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週末の山を決めるとき、多くの人が最後に開くのが「てんくら」の登山指数です。A・B・Cの3段階だけで、行くか見送るかの判断がつくように見えます。ところが山を歩く人のあいだでは、この指数について「当たらない」という声が絶えません。Aだったのに稜線で風にあおられた、Cだったのに山麓は穏やかだった。そういう食い違いの話が、毎シーズン繰り返されます。
この記事は、その食い違いがどこから生まれるのかを、てんくらという1つの道具の構造から説明します。結論を先に言えば、指数が外れているというより、指数が答えている質問と、登山者が知りたい質問がずれていることのほうが多いのです。そしてもう一つ、判定の内側にある数値基準は公開されていません。だから「A・B・Cが何m/sで切り替わるのか」を知ることはできず、代わりに自分の物差しを持つ必要があります。
ここでは、てんくらの公式説明で確認できる事実だけを土台にします(2026年8月26日確認)。そのうえで、公開されていない部分を、気象庁が誰にでも公開している「風の強さと吹き方」の基準で補う方法を組み立てます。天気予報アプリやサイトを横並びで比べる話はしません。それは山の天気予報をどこで見るか(アプリ・サイトの比較)で扱っています。この記事は、てんくらだけを深く掘ります。
- てんくら(正式名称「てんきとくらす」、運営は日本気象株式会社)の登山指数A・B・Cの公式な定義文と、判定に使われる気象要素
- 風速・降水量の数値基準が公開されていないという事実と、それが読み方に与える影響
- 「当たらない」と感じる4つの構造的な理由(判定地点/評価の性質/更新と精度/季節と標高)
- 気象庁「風の強さと吹き方」の10・15・20m/sの公式文言を、自分の物差しとして使う手順
- B判定・C判定が出たとき、主因が降水か風かで装備の考え方がどう変わるか
- てんくらを見るタイミングと、他の情報と組み合わせる順番
先に、言葉の意味だけ:登山指数とは、天気サイト「てんきとくらす」(通称てんくら)が山ごとに出している、その日の気象条件で登山がどれくらい快適かをA・B・Cの3段階で表した指標です。公式の説明は「登山をするための快適さを、山頂や山麓の気象条件から、気象学的知見を用いてレベル値で表現をしています」というもので、降水量・風速・雲量などを総合的に考慮した独自計算だとされています(てんきとくらす、2026年9月8日確認)。運営は日本気象株式会社。山のページは会員登録なしで見られ、指数は「登山指数と上空の気温・風」という表に3時間ごとに並びます。
結論:登山指数A・B・Cは「登山に適しているか」の総合判定で、数値基準は非公開
先に、この記事全体の骨格を置きます。てんくらの登山指数は、山頂と山麓の気象条件をもとに「登山に適しているかどうか」を総合的に判定した指標です。降水量・風速・雲量などを独自の計算で組み合わせて、A・B・Cの3段階に落とし込んでいると公式に説明されています(てんきとくらす、2026年8月26日確認)。
ここで重要なのは、その「独自の計算」の中身、つまりどの数値を超えるとBになり、どこからCになるのかが公開されていないことです。2026年8月26日時点で、てんくらのページ内に風速や降水量の閾値は記載されていません。運営元の日本気象株式会社からも判定式は公表されていません。ネット上には「風速◯m/s以上でC」という説明が流通していますが、それらは一次情報にたどりつけない推測です。
この記事の立て方:①てんくらの公式説明で確認できることだけを土台にする、②公開されていない閾値は推測しない、③そのぶんを気象庁の公開基準(風の強さと吹き方)で補い、指数が示す状況を自分で翻訳できるようにする。閾値を当てにいくのではなく、閾値を知らなくても判断できる状態をつくります。
編集部の見立て:閾値が非公開であることは、この指標の欠点ではなく仕様です。気象条件は風だけでも降水だけでもなく組み合わせで効くので、単純な数値の線引きにしてしまうと、かえって実態から離れます。ただし使う側から見ると「なぜこの判定なのか」が見えないという不便が残ります。その不便を埋めるのが、この記事の役割です。
もう一つの骨格が、「当たらない」と感じる理由の分解です。この記事では4つに分けます。判定の対象が山頂という1地点であること。指数は行動の可否ではなく気象条件の総合評価であること。更新のタイミングと予報そのものの精度に限界があること。そして季節と標高によって、同じ判定でも意味が変わること。この4つを押さえると、多くの食い違いは「外れた」ではなく「読み違えた」に分類し直せます。
そして最後に、判定が出たあとの実務です。B判定・C判定は、それだけでは何を持つべきかを教えてくれません。主因が降水なのか風なのかで、必要な備えはまったく違う方向を向きます。てんくらの画面は風速と降水量の予測値を数値で並べているので、指数の色だけでなく、その内訳を見れば主因は推定できます。
この記事で扱う範囲もはっきりさせておきます。ここではてんくらという1つの道具の内側だけを見ます。ほかの天気予報アプリやサイトと機能を並べて比べる作業はしません。比較には比較の作法があり、それをここに混ぜると、どちらの話も浅くなるからです。てんくらの読み方を先に固めてから、必要に応じて別の情報源を足す、という順番をおすすめします。
編集部の見立て:道具を増やすより、1つを読み切れるようにするほうが先です。予報サイトを3つ開いて中身が割れたとき、どれを採るかを決める基準は、結局どれか1つを深く理解しているかどうかで決まります。
「てんくら」は通称で、正式名称は「てんきとくらす」です。運営は日本気象株式会社で、サイトのフッターにも同社の著作権表記が出ています(2026年9月8日確認)。よく混同されますが、tenki.jpの「登山天気」アプリに入っている「山指数」は、日本気象協会と株式会社ALiNKインターネットによる別サービスで、名称も判定の説明も別物です。この記事では、てんくら(tenkura.n-kishou.co.jp)だけを扱います。
てんくらとは何か——運営元と、A・B・Cの公式な意味
てんきとくらす(てんくら)は、日本気象株式会社が運営する気象情報サイトです。山の情報については、全国の山ごとに山頂と山麓の予報を並べ、そこに登山指数を重ねて表示します。登山者にとって特徴的なのは、標高の違う2地点の予報が同じ画面に並ぶことと、その上に3段階の指数が乗ることです。
登山指数の定義文は、公式に次のように示されています(2026年8月26日確認)。この3行は、この記事でいちばん大事な引用です。
| 指数 | 公式の定義文 | 読み取れること |
|---|---|---|
| A | 登山に適しています | 風・雨が判定の妨げにならない水準にあると評価されている |
| B | 風または雨が強く、やや登山に適していません | 主因が「風」または「雨」であることが定義文自体に書かれている |
| C | 風または雨が強く、登山に適していません | Bと主因は同じで、程度が上がった段階という構造 |
定義文を並べると、設計思想が見えてきます。BとCの説明文は、主因の書き方がまったく同じです。違うのは「やや適していません」と「適していません」という程度の表現だけ。つまりA・B・Cは別々の現象を指しているのではなく、同じ軸の上の3つの目盛りとして作られています。
編集部の見立て:ここを見落とすと「BとCは別の話」と誤解します。実際には同じ物差しの強弱です。だからBが出たときにすべきことは「Cではないから行く」ではなく、「何が強いのか(風か雨か)を確かめて、それが自分の行程のどこに効くかを考える」ことになります。
判定に使われる気象要素についても、公式説明があります。降水量・風速・雲量などを総合的に独自計算している、というのが運営元の説明です。ここで注意したいのが、解説サイトのなかには「気温も判定要素に含まれる」と書いているものがあることです。運営元の公式説明に気温は挙がっていません(2026年8月26日確認)。この記事では、公式に書かれている降水量・風速・雲量の3つを判定要素として扱い、気温を含むという説明は二次情報として区別します。
「気温が判定に入っている」という前提で読むと、冬の低温や夏の高温がAで出たときに「おかしい」と感じることになります。しかし公式説明に気温がない以上、それは指数の想定外の使い方です。低体温症や熱中症のリスクは、指数ではなく山頂・山麓の気温と風速の予測値そのものを見て、自分で評価する必要があります。
編集部の見立て:判定要素に何が入っているかより、何が入っていないかのほうが実務では効きます。気温が入っていないと分かっていれば、冬にAが出ても「寒さは自分で見る」と切り替えられます。指数の守備範囲を先に線引きしておくと、余計な期待をしなくて済みます。
もう一つ、公式表示から確認できるのが更新のタイミングです。登山指数は1時・4時・7時・13時・19時ごろに更新される、と示されています(2026年8月26日確認)。当日については9時の予想が表示される形になっています。この更新間隔は、あとで扱う「なぜ当たらないと感じるのか」の3つ目の理由に直結します。
更新時刻の数字は、サービスごとに違います。ネット上には「登山指数は毎時24回更新される」という説明もありますが、それはtenki.jp「登山天気」の山指数についての記述で、てんくら自身の表示とは別です。てんくらを使うときは、てんくらが表示している1・4・7・13・19時ごろという間隔で考えてください。
ここまでが、公式に確認できる範囲のすべてです。A・B・Cの意味、判定要素、更新のタイミング。逆に言えば、これ以上のこと——たとえば風速何m/sでBになるのか、降水量が何mm/hからCになるのか、風と雨のどちらが優先されるのか——は、公開されていません。次の章から、その空白がどんな読み違いを生むのかを1つずつ見ていきます。
てんくらはどこで何を見るのか——画面の中身と、山の探し方
入口はこうです。トップページから「行楽地の天気」→「高原・山」と進み、地方(北海道/東北/関東・甲信/北陸/東海/近畿/中国/四国/九州・沖縄の9つ)を選び、山の名前を選びます。山名が分かっているなら、山名と「てんくら」で検索して直接開くほうが早いことが多いです。表示に会員登録やログインは要りません(2026年9月8日確認)。
掲載されている山が何か所あるかは、公式には示されていません(2026年9月8日確認)。地方別の一覧を開くと、有名な山だけでなく地元の低山まで並んでいるので、行き先が載っているかどうかは、地方の一覧(てんきとくらす「高原・山」一覧)を開くか、山名と「てんくら」で検索して確かめるのが確実です。
標高についての注記も2つ出ています。「1000m以上の地点は、気象業務法により表示内容が異なります」と、「試験的に500m以上1000m以下の地点でも登山指数の掲載を開始しています。(2026.04.30)」です(2026年9月8日確認)。低い山で指数が出ていない、表示の中身が違う、と感じたときの理由になります。
山のページに何が並んでいるかは、乗鞍岳(3026m付近)のページを例に上から順に見るとこうなります。
| 画面の場所 | 出ている値 | 読むときの注意 |
|---|---|---|
| 周辺の現在のようす | 気温・降水量(1時間以内)・風速・日照時間 | 予報ではなく実況。気象庁アメダス地点のデータで、「ポイントから◯km地点」と距離が書いてある |
| 登山指数と上空の気温・風 | 3時間ごとの登山指数と、「高度3100m付近(700hPa)」「高度2000m付近(800hPa)」の気温・風(m/s) | いちばん見てほしい表。風速はここにある。ただし降水量はこの表には出ない |
| 今日・明日の天気 | 3時間ごとの天気・気温(℃)・降水量(mm) | 降水量はここ。ただし上の表とは別の系列で、麓側の気温が並ぶ |
| 週間予報 | 登山指数と上空の気温・風/天気・気温・降水確率(%) | 週間の指数と上空の値は「当日9時の予想」。日単位の代表値なので時刻の細かさはない |
大事なのが2段目です。風速の予測値は「山頂」という名前では出ておらず、気圧面ごとの高度(700hPa・800hPaなど)として出ています。乗鞍岳なら3100m付近と2000m付近の2段で、山頂の標高に近いほうが稜線の目安になります。降水量はこの表ではなく下の「今日・明日の天気」に並ぶので、主因を風か雨かに切り分けるときは2つの表を行き来します。
この上空の値には公式の但し書きが付いています。「高度別の値は気象庁が作成した天気予報の基となる数値計算結果です」「天気予報ではありませんので、地形や日射などの影響により山岳では値が大きく異なる場合がありますので十分ご注意ください」(2026年9月8日確認)。表示されている風速は、その山の山頂を狙って作られた予報値ではなく、緯度・経度で切り出した計算結果です。
更新のタイミングも、同じページの中で揃っていません。登山指数は1・4・7・13・19時ごろ、今日・明日の天気は1日4回(1・7・13・19時ごろ)、週間天気の後半部分は1日1回(4時ごろ)と書かれています(2026年9月8日確認)。
公式にはっきり書かれている除外もあります。「登山指数には火山の噴火に関する情報は含まれておりません」という一文です(2026年9月8日確認)。噴火警戒レベルや入山規制は指数の外側なので、火山の山へ行く日は火山情報のページを別に開くことになります。
- 行き先の山のページを開く(山名と「てんくら」で検索するか、「行楽地の天気」→「高原・山」→地方→山名)
- 「登山指数と上空の気温・風」の表で、自分が稜線にいる時間帯の欄を縦に読む。指数と、山頂に近い高度の風(m/s)を控える
- その風速を、気象庁「風の強さと吹き方」の文言(この記事の後半の表)に置き換えて、現象の言葉にする
- 下の「今日・明日の天気」で同じ時間帯の降水量を見る。ここで主因が風か雨かが決まる
- 火山の山なら火山情報を、登山道の状態は自治体・山小屋・管理団体の告知を、別に開く
- これを前夜19時以降と、当日朝7時以降の2回やる
A判定の読み方——「登山に適しています」は、安全の保証ではありません
A判定について公式に書かれているのは「登山に適しています」の一文だけで、この短さが誤解のもとになります。
手がかりは、指数そのものの説明文にあります。公式の説明は「登山をするための快適さを、山頂や山麓の気象条件から、気象学的知見を用いてレベル値で表現をしています」というものです(2026年9月8日確認)。主語は「快適さ」であって、安全度でも危険度でもありません。Aは「気象条件の面では快適に登れる側に入っている」という意味であり、「この山に、この装備とこの体力で登り切れる」という意味ではありません。
| 区分 | 中身 | 根拠 |
|---|---|---|
| A判定が見ているもの | 降水量・風速・雲量などを総合した気象条件 | 公式の説明文に挙がっている |
| はっきり除外されているもの | 火山の噴火に関する情報 | 「登山指数には火山の噴火に関する情報は含まれておりません」と明記 |
| 説明文に挙がっていないもの | 気温、雷、視界、積雪や凍結、登山道の状態、日没時刻 | 公式の説明文に記載がなく、含まれる根拠を確認できていない |
| そもそも指数の外 | 行程の長さ、体力と経験、装備、退路の有無 | 気象条件の指標で、人と計画の情報を持たない |
この表の3段目は「入っていない」と公式が言っているのではなく、「入っているとは書かれていない」という状態です。断定はできませんが、判断の材料としては同じ扱いにするほうが安全側に働きます。
A判定でも中止や撤退を考える場面は、どれも指数が見ていない領域から来ます。
- 雷:夏の午後は積乱雲が急に育ちます。指数は雷の可能性を単独で示す作りにはなっていません
- 視界:ガスに巻かれると、風も雨も弱いまま道が分からなくなります。雲量は判定に入っていますが、現地の視界そのものを示す値ではありません
- 道の状態:前日までの雨による増水、倒木、崩落、林道のゲート。気象の画面には出てきません
- 季節の条件:残雪、凍結、積雪。気温が説明文に挙がっていない以上、指数からは読み取れません
- 日没:Aで出発しても、行程が長ければ暗くなります。指数は日没との関係までは示しません
- 体調とパーティ:寝不足、当日の不調、経験差。ここは指数の完全な外側です
- 火山:噴火警戒レベルと入山規制は、公式に指数の対象外だと書かれています
編集部の見立て:Aが担保しているのは「風と雨が強くない見込み」までで、風と雨以外で荒れる日はAのまま荒れます。Aが出た日にやるのは、気を抜くことではなく、指数が見ていない項目に目を移すことです。
「A判定だったのに稜線が荒れていた」「C判定だったのに山麓は穏やかだった」が起きる理由は、おおまかに4つ——判定が山頂という1地点の話であること、気象条件の総合評価であって行動の可否ではないこと、更新間隔と予報精度に限界があること、季節と標高で同じ判定の意味が変わること——です。中身はこの記事の後半で扱います。
もうひとつ、よく聞かれるのが「Aの山を探して予定を組んでよいか」という使い方です。トップページには「登山指数がAの人気の山」という一覧があり、5日先まで日付を切り替えて、Aの山を都道府県つきで並べて見られます。候補を出す道具としては便利です。
ただし、この一覧には公式の注記が2つ付いています。「当日9時の予想になります」と、「登山指数の更新時間(1,4,7,13,19時頃)付近では、システムの都合上、最新の情報が反映されていない場合があるため、各山詳細ページの登山指数も合わせてご確認ください」です(2026年9月8日確認)。一覧のAはその日の9時という1点の予想で、更新の前後では古い値のことがあります。候補を絞ったらその山のページを開き、歩く時間帯の欄を見直してください。
3日以上先のAは候補を絞る材料までにとどめ、行くか見送るかの決定は前夜と当日朝まで持ち越す。一覧は候補出し、詳細ページは判断、行程表は決定、と3段に分けておくと、Aという文字に引きずられにくくなります。風速をどこで線引きするかを自分たちで決める話は、登山を中止する風速の基準をどう決めるかにまとめてあります。
「当たらない」と言われる理由(1)——判定は山頂という1地点の話
最初の理由が、いちばん多くの食い違いを生みます。登山指数は、その山の山頂を代表点として計算された判定です。あなたが実際に歩くのは、登山口から山頂までの行程全体であり、その大半は山頂ではありません。
この差は、地形が複雑な山ほど大きくなります。同じ山でも、樹林帯の中の登山道、風の通り道になっている鞍部、南面の急斜面、北面のトラバース、そして吹きさらしの稜線では、風の当たり方がまったく違います。山頂がC相当の風でも、樹林帯を歩いているあいだは体感でほとんど分からない、ということが普通に起こります。
編集部の見立て:「Cだったのに全然平気だった」という感想の多くは、この構造で説明がつきます。山頂まで行かずに引き返した、あるいは行程の大部分が樹林帯だった。判定が外れたのではなく、判定の対象地点を歩いていなかっただけ、という場合が相当あります。
逆のパターンもあります。山頂はA相当でも、そこへ至る途中の稜線が風の収束する地形になっていて、そこだけ強く吹くことがあります。風は地形で加速します。谷が狭まる場所、鞍部、尾根が細くなる区間では、周囲より風速が上がりやすくなります。1地点の判定は、こうした行程内の局所的な強風を表現できません。
高度による違いも同じ問題です。気象庁の観測ガイドブックは、風が上空では強く、地表に近づくにつれて弱くなることを説明しています。地表付近では摩擦の影響を受けるためです。東北大学の気象学教材では、自由大気の風速が20m/sのとき、平坦地の地上風速は目安として約10m/s程度になるという関係が示されています(2026年8月26日確認)。ただしこれは平坦地の話で、山頂や尾根はそれより強まりやすく、山かげや窪地では弱まります。
1地点判定の限界を埋める考え方:登山指数は「山頂という1点の、ある時刻の気象条件」を1文字に圧縮したものです。使う側は、その1文字を①自分の行程のどこに当てはまるか(稜線に出る区間はどこか)、②何時ごろその区間にいるか、という2つの軸で展開し直す必要があります。行程表と判定を重ねて初めて、自分にとっての意味が出ます。
ここで役に立つのが、自分が今どの高さにいるかを把握する習慣です。山頂の予報が自分に効き始めるのは、樹林帯を抜けて風の当たる高さに上がってからです。地図とコースタイムだけでなく、高度を目安に「あと何百メートル上がると稜線」と考えられると、判定の当てはめ方が具体的になります。高度と気圧を自分で測る道具の考え方は登山用高度計の使い方と気圧の読み方にまとめています。
山麓の予報が同時に表示されることも、読み違えの元になります。山麓は登山口付近の条件を示すもので、そこが穏やかであることは、稜線が穏やかであることを意味しません。とくに冬型の気圧配置のときは、山麓が晴れていても稜線だけ強い風と雪、という形になりやすくなります。2つの数字が並んでいるときは、自分の行程の大半がどちらに近いかで重みを変えてください。
編集部の見立て:ここで効くのは、行程表に通過時刻を書く習慣です。山頂の風速が15時に強まると出ていても、自分が13時に下山しているなら関係は薄くなります。時刻を持たないまま指数だけを見ると、この当たり前の割り引きができません。
- 行き先の行程のうち、樹林帯を抜けて風が当たる区間はどこからか、地図で確認したか
- その区間を通過する予定時刻を、コースタイムから出しているか
- 上空(山頂に近い高度)の風速と、降水量の予報値を、その時刻の値で見ているか(1日の代表値で見ていないか)
- 鞍部・細尾根・谷の出口など、風が強まりやすい地形が行程に含まれていないか
- 山麓の予報だけを見て「風は弱い」と判断していないか
「山麓がAだから大丈夫」という読み方が、いちばん危ない誤読です。てんくらは山頂と山麓の予報を並べて表示しますが、登山指数の判定は山頂側を基準にしています。山麓の穏やかな数字を見て安心し、稜線でその倍近い風に出会う、という流れは避けたいところです。
「当たらない」と言われる理由(2)——指数は「行動の可否」ではなく気象条件の総合評価
2つ目は、指数が答えている質問そのものの話です。登山指数は「気象条件が登山に適しているか」を評価しています。「あなたがこの山に登れるか」を評価しているわけではありません。この2つは、似ているようで別の質問です。
行動できるかどうかは、気象条件のほかに少なくとも4つの要素で決まります。行程の長さと標高差、パーティの経験と体力、装備、そしてエスケープルートの有無です。同じB判定でも、往復3時間の樹林帯の山と、稜線を5時間歩く縦走では、意味がまったく違います。指数はこの違いを知りません。
編集部の見立て:登山指数を「行ってよいかどうかの答え」として使うと、必ずどこかで裏切られます。指数は材料のひとつであって、判断そのものではありません。判断に必要な残りの材料——行程・体力・装備・退路——は、指数の外側にあります。
もう一つ、総合評価であるがゆえの読みにくさがあります。降水量・風速・雲量を組み合わせて1文字にしているので、同じBでも中身が違うことが起こります。風だけが強いB、雨だけが強いB、両方がそこそこのB。これらは画面上ではすべて同じ「B」です。しかし現地で起きることも、必要な装備も、引き返す判断のタイミングも別物です。
| 同じB判定でも | 現地で効いてくること | 先に決めること | 見るべき予測値 |
|---|---|---|---|
| 主因が風 | 体温を奪われる、バランスを崩す、行動速度が落ちる | 稜線に出る区間を歩くか、巻くか、引き返す地点はどこか | 山頂の風速(時刻別) |
| 主因が雨 | 濡れる、視界が落ちる、岩や木の根が滑る、沢が増水する | 雨具の着るタイミング、沢を渡る計画の可否 | 山頂・山麓の降水量(時刻別) |
| 両方が中程度 | 濡れたうえに風で冷える(体温低下がいちばん早い組み合わせ) | 行程を短くするか、日程をずらすか | 風速と降水量の重なる時間帯 |
編集部の見立て:同じ文字でも中身が違うという性質は、指数の弱点というより圧縮のコストです。3段階に減らしたぶん、情報は必ず落ちます。落ちた情報は、画面の下にある元の数値まで戻れば拾えます。
この表の右端が示すとおり、指数の色を見たあとにやることは決まっています。画面をスクロールして、風速と降水量の時刻別の数値を見ることです。てんくらは指数だけでなく、その根拠になる予測値を同じページに並べています。主因の推定は、その並びから十分にできます。
定義文をもう一度読むと、B・Cとも「風または雨が強く」と書かれています。つまり公式の説明文自体が、主因は風か雨のどちらかだと明示しています。指数を見たら主因を確かめる、という手順は、後付けの工夫ではなく定義文に沿った読み方です。
なお、C判定については、公式の定義は「登山に適していません」の一文だけです。解説サイトのなかには「Cでも登れる場合がある」という趣旨の緩和的な説明もありますが、それは運営元の説明ではありません。この記事では、公式の定義文をそのまま扱います。Cが出ている日は、条件が整うまで待つか、行き先を変えるほうを標準にしてください。
「Cでも樹林帯なら平気」という経験則を持っている人がいます。地形的にはそのとおりの場合もありますが、その判断を成立させるには「稜線に一切出ない」「増水する沢を渡らない」「途中で天候が想定より悪化しても短時間で下山できる」の3つが同時に満たされている必要があります。3つのうち1つでも崩れるなら、Cは見送りの合図として扱うほうが単純です。
「当たらない」と言われる理由(3)——更新のタイミングと、予報そのものの精度
3つ目は、指数の中身ではなく、予報という営みの性質から来る理由です。ここには2つの別々の話が含まれます。更新間隔の話と、予報の的中率の話です。
まず更新間隔です。てんくらの登山指数は、1時・4時・7時・13時・19時ごろに更新されると表示されています(2026年8月26日確認)。裏を返すと、更新と更新のあいだは、最大で6時間ほど前の計算結果を見ていることになります。前日19時に見た判定を、当日の朝そのまま信じて出発すると、7時の更新で変わっている可能性を取りこぼします。
編集部の見立て:ここは道具の欠点というより、使い方でほぼ解消できる部分です。前夜と当日朝の2回見る。それだけで、更新をまたいだ変化を拾えます。手間は1分もかかりません。
次に、予報そのものの精度です。数値予報は、先の日ほど当たりにくくなります。気象庁は週間天気予報について、1週間より先の予報は精度の確保が難しいことを説明したうえで、降水の有無に信頼度A・B・Cを別途付けています(2026年8月26日確認)。この信頼度は3〜7日先を対象にしたもので、Aほど予報が変わりにくいことを意味します。
ここで紛らわしいのが、気象庁の「信頼度A・B・C」と、てんくらの「登山指数A・B・C」がまったくの別物だということです。気象庁のA・B・Cは予報の確からしさを表します。てんくらのA・B・Cは気象条件が登山に適しているかを表します。同じアルファベットですが、指しているものが違います。混同すると「Aなのに変わった」という誤解が生まれます。
具体的な数字も公表されています。気象庁の週間天気予報の精度検証(2026年6月の資料)では、降水の有無について、3〜7日目の平均・全国での適中率が70%と示されています(2026年8月26日確認)。この数字の受け取り方が大事です。70%は決して低くありませんが、10回に3回は違う、ということでもあります。数日先の登山指数を見て予定を固めることは、その振れ幅を引き受けることを意味します。
先の日の判定の扱い方:3日以上先の指数は「傾向を見るためのもの」、前日・当日の指数は「行動を決めるためのもの」と、役割を分けます。先の判定でやるのは、行き先の候補を2つ用意する・装備の準備をどこまでするかを決める、といった準備の調整だけ。行くか見送るかの決定は、前夜と当日朝の判定まで持ち越します。
そしてもう一段、予報の変わり方には理由があります。気圧配置がどう動くかで、山の風と雨は決まります。低気圧が予想より発達する、前線の位置が数十キロずれる、といったことは普通に起こり、そのたびに山頂の風速予測は動きます。指数の数字だけを追うより、その背景にある気圧配置を毎回1分でも見ておくと、「今回の予報は変わりやすい形か、安定した形か」の見当がつきます。天気図の見方は登山者のための天気図の読み方で扱っています。
予報が変わったこと自体を、失敗と受け取る必要はありません。数値予報は新しい観測データを取り込むたびに計算をやり直すので、変わるのは仕組みどおりの動きです。むしろ、直前まで判定が動かない日のほうが、気圧配置が安定している合図になります。判定の値そのものより、判定がどれくらい動いているかを見ると、その週末が読みやすい日かどうかの手がかりになります。
編集部の見立て:前夜と当日朝で判定が入れ替わった日は、その後も動く可能性が高い日です。そういう日は、行程を短いほうへ倒しておくと、現地でどちらに転んでも対応できます。判定の値ではなく、判定の揺れを材料にするという読み方です。
- 計画段階(3日以上前):指数は傾向として見る。行き先の候補を2つ持ち、装備の準備だけ進める
- 前夜(19時の更新後):指数と、上空の風速・降水量の時刻別の値を見る。天気図で気圧配置の形も確認する
- 当日朝(7時の更新後):もう一度指数を見て、前夜から変わっていないかを確かめてから出発する
「前夜と当日朝の2回」を守ると、更新間隔の問題と予報精度の問題の両方に同時に効きます。前夜の確認は装備と行程を決めるため、当日朝の確認は決めたものを撤回できるようにするためです。後者を省く人が多いのですが、判定が変わっていたときに引き返す機会をつくれるのは、この1回だけです。
「当たらない」と言われる理由(4)——季節と標高で、同じ判定の意味が変わる
4つ目は、同じアルファベットが、季節と標高によって別の現実を指すという話です。指数は気象条件の評価なので、その条件が人体に与える影響までは含んでいません。ここが読み手側で補うべき最大の空白です。
いちばん分かりやすいのが、風とその季節差です。仮に山頂の風速が同じ予測値だったとして、8月の1,500mと11月の1,500mでは、体に起きることがまったく違います。気温が違うからです。濡れた状態で風に当たれば、体温は気温以上の速さで奪われます。指数の判定要素に気温は入っていないので、この差は指数の側からは見えません。
編集部の見立て:同じBでも、夏のBは「濡れて不快」で済むことがあり、晩秋のBは「濡れて動けなくなる」に直結します。指数を季節で割り引いて読む、という一手間が必要なのはこのためです。指数は季節を知りませんが、あなたは知っています。
標高でも同じことが起こります。標高が上がるほど気温は下がり、風は強まりやすくなります。1,000m級の低山でAが出ているときと、3,000m級の稜線でAが出ているときでは、その裏側にある絶対的な条件が違います。低山のAと高山のAを同じ感覚で扱うと、高山側で備えが薄くなります。
日照時間の変化も、判定の意味を変える要素です。同じB判定でも、日が長い6月と、16時台には暗くなる12月では、遅れが許される幅が違います。風で行動速度が落ちたとき、夏なら1時間の遅れで済むことが、冬にはヘッドランプでの下山に直結します。指数は時刻の情報を持っていますが、日没との関係までは教えてくれません。
編集部の見立て:季節で読み替えるといっても、難しいことをするわけではありません。「同じBでも、寒い時期のBは1段階重い」「日が短い時期のBは、さらにもう1段階重い」と決めておくだけで足ります。ルールは単純なほうが、当日に守れます。
| 季節 | 判定が動きやすい原因 | 同じB判定でも増える負荷 | 補って見るもの |
|---|---|---|---|
| 夏(7〜8月) | 午後の対流性の雨、雷 | 短時間の強い雨と落雷。行動時間帯の偏りが効く | 時刻別の降水量。午前中に下山できる行程か |
| 秋(9〜10月) | 秋雨前線の停滞、台風の接近 | 長時間の雨と気温低下の同時進行 | 前線の位置と、山頂の気温予測 |
| 晩秋〜初冬(11月〜) | 冬型の気圧配置、季節風 | 風による体温低下。日没が早く時間の余裕が減る | 山頂の気温と風速の組み合わせ、日没時刻 |
| 春(4〜5月) | 低気圧の通過が速い、残雪 | 予報の変化が速い。濡れた雪での冷え | 更新のたびの変化幅、残雪情報 |
秋の判定については、もう一段の注意があります。台風が接近しているとき、そして秋雨前線が停滞しているときは、予報の振れ幅が大きくなります。指数が前日と当日で入れ替わることも珍しくありません。台風接近時の判定の扱い方は秋の台風接近時に登山をどう見送るかに、前線が停滞するときの読み方は秋雨前線が停滞する時期の山の天気にまとめています。
台風が数百キロ離れていても、山では強い風が吹くことがあります。指数が当日Aに戻っても、前日までの雨で登山道が荒れている、沢が増水している、倒木があるといった状態は、気象予報からは分かりません。天候が回復した直後の入山は、気象条件ではなく道の状態のほうが問題になります。
ここまでの4つの理由を並べると、共通する構図が見えます。指数は「気象条件」だけを、「山頂という1点」で、「ある時刻」について、「季節や人体の事情を抜きにして」評価しているということです。この4つのカッコを外して読むのが、使いこなすということの中身です。
- 行き先の標高帯を意識して指数を読んでいるか(低山のAと高山のAを同じ扱いにしていないか)
- 山頂の気温予測を、風速とセットで見ているか
- 季節特有の崩れ方(夏の午後の雷、秋の前線、冬型の季節風)を頭に入れて見ているか
- 日没時刻から逆算して、行程に余裕があるかを確認したか
- 天候回復直後の場合、道の状態についての情報を別に探したか
数値基準が非公開だから、気象庁「風の強さと吹き方」を物差しにする
ここからは、空白を埋める作業に入ります。てんくらの判定基準は非公開ですが、風速そのものについては、気象庁が誰にでも読める形で公式の目安を出しています。「風の強さと吹き方」です。これは風速の階級ごとに、人がどうなるかを言葉で示したものです。
登山に関係の深い3つの階級を、公式の文言のまま並べます(気象庁、2026年8月26日確認)。数字を覚えるより、この文言のほうが現地で役に立ちます。
| 平均風速 | 階級の呼び方 | 人への影響(公式の文言) | 登山での意味 |
|---|---|---|---|
| 10m/s以上15m/s未満 | やや強い風 | 風に向かって歩きにくくなる。傘がさせなくなる。 | 行動速度が落ちる。体感温度が下がり始める |
| 15m/s以上20m/s未満 | 強い風 | 風に向かって歩けない。転倒する人も出る。 | 稜線での歩行が成立しなくなる領域 |
| 20m/s以上 | 非常に強い風 | しっかりと体を確保しないと転倒する。 | 行動そのものを見直す段階 |
この表の左端の数字は、あくまで気象庁の風速階級の区切りです。てんくらのA・B・Cがこの数字で切り替わるという意味ではありません。てんくらの閾値は公開されていないので、両者を対応づけることはできません。ここで使うのは、てんくらの画面に表示されている「山頂の予測風速」という数値のほうです。その数値をこの表に当てて、何が起きるかを言葉に翻訳します。
編集部の見立て:この物差しの良いところは、判断の言葉が具体的になることです。「風速12m/s」では強いのか弱いのか分かりませんが、「風に向かって歩きにくくなる、傘がさせなくなる」なら、それが自分の行程のどこで問題になるか想像がつきます。数字ではなく現象で考える、という切り替えです。
ただし、大事な注釈が2つあります。1つ目は、これが平均風速の話であることです。実際の山では、瞬間的にはこれより強い風が吹きます。平均12m/sの予測が出ているときに、瞬間的にそれを大きく超える風に当たることは普通にあります。2つ目は、地形の効果です。前述のとおり、山頂や尾根では風が強まりやすく、山かげや窪地では弱まります。予測値は、地形ごとの増減までは表現していません。
編集部の見立て:この表は暗記するものではなく、出発前に開くものです。行程表の余白に3行だけ書き写しておくと、現地で予報の数字を思い出したときにすぐ引けます。紙に書いておけば、電波の届かない場所でも使えます。


高度による風速の違いを頭に入れておくと、山麓と山頂の数字の差に納得がいきます。気象庁の観測ガイドブックは、風が上空では強く、地表に近づくにつれて弱くなることを説明しています。東北大学の気象学教材では、自由大気の風速が20m/sのとき、平坦地の地上風速は目安として約10m/s程度になるという関係が示されています(2026年8月26日確認)。ただし「山の風は平地の予報より必ず強い」という一般則ではなく、地形しだいで強くも弱くもなる、というのが正確な理解です。
この物差しを持ったうえで、行動中止の風速をどこに置くかは、パーティごとに事前に決めておくべきことです。当日に現地で決めると、せっかく来たのだからという気持ちが必ず入ります。基準の決め方と運用については登山を中止する風速の基準をどう決めるかで扱っています。
非公開の閾値を待たずに判断する手順:①てんくらの指数を見る、②同じ画面で山頂の予測風速(時刻別)を見る、③その数値を気象庁の「風の強さと吹き方」の文言に翻訳する、④その現象が、自分の行程のどの区間・何時ごろに起きるかを当てはめる。この4手順なら、A・B・Cの内側を知らなくても、自分の言葉で結論を出せます。
予報は予報であって、現地の結果ではありません。実際に山にいるあいだ、気圧が下がり続けているのか、持ち直しているのかは、その場で測らないと分かりません。スント コア レギュラーブラックは、高度計・気圧計・電子コンパスを1本にまとめた腕時計型の計器で、3気圧防水(30m相当)に対応しています。気圧の変化傾向をグラフで追えるので、てんくらで見た予報と現地の実際を突き合わせたい人に向きます。指数を鵜呑みにせず、自分でも観測して答え合わせをしたいという使い方をする道具です。
気圧計つきの時計を持ったからといって、判断が自動化されるわけではありません。読めるのは「気圧が下がっている」という事実だけで、それが何時間後にどう効くかは別の知識が要ります。道具は、予報を疑う材料を1つ増やすだけのものです。判断の中心にあるのは、あくまで行程と退路の設計です。
B判定・C判定が出たときの装備の考え方
指数を読めるようになった次は、読んだ結果をどう装備に反映するかです。ここで効いてくるのが、前の章で確認した「主因は風か雨か」という切り分けです。同じB判定でも、この2つで必要なものは違う方向を向きます。
編集部の見立て:装備の話をする前に一度言っておきたいのは、これは道具で解決する問題ではないということです。B判定の日に必要なのは、まず行程を短くする・時間を早めるといった計画の調整です。装備は、その調整をしたうえで残るリスクを下げるためのものです。順番が逆になると、装備が「行ける理由」にすり替わります。
主因が降水のとき
降水が主因のB判定では、濡れることが確定していると考えて組みます。ポイントは3つです。行動中に着たままでも蒸れにくいこと、着るタイミングを逃さないこと、そして濡れた場合に着替えられる乾いた層を必ず別に持つことです。
雨具を着るタイミングは、降り始めてからでは遅くなりがちです。樹林帯の中は雨に気づきにくく、稜線に出た瞬間に本降りだった、という順番になります。指数の内訳で降水量の時刻を見ておき、その30分前には着る、と決めておくほうが確実です。
山では、雨具は「雨のときに着るもの」であると同時に「風を止める層」でもあります。降水が主因のB判定の日に雨具を持つのは当然として、風が主因のB判定の日にも雨具は効きます。1着で2つの役割を持つので、天候が読み切れない日ほど優先度が上がります。
雨具については、まず防水透湿素材のレインジャケットが前提になります。モンベルのサンダーパス ジャケットは、同社の防水透湿素材ドライテックを使った2レイヤー構造のレインジャケットです。フルジップの前開きで、行動中の着脱がしやすい作りになっています。降水が主因のB判定が出た日に、まず1着として持つ雨具を探している人に向く製品です。透湿性のある防水素材なので、着たまま歩き続ける前提の使い方ができます。
もう一つ、降水が主因のときに見落とされやすいのが、雨が止んだあとの時間です。雨具を脱いだ直後は、体も衣類も湿っています。そこに風が当たると、降っているあいだより急に冷えることがあります。降水量の予測が0に戻る時刻を確認したら、その前後で風速がどうなっているかもあわせて見てください。
雨の日の行動そのものについては、装備より判断のほうが効きます。濡れた岩と木の根、増水した沢、視界の低下。このあたりの実務は雨の日の登山で気をつけることにまとめています。
- 雨具の上下と、着替え用の乾いた行動着を分けて持ったか
- 雨具を着るタイミングを、降水量の予測時刻から逆算して決めたか
- ザックの中身を防水(ザックカバーだけでなく内側の袋も)しているか
- 行程に渡渉が含まれる場合、増水したときの代替ルートを決めたか
- 視界が落ちたときに現在地を確認する手段(地図・GPS)を用意しているか
主因が風のとき
風が主因のB判定・C判定は、降水が主因のときより判断が難しくなります。雨は降っているかどうかが目で分かりますが、風は稜線に出るまで分からないからです。そして公式の定義文からも読み取れるとおり、C判定の主因は風であることが少なくありません。
風に対する備えの本質は、体温を守ることと、バランスを崩さないことの2つです。前者は着るもので対処できますが、後者は装備では解決しません。風に押されて足元が乱れる状況は、着るものを増やしても変わりません。だから風が主因のときは、装備の話の前に「その区間を歩くかどうか」を決めることになります。
編集部の見立て:風の日に本当に効くのは、稜線に出る前に引き返す地点をあらかじめ決めておくことです。「森林限界の手前まで行って、そこで風を見て決める」と行程表に書いておく。この一行があるかないかで、当日の判断の重さが変わります。
そのうえで、弱い風の段階には行動着が効きます。モンベルのO.D.パーカ(品番1103320)は、綿のような風合いの化繊素材を使ったプルオーバー型の行動着で、風をある程度止めつつ、蒸れをためにくい性質を持っています。ただしこれは防水を目的とした製品ではなく、強風や雨を止める層ではありません。効くのは、風が出はじめた段階で薄手のフリースだけでは冷えるという場面までです。強い風のときは雨具のシェルを重ねる、という前提で位置づけてください。誰に向くかで言えば、樹林帯中心の行程で、肌寒い時期の羽織りものを1枚足したい人です。
行動着を「風対策の装備」として数えてしまうと、必要な防風層を持たずに稜線へ出ることになります。風が主因のB・C判定の日に持つべき層は、防水透湿素材のシェルです。O.D.パーカのような行動着は、その内側に着る中間の層として考えてください。ここを混同すると、いちばん寒い場面でいちばん役に立たない構成になります。
| 主因 | 計画で先に決めること | 装備で備えること | 装備では解決しないこと |
|---|---|---|---|
| 降水 | 雨具を着る時刻、渡渉の可否、下山のタイムリミット | 防水透湿のシェル、乾いた替えの層、ザック内の防水 | 増水、落石、視界不良での道迷い |
| 風 | 稜線に出る前の引き返し地点、通過時刻 | 防風になるシェル、体温を保つ中間層、帽子と手袋 | バランスの崩れ、飛来物、行動速度の低下 |
| 両方 | 行程を短くするか、日を改めるか | 上記の両方(濡れ+風は体温低下が最も速い) | 組み合わさったときの疲労の蓄積 |
てんくらの実践的な使い方——見るタイミングと、他の情報との組み合わせ方
ここまでの内容を、実際の手順に落とします。やることは多くありません。見る回数を決めること、指数の内訳まで見ること、そして指数以外の情報を1つ足すこと。この3つです。
まず回数です。前述のとおり、てんくらの登山指数は1・4・7・13・19時ごろに更新されます。登山者にとって意味のある更新は、前夜の19時と当日朝の7時です。この2回を見れば、更新をまたいだ変化を拾えます。逆に、日中に何度も開いても、更新されていない同じ計算結果を見ているだけです。
編集部の見立て:指数を頻繁に見る人ほど、判定が変わるたびに気持ちが揺れます。更新時刻を知っておくと、見る回数を減らせます。減らしたぶんを、行程表を書き直す時間に回すほうが、結果的に安全側に働きます。
次に内訳です。指数の色を確認したら、必ず同じページの風速と降水量の時刻別の数値まで下ります。ここを見ないと、主因が分からず、装備も行程も決められません。指数はあくまで入口で、判断の材料は下にあります。
- 前夜19時以降:指数を見る→上空の風速と、降水量の時刻別の値を見る→主因を風か雨かに切り分ける→行程と装備を決める
- 当日朝7時以降:指数を見る→前夜から変わっていないかを確認する→変わっていたら行程を短くするか、行き先を変えるかを決める
- 出発直前:登山口の掲示、道路の通行止め、駐車場の状況など、気象以外の情報を確認する
3つ目が、指数以外の情報です。てんくらだけで完結させないことが、いちばん大きな改善になります。最低限、気圧配置がどうなっているかを見ておくと、予報が変わりやすい形かどうかの見当がつきます。加えて、行き先の登山道の状況(倒木、通行止め、残雪、増水)は、気象予報からは絶対に分かりません。これは自治体や山小屋、管理団体の告知で確かめる領域です。
気象情報と道の情報は、更新の担当者も掲載場所も別です。てんくらの画面をいくら見ても、林道のゲートが閉まっているかどうかは出てきません。「気象は気象で見る、道は道で見る」と分けておくと、確認の抜けが減ります。
編集部の見立て:確認先を増やすほど安全になるわけではありません。増やすべきは種類であって、数ではないと考えています。気象が1つ、道と交通が1つ、そして自分の行程が1つ。この3種類がそろっていれば、同じ種類のサイトをいくつ開いても得られるものは増えません。
てんくらの位置づけ:てんくらの登山指数は、山頂の気象条件を1文字に圧縮した「入口の指標」です。行くか見送るかは、①指数の内訳(風速・降水量の時刻別)、②自分の行程と通過時刻、③道と交通の状況、の3つを合わせて決めます。指数が単独で結論を出す設計にはなっていません。
行程と装備、下山時刻、エスケープルートを含めた計画をどう組み立てるかは、指数の読み方より上位の話です。計画づくりの実務は登山計画の立て方と提出のしかたにまとめてあります。指数はそこに差し込む部品のひとつだと考えてください。
- 前夜と当日朝の2回だけ見る、と決めているか
- 指数の色だけでなく、上空の風速と、降水量の時刻別の値まで見ているか
- 主因が風か雨かを言葉にできているか
- 気圧配置を1分でも確認したか
- 登山道・林道・駐車場の状況を、気象とは別に確認したか
- 引き返す地点と時刻を、出発前に決めているか
よくある質問
Q. 登山指数のA・B・Cは、風速何m/sで切り替わるのですか
2026年8月26日時点で、判定に使われる風速や降水量の具体的な数値基準は公開されていません。てんくら(てんきとくらす)のページ内にも記載がなく、運営元の日本気象株式会社からも判定式の公表は確認できていません。公式に説明されているのは、降水量・風速・雲量などを総合的に独自計算しているという範囲までです。ネット上に流通している「◯m/s以上でC」といった数字は、一次情報にたどりつけません。数値基準を知る代わりに、てんくらの画面に出ている山頂の予測風速を、気象庁の「風の強さと吹き方」の文言に当てて読むほうが実用的です。
Q. 判定に気温は含まれますか
運営元の公式説明に挙げられているのは降水量・風速・雲量などで、気温は含まれていません(2026年8月26日確認)。解説サイトのなかには気温を判定要素として書いているものがありますが、それは運営元の説明とは異なります。したがって、冬の低温や夏の高温そのものは指数に反映されないと考えてください。低体温症や熱中症のリスクは、指数ではなく山頂・山麓の気温の予測値と風速を自分で見て評価する必要があります。
Q. C判定でも、樹林帯だけなら登ってよいですか
公式の定義文は「風または雨が強く、登山に適していません」の一文だけで、条件付きで登ってよいという説明はされていません。この記事では公式定義をそのまま扱い、Cは見送りの合図として位置づけています。地形的に風の影響が小さい行程であっても、C判定の日は雨による増水や視界の低下、天候のさらなる悪化といった別の要素が同時に効きます。行き先を標高の低い山に変える、日程をずらす、といった選択肢を先に検討してください。
Q. てんくらの登山指数A・B・Cは、気象庁の週間天気予報の「信頼度A・B・C」と同じものですか
別物です。気象庁の信頼度A・B・Cは、週間天気予報のうち降水の有無について予報の確からしさを表すもので、3〜7日先が対象です。Aほど予報が変わりにくいことを意味します。一方てんくらの登山指数A・B・Cは、気象条件が登山に適しているかどうかを表します。同じアルファベットを使っているため混同されやすいのですが、指しているものがまったく違います。
Q. てんくらと、tenki.jpの「山指数」は同じものですか
別のサービスです。てんくら(てんきとくらす)は日本気象株式会社が運営するサイトで、この記事で扱っているのはこちらの登山指数です。tenki.jpの「登山天気」アプリに入っている「山指数」は、日本気象協会と株式会社ALiNKインターネットによる別のサービスで、名称も判定の説明も別に用意されています。更新のタイミングなども異なるため、どちらの数字の話をしているのかを分けて考えてください。複数のサービスを見比べたい場合の考え方は、天気予報アプリ・サイトの比較記事のほうで扱っています。
Q. 数日先の登山指数を見て予定を決めてよいですか
先の日の予報ほど変わりやすい、というのが前提になります。気象庁は1週間より先の予報について精度の確保が難しいと説明しており、2026年6月の精度検証資料では、降水の有無の適中率が3〜7日目の平均・全国で70%と示されています(2026年8月26日確認)。10回に3回は違うという幅を含んだ数字です。3日以上先の指数は行き先の候補を絞る材料として使い、行くか見送るかの決定は前夜と当日朝の判定まで持ち越すことをおすすめします。
まとめ:今日やることは1つ
てんくらの登山指数は、山頂の気象条件を1文字に圧縮した入口の指標です。判定の数値基準は公開されていないので、A・B・Cの内側を知ることはできません。しかし、指数と一緒に表示されている風速と降水量の予測値は誰でも見られますし、その数値が何を意味するかは気象庁の公開基準で翻訳できます。
「当たらない」と感じる場面の多くは、判定の誤りではなく、判定の対象と自分の行程がずれていることから生まれます。山頂という1地点、ある時刻、気象条件だけ、季節と人体の事情は抜き。この4つの限定を意識して読めば、指数は十分に使える道具になります。
編集部の見立て:この指標に不満を持つ人の多くは、実は指標に多くを求めすぎています。行くか見送るかを決めるのは自分であって、アルファベット1文字ではありません。指数を「決定」ではなく「入口」に格下げすると、かえって使いやすくなります。
今日やることは1つです。次に行く山の予報を開いて、指数の色を見たあと、そのまま下にスクロールして山頂の風速の時刻別の数値を見てください。それを気象庁の文言に当てはめて、「風に向かって歩きにくくなる」段階なのか、「風に向かって歩けない」段階なのかを言葉にする。この一手間が、判定を自分の判断に変える最短の道です。
- 行き先の山のページを開き、登山指数と、上空の風速・降水量の時刻別の値を一緒に見る
- 主因を「風」か「雨」かに切り分け、風なら気象庁の風の強さの文言に翻訳して、自分の行程のどの区間・何時ごろに効くかを当てはめる
- その結果を行程表に書き込み、引き返す地点と時刻を決めてから、当日朝7時の更新をもう一度確認する
この記事に書いた更新時刻や定義文は、2026年9月8日時点で確認した内容です。サービスの仕様は予告なく変わることがあります。実際に使う日には、必ず公式ページの表示そのものを見に行ってください。また、登山道の通行止めや規制の情報は気象情報とは別に更新されます。出発前に、自治体・山小屋・管理団体の告知を自分で確認する習慣をあわせて持ってください。
出典
- てんきとくらす(てんくら)登山指数 https://tenkura.n-kishou.co.jp/tk/index.html (2026年8月26日確認、2026年9月8日に再確認)
- てんきとくらす「登山指数がAの人気の山」(登山指数の説明文・更新時刻・注記) https://tenkura.n-kishou.co.jp/tk/ (2026年9月8日確認)
- てんきとくらす 行楽地の天気「高原・山」ジャンル一覧 https://tenkura.n-kishou.co.jp/tk/kanko/ka_type.html?type=15 (2026年9月8日確認)
- てんきとくらす 山の詳細ページの例(乗鞍岳):画面の構成、上空の気温・風、気象情報ご利用上の注意、天気予報の更新時間、火山の除外、標高の注記 https://tenkura.n-kishou.co.jp/tk/kanko/kad.html?code=21150010&type=15&ba=hr (2026年9月8日確認)
- てんきとくらす 火山情報 https://tenkura.n-kishou.co.jp/tk/kazan/kazan.html (2026年9月8日確認)
- 日本気象株式会社(てんきとくらすの運営元) https://www.n-kishou.com/ (2026年9月8日確認)
- 気象庁「天気予報等で用いる用語(風の強さと吹き方)」 https://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/kurashi/yoho.html (2026年8月26日確認)
- 気象庁「よくある質問集(週間天気予報の信頼度)」 https://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/faq/faq4.html (2026年8月26日確認)
- 気象庁「週間天気予報の精度検証結果(2026年6月)」 https://www.data.jma.go.jp/yoho/kensho/HPdata/HPdata2606/kaisetu_s_2606.html (2026年8月26日確認)
- 気象庁「気象観測ガイドブック」 https://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/kansoku_guide/guidebook.pdf (2026年8月26日確認)
- 東北大学 気象学教材(風の高度分布) https://wind.gp.tohoku.ac.jp/personal/rk7j-kndu/kisho/kisho10.html (2026年8月26日確認)
