山で倒れている人に出会ったら|自分の安全を先に確保する順番と、通報で伝えること

※本記事にはプロモーション(広告)が含まれます。

登山道を歩いていて、人が倒れているのを見つけたとする。前を歩く単独の人が座り込んだまま動かない、登山道の脇の斜面に人が横たわっている、山小屋の手前で仲間らしき人が数人に囲まれている——形はいろいろだが、そのときに頭に浮かぶのはたぶん「どうやって助けたらいいのか」という問いだと思う。

この記事は、その問いには答えない。答えられないからだ。目の前の人の症状がどれくらい重いのか、動かしてよいのか、どんな処置が適切なのか。それは医療の判断であり、一般の登山者が現場で下せる判断ではない。ここで扱うのは、その手前にある「順番」だけである。

消防庁が公表している「救急蘇生法の指針2020(市民用)」は、倒れている人を見つけた市民が何を、どの順番でするかを時系列で示している。周囲の安全を確かめ、反応を確かめ、応援を呼び、通報し、呼吸を確かめる。この並びには理由があり、順番を入れ替えると意味が壊れる。登山道という場所には、これに電波・距離・後続の人という制約が乗る。その二つを重ねたものが、この記事の中身になる。

だから読み終わったあとに増えるのは「助ける技術」ではない。増えるのは、自分が二次遭難にならずに、限られたことを正しい順番でやり切るための段取りである。それだけでも、第一発見者としての役割はほぼ果たせる。

  • 発見者が最初にやることは救助ではなく「周囲の安全確認」である理由と、警察庁が二重遭難について書いていること
  • 消防庁「救急蘇生法の指針2020(市民用)」が示す順番(安全確認→反応確認→応援要請→通報→呼吸確認10秒→胸骨圧迫)の中身と、その根拠
  • 救助者が1人のときと2人以上のときで、通報とAED手配の担当がどう変わるか
  • 119番で必ず聞かれる3項目(場所・症状・通報者の氏名と連絡先)と、山の中で「場所」をどう言うか
  • 電波が届かないときの選択肢——後続登山者・山小屋・下山——を、条件で分けて考える型
  • 「動かしてよいか」を公的資料が定めていないこと、だから判断を指令員・救助隊に預けるという書き方になる理由
  • 民法697条・698条・699条・700条が事務管理について定めている文言そのもの
  • 待つ時間を支えるための保温と観察、そして引き継ぎのときに伝えること

発見者にできることは「順番を守ること」だけ

山の中で人が倒れている場面を想像すると、多くの人は「自分に医学の知識がないこと」を最初の壁だと感じる。だが実際に第一発見者に期待されている役割は、診断でも処置でもない。状況を止めないこと専門家につなぐことの二つである。

消防庁の「救急蘇生法の指針2020(市民用)」は、市民が行う一次救命処置の流れを時系列で示している。安全を確認し、反応を確認し、反応がなければ大声で応援を呼び、119番通報とAEDの手配をし、呼吸を確認し、必要なら胸骨圧迫を始める。並べてみれば分かるが、このうち医学的な知識を必要とする工程はほとんどない。必要なのは、順番を飛ばさないことのほうである(消防庁「救急蘇生法の指針2020(市民用)」2026年8月29日時点)。

編集部の見立て:この記事を書くにあたって一番迷ったのは、どこまで「助け方」を書くかでした。結論として、助け方はほとんど書いていません。書けるのは順番だけで、順番だけでも十分に価値があるからです。

順番を守るという言い方は消極的に聞こえるかもしれない。しかし現場で起きる失敗の多くは、技術の不足ではなく順番の飛び越しから生まれる。倒れている人に駆け寄る前に足元を見なかった、通報より先に体を起こそうとした、電話をかけたが自分がどこにいるか説明できなかった。どれも知識の問題ではなく、段取りの問題である。

ここで、記事全体の骨格になる順番を先に置いておく。細かい根拠は後の各節で扱う。

倒れている人を見つけたときの順番。左に順番、右にやること(消防庁の手順)を並べた対応表の図解。1=周囲の安全を確認する。自分が二次遭難しない/2=肩を軽くたたいて大声で呼びかけ、反応を確認する/3=反応がなければ大声で応援を呼ぶ。2人以上なら119番を頼む/4=胸と腹部の動きを見て、呼吸を10秒以内で確認する/5=普段どおりでなければ胸骨圧迫(約5cm・100〜120回/分)。図の下部に「消防庁「救急蘇生法の指針」より(2026年8月29日確認)」と注記。
倒れている人を見つけたときの順番。左に順番、右にやること(消防庁の手順)を並べた対応表の図解。1=周囲の安全を確認する。自分が二次遭難しない/2=肩を軽くたたいて大声で呼びかけ、反応を確認する/3=反応がなければ大声で応援を呼ぶ。2人以上なら119番を頼む/4=胸と腹部の動きを見て、呼吸を10秒以内で確認する/5=普段どおりでなければ胸骨圧迫(約5cm・100〜120回/分)。図の下部に「消防庁「救急蘇生法の指針」より(2026年8月29日確認)」と注記。

発見してからの5段階:①周囲の安全を確かめる(自分が倒れない場所か)→②反応を確かめる(肩を軽くたたきながら大声で呼びかける)→③応援を呼ぶ・119番通報とAEDの手配(1人か2人以上かで担当が変わる)→④呼吸を確かめる(胸と腹部の動きを10秒以内)→⑤呼吸がない・普段どおりでない・迷うなら胸骨圧迫。出典は消防庁「救急蘇生法の指針2020(市民用)」(2026年8月29日確認)。

「限られたことしかできない」を先に受け入れる

山の中では、平地の救急とは前提が違う。救急車は登山道に入ってこられない。AEDが近くにあることは期待できない。医療者が偶然その場に居合わせる確率も低い。そのうえ、通報しても救助隊が到着するまでの時間は、街の平均的な救急車の到着時間とは比べものにならない長さになる。

この条件のもとでは、「自分が何とかしなければ」という気持ちがかえって危険に働くことがある。できないことをやろうとして時間を使い、できることを後回しにするからである。だから最初に受け入れておくべきなのは、できることは限られているという事実のほうだ。

環境省の屋久島世界遺産センターは、登山中に事故等で救助が必要になった場合について、周辺の登山者の協力を得て対応するよう案内している。携帯電話が通じにくい区間では、無線を持つガイドに協力を求めるという記述もある(環境省 屋久島世界遺産センター「登山のマナー」2026年8月29日確認)。公的な案内の時点で、一人で完結させることを前提にしていない。

この「周辺の登山者の協力を得る」という一文は、屋久島という個別の地域についての案内であって、全国の登山道に共通するルールとして書かれているわけではない。それでも、発見者の役割が「自分で全部やる」ではなく「人を集めて役割を分ける」側にあることは読み取れる。

この記事が書かないこと

先に線を引いておく。この記事は、目の前の人の症状を見て軽傷か重傷かを判定する方法を書かない。出血の量や手足の変形から搬送してよいかを決める手順も書かない。骨折が疑われるときの固定の仕方も書かない。それらは医学的な判断であり、公的な資料にも一般登山者向けの一律の基準は書かれていないからである。

インターネット上には「こういうときはこうする」という具体的な処置の解説が数多くある。しかしその多くは、医療者向けの記述を一般向けに要約する過程で条件が抜け落ちている。現場で迷ったときに参照すべきなのは、記事の記憶ではなく、その場でつながっている119番の指令員である。

逆に、この記事が書くのは次の四つだ。自分の安全をどう確保するか。何を見るか。何を伝えるか。伝えたあと、引き継ぐまでの時間をどう持ちこたえるか。この四つは、医学の知識がなくても実行できる。

編集部の見立て:「助け方」を検索している人に「助け方は書きません」と言うのは、記事としては不利です。それでも、書けないものを書いたふりをするほうが害が大きいと判断しました。

最初にすること:自分の安全を確保する(二次遭難を作らない)

倒れている人を見つけたとき、体は先に動く。これは自然な反応で、止めようとしても止まらない。だからこそ、動き出す前の一拍を意識的に作る必要がある。消防庁の指針が手順の最初に置いているのは、傷病者への接触ではなく周囲の安全の確認である(消防庁「救急蘇生法の指針2020(市民用)」2026年8月29日確認)。

この一項目が最初に来ている理由は、救助者が倒れると助かる人が二人分減るからだ。倒れている人は救助されなくなり、救助に向かった人も救助対象になる。救助資源は有限なので、実際には二人分より大きな損失になる。

警察庁の警察白書(昭和49年版)は、山岳遭難の救助活動について「救助に向かった者までが犠牲になる二重遭難の危険を常に伴っている」と記載している(警察庁 警察白書 2026年8月29日確認)。救助を職務とする側の文書に、この一文が置かれている意味は小さくない。

山の中で「周囲の安全」とは何を見ることか

街なかであれば、周囲の安全は主に交通を意味する。山ではそれが別のものに置き換わる。倒れている人がいる場所は、その人がそこで倒れた理由を持っている場所でもある、と考えると分かりやすい。

見るもの 何を確かめるか 危ないときのサイン 取れる行動
足元と斜面 自分が近づく経路が崩れないか、滑落しない角度か 浮き石が多い、濡れた岩、踏み跡が斜面側に落ちている 回り込める経路を探す。無理なら近づかずに位置と状況だけを通報する
頭上 落石・倒木の通り道になっていないか 直上にガレ場、新しい落石痕、枯れて傾いた木 その場に留まらない。移動できる範囲で通報位置を選ぶ
沢の中・渡渉点・増水の可能性 上流が見えない、水量が朝と違う、飛沫で岩が濡れている 水に入る判断はしない。岸から呼びかけ、通報を優先する
気象と時刻 これから雨・雷・日没が来るか 雷鳴、急な冷え込み、日没まで2時間を切っている 自分の防寒・照明を先に出しておく。長時間になる前提で準備する
自分の状態 行動可能な体力と装備が残っているか すでに疲労が強い、水も食料も残りが少ない 抱え込まず、後続の人や山小屋に早い段階で引き継ぐ

この表は「危険を数えるためのもの」ではなく、数秒で通す視線の順番として使うのがいい。足元、頭上、水、空、自分。慣れれば10秒もかからない。

編集部の見立て:10秒の確認をためらう気持ちはよく分かります。ただ、その10秒を惜しんで自分が滑落した場合、救助隊が対応すべき現場が二つに増えます。急ぐことと、飛ばすことは違います。

近づけないと判断してよい

安全を確認した結果、「近づけない」という結論が出ることがある。急斜面の下に人が見える、沢の対岸で流れが速い、崩落地の中央にいる。このとき、無理に近づかないという判断は、放棄ではない。

近づけない場合でも、第一発見者にできることは残っている。位置を特定すること、見えている範囲の状況を記録すること、通報すること、救助隊が来るまでその場所を見失わないこと。これらはすべて、近づかずにできる。むしろ近づいて自分が動けなくなるより、正確な位置情報を持った人が安全な場所にいるほうが、救助の役に立つ。

「近づけないから通報だけした」ことを後ろめたく感じる必要はない。ただし、通報の内容は具体的にする必要がある。「見えているが近づけない」という情報自体が、救助隊にとっては装備と人員を決めるための重要な材料になる。

周囲に別の危険が続いていないか

倒れている原因が単独の事故とは限らない。落石が続いている斜面、まだ崩れている雪渓、蜂の巣が近い場所。原因がまだそこにあるなら、同じことが自分に起きる。近づく前に、「なぜこの人はここで倒れたのか」を一度だけ考える時間を取る。答えが出なくてもいい。考える動作そのものが、無防備な接近を止めてくれる。

  • 自分が立っている場所は、落石・滑落・増水の通り道になっていないか
  • 倒れている人に近づく経路に、安定した足場があるか
  • 近づけない場合に、位置を見失わずに待てる場所があるか
  • 自分の防寒具・ヘッドランプ・水は、すぐ出せるところにあるか
  • これから天候・日没がどう変わるかを、一度確認したか

反応を確認し、応援を呼ぶ

周囲の安全を確認し、近づけると判断したら、次は反応の確認になる。消防庁の指針は、肩を軽くたたきながら大声で呼びかけ、目を開けるなどの応答や目的のある仕草がなければ「反応なし」とみなすとしている(消防庁「救急蘇生法の指針2020(市民用)」2026年8月29日確認)。

ここで重要なのは、判定に幅を持たせないことだ。指針は、反応がない場合だけでなく、反応があるかどうかの判断に迷う場合についても、心停止の可能性があるものとして行動するよう書いている。迷いを「たぶん大丈夫」の側に倒さない、という設計である。

編集部の見立て:「迷ったら重いほうで動く」は、一見すると過剰に見えます。ですが山では救助が到着するまでの時間が長いので、軽く見積もった分の遅れがそのまま結果に効きます。指針の設計思想として素直な形だと思います。

呼びかけ方に凝る必要はない

肩を軽くたたく、大声で呼びかける。指針が書いているのはこれだけである。揺さぶる必要はないし、特別な言い回しもいらない。「大丈夫ですか」「聞こえますか」で足りる。反応の有無を見ているだけなので、内容は問題にならない。

見るのは、目を開けるか、返事があるか、こちらに向けた目的のある動きがあるかの三つだ。うめき声だけ、体がぴくりと動いただけ、というときに「反応あり」と読むかどうかで迷うことがある。そのときも、迷いは迷いのまま次の工程へ進む。指針が迷った場合の行き先を用意しているので、その場で結論を出す必要はない。

反応の確認は、傷病者の状態を診断するための工程ではない。次に何をするか(応援を呼ぶか、様子を見ながら話を聞くか)を決めるための分岐点として置かれている。だから「正確に判定する」ことより、「分岐を止めない」ことのほうが目的に合っている。

反応がないときは、まず大声で応援を呼ぶ

反応がない、または迷う場合、指針は心停止の可能性があるものとして行動し、大声で応援を呼ぶよう示している。この「応援を呼ぶ」が、自分で電話をかけるより先に来ていることには意味がある。人が集まれば役割を分けられるからだ。

そして、救助者が何人いるかで担当が変わる。消防庁の指針は次のように分けている(2026年8月29日確認)。

状況 119番通報 AEDの手配 自分は何をするか
救助者が2人以上 来てくれた人に依頼する 近くにあると分かっている場合、来た人に依頼する 傷病者のそばを離れず、呼吸の確認へ進む
救助者が自分1人 自分で119番通報する すぐ近くにあると分かっている場合のみ、自分で取りに行く 通報しながら、そのまま呼吸の確認へ進む

AEDについては、条件を落とさずに読む必要がある。指針の記述は「近くにAEDがある場合」を前提にしている。登山道や山小屋にAEDが一般的に設置されているという公的な情報は、今回の調査では確認できなかった。ロープウェイ駅など個別の施設に設置されている例はあるが、それを登山道全体に広げて考えることはできない。

山中でAEDを探しに動くと、往復に何十分もかかったうえで見つからない、という結果になりやすい。設置場所を事前に知っている場合を除き、AEDを探すために傷病者のそばを離れる判断は慎重に扱ってほしい。2026年8月29日時点で、登山道・山小屋のAED設置状況をまとめた公的な情報は確認できていない。

登山道での「応援」は誰か

街であれば応援は通行人だが、山では違う。実際に呼べる相手は、同行者、前後を歩いている登山者、近くの山小屋やビジターセンターの人、そして通報でつながる先の指令員である。人数が少ないぶん、一人ひとりに割り当てる役割は大きくなる。

  1. 大声で呼びかけ、聞こえる範囲に人がいるかを確かめる。笛を持っているなら笛のほうが遠くまで届く
  2. 来てくれた人がいたら、「119番通報をお願いします」と役割を名指しで頼む。誰かがやるだろう、の状態を作らない
  3. もう一人来たら、登山道の上下に立ってもらい、後から来る人に状況を伝えて通り抜けの安全を確保してもらう

役割を「名指しで頼む」のは、街の救命講習でも繰り返し強調される点だ。集団に向かって「誰か119番を」と言うと、全員が自分以外の誰かがやると考えて、結果として誰もやらないことがある。山では人数が少ないので、この失敗は起きにくいと思われがちだが、パーティ内では起きる。「リーダーが指示するだろう」で全員が待つ形になる。

編集部の見立て:名指しは失礼ではありません。緊急時に役割を明確にすることは、頼まれた側にとっても助かります。「何をすればいいか分からない」状態が一番つらいからです。

通報する:119番で何を、どの順番で伝えるか

通報は、第一発見者が持っている手札の中で最も効果が大きいものだ。医療の知識がなくても、正確な通報は救助の中身を変える。逆に、あいまいな通報は救助隊の到着を遅らせる。

消防庁は、119番通報で必ず聞かれる項目として、救急車が向かう住所(分からなければ近くの目印)、症状、通報者の氏名と連絡先を挙げている(消防庁「救急車の呼び方」および「救急車を上手に使いましょう」2026年8月29日確認)。症状については、「誰が、どのようにして、どうなったか」を簡潔に伝え、分かる範囲で意識と呼吸の有無を伝えるとされている。

119番で伝える3項目:①場所(住所。山では分からないことが多いので、近くの目印・登山口名・分岐名・標識番号・スマートフォンに表示された緯度経度)②症状(誰が、どのようにして、どうなったか。加えて意識と呼吸の有無を分かる範囲で)③通報者の氏名と連絡先(電波が切れたときに折り返してもらうため)。出典は消防庁(2026年8月29日確認)。

山で一番言いにくいのは「場所」

三つの項目のうち、街と山でいちばん差が出るのが場所である。住所で答えられる登山道はほとんどない。だからここは、事前の準備がそのまま効いてくる部分になる。

伝え方 具体例 強み 用意しておくこと
緯度経度 地図アプリや登山アプリに表示される数値をそのまま読む 解釈の余地がない。最も誤解が少ない 使っているアプリのどこに座標が出るかを、事前に一度開いて覚えておく
山名+ルート名+通過点 「○○山の△△尾根、□□の分岐から山頂方向に20分ほど」 座標が出せなくても伝わる。救助隊が地図で追える 歩いているルート名と主な分岐名を把握しておく
標識・道標の番号 登山道の番号標識、電柱・鉄塔番号、堰堤番号 そのまま地図に落とせる地域がある 歩きながら番号標識の有無に気づいておく
登山口からの時間 「○○登山口から2時間ほど登った地点」 他に何もないときの最後の手段になる 出発時刻と休憩時間を把握しておく

ここで効いてくるのが、事前に出しておく登山計画書である。計画書が提出されていれば、通報時に自分のルートと行程を説明しやすくなるし、通報者が説明しきれなくても、行程そのものは別のルートで確認できる可能性が出てくる。作り方は登山計画書の書き方と提出先の記事にまとめてある。

編集部の見立て:計画書は「自分が遭難したとき」のために出すものだと思われがちですが、実は「他人の遭難に出会ったとき」にも効きます。自分のルートを説明できる状態にしておくことが、そのまま通報の質になります。

症状は「見たまま」で伝える

症状を伝えるときに一番やってはいけないのは、自分で診断してから伝えることだ。「たぶん熱中症です」「骨折していると思います」と伝えると、その先入観が救助側の判断に入り込む。伝えるのは、見えているものと、経過だけでいい。

  • 誰が(年齢のおよそ・性別・単独か複数か)
  • どのようにして(歩いていて倒れた/座り込んだまま動かない/滑落した/自分が見つけたときには既に倒れていた)
  • どうなったか(動かない/受け答えがある/うずくまっている)
  • 意識の有無(呼びかけへの反応があるか。分からなければ「分からない」と言う)
  • 呼吸の様子(胸や腹が動いているか。いつもの呼吸に見えるかどうか)
  • 見えている範囲の外見(出血が見えるか、手足の形が普通と違って見えるか)

最後の項目は、「見えるか」という書き方にしてある。骨折かどうかを判断するのではなく、「左足が普通と違う向きに見えます」と伝えるだけでいい。判定は受け取った側がする。

分からないことを「分かりません」と伝えることは、通報の失敗ではない。むしろ、推測を事実のように伝えるほうが誤解を生む。指令員は、分からない情報を前提に質問を組み立て直せる。

通報したあとも電話を切らない

消防庁の指針には、119番通報をすると通信指令員から口頭指導を受けられる場合があること、スマートフォンなどのスピーカー機能を使えば、指導を受けながら胸骨圧迫を行えることが記されている(2026年8月29日確認)。つまり通報は「情報を渡して終わり」ではなく、そこから先の行動を一緒に決めてくれる相手ができる工程でもある。

この一点は、記事やマニュアルを覚えるより実務的な価値が大きい。現場の状況を見ていない記事の記述より、いま電話の向こうで状況を聞いている指令員のほうが、目の前の状況に合った指示を出せるからだ。だから通報は早いほうがいいし、切らないほうがいい。

山中では電池残量が通報の生命線になる。通話中は画面を消し、地図アプリなど他のアプリを止める。予備バッテリーがあるなら、通話しながらでも接続しておく。通報後に折り返しがかかってくることもあるので、通話が終わっても電源は落とさない。

通報の型そのものや、救助要請のあとに何が起きるかについては、山での救助要請の出し方と、通報から救助までの流れにまとめてある。この記事は「通報にたどり着くまでの順番」を扱い、通報から先はそちらが本体になる。

電波が届かないときの選択肢:山小屋・後続登山者・下山の判断材料

ここまでの手順は、通報できることを前提にしている。だが山では、その前提が崩れる場所のほうが多い。環境省の屋久島世界遺産センターも、山中は携帯電話が通じない場所が多いと案内している(一部地点では通じるという記載もある。2026年8月29日確認)。

スポンサーリンク


この場合にどうするかについて、「必ずこうする」という一律の指示を示した公的資料は、今回の調査では確認できなかった。現場に留まるべきか、下山して通報すべきか。警察庁や自治体の一次情報にも、この二択を一律に定めた記載は見つかっていない。だからここでは、判断を決める材料のほうを並べる。

編集部の見立て:「圏外ならこうしなさい」と言い切る記事のほうが読みやすいのは分かっています。ただ、条件が違えば答えが変わる問題に一つの答えを書くと、条件が合わない読者を間違った方向に押し出してしまいます。

電波を探す動きは、範囲を決めてから

圏外だと分かったとき、多くの人はまず電波を探して動く。これ自体は妥当だが、無計画に動くと自分の位置が分からなくなる。動く前に、戻れる範囲を決めておく。

  1. 今いる場所を地図アプリで確認し、座標か目印を控える(戻る目印にもなり、通報時の場所説明にもなる)
  2. 尾根上・稜線上・開けた場所など、電波が入りやすい方向を一つ決め、往復にかかる時間の上限を決めてから動く
  3. 通じた地点で通報し、その地点の座標も控える。以後の連絡はそこから行う前提で考える

圏外時に使える通信手段や、電波がなくても位置を記録しておく方法については、山で電波が届かないときの連絡手段にまとめてある。事前に読んでおくと、現場で選択肢を思い出しやすくなる。

後続の登山者に「つなぐ」

登山道には、自分の後ろにも人がいる。環境省の屋久島の案内が「周辺の登山者の協力を得て」と書いているのは、この構造を前提にしている。頼み方は具体的にする。

頼むこと 誰に 渡すべき情報 注意点
電波が通じる場所まで下りて通報 下山方向に向かう人。できれば2人以上で 紙かスマートフォンのメモに、座標・状況・自分の氏名と連絡先を書いて渡す 口頭だけだと途中で内容が変わる。書いて渡す
山小屋・ビジターセンターへの連絡 山小屋方向に向かう人 同上に加えて、現場までの所要時間の目安 営業期間・時間外は無人のことがある
現場での交代・付き添い 体力に余裕があり、留まれる人 ここまでの経緯と、観察した内容の時刻 自分が下りる場合は、引き継ぎ内容を書いて渡す
登山道の上下での誘導 誰でも 通り抜ける人に状況を伝え、詰まらせない 狭い場所に人が溜まると、それ自体が危険になる

長野県が公開している北アルプスの山小屋一覧には、槍ヶ岳山荘(090-2641-1911)や穂高岳山荘など、現地直通の電話番号を公開している小屋がある(営業期間内。長野県「北アルプスの山小屋」2026年8月29日確認)。ただしこれは長野県の一部の小屋の例であって、全国の山小屋が直通番号を公開しているわけではない。行き先が決まっているなら、事前に調べて控えておくと選択肢が一つ増える。

自分の位置を知らせ続ける側の道具

圏外の場所では、通報という手段そのものが使えない。そのとき残るのは、「ここに人がいる」という信号を出し続けることになる。声は数分で枯れるが、音の道具は枯れない。

モンベルのエマージェンシーコール(品番1124247)は、笛と小さなミラーなどをまとめた、非常時の合図用の小型ツールである。ザックのショルダーハーネスや雨蓋に付けておけば、手袋のままでも取り出せる位置に置ける。これは倒れている人を助けるための道具ではなく、第一発見者である自分が、後続の登山者や捜索側に対して位置を知らせ続けるための道具という位置づけになる。声が届かない距離、視界が悪い時間帯、そして自分が動けなくなった場合まで含めて、「ここにいる」を出し続ける側の装備だと考えてほしい。

音や光の道具を持っていることは、救助されることを保証しない。届く範囲に人がいなければ意味を持たない。持ち物で解決する話ではなく、届く範囲に人がいる場所を選ぶ・留まるという判断とセットで初めて機能する。

また、会員が持つ発信機の電波を専用受信機で探す仕組みとして、ココヘリのようなサービスもある。仕組みと限界についてはココヘリの仕組みと使いどころにまとめてある。これも「持てば助かる」ものではなく、捜索の対象になったときに探される側の条件を良くするものだと理解しておくのが妥当だ。

呼吸を確認し、必要なら胸骨圧迫を行う

ここから先は、消防庁の指針が書いている範囲だけを書く。指針から離れた手順は足さない。

反応がなく、応援要請と通報の手配が済んだら、次は呼吸の確認になる。消防庁の指針は、胸と腹部の動きを見て「普段どおりの呼吸があるか」を10秒以内で確認するとしている(2026年8月29日確認)。

呼吸の確認:胸と腹部の動きを見る。10秒以内。判断するのは「普段どおりの呼吸か」であって、呼吸の質や回数を数えることではない。呼吸がない、普段どおりでない、または判断に迷う場合は、心停止と考えて胸骨圧迫を開始する(消防庁「救急蘇生法の指針2020(市民用)」2026年8月29日確認)。

ここでも「迷う場合」の行き先が決められている。反応の確認と同じ設計で、迷いを軽いほうに倒さないようになっている。10秒という上限が付いているのも、確認に時間をかけすぎることを防ぐためだ。

編集部の見立て:10秒という数字は、短すぎるように感じるかもしれません。ですがこれは「10秒かけて診断する」のではなく「10秒で見切りをつけて次に進む」ための上限だと読むほうが、指針の意図に近いと思います。

胸骨圧迫について、指針が書いていること

胸骨圧迫の方法として、指針は圧迫の位置を胸骨の下半分(胸の真ん中)とし、成人では約5cm沈むまで、100〜120回/分のテンポで圧迫するとしている(2026年8月29日確認)。この記事で書けるのはここまでで、これ以上の細かい手技は資料の範囲を超える。

項目 指針の記載 読み方
位置 胸骨の下半分(胸の真ん中) 探すのに時間をかけない。中央、という理解で足りる
深さ 成人は約5cm沈むまで 数値は指針の記載どおり。子どもの場合は成人と同じではない
テンポ 100〜120回/分 1秒に2回弱。速すぎても遅すぎても指針の範囲から外れる
中断 中断する時間は最小にする 交代するなら、素早く入れ替わることが前提になる

実際に手を動かす段階になったら、記事の記憶ではなく、通報でつながっている指令員の口頭指導に従うほうがいい。指令員は現場の状況を聞きながら指示を出せるし、テンポを声で合わせてくれる場合もある。スマートフォンのスピーカー機能を使えば、両手を使いながら指導を受けられる。

胸骨圧迫は体力を大きく消耗する。標高の高い場所ではなおさらで、単独で長時間続けることは現実的でない。人が集まったら交代を前提に考える。これは根性の問題ではなく、質を保つための段取りの問題である。

講習は「山に行く前」にしか受けられない

ここまで読んで、「文字で読んでも手が動く気がしない」と感じたなら、それは正しい感覚だ。胸骨圧迫は、文章で覚えられる種類の動作ではない。各地の消防本部や日本赤十字社が行っている救命講習は、人形を使って手の位置と力の入れ方を確かめる時間が取られている。

山に行く前に一度でも受けておくと、現場で「知らない動作」ではなく「一度やったことのある動作」になる。この差は大きい。受講の可否や日程は地域ごとに異なるので、居住地の消防本部の案内で確認してほしい。

編集部の見立て:記事を読むことは講習の代わりになりません。この記事の役割は、講習を受ける動機を作ることと、講習で習った内容を「山という条件」に翻訳することだと考えています。

動かしてよいか迷ったときの原則:判断は救助隊に預ける

第一発見者が最も迷うのが、この問いだと思う。倒れている人を風の当たらない場所に移したほうがいいのか。登山道の真ん中にいるので端に寄せたほうがいいのか。背負って下ろせないのか。

スポンサーリンク


この記事は、その問いに「動かしてよい」とも「動かしてはいけない」とも書かない。理由は単純で、根拠になる公的な記載が見つからなかったからである。今回確認した消防庁・環境省・警察庁の資料には、傷病者を動かしてよいか否かを一律に定めた記載はなかった(2026年8月29日時点)。

この記事の立場:動かしてよいかどうかは、この記事では判断できない。原則として動かさず、通報した相手——119番の指令員、あるいは到着した救助隊——の指示を待つ。判断を専門家に預けることが、一般登山者にとって最も再現性の高い行動になる。

「動かさない」を既定にする理由

公的な基準がないなら、なぜ「動かさない」を既定に置くのか。それは、動かすという行為が取り消せないからだ。動かさずに待った結果が悪かった場合、その先に指令員の指示という修正の余地が残る。動かした結果が悪かった場合、元に戻す方法はない。

加えて、動かす作業そのものが危険を作る。斜面で人を持ち上げれば、持ち上げる側のバランスが崩れる。狭い登山道で背負えば、背負った人の視界と足元が同時に悪くなる。二次遭難の話は、この場面でもそのまま当てはまる。

ここで言う「動かさない」は、その場に放置するという意味ではない。呼びかけ、様子を見て、保温し、記録を取り、通報の相手とつながり続ける。動かす以外にできることは、実はかなり多い。

それでも例外はある、と考えるべき場面

一方で、いま倒れている場所そのものが危険な場合がある。落石が続いている斜面の下、増水しつつある沢の中、雷が近い稜線上。この場合に「動かさない」を守ることが、かえって危険を大きくすることは想像できる。

ただし、その線をどこに引くかについても公的な基準は見つかっていない。だからここでも同じ結論になる。通報でつながった相手に、その状況をそのまま伝えて指示を仰ぐ。「落石が続いている場所にいます。移動させるべきですか」と聞けばいい。判断を渡す相手がいることが、通報を早く行う理由でもある。

編集部の見立て:ここは記事として一番歯切れの悪い部分です。ただ、根拠のないことを言い切って読者に持たせるより、「聞ける相手につなぐ」という手順に落とすほうが、現場で使える形だと判断しました。

他人に医療行為はできない。自分の手当てはできる

もう一つ、線をはっきりさせておきたいことがある。第一発見者は、倒れている人に対して医療行為を行う立場にない。手持ちの薬を飲ませる、傷を消毒する、固定するといった行為は、この記事が勧める範囲の外にある。

その一方で、自分自身の手当ては自分でできる。そして、救助に関わる場面ほど自分が傷つく可能性は上がる。斜面を回り込むときに手を切る、待機中に冷えて体調を崩す、藪をこいで擦り傷を作る。ファーストエイドキットは、その自分のために持つものだと考えるのが素直だ。

OHKEYのファーストエイドキット(中型)は、ポイズンリムーバーが同梱されている構成が特徴になる。中身が仕切りで分かれているタイプなので、必要なものだけを片手で取り出しやすい。倒れている人に処置をするために持つのではなく、自分が動ける状態を保つために持つ——この線の引き方を守るなら、キットは第一発見者の装備として意味を持つ。中身をどう組み替えるかはファーストエイドキットの中身の考え方にまとめてある。

キットを持っていることで「何かできる」と感じてしまうのが、この装備の落とし穴になる。他人に対して開ける場面はほとんどない。持つ理由は、自分が最後まで動ける状態を保つことにある。

保温と観察で「待つ時間」を支える

通報が済んだあと、山では長い待ち時間が来る。救助隊が現場に着くまでの時間は、街の救急車とは比べものにならない。天候・時刻・地形によっては、当日中の到着が難しい場合もある。この時間を支えることが、第一発見者に残された最後の仕事になる。

やることは二つ。保温と観察である。どちらも医療行為ではなく、条件を悪化させないための維持作業だ。

保温は「地面から」を先に考える

倒れている人が動かない状態にあるとき、体温は下がっていく。特に地面に接している面からは、風より速く熱が逃げる。上に何かをかけることばかり考えがちだが、下に何かを敷くほうが効くことが多い。

  • 地面との間に、レジャーシート・ザック・衣類など断熱になるものを入れられるか(動かさずに差し込める範囲で)
  • 風が当たっている方向に、ザックやツエルトなどで遮るものを置けるか
  • 濡れているものが体に触れ続けていないか
  • 自分自身の保温は足りているか(付き添う側が先に冷えると、両方が動けなくなる)
  • 日没までの時間と、その後の気温の下がり方を見込んでいるか

低体温症そのものの進み方や、体温が下がったときに起きることについては登山中の低体温症の進み方と備え方にまとめてある。待ち時間が長くなる状況では、倒れている人だけでなく付き添う側にも同じ条件がかかることを、先に知っておくといい。

編集部の見立て:救助を待つ時間は、想像よりずっと長くなります。「もうすぐ来る」を前提にすると装備を出し惜しみしますが、出し惜しみして冷えるほうが結果的に困ります。早めに全部出したほうがいいです。

アルミブランケットは「音」で選ぶ場面がある

保温の道具としてよく持たれているのがアルミブランケット(エマージェンシーシート)だ。軽くて小さく、ザックの隅に入れておける。ただし、一般的なタイプには一つ弱点がある。動くたびに大きな音が出ることだ。

Eco Ride Worldのアルミブランケットは、静音タイプとして作られている点が構成上の違いになる。数分で終わる場面なら音は問題にならないが、救助を待つ時間が数時間に及ぶ場合、絶え間ない音は付き添う側と横になっている側の両方を消耗させる。待つ時間が長くなりやすい登山道という条件では、この違いが効く場面がある。動かせない人にかける用途でも、自分が待機するときの用途でも使える。

ブランケット類は、袋から出すと元どおりに畳み直すのが難しい。予備を1枚持つか、あるいは「使ったら畳まない」と割り切ってザックの外付けにする前提で考えておくと、現場で出すことをためらわずに済む。

観察は「時刻とセットで」記録する

もう一つの仕事が観察である。ここでも診断はしない。見えたことを、時刻とともに書き留めるだけでいい。

記録すること 書き方の例 なぜ役に立つか
発見時刻 「14:20 発見。うずくまった姿勢」 経過時間の起点になる。引き継ぎで最初に聞かれる
反応の変化 「14:25 呼びかけに返事あり」「15:10 返事が弱くなった」 良くなっているか悪くなっているかが分かる
呼吸の様子 「胸の動きが見える」「動きが分かりにくい」 見たままでよい。判定は受け取る側がする
行った処置 「14:30 シートをかけた」「15:00 通報が再度つながった」 何がされていて何がされていないかが分かる
本人が話したこと 名前、連絡先、持病や服薬の有無、どこがつらいか 本人が話せなくなったあとに残る唯一の情報になる

記録は紙でもスマートフォンでもいい。ただしスマートフォンは通報の生命線でもあるので、電池を使う方法を選ぶなら残量に注意する。手帳と鉛筆が結局いちばん確実、という結論になることは多い。

本人から聞いた氏名・連絡先・持病などは、救助隊や医療機関に引き継ぐために聞き取るものである。それ以外の目的で記録を残したり、写真を撮って共有したりすることは避けてほしい。現場の記録は救助のためだけに使う。

「善意の救助者」は法的にどう扱われるか

助けようとして結果が悪くなったら、責任を問われるのではないか。この不安が、行動を遅らせる原因になることがある。ここでは、確認できた条文の文言だけを淡々と置く。「だから安心して大丈夫」という結論は書かない。確認できたのは条文そのものであって、個別の事案でどう扱われるかではないからだ。

条文 定めていること 読むときの注意
民法697条 義務なく他人のために事務の管理を始めた者は、その事務の性質に従い、最も本人の利益に適合する方法で管理すべきことを定める 「事務管理」という枠組みの入口にあたる条文
民法698条 本人の身体・名誉・財産に対する急迫の危害を免れさせるためにした事務管理については、悪意または重大な過失がなければ、これによって生じた損害を賠償する責任を負わないことを定める 無条件の免責ではなく、「悪意または重大な過失がなければ」という条件が付いた規定
民法699条・700条 事務管理を始めたときは遅滞なく本人に通知すべきこと(本人が既に知っている場合を除く)、本人等が管理できるようになるまで管理を継続すべきことを定める(本人の意思に反する、または本人に不利であることが明らかな場合を除く) 始めたら途中で放り出さない、という趣旨が読み取れる

出典は e-Gov 法令検索の民法(明治二十九年法律第八十九号)である(2026年8月29日確認)。

「善意の救助者は法的に守られる」という言い方をよく見かけるが、その通称そのものを裏づける一次資料は今回確認できていない。上の表に書けるのは条文の文言までで、実際の事案がどう判断されるかは個別の事情による。この記事は、それを安心材料として言い切らない。

編集部の見立て:ここを「安心してください」で締めたい気持ちはありました。ただ、法的な結論を保証できる立場ではないので、条文を置くところで止めています。不安が完全には消えない、という状態のまま読んでもらうことになります。

不安を減らす方向は、法律より手順にある

結果への不安を減らす現実的な方法は、法解釈を調べることより、判断を自分ひとりで抱えない形にすることにある。119番につながっている状態で、指令員の指示に沿って動く。判断を求められたら、状況をそのまま伝えて指示を仰ぐ。この形にしておけば、自己流の判断で動く場面そのものが減る。

あわせて、自分の側の備えという意味では山岳保険がある。救助費用や賠償に関する補償の範囲は商品ごとに違うので、加入している内容を一度確認しておくといい。日帰り単位で入れるタイプの考え方は1日単位で入れる山岳保険の選び方にまとめてある。ただし、保険は行動の判断を代わりにしてくれるものではない。

救助に関わったことで自分の下山が遅れ、結果として自分が行動不能になるケースも想定しておきたい。付き添う判断をするときは、自分の残り体力・日没・装備を計算に入れる。抱え込まずに引き継ぐことも、正しい選択肢のひとつである。

よくある質問

Q. 意識があって話せる人の場合も、119番に通報すべきですか

通報するかどうかを一律に決める公的な基準は、今回の調査では確認できていません。判断に迷う場合は、通報して状況を伝え、指令員に判断を仰ぐのが現実的です。消防庁は119番通報の際に「誰が、どのようにして、どうなったか」を簡潔に伝えるよう案内しています(2026年8月29日確認)。話せる状態であっても、山の中で自力下山できるかどうかは別の問題なので、その点を含めて伝えてください。

Q. 通報したあと、その場を離れて下山してもいいですか

現場に留まるか下山するかを一律に定めた公的な記載は確認できていません。判断の材料になるのは、電波が通じているか、同行者や後続の登山者がいるか、山小屋までどれくらいか、日没までどれくらいか、自分の体力と装備がどれだけ残っているかです。通報がつながっている状態であれば、その場でこの条件を伝えて指示を仰ぐのが確実です。離れる場合は、後を引き継ぐ人に、時刻入りの記録を書いて渡してください。

Q. AEDを探しに行ったほうがいいですか

消防庁の指針は、近くにAEDがある場合を前提に手配を書いています。2026年8月29日時点で、登山道や山小屋にAEDが一般的に設置されているという公的な情報は確認できていません。設置場所を事前に知っている場合を除いて、探しに動くことは慎重に判断してください。救助者が2人以上いる場合は、来てくれた人に依頼するのが指針の書き方です。

Q. 圏外で、誰も通りかからないときはどうすればいいですか

この状況を一律に解決する方法を示した公的資料は見つかっていません。取れる行動としては、今いる位置を記録したうえで電波の入りやすい方向へ往復の時間を決めて動くこと、笛など音の出る道具で位置を知らせ続けること、山小屋の直通番号を事前に控えていればそこへ連絡することなどがあります。環境省の屋久島の案内では、無線を持つガイドに協力を求めるという方法も示されていますが、これはガイド同行を前提にした個別地域の案内です。

Q. 救命講習を受けていなくても胸骨圧迫をしていいのでしょうか

消防庁の指針には、119番通報をすると通信指令員から口頭指導を受けられる場合があり、スマートフォンのスピーカー機能などを使えば指導を受けながら胸骨圧迫を行える旨が記されています(2026年8月29日確認)。ただし文章を読んだだけで手が動くようになるものではないため、山に行く前に消防本部や日本赤十字社の救命講習を受けておくことをおすすめします。

Q. 助けようとして状態が悪くなったら、責任を問われますか

民法698条は、本人の身体等に対する急迫の危害を免れさせるためにした事務管理について、悪意または重大な過失がなければ損害賠償の責任を負わないと定めています(e-Gov 法令検索、2026年8月29日確認)。ただしこれは条文の文言であって、個別の事案の結論を保証するものではありません。この記事は「法的に守られるから安心してよい」とは書きません。判断を一人で抱えず、通報してつながった相手の指示に沿って動くことが、結果としてこの不安を小さくします。

まとめ:今日やることは1つ

この記事で書いたことを一行にすると、こうなる。倒れている人を見つけたとき、最初にすることは助けることではなく、自分が倒れない場所に立つことである。そのあとに、反応を確かめ、応援を呼び、通報し、呼吸を確かめる。順番はこれだけで、順番を守ること自体が第一発見者の役割になる。

できることは限られている。動かしてよいかは分からないし、症状の重さも判定できない。だが、限られたことを飛ばさずにやり切ることは、知識がなくてもできる。そして、それができる人がその場にいるかどうかで、救助隊が受け取る情報の質は変わる。

編集部の見立て:この記事を読んで「自分でも役に立てそうだ」と思えたなら、それがいちばん大事な結果です。役に立てる範囲を正しく知っていることが、現場で慌てない条件になります。

そして、いちばん確実なのは、そもそも事故に遭わない・遭わせない登り方をしておくことでもある。行程の余裕、下山時刻、疲労の管理といった予防側の考え方は登山中のけがを減らす歩き方と行程の作り方にまとめてある。第一発見者になる可能性は誰にでもあるが、自分が倒れる側にならないことのほうが、順番としては先にある。

今日やること:使っている地図アプリのどこに緯度経度が表示されるかを、一度だけ開いて確かめる。それだけで、通報の3項目のうち最も詰まりやすい「場所」が、山の中でも言える状態になる。所要時間は1分ほどで、費用はかからない。

  1. 地図アプリを開き、現在地の緯度経度がどこに表示されるかを確認する(表示させる操作も覚える)
  2. 次に行く山の山名・ルート名・主な分岐名を、通報で言える形で書き出しておく
  3. 居住地の消防本部の救命講習の日程を調べ、受けられる回を一つ見ておく

編集部の見立て:3つとも、山に行く前に机の上でできることです。現場でできることは限られているからこそ、事前にできることを前倒ししておく意味があります。

出典

  • 消防庁「救急蘇生法の指針2020(市民用)」 https://www.fdma.go.jp/laws/tutatsu/items/1435f659281c3ff8fcbaf3ad14b16b5ad1e97683.pdf (2026年8月29日確認)
  • 消防庁「救急車の呼び方・119番通報」 https://www.fdma.go.jp/mission/enrichment/kyukyumusen_kinkyutuhou/119.html (2026年8月29日確認)
  • 消防庁「救急車を上手に使いましょう」 https://www.fdma.go.jp/publication/portal/items/portal002_japanese121.pdf (2026年8月29日確認)
  • e-Gov 法令検索 民法(明治二十九年法律第八十九号) https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089 (2026年8月29日確認)
  • 警察庁 警察白書(昭和49年版・山岳遭難の救助について) https://www.npa.go.jp/hakusyo/s49/s490900.html (2026年8月29日確認)
  • 環境省 屋久島世界遺産センター「登山のマナー」 https://www.env.go.jp/park/yakushima/ywhcc/tozan/manner.html (2026年8月29日確認)
  • 長野県「北アルプスの山小屋」 https://www.pref.nagano.lg.jp/kankoki/sangyo/kanko/sotaikyo/yamagoya/yamagoya_kitaalps.html (2026年8月29日確認)

スポンサーリンク