登山とスズメバチ|9〜10月がいちばん危ない理由と刺されない歩き方

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涼しくなってきたので、久しぶりに近所の低山へ。駐車場に車を停め、甘い缶コーヒーを片手に登山口へ歩き出す——この、一年でいちばん気持ちのいい季節が、実はスズメバチにとっても一年でいちばん気が立つ季節です。登山でスズメバチに遭う危険が最大になるのは9〜10月。山口県の啓発資料「スズメバチから身を守るために」によれば、この時期に巣と働きバチの数が一年で最も多くなります。

数字も添えておきましょう。同資料では、ハチに刺されて亡くなる人は毎年20〜30人とされ、これはクマや毒ヘビによる死者数を上回ります。年別に見ると、厚生労働省の人口動態統計をもとにした報道では令和3年15人、令和4年20人、令和5年21人、令和6年18人。日本にいるスズメバチは16種で、事故が多いのはオオスズメバチとキイロスズメバチの2種です。

つまり、山で警戒すべき相手として名前が挙がりがちなクマよりも、統計の上ではハチのほうが身近な脅威だということ。とはいえ、やることは難しくありません。白っぽい服を着て、香りをまとわず、出会っても手で払わない。この3つを守るだけで、遭遇から刺傷までの距離はかなり遠くなります。

  • スズメバチの危険が9〜10月に最大になる理由を、巣の一年のサイクルから月別の早見表で整理
  • ハチ刺されによる死者数の年別実数と、その出典への到達経路
  • 刺されないための服装・行動と、編集部がまとめた「引き返す/進む」の判定基準
  • 刺されたときの応急処置の順番と、ザックに入れておきたい道具

秋の低山で身構える相手はハチだけではありません。同じ季節に警戒が必要な相手については登山の熊対策|行動と装備のまとめで扱っています。この記事はそのうち「ハチ」の領域を引き受けます。

スズメバチが登山者に最も危険なのは9〜10月である

スズメバチの最危険期とは、巣の中の個体数が一年で最大に達し、巣に近づくものへの警戒がいちばん強くなる時期のことです。山口県の資料が示すスズメバチの一年は、春に女王蜂が単独で営巣を始め、7月ごろに働きバチが羽化して営巣が活発化し、9〜10月に個体数と巣の規模がピークを迎える、という流れになっています。

この時期は、ちょうど登山者の数も増える時期。汗をかかずに歩けて、日も長すぎず短すぎない、低山がいちばん快適なタイミングと、巣の最盛期がまるかぶりします。

時期 巣とハチの状態 登山者から見た危険度 この時期の歩き方
11〜2月 越冬期。新女王蜂だけが越冬し、巣は使われない 通常どおり。古い巣を見つけても近づかない
春(3〜6月ごろ) 女王蜂が単独で営巣を開始。巣はまだ小さい 低〜中 低木や地面の穴の近くで立ち止まらない
7月ごろ〜8月 働きバチが羽化し、営巣が活発化する 中〜高 白っぽい長袖に切り替える。香りものを外す
9〜10月 個体数・巣の規模ともに最大。年間のピーク 最も高い 単独行動を避け、応急処置の道具を携行する
10〜11月 新女王蜂が羽化し、やがて越冬へ向かう ピークの警戒を引きずったまま歩く

表の右端が、今日そのまま使える部分です。カレンダーを見て自分がどの行にいるかを確認する。それだけで、その日の装備と歩き方は決まったようなものです。

編集部の見立て:9〜10月は「装備を足す月」ではなく「行動を変える月」だと考えています。道具を1つ買うより、単独行をやめて2人以上で歩くほうが、この時期は効きます。

ハチ刺されの死者数は毎年20〜30人で、クマや毒ヘビを上回る

ハチ刺されによる死亡とは、多くの場合、毒そのものの量ではなくアレルギー反応によって全身の状態が急変することを指します。山口県の資料は、ハチ毒などが原因で起こる急性アレルギー反応をアナフィラキシーショックと呼び、血圧低下などで生命に関わる状態になりうると説明しています。

年別の実数も見ておきましょう。次の数字は厚生労働省の人口動態統計をもとに報道された値で、編集部としては一次統計そのものへの到達を確認できていません。傾向をつかむための参考としてお読みください。

ハチ刺されによる死者数 扱い
令和3年 15人 二次引用(要一次確認)
令和4年 20人 二次引用(要一次確認)
令和5年 21人 二次引用(要一次確認)
令和6年 18人 二次引用(要一次確認)

偏りを示す参考値もあります。人口動態統計に基づくとする民間の集計では、1979年から2024年までの累計1,225人のうち男性が978人で79.8%、女性が247人で20.2%。屋外での活動量の差が出ている可能性はありますが、こちらも一次統計に当たれていない参考値です。

アナフィラキシーが疑われる状態では、安静を保ったうえで直ちに医療機関を受診するよう、山口県の資料は求めています。受診の要否、アレルギー既往の評価、エピペンなどの処方については、この記事ではなく必ず医師・救急相談窓口・消防などの公的機関の判断を仰いでください。編集部は医療判断を行いません。

刺されない歩き方は「白・無香料・払わない」の3つに絞れる

予防とは、ハチに気づかれないことではなく、ハチに「敵だ」と判定されないことです。山口県の資料が挙げる対策は、白っぽい服装、長袖・長ズボン、つばの広い帽子、殺虫スプレーの携行、そして香水や化粧品を控えること。黒っぽい色と強い香りが、スズメバチの警戒を引き出す方向に働きます。

ここで一つ注意が必要です。同資料は、いわゆる虫よけスプレーはスズメバチには無効としています。蚊やブヨ向けの一本をザックに入れているから安心、とはならない、ということ。虫よけそのものの選び方は登山用の虫除けスプレーの選び方で扱っていますが、スズメバチへの備えとしては別枠で考えてください。

編集部の判定基準:次のうち2つ以上に当てはまったら、その先へ進まず引き返す。

  • 数匹のハチが、こちらの周囲を旋回するように飛び続けている
  • 登山道脇の土手や樹洞、藪の奥から、ハチが同じ一点に出入りしている
  • 9〜10月で、かつ藪や低木で道が狭くなる区間に入っている
  • 同行者に刺された既往やアレルギーの心配がある
  • 単独行で、携帯電話の電波が届かない区間にいる

遭遇してしまったときの動作は1つだけ覚えておけば十分です。手で払わず、姿勢を低くして、静かに後退する。腕を大きく振る動きは、ハチから見れば攻撃と区別がつきません。ちなみに、疲労を減らす歩き方として知られる登山で腕を組んで歩く技法とその注意点は、両手がふさがるぶんとっさの姿勢変更が遅れます。藪の濃い区間では腕を解いておくほうが無難でしょう。

下りも同じ。膝が笑っている状態では、静かにゆっくり後退する動作そのものが難しくなります。長い下りが控えるなら登山用の膝サポーターの選び方を先に整えておくほうが、結果としてハチ対策にもなります。

秋の山では、ヤマビルやマダニも同じ藪の中にいます。足元の対策は登山のヤマビル対策にまとめました。服装の方針(肌を出さない・裾を閉じる)はハチ対策とほぼ重なるので、一度そろえてしまうと使い回せます。

刺されたときは「洗う・絞る・冷やす・運ぶ」の順で動く

応急処置とは、傷を治すための処置ではなく、医療機関にたどり着くまでの時間を安全に使うための行動です。山口県の資料が示す手順は次のとおりで、順番に意味があります。

  1. 冷たい水で患部を洗い流しながら、毒液と血液を絞り出す
  2. 患部を冷却する
  3. 直ちに医療機関へ搬送する

口で毒液を吸い出すのは厳禁です。同資料が明確に禁じています。また、症状が軽く見えても、その場で「大丈夫」と自己判断しないでください。搬送するかどうか迷ったら、消防や救急相談窓口に電話して指示を仰ぐのが確実です。

1番の「絞り出す」を素手でやろうとすると、患部を強く押すことになって手間取ります。ここを道具にまかせるための携行品が、ポイズンリムーバーと呼ばれる吸引器です。

編集部が候補に挙げているのは、矢澤株式会社が扱うTIGER(タイガー)NEW ポイズンリムーバー カップ2個入・安心パック。メーカーの製品ページの記載では、本体寸法は92×70×23mm、重量は35gです。素材は本体がPP(ポリプロピレン)、吸引カップがPC(ポリカーボネート)で、透明カップが2個付属する2WAY仕様、本体にストラップ穴があります。

数字を言い換えると、面積はクレジットカードよりひとまわり大きい程度、重さは単三乾電池1本ぶんに届かないくらい。ザックの雨蓋に入れっぱなしにしても存在を忘れられる軽さで、ストラップ穴があるので外側にぶら下げておけば、慌てている時に「どこに入れたか」を探さずに済みます。カップが透明なので、当てた位置がその場で見えるのも見逃せません。9〜10月の低山なら、ハチだけでなくマダニやブヨにも同じ道具が使えます。


使用感や使ってよい場面の線引きは、編集部が判断すべきことではありません。メーカー公式の説明書きで最新の内容を確認し、使用の可否は医療機関の指示に従ってください。秋の低山に何を入れておくかは登山用ファーストエイドキットの中身で一式として整理しています。買い足すなら、そちらを見ながら足りないものだけを埋めるほうが早いはずです。

編集部の見立て:応急処置の道具は「使う日のために買う」と考えると、いつまでも買いません。9〜10月の山行が1回でも予定に入った時点で、キットごと点検して入れ替える。それくらいの雑さでちょうどいいと考えています。

脅威の中心はオオスズメバチとキイロスズメバチの2種である

スズメバチとは、日本に16種が生息するハチの総称です。山口県の資料によれば、そのうち事故が最も多いのはオオスズメバチとキイロスズメバチの2種。つまり、16種すべてを見分ける必要はなく、この2種が出す「近づくな」のサインを読めれば実用上は足ります。

もう1種、名前だけ知っておくとよいのがツマアカスズメバチ。環境省の資料では2015年1月9日付で特定外来生物に指定され、緊急対策外来種として防除・管理の対象になっています。分布や通報先は地域差があるため、自治体の窓口や環境省のページで最新情報をご確認ください。

判別に自信がなくても、行動は変わりません。旋回して離れない/同じ一点に出入りしている、というサインが出たら、種類を確かめる前に後退する。判別は安全な距離まで下がってからで十分です。

この記事が当てはまらないケース

  • ハチ毒アレルギーの既往があり、すでに医師の指示を受けている方。優先順位は主治医の指示が上位です
  • 自宅の軒下や屋根裏にできた巣の処理。自治体の相談窓口か専門の駆除業者の領域になります
  • 厳冬期の高山や積雪期の山行。越冬期にあたるため警戒レベルはそのまま当てはまりません
  • 沖縄や離島など、生息する種の構成が本州と異なる地域。地元の登山情報を優先してください

よくある質問

Q. 虫よけスプレーを持っていればスズメバチにも備えられますか?

いいえ。山口県の資料は、虫除けスプレーはスズメバチには無効としており、携行するなら殺虫スプレーを挙げています。蚊やブヨ向けの一本とは別枠で考えてください。

Q. 黒い服はそんなに危ないのでしょうか?

同資料が推奨しているのは白っぽい服装です。黒っぽい色を避け、長袖・長ズボンにつばの広い帽子を合わせる、という組み合わせで示されています。頭髪も黒いため、帽子で覆う意味は服の色以上に大きいと編集部は整理しています。

Q. 刺された毒を口で吸い出してもよいですか?

厳禁です。山口県の資料は、口で毒液を吸い出す行為を明確に禁じています。冷たい水で洗い流しながら絞り出し、冷却し、直ちに医療機関へ向かってください。

Q. ハチが周りを飛び始めたら走って逃げるべきですか?

手で払わず、静かに後退するのが基本です。大きく腕を振る動作や急な動きは、ハチから見て攻撃と区別がつきません。距離や逃走方法の具体的な数値は公的資料に示されていないため、この記事では断定しないでおきます。

Q. クマとハチ、秋の低山ではどちらを警戒すべきですか?

どちらも、が答えになります。ハチ刺されによる死者数は毎年20〜30人でクマや毒ヘビを上回る一方、対策の内容はまったく別物です。クマ側の備えは登山の熊対策と熊鈴・熊スプレーにまとめてあります。

まとめ:今日やることは、9〜10月の予定を1つ確認するだけ

この記事の内容を全部やる必要はありません。今日やることは1つ、カレンダーを開いて9〜10月に低山の予定が入っているかを確認すること。入っていたなら、次の3つを順にたどってください。

  1. その山行の服装を、白っぽい長袖・長ズボン・つばの広い帽子に置き換える。香水や整髪料はその日だけ外す
  2. 登山用ファーストエイドキットの一式を出して並べ、応急処置の道具が入っているかを確かめる。足りないものだけを買い足す
  3. 単独行の予定なら、同行者を1人誘うか、電波の届かない区間を通らないルートに組み替える

編集部の見立て:この3ステップのうち、いちばん効くのは3番目です。刺された後にどうするかより、刺された時に隣に誰かいるかのほうが、結果を大きく左右します。

参考・出典

  • 山口県「スズメバチから身を守るために」(PDF)/2026年8月10日確認
  • 環境省 九州地方環境事務所 外来生物対策(ツマアカスズメバチ)(該当ページ)/2026年8月10日確認
  • 東洋経済オンライン(人口動態統計を引用した年別死者数)(該当記事)/2026年8月10日確認・参考値
  • ハチ刺されと死亡事故(民間集計・性別内訳)(該当ページ)/2026年8月10日確認・参考値
  • 矢澤株式会社 TIGER NEW ポイズンリムーバー カップ2個入・安心パック 製品ページ(該当ページ)/2026年8月10日確認

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