

※本記事にはプロモーション(広告)が含まれます。
何人かで同じ山に登ることが決まったとき、ふつう最初に決まるのは日付と行き先、そして集合場所です。そこまでは全員で相談します。ところが、そこから先の「当日どう歩くか」は、ほとんどの場合が決められないまま登山口を出ます。誰が前を歩くのか、どのくらいの速さで歩くのか、途中で誰かが見えなくなったらどうするのか。この3つが決まっていない状態で歩き出すと、隊列は歩き始めて30分もしないうちに伸び始めます。
伸びた隊列を戻そうとして起きるのが、この記事で扱いたい事故の芽です。前の人が速い、遅れると迷惑がかかる、だから追いつこうとして無理をする。無理をした人は足元を見る余裕を失い、水を飲む間隔が開き、上着を脱ぐタイミングを逃します。逆に先頭の人は「みんな来ているだろう」と思いながら、後ろを見ないまま分岐を通過します。速い人に合わせた瞬間から、パーティは全員が別々のことを考えながら歩く集団に変わります。
この記事は、複数人で歩くと決まったあとの段取りだけを扱います。単独と複数のどちらが良いかという比較はしません。挨拶や登り優先といった一般的なマナーも扱いません。決めるのは3つだけです。列の順番、ペースの基準、はぐれたときの取り決め。この3つを出発前に決めておくと、体力差のあるグループでも隊列が伸び切らず、万一はぐれても合流できます。
- 出発前に決めるべき3つ(列の順番/ペースの基準/はぐれたときの取り決め)と、決める順番の理由
- 先頭と最後尾に誰を置くかについて、公的な統一ルールが存在しないこと。多くの解説がとっている考え方と、事前にどちらか決めておくという結論
- ペースの基準を一番遅い人に置く根拠として、静岡県「山のグレーディング」がコースタイムの個人差を明記していること
- 休憩を入れる基準を、先頭ではなく最後尾の様子に置くという段取り
- はぐれたときに「どこで待つか」「誰が動き誰が止まるか」を、はぐれ方の型ごとに先に決めておく方法
- 警察庁「令和7年における山岳遭難の概況等」(2026年6月18日公表)の分母と数字、そこから言ってよいことと言えないこと
- 長野県・富山県の条例で、グループの登山届がどう扱われているか
- 子ども・シニアを含むパーティで足す視点と、出発前に踏む3手順
複数人で歩くと決まったら、出発前に3つ決める
パーティを組むとき、多くの人が最初に相談するのは「どこへ行くか」です。しかし当日の安全を左右するのは、行き先そのものよりも、行き先が決まったあとの運用のほうです。同じコースを同じ天候で歩いても、隊列の作り方ひとつで、パーティ全体が受ける負荷はまったく違うものになります。
決めておくことを増やしすぎると、誰も覚えません。だから3つに絞ります。この3つは、登山中に起きる困りごとのうち、複数人だからこそ発生するものをほぼ覆います。ひとりで歩いていれば「順番」も「ペースを合わせる」も「はぐれる」も起きません。逆に言えば、複数人特有の問題はこの3つに集約されるということです。
出発前に決める3つ:①列の順番(先頭・最後尾を誰が担うか、途中の並びをどうするか)、②ペースの基準(誰の歩きに合わせるか、速い人はどう扱うか)、③はぐれたときの取り決め(どこで待つか、誰が動き誰が止まるか、連絡が取れないときの次善策)。この順で決めます。①が決まらないと②の「誰の歩き」が定義できず、②が決まらないと③で想定すべき距離が読めないからです。
編集部の見立て:3つを決めるのにかかる時間は、集合場所での立ち話で足ります。装備を買い足すより早く、費用もかかりません。むしろ問題は、決めること自体が「相手を疑っているようで言い出しにくい」と感じられることのほうです。だから登山口ではなく、出発前の連絡の段階で片づけておくのが現実的だと考えています。
| 決めること | 決め方の基準 | 決めないと起きること | 決めるタイミング |
|---|---|---|---|
| ①列の順番 | 全体を見渡す人と、前で状況を確認する人を分ける | 速い人が自然に前に出て、遅い人が最後尾で孤立する。後ろの異変が誰にも伝わらない | 行き先が決まった時点。当日の朝ではなく事前の連絡で |
| ②ペースの基準 | 一番ゆっくりな人の歩きを基準に置き、そこから行程を逆算する | 先頭のペースが基準になり、後方が息を切らしたまま歩き続ける | 行程を組む段階。コースタイムを見る前ではなく、見ながら |
| ③はぐれたときの取り決め | 「どこで待つか」を地名で一つ決め、動く人と止まる人を先に指名する | 全員が相手を探して動き回り、すれ違いが起きる。電波の無い場所で判断が止まる | 登山口で地図を広げたとき。当日の地形に紐づけて決める |
ここで一つ注意があります。3つとも「登山口で決める」ものではないという点です。①と②は事前に決めておかないと、そもそも行程の組み方が変わります。一番ゆっくりな人に合わせると決めたなら、日没までの余裕を多めに取ることになり、行き先の候補自体が変わることがあるからです。決めごとを先に置くと、計画のほうが後から追随します。順序が逆だと、決めごとが計画に合わせて骨抜きになります。
公益社団法人日本山岳・スポーツクライミング協会(JMSCA)は、公式の登山計画書の解説のなかで、グループ登山ではリーダー・記録・会計・食糧といった役割を明確にし、参加者の力量に見合う計画を立てることが望ましいとしています。役割を分けるという発想は、当日の負担を減らすためだけのものではありません。誰が何を担当しているかが決まっていれば、何かが起きたときに「誰に言えばいいか」が全員に分かります。
役割を決めるという話をすると、堅苦しく感じる人がいます。友人同士の山行に部活動のような体制を持ち込むのは、たしかに大げさに見えます。ただ、決めているのは上下関係ではなく、担当です。地図を見る人、時計を見る人、後ろを見る人。この3つが誰かに割り当てられていれば、たいていの隊列は伸びません。割り当てられていないと、全員が「誰かが見ているだろう」と思ったまま歩きます。
編集部の見立て:役割分担でいちばん抜けるのは「後ろを見る人」です。地図と時計は誰かが自然に気にしますが、最後尾の様子は、意識して見る人を決めない限り誰も見ません。ここが空席のパーティは、遅れた人が黙って遅れ続ける構造になります。
ひとりで歩くときの判断の作り方を知っておくと、パーティでの決めごとも組みやすくなります。単独登山の準備と判断の基本についてはソロ登山の始め方と、ひとりで山に入る前の準備にまとめてあります。逆に、自分たちで役割分担を決めるのが不安な段階なら、最初から引率者のいる形を選ぶという手もあります。案内つきの山行の選び方は登山ツアーの選び方と、申し込む前に確認する条件で扱っています。
隊列の順番──誰が先頭で誰が最後尾か
複数人で歩くときの隊列について調べると、「リーダーは最後尾」という説明と「リーダーは先頭」という説明の両方が出てきます。どちらが正しいかを決める全国統一のルールは、公的な資料には見当たりません。山岳団体の公式ページにも、隊列の位置を一義的に定めた記述は確認できていません。
「リーダーは必ず最後尾」「サブリーダーは必ず先頭」といった書き方をしている記事は多くありますが、これは慣行の紹介であって、守らなければ規則違反になるという性質のものではありません。この記事でも唯一の正解としては書きません。大事なのは、どちらの形をとるにせよ、出発前にどちらか決めておくことです。決めないまま歩き出すのがいちばん危険です。
多くの解説がとっている考え方を整理すると、次のようになります。全体を見渡して判断する人を最後尾に置き、道の状況を確認しながら誘導する人を先頭に置く。理由は視界です。最後尾からは、パーティ全員の背中が見えます。誰の足取りが重くなっているか、誰の呼吸が上がっているか、誰の上着が汗で濡れているかが分かるのは、後ろからだけです。先頭からは誰も見えません。
編集部の見立て:先頭・最後尾のどちらにリーダーを置くかという議論は、突きつめると「判断に必要な情報がどこにあるか」の話だと考えています。道の情報は前にあり、人の情報は後ろにあります。パーティの人数が少なく道が明瞭なら前、人数が多く体力差があるなら後ろ。そう整理すると、どちらの説も矛盾しません。
| 位置 | 担うこと | そこからしか見えないもの | 向いている人 |
|---|---|---|---|
| 先頭 | ペースを作る、分岐で止まる、路面と落石の危険を先に見る | 踏み跡の消え方、渡渉点の水量、道標の有無 | 地図読みができ、迷ったときに引き返す判断ができる人 |
| 中間 | 前後をつなぐ。初めての人や不安のある人はここに置く | 前の人の足の置き方(初心者が真似できる位置) | 経験の浅い人、体力に不安のある人 |
| 最後尾 | 全体を見渡す、遅れの兆候を拾う、休憩の必要を判断する | 各人の歩幅の乱れ、呼吸、装備の緩み、置き忘れ | 経験があり、止める判断を口に出せる人 |
並び順で見落とされがちなのが中間の使い方です。初めて一緒に歩く人や、その山が初めての人は、真ん中に置きます。前の人の足の置き方が見え、後ろから見守られる位置だからです。逆に、初心者を最後尾に置くと、遅れていることが本人にしか分からない状態になります。これは本人にとって最も辛い配置です。
人数が多いパーティでは、隊列全体を一つの塊として保つのが難しくなります。そのときに使われるのが、途中に「つなぎ役」を入れる方法です。先頭から数人ごとに、前後の両方を見る役を配置しておくと、隊列が切れたときに気づく人が増えます。何人ごとに置くかについて公的な基準は無いため、当日の見通しと道幅を見て決めることになります。
並び順を決めるときに、あわせて決めておくとよいのが「追い越しの扱い」です。速い人が前に出たくなる場面は必ず来ます。そのときに、先頭を交代してよいのか、それとも先頭は固定なのか。これを決めておかないと、なし崩しに順番が入れ替わり、最後尾を担うはずだった人が中盤に取り残されます。順番は、決めた瞬間ではなく、崩れたときに効き目を失います。
編集部の見立て:隊列の順番が崩れる最大の原因は、悪意でも競争心でもなく「休憩明け」です。休憩で全員が固まったあと、立ち上がった順に歩き出すと、順番はほぼ入れ替わります。再出発のときに一言だけ順番を確認する。これだけで崩れ方がかなり減ります。
先頭を担う人には、実務上の負担が一つあります。地図と時計を頻繁に見る必要があるのに、それをザックの中にしまっていると、確認のたびに列が止まるという問題です。先頭が止まれば全員が止まります。止まるたびに体が冷え、リズムが切れます。ここは道具で解決できる数少ない部分です。
グレゴリー クラシックサコッシュMは、肩から斜めに掛ける薄い袋で、身体の前に地図と時計とスマートフォンの置き場所を作るための道具です。ザックの雨蓋に地図を入れていると、確認のたびに肩ベルトを外すことになり、そのぶん隊列が止まります。この製品が変えるのは荷物の量ではなく、荷物の位置です。先頭役や地図係を担当する人、あるいは記録係のように行動中に何度も物を出す人に向きます。逆に、行動中にほとんど物を出さない人が持っても効果はありません。
なお、すれ違いや追い越しのときの声のかけ方、登り優先といった一般的なふるまいについては、この記事では扱いません。登山のマナーと、山でのふるまいの基本にまとめてありますので、そちらを先に読んでおくと、隊列の話が実際の道の上でどう見えるかが想像しやすくなります。
ペースの基準を「一番遅い人」に置く
ペースを誰に合わせるかは、隊列の順番よりも直接的に安全へ効きます。そして、ここで最も多い失敗が「速い人に合わせてしまう」ことです。速い人に合わせると何が起きるか。まず後方の人が息を切らします。息が切れると足元を見る余裕が減ります。余裕が減ると、水を飲む・上着を脱ぐ・靴紐を締め直すといった小さな手入れが後回しになります。後回しになった手入れは、たいてい一日の後半にまとめて牙を剥きます。
「休憩は何分に1回入れるべき」「1時間に何分休むべき」といった数字は、この記事では書きません。公的な資料に、登山に適用できる具体的な休憩間隔の基準は見当たらないためです。時間で区切るより、後述するように最後尾の様子で入れるほうが、パーティの実情に合います。
ペースの基準を考えるうえで手がかりになるのが、都道府県が公表している「山のグレーディング」です。静岡県の山のグレーディングは、コースタイム、ルート全長、累積登り標高差、累積下り標高差からルート定数という数値を算出し、体力度を1から10の段階で評価しています。式はコースタイム×1.8+ルート全長×0.3+累積登り標高差×10.0+累積下り標高差×0.6です(静岡県公式の配布資料、2026年8月29日確認)。
グレーディングの読み方で大事なのは、注意書きのほうです。静岡県の資料は、この評価が無雪期・天候良好の条件下のものであること、そしてコースタイムには個人差があることを明記しています。つまり、公表されている体力度は「条件が良く、標準的な速さで歩いたとき」の目安です。パーティで歩くときは、この個人差が前提として存在することを踏まえて、自分たちの基準を別に決める必要があります。
編集部の見立て:グレーディングは「この山は行けるか」を判定する道具として使われがちですが、パーティで使うなら「同じ数字の山でも、うちのメンバーだと何時間かかるか」を測る物差しとして使うほうが実用的だと考えています。過去に一緒に歩いた山の体力度と実際の所要時間を並べておくと、次の山の見積もりがかなり正確になります。
個人差を数字で扱うなら、荷物の重さも変数になります。厚生労働省の「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」のメッツ表では、「山を登る」の運動強度を荷物の重さ別に示しており、荷物0〜4.1kgで6.5メッツ、約4.5〜9.0kgで7.3メッツとされています(2023年8月版、2026年8月29日確認)。同じ山を同じ速さで登っても、背負っている重さで身体にかかる負荷の目安は変わるということです。
メッツ表の数値は運動強度の一般的な目安であり、特定の人がどれだけ疲れるかを予測するものではありません。ただ、パーティ運用の判断材料としては使えます。遅れている人の荷物を少し引き取ると、その人にかかる負荷の区分が変わりうるからです。共同装備の配分は、出発前に固定するのではなく、行動中に組み替えられるようにしておくと融通が利きます。
ペースを一番ゆっくりな人に合わせると決めたとき、実務上いちばん難しいのは、当の本人が恐縮してしまうことです。「自分のせいで遅くなっている」と感じさせると、その人は無理をして速く歩こうとします。これでは基準を置いた意味がなくなります。だから、基準を置く言い方も一緒に決めておきます。「今日は◯◯さんのペースで行く」ではなく、「今日はこの行程だから、全員このくらいの速さで行く」と、行程側の理由として言う。誰かの能力の話にしないという工夫です。
編集部の見立て:ペースの合意は、山の中で口頭で伝えるより、事前の連絡に一行入れておくほうが摩擦が少ないと考えています。集合案内のメッセージに「今日はゆっくり行きます。標準タイムの◯割増しで見ています」と書いておけば、当日それを議題にする必要がなくなります。
コースタイムそのものの読み方、すなわち地図やアプリに書かれた時間が何を前提にした数字なのかについては、コースタイムの読み方と、地図の時間が示していないことで詳しく扱っています。パーティの見積もりを作る前に、元になる数字の性質を知っておくと、割増しの掛け方に根拠が持てます。
休憩の入れ方──止まる基準は先頭でなく最後尾
休憩をいつ入れるかは、たいていの場合、先頭の人が決めています。理由は単純で、先頭が止まらないと後続は止まれないからです。しかし先頭は、パーティの中で最も疲れていない人であることが多い。疲れていない人が「そろそろ休むか」と判断する仕組みは、構造的に休憩が遅れます。
休憩の判断は、最後尾が発信し、先頭が実行する:止まる必要があるかどうかを見るのは最後尾。実際に止まる場所を選ぶのは先頭。この2つを分けると、「疲れていない人が休憩の要否を決める」という構造が解消されます。最後尾から声が届かない距離になっているなら、それ自体がすでに休憩を入れる理由です。
編集部の見立て:休憩の要否を最後尾に持たせる案の良いところは、遅れている本人が自分から「休みたい」と言わなくて済むことです。言い出しにくさが原因で休憩が遅れる場面は多く、そこを役割で解消できるなら安いものだと考えています。
| 場面 | 合図を出す人 | 止まって確認すること | 再出発の条件 |
|---|---|---|---|
| 隊列が伸びて最後尾が見えない | 先頭(気づいた時点で) | 全員がそろっているか、遅れた人の呼吸が落ち着いたか | 全員がそろい、順番を確認してから |
| 後方の呼吸が上がっている | 最後尾 | 水分を取ったか、上着で汗が冷えていないか | 本人が「行ける」と言い、最後尾も同意したとき |
| 分岐・道標のある地点 | 先頭 | 地図と現在地の照合、この先の所要時間、引き返す期限 | 進む方向を全員が口頭で確認してから |
| 気温・天候が変わった | 気づいた人(誰でも) | 着るものの調整、行程を短くする選択肢の有無 | 全員の服装が整ってから |
表の4行目にある「気づいた人(誰でも)」は、意図的に置いています。役割を決めることの副作用として、決められていない人が黙るという現象が起きます。天候や気温のように誰でも気づけることについては、あらかじめ「誰が言ってもいい」と明示しておくと、この副作用を避けられます。
休憩の場所選びは、先頭の重要な仕事です。落石の可能性がある斜面の下、狭い登山道の真ん中、風の通り道になっている稜線上は避けます。とくに人数が多いパーティは、道幅いっぱいに広がりやすく、後続の登山者が通れなくなります。止まる場所は「安全か」と「他の人が通れるか」の両方で選んでください。
休憩の長さについても、公的な基準はありません。ただし、パーティ運用として言えることが一つあります。休憩が長くなると体が冷え、再出発の直後にペースが落ちるという点です。とくに秋から冬にかけて、汗をかいた状態で長く止まると、上着を着ていても冷えます。長く休むなら上着を着る、短く済ませるなら着ない。この判断を各自に任せると必ず誰かが失敗するので、休憩に入る時点で「ここは10分」「ここは長めに取る」と先に言ってしまうほうが確実です。
編集部の見立て:再出発時のペース落ちは、遅れている人にとって二重の負担になります。冷えた体で、休憩前と同じ速さを求められるからです。休憩明けの最初の10分だけ意識してゆっくり歩く。これはパーティ運用の中でも、費用ゼロで効果が分かりやすい部類の工夫だと考えています。
- 休憩の要否を見る役(最後尾)が決まっているか
- 休憩の場所を選ぶ役(先頭)が決まっているか
- 止まる前に「ここは何分」と長さを宣言することにしているか
- 再出発のときに隊列の順番を確認することにしているか
- 天候・気温の変化は誰が言ってもよいと全員が知っているか
はぐれたときの決めごと──どこで待ち、動くか止まるか
ここがこの記事の核です。隊列やペースの話は多くの解説に載っていますが、「実際にはぐれたあと、どこで待ち、誰が動き誰が止まるのか」まで踏み込んだ説明は、あまり見かけません。しかし現場で判断が止まるのは、まさにこの局面です。
はぐれたと気づいた瞬間、人は反射的に相手を探そうとします。全員が探し始めると何が起きるか。すれ違いが起きます。Aさんが引き返しているあいだにBさんが先へ進み、両者の距離はむしろ開きます。しかも山の中では携帯電話がつながらない区間があり、位置を確かめ合う手段がありません。だから、はぐれる前に「探さない側」を決めておく必要があります。
はぐれたときの原則:①待つ場所を、地名または明確な地物で一つ決めておく(「さっきの分岐」ではなく「◯◯峠の道標」のように)、②動く人と止まる人を先に指名しておく、③連絡が取れない前提で決める。電波があれば連絡すればよいので、決めごとが要るのは電波が無いときのためです。
編集部の見立て:はぐれたときの取り決めは、装備の話より優先度が高いと考えています。理由は、道具はあとから買い足せますが、取り決めは山に入ってからでは作れないからです。しかも決めるのに5分もかかりません。


| はぐれ方 | 動く人 | 止まる人 | 合流点の決め方 |
|---|---|---|---|
| 後方が遅れて見えなくなった | 先頭グループは進まず、1人だけ引き返す | 先頭グループは直近の広い場所で待機 | 直前に通過した道標・分岐まで戻る |
| 分岐で別方向へ行った疑い | 分岐まで戻れる人が1人、分岐で待機 | それ以外は分岐に集まり動かない | 分岐そのもの。ここを基準点にする |
| 1人が完全に見当たらない | 誰も単独で探しに入らない。2人以上で動く | 残りは通報できる場所へ移動して待つ | 登山口または最寄りの山小屋・施設 |
| 下山中に列が割れた | 先に着いた側は登り返さない | 登山口・駐車場で待つ | 登山口。当日の集合場所と同じ地点 |
表のうち3行目には、注意して読んでほしい行があります。「誰も単独で探しに入らない」という部分です。1人が行方不明になったあと、心配した人が単独で探索に入り、その人も戻れなくなるという二次的な事態は、山では現実的な懸念です。探すために動くなら2人以上で、かつ引き返す時刻を先に決めてから動く。これは公的な捜索の手順ではなく、パーティとして自分たちを守るための線引きです。
「合流できなかったら◯時に登山口」という約束は、時刻だけで決めると危険な側にずれます。日没や気温の低下を無視して待ち続けることになるからです。時刻を決めるときは、その日の日没と、待機する場所の風の当たり方をセットで考えてください。待つ場所を稜線上ではなく樹林帯や施設に寄せるだけで、待機できる時間が大きく変わります。
- 待つ場所を、地名または明確な地物で一つ決めたか(「さっきの分岐」のような曖昧な言い方になっていないか)
- 動く人と止まる人を、名前で指名したか
- 単独では探しに入らない、動くなら2人以上という線引きを全員が知っているか
- 待機する場所は、風を避けられて日没まで待てる場所か
- 電波が無い前提でも成立する決めごとになっているか
もう一つ、決めておくとよいのが「引き返す判断が出たときにどこへ抜けるか」です。体力差のあるパーティでは、全員が山頂へ行くのではなく、途中で分かれて短い道から下りるという選択が現実的になります。この選択肢は、当日に思いつくものではありません。計画の段階で候補を持っておく必要があります。逃げ道の作り方はエスケープルートの決め方と、引き返す判断の基準に手順としてまとめてあります。
編集部の見立て:はぐれたときの取り決めと、エスケープルートの取り決めは、実は同じ設計です。どちらも「うまくいかなかったときに、どこへ集まるか」を先に決める作業だからです。片方だけ決めてあるパーティは、もう片方も決めておくと手戻りがありません。
はぐれたときに使う手段として、声を当てにしないほうがよい理由があります。人の声は風と沢の音にかき消されやすく、しかも呼び続けると体力と喉を消耗します。喉を痛めた人は、その後の行動中に必要な会話まで難しくなります。ここは道具で補える部分です。
ウインドストーム・ホイッスルは、濡れた状態でも音が出るように設計された笛です。この製品が声と違うのは、少ない息で遠くまで届き、何度でも繰り返せる点にあります。パーティで使うなら、1人が持つのではなく全員が1つずつ、ザックの中ではなく首かハーネスなど手を伸ばさずに口へ運べる位置に付けておくのが前提の道具です。ザックの底に入れておくと、はぐれた瞬間には取り出せません。吹き方の合図(たとえば短く3回で「ここにいる」)まで出発前に決めておくと、はじめて役に立ちます。
パーティで1つ持つ道具──誰が持つかまで決めておく
共同装備という言葉は聞き慣れていても、実際に「誰のザックのどこに入っているか」まで共有しているパーティは多くありません。救急用品、ツェルト、予備の行動食、地図の予備。これらは持っているだけでは意味がなく、必要になった瞬間に取り出せて初めて役に立ちます。
編集部の見立て:共同装備でいちばん多い失敗は「持ってこなかった」ではなく「持っているのに出せなかった」です。持ち主が最後尾にいて、必要な人が先頭にいる。あるいは持ち主がザックのどこに入れたか思い出せない。装備の話は、買う話より配置の話だと考えています。
| 共同で持つもの | 誰が持つと合理的か | 入れておく場所 | 出発前に共有すること |
|---|---|---|---|
| 救急用品 | 最後尾(遅れや不調に最初に気づく位置) | ザックの雨蓋か外付けポケット | 誰が持っているか、どこに入っているか |
| ツェルト・非常用シート | 体力に余裕のある人 | ザックの取り出しやすい層 | 使う判断は誰が出すか |
| 地図(紙)の予備 | 先頭と最後尾の両方が1枚ずつ | 身体の前(サコッシュ等) | 同じ縮尺・同じ図面を持っているか |
| 予備の行動食・水 | 複数人で分散して持つ | 各自のザック内で位置を統一 | 誰かが不足したときに出す合図 |
表で「分散して持つ」と書いた項目があるのは、1人にまとめると、その人がはぐれた時点でパーティ全体が困るからです。逆に、救急用品のように「誰が持つか」を明確にしたほうがよいものもあります。分散させるものと一元化するものを分けて考えると、配分の議論が早く終わります。
遭難対策のサービスや保険については、パーティで一括して加入・手配できるかどうかは提供元によって扱いが異なります。公式の案内で確認できる範囲では、捜索の要請は会員本人、または本人が通報できない場合の家族という個人単位の記載が中心です。パーティで歩くからといって誰か1人が入っていればよい、という考え方はしないほうが安全です。メンバーそれぞれが自分の分を備える前提で組んでください。
救急用品については、既製のセットを買うか、自分で詰めるかで迷う人が多い部分です。ドイター ファーストエイドポーチ アクティブは、中身が入った完成品ではなく、自分で必要なものを詰めるための袋です。だから「何を入れるか」をパーティで相談する余地が残ります。この製品が向くのは、共同装備として1つを共有すると決めたパーティで、その1つを誰が背負い、どこに入れておくかまで取り決めるつもりのある人です。買った時点では何も解決しない道具で、中身と持ち主を決めて初めて機能します。
- 救急用品を誰が持つか決まっているか。その人のザックのどこに入っているか全員が知っているか
- 地図は先頭と最後尾の両方が持っているか。同じ図面か
- 予備の行動食と水は、1人に集中していないか
- 笛は全員が持ち、すぐ口へ運べる位置にあるか
- ヘッドランプは全員が持っているか(日帰りでも)
隊列が伸びたときの合図と、連絡手段の決め方
隊列は必ず伸びます。伸びること自体は避けられないので、決めておくべきなのは「どこまで伸びたら止まるか」の基準です。基準が無いと、先頭は「まだ大丈夫だろう」と思い続け、最後尾は「そのうち止まるだろう」と思い続けます。両方が待っているあいだに距離は開きます。
隊列の限界を、距離ではなく「見えるか・届くか」で決める:何メートルまでという数字は、地形と樹林の濃さで意味が変わります。実用的なのは、①最後尾が先頭から見えなくなったら止まる、②声が届かなくなったら止まる、のどちらかを基準にすることです。どちらを採るかは、その日の道の見通しで決めます。
編集部の見立て:距離をメートルで決める方式は、山の中で誰も測れないので機能しません。「見えるか」「届くか」なら、その場で全員が同じ判断をできます。基準は、守れる形にしないと守られないと考えています。
合図の決め方についても、複雑にしないことが大事です。覚えられない合図は使われません。実務上は、笛の回数を2種類だけ決めれば足りることが多いはずです。たとえば短く3回で「ここにいる/応答してほしい」、長く1回を繰り返して「集まってほしい」。回数と意味の対応に全国共通の決まりがあるわけではないので、パーティごとに決めて、出発前に一度だけ全員で確認します。
携帯電話は、山の中では「つながる区間」と「つながらない区間」がまだらに分布します。つながる区間があらかじめ分かっていることは少ないため、連絡手段としては当てにしすぎないほうが無難です。一方で、電波が届く場所を通過したときに、家族や下山連絡先へ状況を送っておくと、万一のときに捜索の起点が絞られます。行動中に電波が入ったら送る、という運用にしておくと取りこぼしが減ります。
- 笛の合図を2種類だけ決める(例:短く3回で「ここにいる」、長く1回の繰り返しで「集まってほしい」)
- 登山口で全員が一度だけ実際に吹き、音が出るかと意味の対応を確認する
- 隊列を止める基準(見えなくなったら/声が届かなくなったら)を、その日の道の見通しに合わせてどちらか選び、全員に伝える
メッセージアプリのグループを作っておく方法は、電波がある区間では有効です。ただし、圏外で送信したメッセージは相手に届いていません。送信済みの表示と、相手が受け取ったことは別だという点は、出発前に全員で共有しておいてください。「送ったのに返事が無い」は、相手に届いていないだけのことが多いからです。
スマートフォンの電池は、圏外で電波を探し続けると急速に減ります。連絡手段として頼るなら、機内モードと通常モードの切り替えを行動中にどう扱うかまで決めておく必要があります。地図アプリを使う人の端末が先に切れると、パーティ全体の現在地把握が止まります。地図は紙とアプリの両方を持ち、持ち主を分けるのが確実です。
編集部の見立て:連絡手段の議論は、道具の性能より運用の取り決めのほうが効きます。同じスマートフォンでも、電波が入ったときに何をするか決めてあるパーティと、そうでないパーティでは、いざというときの情報量がまったく違ってきます。
警察庁の統計が示す数字と、そこから言えないこと
複数人での登山について語られるとき、しばしば引き合いに出されるのが警察庁の山岳遭難統計です。数字を正しく扱うために、まず分母と公表年を確認します。警察庁「令和7年における山岳遭難の概況等」は2026年6月18日に公表された資料で、対象は令和7年(2025年)の1年間です(2026年8月29日確認)。
| 区分 | 遭難者数 | 構成比 | 死者・行方不明者数 | 遭難者に占める割合 |
|---|---|---|---|---|
| 単独(山菜・茸採り、観光等を含む) | 1,367人 | 37.7% | 209人 | 15.3% |
| 複数(2人以上)※全国値から単独分を控除して算出 | 2,256人 | 62.3% | 123人 | 5.5% |
| 全国計 | 3,623人 | 100% | ― | ― |
数字だけを見ると、単独の遭難者に占める死者・行方不明者の割合は15.3%、複数では5.5%です。ただし、この記事ではここから「複数人のほうが安全だ」とは書きません。理由をはっきり書いておきます。
この統計は、遭難した人を態様や人数で分類して集計したものであり、パーティを組むことが事故を減らしたかどうかを測定した調査ではありません。単独で山に入る人と複数で入る人では、選ぶ山も季節も入山目的も違います。相関があることと、原因であることは別です。数字は「令和7年の統計ではこうだった」という事実として扱い、因果の説明には使わないでください。
編集部の見立て:この数字がパーティ運用に対して持つ意味は、「複数だから安心」ではなく「複数でも遭難者数の6割を占めている」という側だと考えています。複数人の遭難者が2,256人いるという事実のほうが、段取りを決める理由としては直接的です。
同じ資料のなかで、警察庁は、信頼できるリーダーを中心とした複数人での登山に努めるよう記載しています。これは統計の解釈ではなく、警察庁が示している呼びかけです。ここで注目したいのは「複数人」という部分より「信頼できるリーダーを中心とした」という条件のほうです。人数を増やすことではなく、まとめ役がいる形が想定されている、と読めます。
リーダーという役割については、公認の講習制度もあります。公益社団法人日本山岳・スポーツクライミング協会の公認「夏山リーダー」講習は、パーティーのリーダーに必要な知識と実技を扱うもので、受講条件として18歳以上、登山歴2年以上かつ20回以上といった要件が示されています(JMSCA公式、2026年8月29日確認)。友人同士の山行にこの資格が必要というわけではありませんが、リーダーに求められる範囲がどのくらいのものと考えられているかの目安にはなります。
編集部の見立て:「信頼できるリーダー」という言い方は曖昧に見えますが、実務的には「引き返すと言える人がいるか」に置き換えられると考えています。速く歩ける人でも、地図に強い人でもなく、全員が乗り気なときに止められる人。それが1人いるかどうかがパーティの性格を決めます。
登山届・引率のガイドラインでグループはどう扱われているか
グループでの登山を、公的な制度がどう扱っているかを見ておくと、決めごとの根拠が固まります。まず登山届です。都道府県によっては条例で提出を求めている地域があります。
| 自治体 | 根拠 | 対象 | 提出のきまり | グループの扱い |
|---|---|---|---|---|
| 長野県 | 長野県登山安全条例(第21条) | 指定登山道 | 氏名・住所、行程、緊急連絡先等を記載 | 同一行程の集団は、構成員1人が代表して届け出られる |
| 富山県 | 富山県登山届出条例 | 剱岳および周辺山域 | 対象期間は12月1日〜翌年5月15日、登山日の20日前まで | 登山届・登山者名簿の様式を公式に公開(欄の詳細は本記事では未確認) |
長野県の条例で「同一行程の集団は構成員1人が代表して届け出られる」とされている点は、グループ運用の観点から意味があります。代表して出せるということは、代表者が全員の氏名・住所・緊急連絡先を把握している必要があるということです。逆に言えば、届出をきっかけに、パーティ内の連絡先が自然に整理されます。
編集部の見立て:代表提出は手間を減らすための仕組みですが、副産物として「誰が全員の情報を持っているか」が一人に定まります。この一人は、当日の隊列でどこに立つかとは別に、事務的なまとめ役として決めておくと運用が楽になります。
条例による届出の要否や期限は、山域と時期によって異なります。ここに挙げたのは2026年8月29日時点で各県の公式ページに掲載されている内容ですが、対象山域や期間は見直されることがあります。行き先が決まったら、必ず当該自治体の公式ページで最新の案内を自分で確認してから出発してください。この記事の記述を提出期限の根拠に使わないようお願いします。
登山届の書き方そのもの、とくに行程や緊急連絡先をどこまで具体的に書くかについては、登山計画書の書き方と、提出先の選び方にまとめてあります。グループで提出する場合は、代表者が一人で書くことになるため、行程の見積もりが「代表者の脚力」に寄りやすくなる点に注意してください。ここでもペースの基準の話が効いてきます。
引率という形をとる登山については、学校向けのガイドラインが参考になります。文部科学省・スポーツ庁は、学校の登山事故防止に関して、体力・経験に見合う計画、装備、地図、当日の体調、現場の危険確認と状況判断を留意点として示しています(2025年4月21日付の事務連絡、2026年8月29日確認)。
この留意点は学校を対象にしたものですが、項目の並び方に学ぶところがあります。計画・装備・地図といった事前の項目と、当日の体調・現場の危険確認・状況判断という当日の項目が、並列で置かれている点です。事前の準備がどれだけ整っていても、当日の判断が別立てで必要だという構成になっています。パーティ運用でも、事前に決める3つと、当日その場で判断する事柄は別物として扱ったほうが整理しやすくなります。
編集部の見立て:「当日の体調」が留意点として明記されているのは、パーティ運用にとって重要な示唆だと考えています。体調が悪い人が言い出しにくい構造をそのままにしておくと、この項目は形だけになります。集合時に一人ずつ体調を聞く手順を作るかどうかで、実質が変わります。
子ども・シニアを含むグループで足す視点
ここまでの3つの決めごとは、体力差の大きいパーティほど効きます。そして体力差が最も大きくなりやすいのが、子どもや高齢の家族を含む山行です。この場合、決めごとの中身は同じでも、置き方を変える必要があります。
子どもを含むパーティでは、ペースの基準を子どもに置くだけでは足りません。子どもは疲れの出方が急で、平気そうにしていた次の瞬間に動けなくなることがあります。そのため、休憩の基準を「疲れたら」ではなく「時間か地点で先に決めておく」形に寄せるほうが実務的です。また、隊列では子どもを最後尾に置かないことが原則になります。前後に大人を配置し、視界から外れない位置に入れます。
編集部の見立て:子ども連れの山行で最も避けたいのは、大人が「もう少しで着くから」と励ましてペースを維持させてしまうことです。行程を短くする決断は、当日ではなく計画の段階で用意しておくもの。逃げ道を先に作っておくことが、結果として子どもを急かさないで済む唯一の方法だと考えています。
季節ごとの服装や行程の組み方を含めた、子どもと歩くときの具体的な準備については子どもと登る秋の低山、服装と行程の組み方にまとめてあります。パーティ運用の決めごとと合わせて読むと、当日の段取りが立てやすくなります。
年齢の離れたメンバーが混じるパーティでは、「合わせる」という言葉の使い方に注意が要ります。誰かに合わせてもらっているという感覚は、その人の判断を鈍らせます。無理をして遅れを取り戻そうとし、休憩を辞退し、体調の変化を口に出さなくなります。基準は個人ではなく行程の側に置く、という言い換えは、ここでも有効です。
年齢を重ねてからの登山では、行程の長さそのものより、下りの負担と回復にかかる時間の見積もりが問題になりやすい部分です。静岡県のグレーディングの式が、累積登り標高差だけでなく累積下り標高差にも係数を割り当てているのは、下りが体力度の一部として計算されているということでもあります。パーティで行程を組むとき、下りの長い周回コースは、登りが同じでも負担が変わります。シニア世代の登山、無理なく続けるための行程と装備では、この点を含めた組み立て方を扱っています。
体力差のあるパーティでは、全員が同じ地点まで行くことを前提にしない計画も選択肢になります。途中の分岐で二手に分かれ、片方は短いルートで下山して合流するという形です。ただし、これは分かれた時点で二つのパーティになるということでもあります。分かれるなら、それぞれに地図・笛・救急用品を持たせ、合流点と時刻を決めてから分かれてください。
編集部の見立て:「途中で分かれる」は便利な選択肢ですが、決めごとが一番崩れやすい場面でもあります。分かれた瞬間に、先頭と最後尾の役割配置がどちらのグループでも空席になることがあるからです。分かれるときは、必ずその場で両方の隊列を組み直す。ここは省略しないほうがよいと考えています。
よくある質問
Q. リーダーは先頭と最後尾のどちらに立つのが正しいですか
全国で統一されたルールは確認できていません。多くの解説は、様子を見ながら誘導する役を先頭に、全体を見渡す役を最後尾に置く形を紹介していますが、逆の考え方を示す情報もあります。この記事としては、どちらが正解かを決めるより、出発前にどちらの形をとるか合意しておくことのほうが重要だと考えます。人数が少なく道が明瞭なら前、人数が多く体力差があるなら後ろ、といった当日の条件で選ぶのが現実的です。
Q. 休憩は何分に1回入れるべきですか
公的な資料に、登山に適用できる具体的な休憩間隔の基準は見当たりません。そのため、この記事では時間の目安を示していません。代わりに提案しているのは、休憩の要否を最後尾が見て発信し、止まる場所は先頭が選ぶという役割分担です。時間で区切る方式は、疲れ方の個人差を吸収できないという弱点があります。子どもを含むパーティのように疲れの出方が急な場合は、時間や地点であらかじめ区切っておく方式のほうが向くこともあります。
Q. 複数人で登れば単独より安全になりますか
警察庁「令和7年における山岳遭難の概況等」(2026年6月18日公表)では、令和7年の全国の遭難者3,623人のうち単独が1,367人(37.7%)、そのうち死者・行方不明者は209人で15.3%でした。単独分を控除して算出すると、複数の遭難者は2,256人、死者・行方不明者は123人で5.5%となります。ただしこの統計は遭難者を人数区分で集計したものであり、パーティを組むことが事故を減らした効果を測定したものではありません。安全になるかどうかの答えとしては使えない数字です。複数でも遭難者の6割強を占めている、という事実のほうを段取りの理由に使ってください。
Q. グループの登山届は全員が別々に出す必要がありますか
自治体によって扱いが異なります。長野県登山安全条例では、同一行程の集団については構成員1人が代表して届け出られる旨が定められています(2026年8月29日確認)。一方、富山県登山届出条例のように、対象山域と対象期間、提出期限が定められている例もあります。行き先の自治体の公式ページで、対象山域・期間・提出方法を出発前に自分で確認してください。制度は見直されることがあるため、記事の記述を期限の根拠にしないでください。
Q. はぐれたときに全員で探しに行ってはいけませんか
探すこと自体を否定するものではありませんが、全員が別々に動くと、すれ違いが起きて距離が開きます。この記事で提案しているのは、動く人と止まる人を先に決めておくことです。とくに1人が完全に見当たらない状況では、単独で探索に入らず、動くなら2人以上で、引き返す時刻を決めてから動く形にしてください。残りの人は、通報できる場所へ移動して待つほうが、結果的に早く解決に向かうことが多いはずです。
Q. パーティ全員が同じ遭難対策サービスに入っていれば、1人分の手続きで足りますか
提供元の公式案内で確認できる範囲では、捜索の要請は会員本人、または本人が通報できない場合の家族という個人単位の記載が中心で、パーティ一括で扱われるという記載は確認できていません。パーティで歩くからといって誰か1人が備えていればよいという考え方はせず、メンバーそれぞれが自分の分を備える前提で組んでください。加入内容や手続きは提供元ごとに異なるため、各自が公式の案内を確認する必要があります。
まとめ:今日やることは1つ
ここまで、隊列・ペース・はぐれたときの取り決めと、それを支える公的な資料の記述を見てきました。読み終えて今日やることは、1つだけです。次の山行のグループ連絡に、決めごとを3行書いて送る。それだけで、当日の議論がほぼ要らなくなります。
3行の中身は、この記事で扱った3つと同じです。「今日の並びは、先頭が◯◯さん、最後尾が◯◯さん」「ペースは一番ゆっくりに合わせるので、標準タイムより時間を多めに見ています」「はぐれたら、直前の道標まで戻って待ちます。動くのは1人だけ」。文章として整っている必要はありません。決まっていることが全員に見えていれば十分です。
編集部の見立て:この3行を送ることの本当の効果は、当日の運用より、送った時点で「決めていなかったこと」に自分で気づける点にあると考えています。書こうとして手が止まったところが、そのパーティの穴です。
- グループの連絡に、先頭と最後尾を担当する人の名前を書いて送る(当日ではなく前日までに)
- 行程を、一番ゆっくりな人の歩きを基準に見直し、日没までの余裕が足りているか確かめる。足りなければ行き先か行程を短くする
- 登山口で地図を広げ、はぐれたときの合流点を地名で1つ決めて全員で口に出す。あわせて笛の合図を一度だけ確認する
最後に一つ。決めごとは、決めた人だけが覚えていても機能しません。3つとも、全員が同じ内容を言えるかどうかで確かめてください。登山口で「はぐれたらどこで待つんだっけ」と聞いてみて、全員から同じ地名が返ってくれば、その日のパーティは成立しています。返ってこなければ、歩き出す前にもう一度決め直したほうが早く済みます。
出典
- 警察庁「令和7年における山岳遭難の概況等」(令和8年6月18日公表) https://www.npa.go.jp/publications/statistics/safetylife/r07_sangakusounan_gaikyou.pdf (2026年8月29日確認)
- 長野県「長野県登山安全条例に基づく登山計画書の提出」 https://www.pref.nagano.lg.jp/shizenhogo/kurashi/shizen/koen/zyouhou.html (2026年8月29日確認)
- 富山県「剱岳周辺における冬期の登山届出について」 https://www.pref.toyama.jp/1709/turugidaketozan_winter.html (2026年8月29日確認)
- 文部科学省・スポーツ庁「学校における登山事故の防止について」 https://www.mext.go.jp/sports/b_menu/hakusho/nc/jsa_00047.html (2026年8月29日確認)
- 静岡県「静岡県 山のグレーディング」配布資料(ルート定数の算出式・体力度1〜10段階) https://www.pref.shizuoka.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/052/256/shizuoka_grading02.pdf (2026年8月29日確認)
- 厚生労働省「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」メッツ表(2023年8月版) https://e-kennet.mhlw.go.jp/wp/wp-content/themes/targis_mhlw/pdf/mets.pdf (2026年8月29日確認)
- 公益社団法人日本山岳・スポーツクライミング協会「夏山リーダー講習会」 https://www.jma-sangaku.or.jp/sangaku/leader/2026-summer-leader-seminar/ (2026年8月29日確認)
- 公益社団法人日本山岳・スポーツクライミング協会「登山計画書の書き方」 https://www.jma-sangaku.or.jp/sangaku/plan/write/ (2026年8月29日確認)
