

「登りはしんどいのに、下りで膝が痛くなった」。登山を始めたばかりの人ほど、この順番に驚きます。実は、登りと下りでは体への負担のかかり方がまったく違います。よく言われる「登りは体力、下りは技術」という言葉は、この違いを的確に表した一言です。
この記事では、歩幅とペースの作り方から、フラットフッティングという足の置き方、登りと下りで変わる技術、休憩と呼吸の整え方、そしてトレッキングポール(ストック)の使い方まで、疲れにくく膝を痛めない歩き方の基本をまとめました。
登山の歩き方で押さえておきたいポイント
歩幅とペース:歩幅は小さく、同じリズムで。「息が切れない速さ」が目安。
足の置き方:足裏全体で接地するフラットフッティングが基本。
登りと下りの違い:登りは体力、下りは技術。下りは歩幅を小さくし、膝を曲げて衝撃を吸収する。
休憩:こまめに短く。休みすぎると体が冷えて動きにくくなる。
呼吸:息が上がったら、まず立ち止まって整える。
ストック:登りと下りで長さを変えると、下りの膝の負担を減らせる。
登山道で足を止めてしまう人の多くは、体力ではなく歩き方でつまずいています。順番に見ていきましょう。
歩幅とペースの作り方

歩幅は小さく、同じリズムで
平地の感覚で大きく踏み出すと、太ももとふくらはぎに一気に負担がかかり、序盤で体力を使い切ってしまいます。農林水産省が公開している登山初心者向けの案内でも、山道では歩幅を「肩幅くらい」にすることがすすめられています。歩幅を小さくすると一歩ごとの負担が減るだけでなく、姿勢が安定してバランスも崩れにくくなります。
同じ案内では、歩く速さについても「平地の2分の1か3分の1くらい」を目安にするとよいとされています。この歩幅とペースをコース全体で一定に保つことが、後半までばてない歩き方の土台になります。
YAMAP MAGAZINEで登山ガイドの鷲尾太輔氏が解説している記事によると、1分間に60〜80歩のピッチ、時速およそ2kmを目安に登ると、一般的なコースタイムどおりに歩けるとされています。この歩行ピッチをなるべく一定に保つことが、心拍数の安定と疲労の予防につながるとも述べられています。
歩幅を一定に保つ動きは、太ももの前側やふくらはぎの筋肉を一定のリズムで使い続けることでもあります。どの筋肉がどう働いているかを知っておくと、疲れが出やすい部位のケアもしやすくなります。詳しくは登山で使う筋肉で解説しています。
「息が切れない速さ」を心拍と会話で見極める
自分に合ったペースをその場で確認する方法として使いやすいのが、隣の人と会話ができるかどうかです。息が切れて言葉が続かなくなっているなら、ペースが速すぎるサインだと考えてください。心拍数を意識できる人は、ドキドキと強く感じるほど上がっていないかを目安にするとよいでしょう。数値で厳密に管理したいなら心拍計付きの時計を使う方法もありますが、初心者はまず「会話が続けられる速さ」を基準にするだけで十分です。
コースタイムを事前に調べておき、今のペースが速すぎるのか遅すぎるのかを照らし合わせるのも有効です。予定より大幅に遅れているなら、休憩の回数や行動食を見直すタイミングかもしれません。
足の置き方はフラットフッティングが基本
登山靴のソールには、不整地でも滑りにくいように溝(ラグ)が刻まれています。この性能を引き出すには、足裏全体を地面に置く「フラットフッティング」という歩き方が基本になります。
つま先やかかとから入ってはいけない理由
プロの登山ガイドが回答する登山Q&AサイトSherpaの解説によると、かかとから接地すると、不整地では足を置いた拍子に岩や石が動いてしまい、次の一歩でも同じ石が動いて安定しないことがあります。つま先だけで立つ歩き方も、何かに引っかけてつまずきやすいうえ、ふくらはぎに負担がかかり続けます。足裏全体を使うことで、母指球のあたりで自然にバランスが取れ、不安定な足場でも重心を動かしやすくなるとされています。
路面によって足裏の使い方を変える
岩場では足裏全体でしっかりと地面を捉え、砂利道や落ち葉の積もった道では足首をやわらかく使うと滑りにくくなります。滑りやすい一枚岩などでは足裏を斜面に押し当てるように置く場面もありますが、基本はあくまで足裏全体のフラットフッティングです。
靴の中で足がずれると、フラットフッティングを意識していても踏ん張りが利きにくくなります。足裏をしっかり支えるインソールに替えると、靴の中での安定感がはっきり変わってきます。
登山用に作られたインソールは、土踏まずのアーチを支える形状になっているものが多く、足裏全体で地面を捉える感覚をつかみやすくなります。既製の靴に入っている薄いインソールから替えるだけで、足の疲れ方が変わったと感じる人もいます。
足の置き方と合わせて見直したいのが靴下です。登山用の靴下は普段履きの靴下とは前提が違い、汗を吸って肌側をドライに保つウール素材や、かかと・つま先のクッション性を高めた編み方になっているものが多く、靴擦れやマメの予防につながります。
厚みのある登山用ソックスに替えると靴の中の遊びが減り、足裏全体で地面を捉える感覚も安定しやすくなります。長時間歩いたあとの靴擦れが気になる人は、靴下から見直すのも一つの方法です。
登りは体力、下りは技術
登山の格言として知られる「登りは体力、下りは技術」は、負担のかかり方の違いをそのまま言い表しています。登りは息が切れて足が止まりますが、下りは息はそれほど上がらないのに膝が痛くなる、あるいは滑って転びそうになる。この差こそが、登りと下りで必要なものが違う証拠です。
登りは「体力」を淡々と使う区間
登りでのつまずきの多くは、技術というより単純なスタミナ不足です。歩幅を小さくして一歩ずつ確実に踏みしめ、心肺に無理のないペースを保てば、あとは体力が続く限り登り続けられます。逆に言えば、登りの強さは事前の体力づくりでかなりの部分をカバーできるということです。登る前の日常的なトレーニングで持久力をつけておくと、同じ斜度でも息の上がり方が変わってきます。具体的な鍛え方は登山のトレーニングで紹介しています。
下りは「技術」がないと膝を痛める区間
下りは、登りとは負担のかかる場所がまったく違います。着地のたびに、落ちてくる体重を一瞬で受け止める動きが繰り返されるため、膝にはただ立っているときよりもずっと大きな負担が繰り返しかかります。体力があっても、着地の受け止め方という技術を知らないまま下り続けると、下山の後半で膝が痛み出すことがあります。登山の膝の痛みについては登山の膝の痛みで原因別に詳しくまとめています。
下りの歩き方:歩幅を小さく、膝を曲げて衝撃を吸収する
山と溪谷オンラインで登山ガイドの野中径隆氏が解説している省エネ歩行のポイントは、軸足の真上に上半身をまっすぐ乗せる姿勢です。腰が引けて上体が後ろに残ると、スリップや前のめりの転倒につながりやすく、重心移動もスムーズにいきません。あわせて、軸足の足首をやわらかく使いながら足を前に踏み出すと、足首・膝・股関節の3つの関節が連動して衝撃を分散し、膝だけに負担が集中するのを防げるとされています。
初心者がまず実践しやすいのは、歩幅をさらに小さくすることと、着地の瞬間に膝を軽く曲げておくことです。膝を伸ばし切ったまま着地すると衝撃がそのまま骨や関節に伝わりますが、膝を曲げてクッションのように使うと、太ももの筋肉が衝撃を吸収してくれます。
下りで膝の負担を感じやすい人は、サポートタイツで動きを支えるという選択肢もあります。
登山用のサポートタイツは、太ももや膝まわりを適度な圧で覆い、下りで膝が横に揺れるのを抑える設計になっています。痛みを治すものではありませんが、長い下りが続くコースで脚の踏ん張りをサポートする道具として使われています。
すでに下りで膝の違和感が出やすい人は、サポーターで関節の動きを支える方法もあります。
膝用サポーターは、膝の曲げ伸ばしの動きを横から支え、着地のたびに関節がぐらつくのを抑える働きをします。登山用に限らずスポーツ全般で使われている定番の設計で、下山が長いコースを予定している日にあらかじめ着けておくと安心感が違います。こちらも痛みを治療する道具ではなく、負担を減らして動きを支えるためのものです。
休憩の取り方

何分歩いて何分休むか
農林水産省の案内では、登り始めて30分ほどで最初の休憩をとって水分を補給し、そのあとは50分から1時間に1回、5分から10分ほどの休憩をはさむという目安が示されています。歩き始めの30分は体が登山モードに切り替わっていない時間なので、早めに一度立ち止まって装備やペースを確認する意味もあります。
この間隔はあくまで目安です。息が上がってきたと感じたら、時間を待たずに休憩を取ってかまいません。無理に間隔を守ろうとして体力を使い切ってしまっては、本末転倒になってしまいます。
休みすぎて体を冷やさない
休憩は長く取ればよいというものではありません。汗をかいた体で長時間じっとしていると、汗が乾く過程で体温が奪われ、かえって体が動きにくくなります。行動を止めて体が冷える前に、羽織るものを一枚足すか、短めの休憩で切り上げて歩き出すほうが結果的に楽になります。
休憩中は座ってザックを下ろし、背筋を伸ばして体への負担を抜きましょう。軽くふくらはぎや太もものストレッチをはさむと、筋肉のこわばりを防げます。休憩の使い方ひとつで、下山後の筋肉痛の出方も変わってきます。対策は登山の筋肉痛にまとめています。
休憩でエネルギーを補給しておくことも、後半のペースを保つうえで欠かせません。
羊羹のような固形の甘味は、少量でも糖分を補給しやすく、溶けたり潰れたりする心配が少ないため行動食に向いています。個包装で1本ずつ食べ切れるタイプなら、汚れた手で袋を開け閉めする手間もかかりません。エネルギー切れを感じてから食べるのではなく、休憩のたびに少しずつ口にしておくと、急な息切れを予防しやすくなります。
水分補給も休憩のたびに欠かせません。
ソフトタイプの給水ボトルは、中身が減るとつぶれて小さくなるため、ザックの中で余分なスペースを取りません。飲み口が広く洗いやすいものを選んでおくと、行動中に汚れが気になりにくいというメリットもあります。休憩のたびにひと口ずつ水分を摂る習慣をつけておくと、まとめ飲みによる体への負担も避けやすくなります。
呼吸の整え方
息が上がったときの整え方
斜度がきつくなって息が切れてきたら、まずペースを落とすか、いったん立ち止まって呼吸を整えましょう。腹式呼吸を意識してゆっくり息を吐き切ると、次の吸う動作が自然に深くなり、呼吸のリズムが整いやすくなります。焦って浅い呼吸を繰り返すと余計に苦しくなるので、吐く時間を吸う時間より長めに取るくらいの気持ちで落ち着かせましょう。
歩幅と呼吸を連動させる
斜度が上がる場面では、一歩ごとに呼吸のリズムを合わせる歩き方も効果的です。例えば二歩で吸って二歩で吐く、といった自分なりのリズムを見つけておくと、呼吸が乱れる前に一定のペースを保ちやすくなります。息が切れやすい人は、まず歩幅を小さくすることから見直すと、呼吸も自然に整いやすくなるはずです。
トレッキングポール(ストック)の使い方
正しい歩き方を身につけても、下りが長いコースでは膝への負担をゼロにはできません。そこで役立つのがトレッキングポール(ストック)です。両手に持つことで支える面が増え、着地の負担を腕や肩にも分散できます。
登りと下りで長さを変える
ポールの基本の長さは、平地で持ったときに肘がだいたい90度になる高さです。トレッキングポールの選び方でも紹介しているとおり、登りでは少し短め、下りでは少し長めに調整すると、斜面に対して自然に突きやすくなります。毎回細かく調整するのが面倒なら、最初は平地の長さのままでも構いません。慣れてきたら、登り・下りで長さを変える調整に挑戦してみてください。
下りでの膝の負担を軽減する
下りでポールを2本とも斜面のやや前方に突きながら歩くと、着地の瞬間の体重の一部をポール側に逃がすことができます。歩幅を小さくする、膝を曲げる、ポールを使うという3つを組み合わせることで、膝1か所に集中していた負担を、足首・膝・ポールの複数箇所に分散させるイメージです。
今回紹介しているLEKIのマカルーライトは、長さ67〜135cmの範囲で調整できるアルミ製のポールで、重さは2本1組で約500gです(ヒマラヤ公式通販サイトの商品情報より)。登りは短く握り、下りは長く伸ばすという基本の調整幅を無理なくカバーできるサイズ展開になっています。グリップ部分は汗をかいてもすべりにくいロンググリップ仕様で、長時間握り続けても手が疲れにくいのも下山向きのポイントです。初めての1本を選ぶときは、こうした調整のしやすさを基準にすると失敗が少なくなります。
登り方・下り方の早見表
ここまでの内容を、登りと下りで整理しておきます。
| 項目 | 登り | 下り |
|---|---|---|
| 主に必要なもの | 体力・心肺持久力 | 技術・バランス感覚 |
| 歩幅 | 小さく、一定のリズムで | 登りよりさらに小さく |
| 足の運び方 | 足裏全体で確実に踏みしめる | 膝を軽く曲げて衝撃を吸収する |
| ポールの長さ | やや短く | やや長く |
| 起こりやすいトラブル | 息切れ、ペースの乱れ | 膝の痛み、転倒・スリップ |
| 休憩の意識 | こまめに短く | 休みすぎて体を冷やさない |
よくある質問
Q. 登山の歩き方で、初心者が最初に意識することは何ですか?
歩幅を小さくして、一定のリズムで歩くことです。隣の人と会話ができるくらいの速さを目安にすると、序盤で飛ばしすぎず後半までペースを保ちやすくなります。
Q. 「登りは体力、下りは技術」とはどういう意味ですか?
登りは心肺の持久力があれば時間をかけて登り切れますが、下りは着地の受け止め方を知らないと、体力があっても膝を痛めることがあります。その違いを表した言葉です。下りは歩幅を小さくし、膝を曲げて衝撃を吸収する技術が要ります。
Q. 下りで膝が痛くなるのを防ぐにはどうすればいいですか?
歩幅を小さくする、膝を軽く曲げて着地する、トレッキングポールを使う。この3つを組み合わせるのが基本です。サポートタイツや膝サポーターで動きを支える方法もあります。すでに痛みが出ている場合は登山の膝の痛みもあわせてご覧ください。
Q. フラットフッティングとは何ですか?
足裏全体を地面に接地させる歩き方です。かかとやつま先だけで接地すると不整地では滑りやすく、足裏全体を使うことで自然にバランスが取りやすくなります。
Q. 休憩はどのくらいの頻度で取ればいいですか?
目安として、歩き始めて30分ほどで最初の休憩を取り、そのあとは50分から1時間に1回、5〜10分ほどの休憩をはさむとよいとされています。ただし息が上がってきたら、時間を待たずに休憩してかまいません。
Q. トレッキングポールは初心者にも必要ですか?
必須ではありませんが、下りが長いコースでは膝の負担軽減に役立ちます。長さの選び方はトレッキングポールの選び方で詳しく解説しています。
まとめ

登山の歩き方は、特別な運動神経がなくても身につけられる技術です。歩幅を小さく一定のリズムで歩くこと、足裏全体で接地するフラットフッティング、そして「登りは体力、下りは技術」という違いを意識すること。この3つを押さえるだけで、下山後の膝の痛みや疲労の残り方は大きく変わってきます。
休憩と呼吸を味方につけ、必要に応じてトレッキングポールやサポート用品も取り入れながら、無理のないペースで山を歩いてみてください。
出典
- 初心者の山歩き[実践編](農林水産省)(歩幅・ペース・休憩間隔の目安)
- 安全で疲れにくい歩き方|歩行技術を登山ガイドが解説(YAMAP MAGAZINE、執筆:登山ガイド 鷲尾太輔)(歩行ピッチの目安)
- 省エネ歩行で膝が笑わない・痛めない(山と溪谷オンライン、執筆:登山ガイド 野中径隆)(下りの重心移動・関節の使い方)
- フラットフィッティングの理屈(Sherpa、回答:登山ガイド 旭立太)(フラットフッティングの根拠)
- LEKI マカルーライト 1300485 商品ページ(ヒマラヤ公式通販サイト)(トレッキングポールのサイズ・重量)
※数値は2026年8月13日時点で各公式ページに記載の値です。
