  • 警察庁「令和6年における山岳遭難の概況」:https://www.npa.go.jp/news/release/2025/r06_sangakusounan_gaikyou.pdf (確認日 2026年8月24日)
  • 公益社団法人日本山岳会「親子登山・携行品」:https://jac.or.jp/oyako/mobile/index.html (確認日 2026年8月24日)
  • 長野県「山岳安全に関する資料(登山装備チェックリスト)」:https://www.pref.nagano.lg.jp/kankoki/sangaku/documents/r7sangakusafetybook1.pdf (確認日 2026年8月24日)
  • 長野県教育委員会「高校登山 当日資料」:https://www.pref.nagano.lg.jp/kyoiku/hokenko/sport/gakko/koukoutozan/documents/siryo3toujitsu.pdf (確認日 2026年8月24日)
  • 岩谷プリムス「ドイター ファーストエイドキット アクティブ(3971023)」:https://www.iwatani-primus.co.jp/products/deuter/items/D3971023/ (確認日 2026年8月24日)
  • NORAH 公式販売ページ「救急かばん 救急セット ケースタイプ」:https://item.rakuten.co.jp/norah78/10000118/ (確認日 2026年8月24日)
  • ニチバン「ケアリーヴ(救急絆創膏)」:https://www.nichiban.co.jp/general/health/wound_care/emergency_bandage/careleaves/ (確認日 2026年8月24日)

スポンサーリンク