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スマートフォンの地図アプリを開けば、現在地は青い点で表示されます。それでも登山の入門書やガイド講習で「読図」がくり返し扱われるのは、青い点が「いま自分がどこにいるか」しか答えてくれないからです。この先の斜面が急なのか緩いのか、右手の高まりが尾根なのか、正面の窪みが登山道ではなく沢の源頭なのか——それを判断する材料は、地図に引かれた線のほうに入っています。
読図は特別な技能というより、地図の線と目の前の地形を照らし合わせる習慣です。そしてその習慣は、①等高線を縮尺ごとに正しく読む、②コンパスで地図を現地の向きに合わせる(整置)、③地図アプリで現在地を答え合わせする、の3つがそろってはじめて安全側に働きます。
この記事では、国土地理院が公表している地形図の数値、SUUNTOの公式取扱説明書、日本オリエンテーリング協会の公式解説といった一次資料の範囲で、登山1〜3年目の方が今日から使える読図の手順を組み立てます。とくに初心者がいちばん取り違えやすい「地図を回すのか、コンパスを回すのか」は、場面ごとに章を分けて整理します。
- 2万5千分1と5万分1で等高線の間隔は別物。混ぜて覚えると尾根と谷を取り違える理由
- 「整置=地図を回す」と「目的地の方位セット=カプセルを回す」の決定的な違い
- 磁北のズレ(偏角)は全国一律ではない。自分の山域の値を地理院地図で確かめる操作手順
- 紙の地形図・コンパス・地図アプリを、否定し合わずに役割分担させる使い方
読図とは何か——地図アプリと地形図を併用する理由
読図とは、地図に描かれた記号や線から、実際の地形の形を頭のなかに立ち上げる作業です。逆向きに、目の前の地形を見て「これは地図上のこの線だ」と対応づける作業も読図に含まれます。この双方向のやりとりができるようになると、分岐に出会ったときに「地図ではここで尾根が二又に分かれているはずだ」という予測を持って歩けるようになります。
地図アプリはこの作業のうち「いまどこにいるか」を高い精度で肩代わりしてくれます。GPSの測位は、紙地図と磁石だけで現在地を割り出す作業と比べると圧倒的に速く、しかも間違いにくい。だから地図アプリを使わない理由はありません。
一方で、アプリの画面は物理的に小さく、拡大すると周囲が見えず、縮小すると等高線がつぶれます。「現在地はわかるが、周囲の地形の全体像はつかみにくい」のがスマートフォンの構造的な弱点です。紙の地形図は現在地を教えてくれない代わりに、A3やA2の紙面いっぱいに山塊まるごとの起伏を並べて見せてくれます。この二つは競合ではなく、担当分野が違います。
編集部の見立て:「紙かアプリか」という問いの立て方が、そもそも読図の上達を止めています。アプリは現在地、紙は全体像、コンパスは向き。三者の担当を決めてしまえば、どれか一つが欠けたときに何が困るかも自然に見えてきます。
もう一つ、併用が効く場面があります。それはバッテリーや電波、端末の故障といった「機械が止まる」局面です。地図アプリはオフラインでも動く設計のものが主流ですが、端末そのものが低温で落ちたり、落として画面が割れたりする可能性は残ります。紙の地形図とコンパスは、この意味では冗長系(バックアップ)として機能します。
地図アプリ側の具体的な使い分けやオフライン地図の準備については、登山地図アプリの選び方と使い方で詳しく扱っています。また、読図の材料は当日ではなく計画段階でそろえるものなので、登山計画の立て方とあわせて読むと、地図をいつ広げるべきかがはっきりします。
読図は「道に迷わないための技術」であると同時に、「迷ったことに早く気づくための技術」でもあります。地図の線と目の前の地形が合わなくなった瞬間に立ち止まれるかどうかが、行動時間の差になります。
登山地図の基本を知る:2万5千分1と5万分1、何が違うのか
縮尺は「地図上の長さが実際の何分の1か」を表します。2万5千分1なら、地図上の1mmが実際の25mに相当します。国土地理院は2万5千分1地形図について、統一した内容と精度で全国をカバーする基本図であり、図上1mmが地上25mに相当すると説明しています。この「1mm=25m」という換算は、定規を当てなくても目分量で距離を見積もる土台になります。
5万分1になると、同じ紙面により広い範囲が収まります。そのぶん1本の等高線が背負う標高差は大きくなり、細かい起伏は省略されます。縮尺が変われば、同じ「線が詰まっている」という見え方が意味する急さも変わります。
| 縮尺 | 図上1mmの実距離 | 主曲線の間隔 | 計曲線の間隔 |
|---|---|---|---|
| 1万分1 | 10m | 4mごと(平坦地は2mごと) | — |
| 2万5千分1 | 25m | 10mごと | 50mごと |
| 5万分1 | 50m | 20mごと | 100mごと |
ここでよくある混乱が「登山地図はどの縮尺が主流なのか」という話です。結論から書くと、用途が違うので主流を決める意味がありません。国土地理院が基本図として整備しているのは2万5千分1の地形図です。一方、書店で売られている登山用の概念図・広域図のなかには5万分1系の縮尺を採るものもあります。前者は地形の正確な記録、後者はコースの全体像と所要時間の把握に向いており、狙いがそもそも別です。
編集部の見立て:「登山地図=5万分1」と覚えてしまうと、2万5千分1の地形図を見たときに等高線の意味を読み違えます。手にした地図の凡例で縮尺と等高線間隔を確認する——この一手間が、読図の実質的な第一歩です。
紙地図そのものの選び方、市販の登山地図と国土地理院の地形図をどう組み合わせるかについては、登山用の紙地図の選び方で整理しています。
1枚の山行で縮尺の違う地図を併用するときは、必ずどちらの地図を見ているかを意識してください。2万5千分1のつもりで5万分1の等高線を数えると、標高差を実際の半分に見積もることになります。これは登り返しの体力配分を丸ごと狂わせます。
等高線の読み方①:2万5千分1地形図の主曲線・計曲線・補助曲線
等高線は、同じ標高の点をつないだ線です。線そのものに難しさはなく、難しいのは「1本あたり何メートルか」を縮尺ごとに覚えておくことです。ここでは2万5千分1に絞ります。
国土地理院の資料によれば、2万5千分1地形図では主曲線が10mごと、計曲線が50mごとに引かれます。計曲線は主曲線より太く描かれ、数えるときの目印になります。さらに、主曲線だけでは表しにくい緩傾斜地などには補助曲線が5mまたは2.5mごとに表示されます。
2万5千分1の基本セット:細い線=10m、太い線(計曲線)=50m、補助曲線=5mまたは2.5m。太い線から太い線まで数えれば標高差50m。この3つだけ覚えれば、現場で標高差を暗算できます。
実際の読み方は単純です。登り始める鞍部の計曲線と、目指すピークの計曲線をそれぞれ探し、その間に太い線が何本あるかを数える。太い線3本ぶんなら標高差150mです。細い線まで数える必要があるのは、細かい登り返しが体力にどう効くかを見たいときだけです。
編集部の見立て:現場で毎回1本ずつ数える必要はありません。太い線だけを拾って「50m単位」でつかむ癖をつけると、休憩の判断が速くなります。細い線は「詰まっているか、空いているか」という密度として眺めるだけで十分に機能します。
補助曲線が出てくる場所には意味があります。主曲線の10m間隔では地形の起伏を表現しきれない、つまり傾斜が緩くて線と線のあいだが広く空いてしまう場所です。裏を返すと、補助曲線が密に入っている一帯は緩傾斜地であり、地形の手がかりが乏しく、視界が悪い日には現在地を見失いやすい場所でもあります。
緩やかな台地状の地形、笹原、広い植林帯は、等高線が空いているぶん「地形で位置を特定しにくい」区域です。こうした場所こそ、地図アプリでこまめに現在地を確認する価値が高くなります。
主曲線・計曲線・補助曲線といった用語をまとめて確認したい方は、登山用語の解説もあわせてご覧ください。
等高線の読み方②:5万分1地形図では間隔が変わる
ここが縮尺を分けて書く理由です。5万分1地形図では主曲線が20mごとになります。2万5千分1と同じ「細い線」に見えても、背負っている標高差は倍です。
計曲線については、国土地理院の子ども向け解説ページに「5万分1地形図では、100メートルごとに太くしています」と明記されています。つまり太い線から太い線までが標高差100mです。この数値については、2万5千分1のような表示基準の技術資料ではなく、同機関の解説ページを根拠にしている点を付記しておきます。数値そのものの信頼度は高いものの、出典の性質は読者に開示しておくべきだと考えます。
| 見え方 | 2万5千分1 | 5万分1 | 取り違えると |
|---|---|---|---|
| 細い線1本 | 10m | 20m | 標高差を半分/倍に誤る |
| 太い線1本 | 50m | 100m | 登り返しの見積もりが崩れる |
| 太い線3本ぶん | 150m | 300m | 行動時間の判断を誤る |
「太い線3本ぶんだから150m」という感覚を5万分1の地図に持ち込むと、実際は300mです。標高差300mの登り返しは、多くの方にとって30分から1時間の差になります。数字の取り違えは、そのまま日没との勝負に直結します。
編集部の見立て:この章だけは丸暗記ではなく、地図を開くたびに凡例で確認する運用をおすすめします。人間の記憶は「よく使うほうの数字」に引っぱられます。ふだん2万5千分1を使う方が、たまたま5万分1を手にした日がいちばん危ない。
コースタイムの表示や、標高差から所要時間をどう見積もるかについては、コースタイムの読み方で扱っています。等高線から読んだ標高差を、時間の見積もりに変換する部分がつながります。
縮尺から距離を、等高線から傾斜を見積もる
等高線が読めるようになると、次に効いてくるのが「地図上の長さを実際の距離に直す」作業です。2万5千分1地形図では、図上1mmが地上25mに相当します。つまり図上1cmが250m、図上4cmで1kmです。5万分1なら図上1mmが50m、図上2cmで1kmになります。
距離の暗算:2万5千分1は図上4cmで1km。5万分1は図上2cmで1km。地図の縁にある目盛りや、コンパスのベースプレートに刻まれた定規を当てれば、その場で水平距離が読めます。
この水平距離と、等高線から読んだ標高差を組み合わせると、その区間の傾斜のきつさが見えてきます。たとえば2万5千分1で、水平距離が図上2cm(=500m)のあいだに計曲線を2本またぐなら、標高差100mを水平500mで登ることになります。同じ標高差100mを図上5mm(=125m)で登るなら、傾斜はまったく別物です。
編集部の見立て:「等高線が詰まっている=急」という感覚だけでも実用にはなりますが、水平距離まで見ておくと、休憩をどこで取るかの計画が立てられます。急登の直前に休むのか、抜けきってから休むのかは、この見積もりで決まります。
コンパスを持っていると、この作業が一段と速くなります。ベースプレート型のコンパスには、板の縁に縮尺に対応した目盛りが刻まれているものがあり、地図の上に当てるだけで距離が読めます。整置のために持っている道具が、距離の見積もりにもそのまま使えるわけです。
ここで読めるのは水平距離です。実際に歩く距離は、登り下りのぶんだけ長くなります。また、地図上でまっすぐに見える登山道でも、実際は細かく蛇行していることがあります。読図で出した数字は「下限の目安」として扱ってください。
尾根と谷を等高線の形で見分ける
読図でもっとも実用的なのが、尾根と谷の判別です。どちらも等高線が「く」の字に曲がった形として現れるため、慣れないうちは見分けがつきません。判断の軸はひとつ、ピーク(高い側)に対して、その曲がりがどちらを向いているかです。
高い側から見て等高線が外へ張り出している(凸になっている)方向が尾根です。逆に、高い側へ食い込んでいる(凹んでいる)方向が谷、つまり沢です。等高線の間隔が広い場所は緩傾斜、狭い場所は急傾斜として読む——この密度の読みと組み合わせると、地図上の一点がどんな場所かがかなり絞り込めます。


尾根と谷の見分け:高いほうを基準に、等高線が「出っ張る」方向が尾根、「凹む」方向が谷。線の間隔が広ければ緩傾斜、狭ければ急傾斜。この2軸だけで、地形の8割は読めます。
ここで注意したいのが、水が流れているかどうかで沢を判定しないことです。枯れ沢や、伏流して地表に水が見えない谷は珍しくありません。逆に、雨の直後には尾根の側面にも一時的な流れができます。地形の形として谷であるかどうかは、等高線の向きで判断するのが確実です。
編集部の見立て:道迷いの多くは「下れば里に出る」という発想から谷に入り込むことで深刻化します。等高線の凹凸を読む力は、装備や体力より先に効いてくる安全対策だと考えています。
もう一段踏み込むと、尾根も谷も一本ではないことが見えてきます。主稜線から横に分かれる細い尾根、本流の谷に流れ込む小さな枝谷。地図上では、これらも同じ「凸と凹」として描かれています。道迷いが起きやすいのは、まさにこの分岐の部分です。下りで主尾根から支尾根へ乗り移ってしまうのは典型的な失敗の形で、しかも下っている本人には「順調に高度を下げている」ように感じられます。
だからこそ、下り始める前に地図で「この尾根は途中で何回分かれるか」を数えておく価値があります。分かれる回数がわかっていれば、分岐に出会うたびに残り回数を確認できます。上りでは自然と正しい方向へ収束していくのに対し、下りは選択肢が増えていく一方です。読図の重心は、上りより下りに置くのが実際的です。
編集部の見立て:地図を出す回数を増やすなら、優先すべきは下りです。体力も集中力も落ちていて、しかも分岐が増える。条件がいちばん悪いところに、いちばん手数をかけるべきだと考えています。
実際の地形を見ながら練習するなら、視界の利く低山の稜線がおすすめです。目の前に見えている高まりや窪みを、地図上のどの線に対応するか指で追う。これを何度か繰り返すと、線の形と現地の風景が結びついてきます。
- ピークの位置を先に見つけ、そこを基準に凹凸の向きを判定する
- 等高線の密度で、急斜面と緩斜面をざっくり色分けして見る
- 登山道が尾根を通るのか谷を通るのかを、出発前に把握しておく
- 水の有無で沢を判定しない。形で判定する
磁北線とは——真北とのズレはなぜ地域で違うのか
地図の上方向は真北(地球の自転軸の北)を指します。一方、コンパスの磁針が指すのは磁北で、両者は一致しません。国土地理院の解説によれば、日本付近では磁北が地図の北から西へ数度ずれ、その大きさは場所によって変わります。同じ解説ページでは、ズレの例として札幌市で約9度、那覇市で約5度という値が挙げられています。
この「札幌約9度・那覇約5度」は、あくまで地域差があることを示す例示です。全国の代表値としては使えません。自分が歩く山域の値は、必ず現地の地図または国土地理院の情報で確認してください。本記事でも、全国一律の推奨値は示しません。
偏角はさらに、時間とともにも変化します。国土地理院発行の5万分1・2万5千分1・1万分1地形図には、図葉(地形図の1枚1枚)ごとの偏角値が10分単位で記載されています。公表されている偏角値は2020.0年値(2020年1月1日0時UT)を基準とし、2022年3月以降に刊行された地形図に記載されています。地域で変わり、年でも変わる量である以上、「今は何度」と一つの数字で覚える対象ではありません。
編集部の見立て:偏角を数値で暗記しようとする必要はありません。実務上は「自分の山域の磁北線が引かれた地図を用意する」だけで済みます。数値は地図が持っていてくれる、と考えるほうが現実的です。
磁北線とは、この磁北の方向に沿って地図上に引く平行線のことです。地形図に磁北線が引かれていれば、コンパスの磁針とその線を合わせるだけで、偏角の計算をせずに地図の向きを現地に合わせられます。だからこそ、次章以降で扱う整置の作業は、磁北線が引かれた地図を前提にすると格段に単純になります。
用語の整理:真北=地図の上方向。磁北=コンパスの磁針が指す方向。偏角=その2つのなす角。磁北線=磁北の方向に沿って地図に引かれた線。用語の意味をひととおり確認したい方は登山用語の解説もどうぞ。
整置——地図を回して、現地の北に合わせる
ここからが本題です。まず整置。整置で回すのは地図です。
SUUNTOの公式日本語取扱説明書「SUUNTO MIRROR COMPASSES ユーザガイド」には、「地図を正しい方向に向ける」手順として、①コンパスを水平に保持して磁針の赤が指す北を特定する、②「地図を回して、実際の北と地図の北(地図上部)を一致させる」——と書かれています。回転させる対象は地図の側です。
日本オリエンテーリング協会(公益社団法人)の公式解説も同じ方向を向いています。同協会は整置を「地図を実際と同じ向きにして使うこと」と定義し、その方法について「コンパスを使い、地図の磁北線をコンパスの磁針と平行にすることで整置ができます」と説明しています。磁北線を使うぶんこちらのほうが精密ですが、動かすのが地図であることは変わりません。
整置の定義:地図を実際と同じ向きにして使うこと(日本オリエンテーリング協会)。地図の磁北線とコンパスの磁針を平行にすることで整置ができる。つまり回すのは地図。
整置ができると何が変わるか。同協会の説明によれば、整置によって地図と実際の方向が一致し、地図で読み取った方向をそのまま延長すれば、実際に進むべき方向になります。地図の上で「この分岐は右へ」と読んだとき、その右がそのまま目の前の右になる——これが整置の効き目です。
編集部の見立て:整置をしないまま地図を北向きに固定して読むと、南へ下るコースでは地図上の左右と現地の左右が逆になります。分岐で迷ったとき、この左右の反転は判断を確実に鈍らせます。整置は「上級者の技」ではなく、地図を読む前の下準備です。
なお、SUUNTOの取扱説明書にある「地図を正しい方向に向ける」は、地図の上部を北として扱う簡易な向き合わせです。地点ごとの偏角を数値で補正する手順ではありません。厳密に合わせたい場合は、磁北線が引かれた地図を用意し、日本オリエンテーリング協会の説明どおり磁北線と磁針を平行にする方法をとります。この違いを混同すると、「コンパスで整置すれば偏角も自動で解決する」という誤解につながります。
整置の効き目がもっとも大きいのは、地図の上方向と進行方向が食い違っている場面です。北へ向かって登るときは、地図をそのまま北向きに持っていても左右は一致します。ところが南へ下るときは、地図上の右が現地の左になります。この状態で分岐に立つと、地図では右に分かれているのに現地では左に道が見える、という食い違いが起きます。整置しておけば、この反転そのものが起きません。
整置した地図は「北が上」ではなくなります。文字が横向きや逆さになるため、最初は読みにくく感じます。ただし読みたいのは文字ではなく線の向きなので、慣れれば支障はありません。文字を読むために地図を戻してしまうと、整置の意味が消えてしまいます。
整置は平らな場所で行ってください。コンパスは水平に保持しないと磁針が正しく動きません。また、金属製の手すり、スマートフォン、無線機、車両の近くでは磁針が影響を受けることがあります。周囲を確認してから読み取ってください。
この整置の作業で効いてくるのが、コンパスの「板」の部分です。ベースプレート型と呼ばれる、透明な樹脂板の上に回転盤(カプセル)が載った形のコンパスは、地図の上に直接置いて、板ごしに地図の線を見ながら向きを合わせられます。板が不透明だと、コンパスを載せた瞬間に肝心の等高線や磁北線が隠れてしまいます。
SILVA コンパス エクスペディション 37448は、まさにこのベースプレート型のコンパスです。透明な板を地図の上に重ねたまま、下の磁北線と磁針の向きを同時に見ながら地図を回せるため、整置の一連の動作が板を持ち上げずに完結します。地図から目を離さずに済むことは、風の強い稜線や、手袋をしたままの操作で効いてきます。読図を「地図の上で完結する作業」にしたい方に向く型です。
目的地への方位をセットする——ここで回すのはカプセル
前章とは別の作業です。整置が「地図を現地に合わせる」ことなのに対し、こちらは「地図上のA地点からB地点へ進む方向を、コンパスに記憶させる」作業です。ここで回すのはコンパスのカプセル(回転盤)です。
SUUNTOの公式取扱説明書「地図とコンパスを用いたナビゲーション」では、地図上の出発点Aと目的地Bの間にコンパスを当て、「方向線が地図の経線と平行になるまでカプセルを回す」と説明されています。地図はテーブルの上でも膝の上でも、置いたまま動かしません。動くのはカプセルだけです。
| 場面 | 回すもの | 目的 |
|---|---|---|
| 整置(地図を現地の北に合わせる) | 地図を回す | 地図の上下左右と、目の前の風景の上下左右を一致させる |
| 目的地への方位をセットする | カプセルを回す | A地点からB地点へ向かう角度をコンパスに固定する |
編集部の見立て:この記事でいちばん伝えたいのがこの表です。ネット上の解説では「整置」と「方位のセット」がひと続きの手順として書かれていることがあり、そのまま覚えると現場で必ず手が止まります。目的が違う別の作業だと理解しておけば、混乱しません。
2つの作業は順番に使うこともあります。まず整置で地図を現地に合わせて、いま見えている地形と地図の対応を確認する。次に、進むべき目的地への方位をカプセルにセットして、視界が悪くなっても方向を保てるようにする。目的が違うからこそ、順番に並べても矛盾しません。
「方向線」はベースプレートに刻まれた進行方向を示す線、「カプセル」は磁針が入った回転する円盤部分を指します。製品によって呼び方が異なることがあるため、手元のコンパスの説明書で名称を確認しておくと、解説を読むときに迷いません。
方位をセットしておく価値が出るのは、視界が失われたときです。ガスに巻かれたり、樹林帯で目標が見えなくなったりすると、人間の感覚だけで直進を保つのは難しくなります。カプセルに角度を固定してあれば、磁針を基準に同じ方向を保ち続けられます。逆に言えば、視界が利いていて目標物が見えているうちは、方位のセットまでしなくても整置だけで足りる場面が多くあります。
編集部の見立て:一般登山道を歩くかぎり、方位セットの出番はそう多くありません。ただし「出番が少ない=覚えなくてよい」ではないのが厄介なところです。必要になるのは決まって視界も余裕も失われている場面なので、平時に手順を通しておく意味があります。
SUUNTOの説明で「経線と平行に」とされている部分は、地図の真北を基準にした操作です。磁北線が引かれた地図を使う場合と、経線(真北)を基準にする場合とでは、偏角のぶんだけ扱いが変わります。自分の地図にどちらの線が引かれているかを、作業の前に必ず確認してください。
地理院地図で磁北線を表示する手順
自分が歩く山域の磁北がどちらを向いているかは、国土地理院が公開しているウェブ地図「地理院地図」で確認できます。地理院地図では「ツール」→「その他」→「磁北線」の操作で、指定した地図範囲に磁北線を重ねて表示できます。
- 地理院地図を開き、歩く予定の山域を画面に表示する
- 画面上部の「ツール」を選び、「その他」の項目へ進む
- 「磁北線」を選ぶと、表示中の地図範囲に磁北線が重なる
この機能の便利なところは、偏角の数値を自分で調べて分度器で線を引く必要がない点です。地図の側が、その範囲に応じた磁北の向きを線として描いてくれます。表示させた状態で印刷すれば、磁北線入りの紙地図がそのまま手に入ります。
編集部の見立て:出発前夜の準備として、これは費用ゼロで効果が大きい部類の作業です。磁北線が引かれているかどうかで、現地でのコンパス作業の手数が変わります。印刷まで含めて10分もかかりません。
国土地理院が発行する地形図そのものにも、図葉ごとの偏角値が10分単位で記載されています。ただし前述のとおり、その値は2020.0年値を基準とし、2022年3月以降に刊行された地形図に記載されるものです。手元の地図がいつ刊行されたものかによって、記載の有無や基準時が変わる点は頭に入れておいてください。
国土地理院は、地磁気の値を計算・照会できるページも公開しています。特定地点の偏角を数値で知りたい場合は、そちらを使うと確実です。全国一律の値を暗記するのではなく、「必要になったら公式の計算ページで引く」という運用が、時間による変化にも対応できます。
コンパスの選び方——最初の1本をどう決めるか
読図に使うコンパスは、腕時計や電子機器の方位表示ではなく、地図の上に置いて使えるベースプレート型が基本になります。ここまで見てきた整置も方位セットも、透明な板を地図に重ねる前提で組み立てられているためです。
| 確認したい点 | なぜ効くか | 読図での使いどころ |
|---|---|---|
| ベースプレートが透明 | 置いたまま地図の線が見える | 整置・方位セットの両方 |
| カプセルが回る | 方位を角度として固定できる | 目的地への方位セット |
| 目盛りが読める大きさ | 薄暗い樹林帯でも判読できる | 現場での読み取り全般 |
もう一つ、購入時に見落とされやすいのが「日本正規品かどうか」です。同じ型番でも並行輸入品と正規品では、日本語の取扱説明書やメーカー保証の扱いが異なることがあります。この記事でくり返し参照しているSUUNTOの日本語取扱説明書のように、公式の日本語ドキュメントを前提に手順を覚えるなら、正規流通のものを選ぶほうが情報がそろいます。
スント コンパス A-10NHは、日本正規品としてメーカー保証がつく形で流通しているベースプレート型です。整置に必要な透明な板と、方位をセットするための回る回転盤という、この記事で扱った作業の両方に必要な要素は満たしています。一方で、ミラー(鏡)付きモデルのような遠くの目標を精密に照準する機構や、傾斜角を測る機能は備えていません。まず読図の基本動作を身につける最初の1本として持ち、必要になった時点で用途を足していく——という位置づけの製品です。
編集部の見立て:最初から高機能なモデルを選ぶ必要はありません。整置と方位セットができれば、低山から中級山岳の一般登山道でやることはほぼ足ります。むしろ「軽くて、いつもザックに入っている」ことのほうが、機能の多さより効いてきます。
コンパスはスマートフォンやモバイルバッテリー、金属製品と一緒のポケットに入れると磁針が乱れることがあります。ザックの別ポケットに分けて収納し、読み取りの直前にそれらから離すようにしてください。
紙地図の持ち方——雨と折り目から守る
地理院地図から印刷した地形図も、市販の登山地図も、そのままザックに入れると2つの敵にさらされます。雨と、折り目です。
雨に濡れた紙は、印刷面がにじみ、等高線の細い線から先に読めなくなります。行動中に地図を出す場面は、たいてい天気や視界が悪くなったときです。いちばん地図が必要な瞬間に、いちばん地図が濡れやすいという構造があります。
折り目のほうは地味ですが、読図には確実に効いてきます。折り目にちょうど尾根や分岐が乗ってしまうと、線が途切れて見え、地形の連続性が読み取れなくなります。折りたたんだ状態でザックに入れて出し入れを繰り返すと、折り目の部分から破れていきます。
編集部の見立て:地図ケースは「濡れ対策のグッズ」として語られがちですが、実際は読図の精度を保つ道具です。紙が波打ったり折り目で切れたりしていない地図は、それだけで線が追いやすくなります。
HAMILO マップケース 防水 地図ケース 4個セットは、折り畳み式で両面がクリアになった地図ケースです。雨から紙地図を守るという基本の役目に加えて、両面が透明であることが読図中に効いてきます。地図を裏返して使う場面——たとえば往路と復路で別のエリアを見たい、あるいは表面に印刷したコースと裏面のメモを見比べたいといったときに、ケースから出さずに済みます。ケースを開けて紙を触る回数が減るほど、濡れる機会も折り目が増える機会も減ります。4個セットなので、山域ごとに入れっぱなしにしておく使い方もできます。
- 印刷した地形図は、行動中に見る範囲が表になるよう折ってからケースに入れる
- 折り目が分岐や尾根の分かれ目に乗らないよう、折る位置をずらす
- 予備としてもう1部を、ザックの奥にジップ袋で入れておく
- コンパスを載せる面が平らになるよう、ケースの上でしわを伸ばす
紙地図そのものの入手方法や種類の選び方は、登山用の紙地図の選び方で扱っています。
地図アプリ(GPS)と紙の地図・コンパスを併用する
ここまで紙とコンパスの話が続きましたが、地図アプリを使わない前提ではありません。むしろ、読図の練習をいちばん効率よく回せるのは、アプリで答え合わせができるからです。
具体的な回し方はこうです。まず紙の地形図とコンパスで「いまここにいるはずだ」と推定する。次にアプリを開いて現在地を確認する。合っていれば読図の感覚が正しいと確認でき、ずれていればどの手がかりを読み違えたかがその場でわかります。推定してから答えを見るという順番を守るだけで、練習の密度がまったく変わります。
三者の役割分担:地図アプリ=現在地の特定。紙の地形図=周囲の地形の全体像。コンパス=地図と現地の向きの一致。どれかがどれかを代替するのではなく、担当が違います。
編集部の見立て:先にアプリを見てしまうと、読図は永久に上達しません。「推定→確認」の順番を守れるかどうかだけが、経験の蓄積速度を決めています。逆に言えば、アプリを持っているからこそ安全に練習できるとも言えます。
アプリ側の準備として最低限やっておきたいのは、オフラインでも地図が表示される状態にしておくことと、バッテリーの残量管理です。地図アプリの選び方や設定の詳細は登山地図アプリの選び方と使い方にまとめています。また、アプリが表示するコースタイムをどう解釈するかはコースタイムの読み方が参考になります。
アプリと紙で表記が食い違う場面もあります。登山道の付け替え、崩落による迂回路、廃道化した旧道などです。どちらが正しいかを現地で断定するのは難しいため、こうした場所では「地図の表記が分かれている区間だ」と認識したうえで、無理に進まない判断が優先されます。
電子地形図25000の入手方法
紙の地形図を手に入れる方法のひとつが、国土地理院の「電子地形図25000」です。範囲を指定してオンラインで購入し、印刷して使う形式のもので、A4・A3・A2判の定形図郭版が用意されています。
価格については、A4・A3・A2判(定形図郭版)のオンライン購入で税込483円です。この価格は令和8年4月1日改定のもので、2026年8月20日時点の公表内容です。料金は改定されることがあるため、購入前に国土地理院の公式ページで最新の案内を確認してください。
編集部の見立て:地理院地図の画面から磁北線入りで印刷する方法と、電子地形図25000を購入する方法は、どちらか一方が正解というものではありません。手軽さを取るなら前者、印刷品質と図郭の整った体裁を取るなら後者、という選び分けになります。
市販の登山地図との使い分けについては、繰り返しになりますが用途が違います。国土地理院の地形図は地形の正確な記録に強く、市販の登山地図はコース情報や所要時間の目安に強い。両方を持って行く登山者も珍しくありません。詳しくは登山用の紙地図の選び方をご覧ください。
本記事では、市販の登山地図の最新版の価格・発売日・仕様については触れていません。版によって内容が変わり、対象を特定しないまま数値を書くと誤りになるためです。購入時は各出版社の最新の案内でご確認ください。
読図が効いてくる場面と、効かない場面
読図は万能ではありません。効く場面と効きにくい場面を分けて理解しておくと、技術に過信せずに済みます。
効くのは、地形に特徴がある場所です。尾根が明瞭に分かれる分岐、鞍部、急に傾斜が変わる地点、沢の合流点。こうした場所では地図の線と現地の風景が一対一で対応し、現在地の推定がよく当たります。
もう一つ効くのが、地形が「1つしかない」場所です。たとえば細い痩せ尾根や、両側を沢に挟まれた区間は、地図上でも現地でも取り違えようがありません。こうした場所を通過したら、そこを基準点として記憶しておく。次に現在地が怪しくなったとき、「あの痩せ尾根から何分歩いたか」で位置を絞り込めます。
効きにくいのは、地形が平坦で特徴に乏しい場所です。広い台地状の樹林帯、笹原、雪面。等高線が空いていて手がかりが少なく、視界も利かない。こうした場所では、読図より地図アプリでの現在地確認と、方位をセットしたコンパスで直進性を保つことのほうが実質的に効きます。
編集部の見立て:「読図ができれば道に迷わない」とは言えません。読図ができると、迷いかけていることに早く気づけて、引き返す判断が早くなる。効果はそこにあると考えています。
ソロで歩く場合は、判断を分担できるパートナーがいないぶん、これらの手順を自分の中で完結させる必要があります。ソロ登山の注意点もあわせて確認しておくと、準備の抜けを減らせます。また、登山道の目印であるテープ類との付き合い方については登山道のピンクテープの意味で扱っています。テープは公式の道標ではないため、読図と組み合わせて解釈する対象です。
歩く山の難易度そのものを見積もる話は、読図とは別の軸です。ただし、地形図を眺めて「等高線が詰まった区間が長い」「尾根が細かく分かれている」と読めていれば、そのコースが自分に合っているかの判断材料になります。読図は計画段階から効いてきます。
読図の練習の積み方——低山でできること
読図は座学だけでは身につきません。ただし、練習のためにわざわざ難しい山へ行く必要もありません。むしろ、視界が利いて、道がはっきりしていて、いつでも引き返せる低山のほうが練習には向いています。間違えても危険にならない条件でこそ、間違いから学べます。
最初にやることは、歩き出す前に地図を1分だけ眺めることです。今日のコースがどこで尾根に乗り、どこで沢を渡り、どこが一番の登りかを、線の形から予想しておく。予想を持って歩くと、現地の風景が「答え合わせ」として頭に入ってきます。予想を持たずに歩くと、風景は流れていくだけです。
編集部の見立て:読図が上達しない最大の原因は、才能でも知識量でもなく、「地図を出す回数が少ない」ことです。1回の山行で3回しか出さない人と、10回出す人とでは、1年で30回ぶんの差がつきます。
次の段階が、地形の変化点で立ち止まる習慣です。傾斜が変わったところ、尾根が広がったところ、分岐、鞍部。こうした場所は地図の線にも必ず変化として現れているので、対応づけの練習にちょうどよい。逆に、単調な登りの途中で地図を出しても、手がかりが少なく練習になりません。
- 出発前に、コース全体の起伏を線の形から予想しておく
- 傾斜の変化点・分岐・鞍部で立ち止まり、地図と風景を対応づける
- 推定してからアプリを開く。順番を逆にしない
- 整置を毎回やる。慣れるまでは面倒でも省略しない
- 外れたときこそ、どの手がかりを読み違えたかをその場で確かめる
もうひとつ有効なのが、下山後の振り返りです。地図アプリに残った軌跡と、当日使った紙の地形図を並べて見る。自分が「ここが尾根の分かれ目だと思った」場所が実際どうだったかを、あとから確認できます。現地では時間や体力の制約で確かめきれないことも、家に帰ればゆっくり照合できます。
練習の記録を残すなら、間違えた地点だけをメモしておくと効率的です。「広い尾根で方向を1本間違えた」「植林帯で現在地を見失った」といった記録が数回たまると、自分が苦手な地形の型が見えてきます。
よくある質問
Q. 整置のとき、回すのは地図とコンパスのどちらですか
地図です。SUUNTOの公式取扱説明書では「地図を回して、実際の北と地図の北(地図上部)を一致させる」と説明されています。日本オリエンテーリング協会も、整置を「地図を実際と同じ向きにして使うこと」と定義し、「コンパスを使い、地図の磁北線をコンパスの磁針と平行にすることで整置ができます」と説明しています。カプセルを回すのは、目的地への方位をセットする別の場面です。
Q. 2万5千分1と5万分1では、等高線の何が違いますか
間隔が違います。2万5千分1は主曲線が10mごと、計曲線が50mごとです。5万分1は主曲線が20mごとで、計曲線は国土地理院の解説ページによれば100mごとです。同じ「太い線1本ぶん」でも、標高差は50mと100mで倍違います。
Q. 磁北のズレは何度と覚えればよいですか
全国一律の1つの数値では覚えられません。日本付近では磁北が地図の北から西へ数度ずれますが、その大きさは場所によって変わります。国土地理院の解説では、例として札幌市で約9度、那覇市で約5度という値が挙げられています。また、地形図に記載されている偏角値は2020.0年値を基準としており、時間とともにも変化します。自分の山域の値は、地理院地図の磁北線表示機能や、国土地理院の地磁気の計算ページで確認してください。
Q. 補助曲線はどんなときに出てきますか
2万5千分1地形図では、主曲線だけでは表しにくい緩傾斜地などに、5mまたは2.5mごとに表示されます。補助曲線が入っている一帯は傾斜が緩い場所であり、地形の手がかりが乏しく現在地を見失いやすい区域でもあります。
Q. 沢かどうかは水が流れているかで判断してよいですか
いいえ。枯れ沢や伏流している谷があるため、水の有無では判断できません。ピーク(高い側)に対して等高線が凹んでいる方向が谷、出っ張っている方向が尾根、という等高線の形で判断してください。
Q. 地図アプリがあれば、紙の地形図とコンパスは不要ですか
役割が違うため、どちらかで置き換えることはできません。地図アプリは現在地の特定に強く、紙の地形図は周囲の地形の全体像をつかむのに強く、コンパスは地図と現地の向きを一致させます。またアプリは端末の故障やバッテリー切れという弱点を持つため、紙とコンパスは冗長系としても機能します。
Q. 地理院地図で磁北線を表示するにはどうしますか
「ツール」→「その他」→「磁北線」の順に選ぶと、指定した地図範囲に磁北線が重ねて表示されます。その状態で印刷すれば、磁北線入りの紙地図が用意できます。
Q. 2万5千分1の地図で、図上の長さから距離を出すには
2万5千分1地形図では図上1mmが地上25mに相当するため、図上1cmが250m、図上4cmが1kmです。5万分1なら図上1mmが50mなので、図上2cmで1kmになります。ただしこれは水平距離であり、登り下りのぶんだけ実際に歩く距離は長くなります。
Q. 読図はどこで練習すればよいですか
視界が利いて、道がはっきりしていて、いつでも引き返せる低山が向いています。傾斜の変化点・分岐・鞍部といった地形の変化がある場所で立ち止まり、地図の線と目の前の風景を対応づけてください。判断を誤っても危険にならない条件でこそ、誤りから学べます。
Q. コンパスで整置すれば、偏角も自動的に補正されますか
されません。SUUNTOの取扱説明書にある「地図を正しい方向に向ける」は、地図の上部を北として扱う簡易な向き合わせであり、地点ごとの偏角を数値で補正する手順ではありません。偏角を反映させたい場合は、磁北線が引かれた地図を用意し、磁北線と磁針を平行にする方法をとります。
まとめ——道に迷わないための備え
読図は、覚えることの数は多くありません。縮尺ごとの等高線の間隔、尾根と谷の見分け、そして「整置では地図を回し、方位のセットではカプセルを回す」という区別。この3つを外さなければ、地図から読み取れる情報は一気に増えます。逆に、この3つのどれかを取り違えたまま量をこなしても、間違った読み方が固まるだけです。最初に押さえる順番としては、まず縮尺の確認、次に整置、最後に方位のセットという並びが無理がありません。
- 出発前夜に、地理院地図で歩く山域を表示し、「ツール」→「その他」→「磁北線」で磁北線を出して印刷する
- 印刷した地図を折り目が分岐に乗らないよう折り、防水の地図ケースに入れる
- 当日は、特徴のある地点ごとに「紙とコンパスで推定→アプリで確認」を数回繰り返す
この記事の結論:等高線は縮尺ごとに数値を分けて覚える。整置で回すのは地図、方位セットで回すのはカプセル。偏角は暗記せず、磁北線入りの地図に持たせる。
編集部の見立て:読図を身につけても、道に迷うことはあります。地図が古い、道が付け替わっている、視界が完全に閉ざされる——技術ではどうにもならない条件は必ずあります。読図の価値は「迷わない」ことではなく「迷ったと早く気づける」ことにあります。
実際に迷ってしまったとき、その場で何をすべきか、どこまで戻るべきか、いつ救助を要請するかについては、登山で道に迷ったときの対処法にまとめています。読図は予防、こちらは対処です。両方をあらかじめ読んでおくことが、いちばん確実な備えになります。
本記事の数値・手順は、国土地理院、SUUNTO公式取扱説明書、日本オリエンテーリング協会の公開資料にもとづく2026年8月20日時点の内容です。特定の山域の通行状況やコースタイムについては扱っていません。入山前には、必ず自治体や山小屋の最新情報を確認してください。
出典
- 国土地理院「2万5千分1地形図」 https://www.gsi.go.jp/KIDS/map-index/map-25.htm (確認日 2026年8月20日)
- 国土地理院「地図記号 計曲線」 https://www.gsi.go.jp/KIDS/map-sign-tizukigou-2022-keikyokusen.htm (確認日 2026年8月20日)
- 国土地理院「よくある質問」 https://www.gsi.go.jp/kohokocho/FAQ3.html (確認日 2026年8月20日)
- 国土地理院 表示基準資料 https://www.gsi.go.jp/common/000218185.pdf (確認日 2026年8月20日)
- 国土地理院「方位と磁北」 https://maps.gsi.go.jp/help/intro/school/houijihoku.html (確認日 2026年8月20日)
- 国土地理院「地形図に記載される偏角」 https://vldb.gsi.go.jp/sokuchi/geomag/menu_04/index.html (確認日 2026年8月20日)
- 国土地理院「地図の購入」 https://www.gsi.go.jp/MAP/kounyu.html (確認日 2026年8月20日)
- 日本スポーツ振興センター 登山研修 読図資料 https://www.jpnsport.go.jp/tozanken/Portals/0/kougisiryou/H24dokuzu2.pdf (確認日 2026年8月20日)
- Suunto Oy「SUUNTO MIRROR COMPASSES ユーザガイド」 https://ns.suunto.com/Manuals/MCA/Userguides/SUUNTO_MIRRORCOMPASSES_UG_JA.pdf (確認日 2026年8月20日)
- 公益社団法人日本オリエンテーリング協会「コンパス・地図を使った進路の維持」 https://www.orienteering.or.jp/ni/navigationstandard/pocketguide05.html (確認日 2026年8月20日)
