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登山の体力づくりについて調べると、「有酸素運動をすればいい」という言葉によく出会います。ただ、具体的に何を、どれくらいの時間、週に何回やればいいのかまで教えてくれる情報は、意外と多くありません。
この記事では、登山に向けた体力づくりに絞り、自宅や近所でできる有酸素運動の一覧、登りと下りで求められる体力の違い、心拍数を使った運動強度の管理方法、そして本番までの週数から逆算した準備の進め方をまとめました。
掲載している数値は、厚生労働省の資料や、登山の運動生理学を専門とする研究者の解説など、確認できた範囲の一次情報にもとづいています。2026年8月14日時点で確認できた内容です。
- 登山の体力づくりは、早歩き・階段昇降・ジョギングなど有酸素運動を中心に、無理のない範囲で継続することが土台になります
- 登りに必要な体力と下りに必要な体力は別モノ。下りは筋肉が伸びながら力を出す「伸張性収縮」が中心になります
- 運動強度の目安には心拍数が使えますが、「220-年齢」はあくまで簡易的な推定式です
- 富士山や北アルプスなど本格的な登山に向けては、数ヶ月単位の準備期間を見込んでおくと直前になって慌てずに済みます
- 持病がある方・体力に不安がある方は、始める前に医師へ相談することをおすすめします
登山になぜ有酸素運動が必要なのか


有酸素運動とは
有酸素運動とは、比較的軽い負荷を長く続けることで、筋肉を動かすエネルギーとして血糖や脂肪が酸素とともに使われる運動のことです。ウォーキングやジョギング、サイクリングなど、リズミカルに長時間続けられる運動が代表例です。
登山も、長く続くペースで歩き続けるという点では有酸素運動の一種です。ただし、平地のウォーキングと違って登り坂や不整地、重い荷物といった条件が加わるため、同じ「有酸素運動」でも運動強度は高くなりやすいという特徴があります。
国の運動基準と、登山に必要な体力のギャップ
厚生労働省の「健康づくりのための身体活動基準2013」では、18〜64歳を対象に、息が弾み汗をかく程度の運動を週4メッツ・時以上行うことを目安として示しています。具体的には、毎週60分程度の運動がこれにあたります。65歳以上では、強度を問わず身体活動を週10メッツ・時以上、毎日40分程度行うことが目安とされています(出典)。
厚生労働省はこの基準にあわせて、「アクティブガイド」という指針も示しています。合言葉は「+10(プラス・テン)」、今より10分多く体を動かそうという、取り組みやすさを重視した指針です。いきなり週4メッツ・時の運動を目指すのではなく、まずは+10分から生活に運動を足していくという考え方は、登山の体力づくりを始める第一歩としても参考になります。なお、身体活動の基準は2024年に「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」として更新されていますが、この記事では数値を明確に確認できた2013年版の基準を中心に紹介しています。
登山、とくに標高差のある本格的なコースは、行動時間が数時間から半日以上に及びます。1回1時間に満たない運動を週に数回行うだけでは、行動時間の長さに体力が追いつかない場面が出てくることがあります。だからこそ、登山を目的とした体力づくりでは、国の基準を土台にしながら、行動時間の長さを意識してトレーニングを積み重ねていくことが大切です。
登山そのものが持つ健康効果については、登山のメリットは驚きの美容・健康効果!日常生活が変わる秘密で詳しく扱っています。この記事では「体力づくりの実践」に絞って解説を進めます。
登山のための有酸素運動 一覧表

登山に向けた有酸素運動は、特別な道具がなくても始められるものがほとんどです。どこでできるか、1回あたりの時間、週の回数の目安を一覧にしました。
| 種目 | どこでできるか | 1回の時間 | 週の回数 | 登山の何に効くか |
|---|---|---|---|---|
| 早歩き | 自宅周辺・通勤経路 | 20〜30分 | 週3〜4回 | 心肺持久力の土台づくり |
| 階段昇降 | 駅・自宅の階段 | 10〜15分 | 週3〜4回 | 登りに近い動きの心肺・脚力づくり |
| 踏み台昇降 | 自宅(踏み台・ステッパー等) | 10〜20分 | 週3〜5回 | 天候に左右されない登り動作の練習 |
| スクワット | 自宅 | 10分程度(10〜15回×2〜3セット) | 週2〜3回 | 登り下りを支える脚の筋力 |
| ジョギング | 公園・河川敷など | 20〜30分 | 週2〜3回 | 心肺持久力と行動時間への耐性 |
| 自転車 | 近所・サイクリングロード | 30〜60分 | 週1〜2回 | 膝への負担が少ない持久力づくり |
※時間・回数はあくまで一般的な目安です。体力や持病の有無によって適切な強度は異なるため、運動を始める前や体調に不安がある場合は医師に相談してください。
表のうち、踏み台昇降は天候を気にせず自宅で取り組める点が特徴です。踏み台の代わりに、昇り降りの動作を繰り返せるステッパーを使う人もいます。
ショップジャパンの「健康ステッパー ナイスデイ」は、足を左右交互に踏み込んで足踏み運動ができる室内用の器具です。設置に必要なスペースはクッション1枚分ほどで、座ったままでも使用できます。公式サイトによると、目安は1日10分(1分間30カウント)で、連続使用は20分まで、対応体重は100kgまでとされています(メーカー公式)。器具を使うこと自体が体力づくりを保証するものではありませんが、踏み台昇降の動作を天候に関係なく自宅で繰り返せる選択肢の一つです。
スクワットの具体的なフォームや、階段を使ったトレーニングの詳しいやり方は初心者でも続けられる!登山のトレーニングは自宅や階段で毎日の習慣ににまとめています。この記事では「どれを・どれくらい」に絞って紹介しました。
「登るための体力」と「下るための体力」は別モノ
登るための体力(短縮性収縮)
坂を登るとき、脚の筋肉は縮みながら力を発揮して体を持ち上げます。この動きは「短縮性収縮」と呼ばれ、前の一覧表にある早歩きや階段昇降、ジョギングといった有酸素運動で鍛えやすい動きです。心肺機能を使って長時間動き続ける持久力も、主にこの「登る」場面で試されます。
下るための体力(伸張性収縮というブレーキ)

一方、坂を下るときは事情が異なります。着地のたびに、脚の筋肉は伸ばされながら体重を支えるブレーキとしての力を発揮します。この動きは「伸張性収縮」と呼ばれ、登りとは逆の使い方です。
伸張性収縮は、同じ筋肉でも短縮性収縮とは負荷のかかり方が異なる動きです。登り中心の有酸素運動だけを積んできた人が、下山で普段と違う疲労感を覚えやすいのは、この「使い方の違い」が一因と考えられます。
どの筋肉がどのように使われているかは登山で使う筋肉を徹底解説!効果的なトレーニング法で登山力アップで、下山後の筋肉痛の予防と回復は登山で筋肉痛にならない人がやっている予防と早期回復する方法で、それぞれ詳しく扱っています。
体力づくりの段階では、登り方向の練習だけでなく、下り坂や階段を「降りる」動作も練習に組み込んでおくと、本番での負担の感じ方が変わってきます。近所に下り坂があれば、上りだけでなく下りも含めて歩いておくとよいでしょう。
登山の体力づくりというと、つい「登れるかどうか」ばかりに意識が向きがちですが、実際には下りのほうが足腰への負担を大きく感じるという声も少なくありません。トレーニングの段階から、登りだけでなく下りの動作にも慣れておくことが、下山時の負担を減らす近道です。トレッキングポールを使うと、着地の負担を腕にも分散でき、脚だけで支える伸張性収縮の負担をやわらげやすくなります。低山での練習のうちから使い方に慣れておくと、本番でもスムーズに扱えます。
心拍で強度を管理する
登山中の運動強度は、坂の傾斜や荷物の重さによって刻一刻と変わります。感覚だけで「ちょうどいいペース」を保つのは意外と難しく、頑張りすぎて後半にバテてしまうのはよくある失敗です。ここでは、心拍数を使って強度を客観的に把握する考え方を紹介します。
最大心拍数の目安(220-年齢)と、その限界
運動強度の目安としてよく使われるのが、年齢から求める最大心拍数の簡易的な推定式です。
最大心拍数の目安 = 220 - 年齢
出典:鹿屋体育大学 山本正嘉教授による解説(登山と心拍数に関する専門家インタビュー)
たとえば40歳なら、220-40=180が最大心拍数の目安になります。登山の運動生理学を研究する鹿屋体育大学の山本正嘉教授は、この目安の75%程度の心拍数を保てば、疲労せずに長く歩き続けやすいと解説しています。40歳の例なら135前後が目安です。
ただし、山本教授自身が指摘するとおり、「220-年齢」はあくまで簡易的な推定式です。実際の最大心拍数には個人差が大きく、同じ年齢でも人によって数値は大きく異なるとされています。この式で出た数字を絶対視せず、「だいたいこのあたり」という目安として使うのが実用的な付き合い方です。
心拍数だけに頼らない方法として、山本教授は「主観的運動強度」(自分がどれくらいきついと感じるか)を組み合わせることも勧めています。「きつさを感じる一歩手前」くらいのペースが、多くの人にとってバテずに歩き続けられる目安になるということです。
行動中に心拍数を確認する方法
日帰りの数時間ならまだしも、行動時間が長くなる登山で、自分の心拍数をそのつど手首で測るのは現実的ではありません。行動中の心拍数を継続的に確認したい場合は、胸に装着するタイプの心拍センサーが選択肢になります。
ガーミンの「HRM 600」は、腕時計型のGPSウォッチとは別に、胸に装着して使う心拍センサーです。手首の光学式センサーより高精度な心拍・HRV(心拍変動)データの取得を目的とした、同社のセンサーの中でも上位に位置づけられるモデルです(メーカー公式資料)。対応するGarmin製ウォッチとBluetoothで接続できるほか、ウォッチを持っていなくても本体だけで心拍数や消費カロリーなどを記録し、あとでスマートフォンのGarmin Connectアプリに同期する使い方もできます。充電式バッテリーで約2か月使用でき、5気圧防水のため汗や小雨の中でも扱えます(メーカー公式資料)。
心拍センサーを装着したからといって体力が自動的につくわけではありません。ただ、「今の強度が高すぎないか」を数字で確認しながら歩けるようになる点は、体力づくりの初期段階で自分のペース感覚をつかむ助けになります。
行動中に心拍数が目安より大きく上振れしていると感じたら、無理に維持しようとせず、ペースを落とす、立ち止まって呼吸を整える、水分を摂るといった対応を優先してください。心拍数は「上げるための数字」ではなく、「上げすぎに気づくための数字」として使うのが安全な使い方です。睡眠不足や体調、気温によっても心拍数は普段より高くなることがあります。同じペースでもいつもより数値が高い日は、無理をせず強度を落とす判断材料にしてください。
心拍数を目安にした運動は、心臓や血圧に持病がある方、高齢の方にとってはとくに注意が必要です。持病をお持ちの方や、しばらく運動習慣がなかった方は、自己判断でトレーニング強度を上げず、事前にかかりつけの医師に相談したうえで進めてください。
何週間前から始めるか―富士山・北アルプスからの逆算

「いつから体力づくりを始めればいいか」は、目指す山によって変わります。日帰りの低山と、富士山や北アルプスのような標高差の大きい山とでは、必要な準備期間が異なります。
富士山や北アルプスに向けた目安
富士登山オフィシャルサイト(環境省富士箱根伊豆国立公園管理事務所・山梨県・静岡県による運営)では、体力づくりは富士登山をすると決めたその日から始めることを勧めています。ウォーキングは特別な準備がいらない有酸素運動として紹介されており、通勤時にひと駅手前で降りて歩く、休日に近所の坂道を歩くといった、日常生活に組み込む工夫が案内されています(出典)。
登山の準備を扱う専門メディアの中には、標高差の大きい山に向けて本番の3か月前から準備を始めるスケジュールを紹介しているところもあります。50代を主な対象にした一例ですが、進め方の考え方は次のとおりです。
- 3か月前:週5日程度のウォーキング(1時間以上)を目標に、階段利用やひと駅歩きから開始。スロースクワットも週3〜4回組み込む
- 2か月前:低山ハイキングを開始。標高差300m前後のコースを2回ほど歩き、行動時間への慣れを確認する
- 1か月前:標高差600m以上のコースを1〜2回。本番と同じ装備で歩き、靴ずれやペース配分を確認する
- 2週間前以降:運動の強度を落として疲労を抜き、睡眠と食事を整えることを優先する
富士山と北アルプスでは、求められる体力の性質も少し異なります。富士山は日帰りまたは1泊の行程で、整備された登山道を長時間歩き続ける持久力が中心です。一方、北アルプスの縦走は山小屋を泊まり歩きながら、標高差のある区間を複数日にわたって歩き続けるため、1日ごとの疲労を翌日に持ち越さない回復力も必要になります。行程が長くなるほど、準備期間にも余裕を持たせておくと安心です。
これは登山専門メディアで紹介されているスケジュールの一例であり、厚生労働省などの公的機関が示した数値ではありません。持病がある方や体力に不安がある方は、この期間を目安にしつつ、早めに医師や専門家に相談しながら計画を立てることをおすすめします。
低山での練習登山を、行動食の練習にも
1〜2か月前の低山練習は、体力の確認だけでなく、行動中に何をどれくらい食べるかを試す機会にもなります。行動時間が2〜3時間を超えるようなら、小さな行動食を1つ持っていくと、後半のペースダウンを防ぎやすくなります。
江崎グリコの「バランスオンminiケーキ」は、1個(標準23g)あたり98kcalの小さな焼き菓子です。ビタミンやカルシウム、マグネシウム、鉄など、日頃の食生活で不足しがちな栄養素をあわせて摂れるように作られています(メーカー公式)。個包装でかさばらないため、練習登山のザックに1〜2個入れておくお菓子の候補になります。
行動食の選び方や、消費カロリーとのバランスについては登山の消費カロリーはやばいのか|計算式と標高差別の目安表で詳しく解説しています。
よくある質問
Q. 有酸素運動と筋トレ、どちらを優先すべきですか?
どちらか一方ではなく、両方を組み合わせることが登山の体力づくりでは大切です。有酸素運動は行動時間の長さに耐える持久力の土台になり、筋力トレーニングは登り下りで実際に体を支える力になります。この記事の一覧表は持久力づくりを中心にまとめたもので、筋力トレーニングの具体的な種目は登山のトレーニングの記事にまとめています。
Q. 運動不足の状態から、いきなり登山の体力づくりを始めても大丈夫ですか?
急に強度の高い運動から始めると、体への負担が大きくなります。一覧表にある早歩きや階段昇降など、強度の低い運動から少しずつ始めることをおすすめします。持病がある方、しばらく運動をしていなかった方、高齢の方は、始める前に医師に相談してください。
Q. 「220-年齢」の計算式は、誰にでも当てはまりますか?
当てはまりません。記事内で紹介した専門家の解説にもあるとおり、実際の最大心拍数には個人差が大きく、この式はあくまで簡易的な目安です。数値だけに頼らず、自分の体感(きつさ)とあわせて確認することが実用的です。
Q. 下山中に脚が笑うのはなぜですか?
下りでは、脚の筋肉が伸びながら体重を支える「伸張性収縮」という使い方をするためです。登りの有酸素運動だけでは鍛えにくい動きのため、下り坂や階段を降りる練習も体力づくりに組み込んでおくと、本番での負担の感じ方が変わってきます。筋肉の働きの詳細は登山で使う筋肉の記事を参考にしてください。
Q. 何もトレーニングをしないまま富士山に登っても大丈夫ですか?
登れないわけではありませんが、行動時間が長く標高差も大きいため、体力づくりをしてから臨んだほうが行動中の負担は小さくなります。富士登山オフィシャルサイトも、体力づくりは決めたその日から始めることを勧めています。少なくとも数週間、できれば数か月前から、この記事の一覧表にある運動を生活に取り入れることをおすすめします。
Q. ステッパーを使えば、登山の体力は必ずつきますか?
ステッパーの使用そのものが体力づくりを保証するものではありません。踏み台昇降の動作を天候に関係なく室内で繰り返せる、という位置づけの道具です。継続的な運動習慣の一つとして、他の有酸素運動と組み合わせて取り入れることをおすすめします。
Q. 心拍計は必ず使わないといけませんか?
必須ではありません。主観的な「きつさ」の感覚だけでも強度の目安にはなります。ただし、行動時間の長い登山では感覚だけだと頑張りすぎてしまうこともあるため、数字で確認できる心拍センサーがあるとペース配分の判断材料が増えます。
Q. 雨が続いて外で運動できないときはどうすればいいですか?
階段昇降や踏み台昇降、スクワットなど、屋内でできる種目に振り替えるとよいでしょう。一覧表の中では踏み台昇降とスクワットが、天候に左右されにくい種目です。数日程度であれば、無理に外に出るよりも屋内の種目で継続することを優先してください。
まとめ
登山のための体力づくりは、早歩きや階段昇降といった有酸素運動を土台にしながら、登りと下りで違う体力を意識し、心拍数などの客観的な指標でペースを管理していくことがポイントです。
「220-年齢」のような計算式は便利な目安ですが、あくまで簡易式であることを踏まえたうえで、自分の体感とあわせて使ってください。富士山や北アルプスなど本格的な登山を予定している場合は、数週間ではなく数か月単位で準備期間を見込んでおくと、直前になって慌てずに済みます。
運動を始める前、とくに持病がある方や体力に不安がある方、しばらく運動から離れていた方は、自己判断で強度を上げず、医師に相談したうえで無理のない範囲から取り組んでください。
出典
- 厚生労働省「健康づくりのための身体活動基準2013」(週あたりの運動量の目安・年代別の基準)
- YAMAP×CASIO 鹿屋体育大学 山本正嘉教授インタビュー(最大心拍数の目安・主観的運動強度についての解説)
- 富士登山オフィシャルサイト(環境省富士箱根伊豆国立公園管理事務所・山梨県・静岡県)(事前の体力づくりに関する案内)
- OUTDOOR 50 LIFE「富士山の体力作りはいつから?50代の3ヶ月トレーニング」(準備スケジュールの一例)
- ショップジャパン公式サイト「健康ステッパー ナイスデイ」商品ページ(サイズ・対応体重・使用時間の目安)
- 江崎グリコ公式サイト「バランスオンminiケーキ チーズケーキ」商品ページ(カロリー・栄養成分)
- Garmin公式サイト「HRM 600」製品ページ(製品仕様)
※数値は2026年8月14日時点で各公式ページ・取材記事に記載の値です。






