両神山1,723mは「秩父の低山」ではない|日向大谷と八丁尾根の差

※本記事にはプロモーション(広告)が含まれます。

両神山の標高は1,723mです。小鹿野町の公式ページに載っている数字で、関東の山としては飛び抜けて高いわけではありません。そこに「秩父」という地名が重なると、多くの人の頭の中で行程が勝手に軽くなります。日帰りで、朝出て夕方には温泉、というイメージが先に立ちます。

ところが、同じ山について埼玉県警が書いている文章を読むと、印象がずれます。日向大谷口からのコースについては、鎖場での三点支持や、鎖を補助として使うこと、ストックを収納すること、濡れた岩と鎖に注意することを呼びかけています。一方で八丁尾根については、鎖場が連続する岩稜帯であり、熟達者向けの非常に危険なコースだと書いています。同じ山の中で、注意喚起の対象と、熟達者向けという位置づけが並んでいます。

この記事は、その書き分けを骨組みにしています。標高の数字からではなく、行政が公表している文言と、公表されている遭難の実績から両神山を見ます。両神山でつまずくとしたら、原因は標高の高さではなく、道の内訳のほうです

なお、アクセス(駐車場や町営バスの使い方)と、鎖場で手をどう使うかという通過の技術は、それぞれ別の記事が担当します。ここでは「どちらのルートに入るか、そもそも入るかどうか」を決めるための材料に絞ります。

  • 標高1,723mという数字と、埼玉県警の説明文言が食い違って見える理由
  • 日向大谷ルートには公式の所要時間が約7.4時間(小鹿野町観光協会)としてあり、区間別の時間は公式に存在しないこと
  • 八丁尾根が「鎖場が連続する岩稜帯・熟達者向けの非常に危険なコース」と埼玉県警に書かれていること
  • 埼玉県には公式の山岳グレーディング表が無く、「上級」「中級」というラベルを行政の裏づけとして使えないこと
  • 令和6年に八丁尾根で2件の遭難が起き、2人が亡くなっている(埼玉県警公表)という事実
  • 2026年6月時点で上落合橋登山口―山頂、坂本―八丁峠などが当面の間・期間未定で通行止めであること
  • 清滝小屋に泊まれるかどうかは公式に現況の記載が無く、宿泊を前提に計画を組めないこと
  • 帰りの最終便と日没から、山頂の門限(引き返し時刻)を逆算する手順

両神山を「秩父の低山」から読み始めない

山を選ぶとき、多くの人が最初に見るのは標高です。1,723mという数字は、3,000m級と並べれば低く、近所の裏山と並べれば高い、という中間の位置にあります。そして「秩父」という地名が、この数字をさらに軽い側へ引っ張ります。日帰り圏で、地図帳では東京の近くにあり、県境の奥という感じがしない。この二つが重なって、両神山は実際より易しい山として記憶されやすい山です。

この記事の出発点:両神山の難しさは、登る高さではなく、道の途中に何があるかで決まります。埼玉県警は日向大谷口コースについて鎖場での三点支持を呼びかけ、八丁尾根については鎖場が連続する岩稜帯で熟達者向けの非常に危険なコースだと書いています(小鹿野警察署 山岳情報、2026年6月19日更新/2026年9月7日確認時点)。同じ山の中で、注意喚起の対象と熟達者向けという二段階の書き方が並んでいるのが両神山です

編集部の見立て:両神山の記事を書くとき、いちばん危ないのは「1,723mだから日帰りで軽く」という導入です。読者は標高から所要時間と難度を推測する癖があります。両神山ではその推測が外れます。だから最初の節で、標高の話を早々に切り上げて、公式文言の話に移すのが正しい順番だと考えています。

両神山は秩父多摩甲斐国立公園の区域内にあります。国立公園というと、それだけで整備が行き届いているように読めますが、区域指定は自然環境の保護のための区分であって、登山道の難易度とは別の話です。国立公園だから安全、という読み替えは成り立ちません。

基本データを、一次情報だけで並べておきます。二次情報にはもっと細かい数字が載っていますが、この記事では公式に確認できたものだけを表に入れています。

項目 値・内容 出典(2026年9月7日確認)
山名・標高 両神山、標高1,723m 小鹿野町
公園区分 秩父多摩甲斐国立公園の区域内。小鹿野町は関係市町村 環境省
メインルートの公式名称 日本百名山 両神山 日向大谷コース 小鹿野町観光協会
日向大谷コースの所要時間 約7.4時間(往復・全体の目安) 小鹿野町観光協会
八丁尾根の位置づけ 鎖場が連続する岩稜帯。熟達者向けの非常に危険なコース 埼玉県警(2026年6月19日更新)

この表に「標高差」の行がないのは、意図的です。確認した公式ページに日向大谷登山口の標高が載っておらず、山頂の1,723mから引き算する材料がありません。二次情報には標高差の数字が出ていますが、出所をたどれないため、この記事では書きません。標高差を知りたい場合は、自分が使う地形図アプリの値を、あくまでそのアプリの値として扱ってください。

両神山の2つの道。左に項目、右に値・条件を並べた対応表の図解。両神山の標高=1,723m(小鹿野町の公表値)/日向大谷の所要=約7.4時間(往復の目安。小鹿野町観光協会)/八丁尾根の位置づけ=熟達者向けの非常に危険なコース(埼玉県警)/令和6年の遭難=八丁尾根で2件・死亡2人(埼玉県警の公表)/通行止め区間=上落合橋口〜山頂ほか、当面の間(埼玉県)。図の下部に「小鹿野町・埼玉県・埼玉県警の公表値(2026年9月7日確認)」と注記。
両神山の2つの道。左に項目、右に値・条件を並べた対応表の図解。両神山の標高=1,723m(小鹿野町の公表値)/日向大谷の所要=約7.4時間(往復の目安。小鹿野町観光協会)/八丁尾根の位置づけ=熟達者向けの非常に危険なコース(埼玉県警)/令和6年の遭難=八丁尾根で2件・死亡2人(埼玉県警の公表)/通行止め区間=上落合橋口〜山頂ほか、当面の間(埼玉県)。図の下部に「小鹿野町・埼玉県・埼玉県警の公表値(2026年9月7日確認)」と注記。

数字が足りないことを、そのまま書いておくのには理由があります。両神山は、インターネット上に情報が多い山です。多いぶん、どれが行政の公表値で、どれが個人の記録から広まった値なのかが混ざっています。出所をたどれない数字を信じて計画を立てると、ずれたときに原因が分かりません

「公式のグレーディングが無い山を、どう自分の力量と突き合わせるか」という考え方そのものについては、山岳グレーディングの読み方をまとめた記事で整理しています。両神山のように県の一覧表が存在しない山では、この枠組みを自分で当てはめる作業が必要になります。

日向大谷ルート ―― 公式の数字は「約7.4時間」ひとつだけ

両神山のメインルートは、日向大谷口から入るコースです。小鹿野町観光協会は「日本百名山 両神山 日向大谷コース」という名称で掲載しており、所要時間を約7.4時間としています(2026年9月7日確認時点)。これは往復・全体の目安として示されている値です。

ここで大事なのは、公式に確認できる時間の情報が、この一つしかないという点です。会所まで何分、清滝小屋まで何分、産泰尾根で何分、といった区間別のコースタイムは、小鹿野町・埼玉県警のいずれの公式資料にも載っていません。したがってこの記事でも書きません。

編集部の判断:区間別のコースタイムを書かないのは、読者に不便を強いる選択です。書けばページとしては親切に見えます。ただ、その数字の出所が個人の記録の平均値だとすると、計画の途中で「予定より遅れている」と焦る根拠が、実は誰の記録でもない数字になります。焦りは判断を狂わせます。だから、無い数字は無いと書くほうを選びました。

約7.4時間、つまり7時間24分という値をどう読むかを整理します。一般に、この種の目安値は歩いている時間として示され、休憩・撮影・道迷いによる引き返し・鎖場での順番待ちは含まれていないと考えるのが安全です。両神山は人気のある山なので、上部の鎖場では前の人の通過を待つ時間が発生します。

7時間24分の扱い方:公式の約7.4時間を「動いている時間」とみなし、これに休憩と待ち時間を足したものが、実際に登山口を離れている時間になります。休憩を合計60分、鎖場での待ちを20分と置くだけで、現地で拘束される時間は8時間44分まで伸びます。日帰りの計画は、7.4時間ではなくこの伸びた値で組みます。

二次情報の所要時間には幅があります。調査の過程で確認した範囲では、6時間ちょうどとするページから、7時間46分とするページまで開きがありました。どれが間違いという話ではなく、計測の前提が違うだけです。ただ、前提が書かれていない数字を計画に採り込むと、自分がどちらの前提で歩いているのか分からなくなります。この記事では一次情報の約7.4時間だけを採用します。

「7.4時間なら、朝8時に出れば15時半には戻れる」という単純な足し算をしないでください。休憩と待ち時間を足すと、その計算は1時間以上ずれます。さらに、下りで疲労が出た場合、下りのほうが遅くなるのが普通です。往路で使った時間と同じ時間で帰れる前提は、日帰り登山でいちばん多い計算間違いです。

コースの途中には、会所、清滝小屋、産泰尾根といった地名が並びます。これらの名前は資料や地図に出てきますし、現地の道標にも出ます。ただし、そこまで何分かかるという公式の時間は付いていません。つまり、歩いている最中に「予定より早いのか遅いのか」を判定する公的な基準点が、この山には用意されていないということになります。

この状態でペース管理をするには、区間の名前ではなく時刻そのものを基準にするしかありません。たとえば「9時にどこにいるか」ではなく、「11時になったら、そこがどこであっても状況を確認する」という形で、時計のほうを基準に置きます。区間の目安が無い山では、地名ではなく時刻で自分の位置を管理します

公式のコースタイムが区間別に公表されている山では、この管理はもっと楽になります。行程を区間に分け、各区間で自分が公式値の何倍かかったかを計算すれば、その日の自分の調子が数字で出るからです。両神山では、その分割の材料そのものが公式に無いという前提で計画してください。過去に登った別の山で「公式値の何倍で歩く人か」を把握しておくと、全体の約7.4時間を自分の値に置き換えられます。

日向大谷ルートは、標高だけを見れば穏当な山道に見えます。ただし埼玉県警は、このコースについても鎖場での注意喚起を出しています。三点支持を守ること、鎖はあくまで補助として使うこと、ストックは収納すること、濡れた岩と鎖に注意すること。この注意喚起は、滑落遭難を受けて出されたものだと同じページに書かれています(2026年6月19日更新/2026年9月7日確認時点)。

編集部の見立て:「ストックは収納」という一文は、地味ですが決定的だと思っています。ストックを持ったままでは通過できない区間がある、という意味だからです。裏返せば、この山の上部は、両手が空いていないと成り立たない地形が含まれているということになります。装備リストの話ではなく、地形の話としてこの一文を読むべきです。

八丁尾根 ―― 埼玉県警の一文をそのまま読む

八丁尾根については、埼玉県警の小鹿野警察署が公表している山岳情報に、鎖場が連続する岩稜帯であり、熟達者向けの非常に危険なコースであるという趣旨が明記されています(2026年6月19日更新/2026年9月7日確認時点)。この文言を、言い換えずにそのまま置いておきます。

行政の文章は、通常かなり抑制的に書かれます。その文体の中で「非常に危険」という語が使われ、対象が熟達者向けだと限定されている。これは、一般的な登山者に向けた案内ではないという意思表示として読むのが自然です。

「鎖場が連続する」の「連続」を軽く読まないでください。鎖場が1か所であれば、そこを越えれば終わりです。連続する場合、緊張が続き、途中で「やっぱりやめる」と決めても、引き返す動作そのものが登るのと同じかそれ以上に難しくなります。連続という言葉が示しているのは、難度の高さと同時に、途中で撤退する自由が減るという構造です。

八丁尾根については、2026年6月時点で複数の区間が通行止めとして公表されています。詳細は後述しますが、現時点で「行くかどうか」を検討する対象になっていない区間が含まれます。行けるかどうかを、地図アプリや個人の登山記録の日付だけで判断しないでください。

編集部の判断:この節には、道具の話も、通過のコツの話も書きません。鎖の握り方やヘルメットの選び方を書くと、読んだ人は「準備すれば行ける」と受け取ります。埼玉県警が書いているのは準備の不足ではなく、対象読者の限定です。ここで扱うべきなのは、入るかどうかの判断だけだと考えています。

撤退の自由が減る、という点はもう少し具体的に書いておく価値があります。登りで鎖を使って越えた段差は、下りでは足元が見えない状態で降りることになります。登るときは目の前に岩があり、手をかける場所が見えます。降りるときは体の下に岩があり、足を置く場所を目で確認できません。同じ一か所でも、登りより下りのほうが難しくなるのが鎖場の基本的な性質です。それが連続するということは、途中で引き返す判断をした人ほど、難しい動作を多く強いられるということです。

この構造があるため、鎖が連続する尾根では「行けるところまで行って、無理そうなら戻る」という計画が成り立ちにくくなります。判断は、取りつく前に済んでいる必要があります。埼玉県警が対象読者を熟達者に限定して書いているのは、この性質と無関係ではないはずです。

もう一点、この山を検索したときに出てくる情報の性質に触れておきます。地図系・観光系のサイトの一部は、八丁尾根を通常のコースとして掲載しています。それらのページが誤っているというより、行政の公表が更新されたあと、二次サイトの更新が追いついていない可能性があります。同じ山の情報でも、更新の速さは公表主体によって違います

鎖場が連続する尾根がどういうものか、感覚として先に掴んでおきたい場合は、同じく鎖と岩で構成される山を扱った妙義山の記事が参考になります。ただしこれは「予習すれば八丁尾根に行ける」という意味ではありません。自分がどのくらい岩に慣れていないかを、先に把握するための材料です。

難度差を「上級」「中級」で言わない理由

両神山の解説を読むと、日向大谷を中級、八丁尾根を上級とラベル付けしているページがあります。分かりやすい整理です。ただしこの記事ではそのラベルを使いません。理由は単純で、埼玉県には公式の山岳グレーディング表が現時点で存在しないからです。

長野県・山梨県・群馬県などは、県として体力度と技術度を数値化した一覧表を公表しています。登山者はその表を見て、自分が過去に登った山と比べることができます。埼玉県については、県としての正式な公表を確認できていません(2026年9月7日確認時点)。つまり、両神山に「上級」と付けたとき、その根拠になる行政の表が無いということです。

ラベルの代わりに使うもの:埼玉県公式のグレーディングが無い以上、難度差の根拠として使えるのは、(1)埼玉県警の説明文言の差、(2)公表されている遭難の実績、(3)現在の通行止めの有無、の三つです。数値化された難度スコアではなく、行政が実際に書いた言葉の差で線を引きます

比べる観点 日向大谷ルート 八丁尾根ルート
埼玉県警の書き方 鎖場での三点支持、鎖は補助、ストック収納、濡れた岩と鎖への注意(注意喚起) 鎖場が連続する岩稜帯。熟達者向けの非常に危険なコース
公式の所要時間 約7.4時間(小鹿野町観光協会、往復の目安) 確認した公式資料に所要時間の掲載が無い
公表された死亡事例 両神山全体の統計として個別事例が掲載(後述) 令和6年に2件の遭難、2人が死亡(埼玉県警公表)
2026年6月時点の通行 通行止めの公表対象に入っていない区間がある(七滝沢コースは通行止め) 上落合橋登山口―山頂、坂本―八丁峠などが当面の間・期間未定で通行止め
県の公式グレーディング 存在しない 存在しない

編集部の見立て:この表を作って改めて思ったのは、二つのルートは「同じ山の難易度違い」ではなく、情報の量そのものが違う、ということです。日向大谷には公式の所要時間があり、八丁尾根には無い。数字が用意されている道と、用意されていない道では、計画の立て方が根本から変わります。難度の差を語る前に、この非対称のほうを見るべきだと考えています。

もうひとつ、ラベルを避ける実務的な理由があります。「上級」と書かれた瞬間、読者は自分が上級かどうかという自己申告の話に引き込まれます。登山歴3年でも、鎖場の経験が2回なら岩には慣れていません。逆に歴1年でも、フリークライミングの経験があれば高さへの反応は違います。ラベルは自分の経験の内訳を隠してしまいます

  • 連続する鎖場を、前後に人がいる状態で通過した経験が何回あるか(0回か、1〜2回か、5回以上か)
  • 濡れた岩の上で、足の置き方を変える必要があると理解し、実際に変えられるか
  • 高さのある場所で体が固まった経験があるか。あった場合、その後どうやって動けたか
  • 両手が塞がった状態で、ザックの重心が体から離れない荷造りができているか
  • 途中で「やめる」と決めたとき、引き返す動作のほうが難しくなる地形だと理解しているか

この5項目のうち、4つは道具では動きません。経験の回数も、高さへの反応も、買って増やせるものではないからです。ただし1つだけ、道具が直接関わる項目があります。鎖を握る手です。埼玉県警が日向大谷口コースについて呼びかけているのは、三点支持と、鎖を補助として使うことでした。どちらも、手が滑らないことを前提にした動作です。

素手で鎖を握ると、濡れた金属では指が流れ、乾いていれば手のひらが擦れます。擦れた手をかばうと握力の入れ方が変わり、三点支持の「支持」が甘くなります。年に数回しか岩のある山に行かないなら、トレイル用のグローブを1双、ザックの取り出しやすい場所に入れっぱなしにしておくのがいちばん手間がかかりません。ブラックダイヤモンドのトレイル グローブは、その用途に置ける一つです。

グローブは、鎖を掴む力を強くする道具ではありません。手の皮膚を守り、濡れた鎖で指が流れる場面を減らすためのものです。これを付けたから難しい鎖場に入れる、という順番で考えないでください。道具が変えられるのは条件であって、対象読者の限定ではありません

遭難データで見る両神山

ここからは、推測を挟まずに公表データだけを置きます。埼玉県警が公表している数字です。

令和6年(2024年)について、八丁尾根で2件の遭難が発生し、2人が死亡したことが公表されています(埼玉県警/2025年6月5日更新のページ、2026年9月7日確認時点)。公表されているのは件数と死亡者数で、区間別の詳しい原因までは記載がありません。したがってこの記事でも、原因の推測は書きません。

編集部の判断:この数字を、感情を足さずに置くと決めました。「恐ろしい山です」と書けば読まれますが、それは読者の判断材料になりません。件数と死亡者数という事実だけを置いて、そこから先の解釈は読者に渡します。数字を煽りに使うと、次に同じ数字を見たときに読者が身構えて、正確に読めなくなります。

令和7年(2025年)については、埼玉県内で77件86人(暫定値)という全体の数字が公表されています。そのうち両神山に関するものとして、7月13日の死亡1件と行動不能1件、6月の死亡1件・重傷1件・落石による2人、といった個別の事例が掲載されています(2026年9月7日確認時点)。

令和8年(2026年)については、3月31日時点で県内15件15人という集計が出ています。両神山に関しては、2月22日、単独の40代男性による転倒・重傷が1件掲載されています。

埼玉県内の全体 両神山に関する公表内容
令和6年(2024年) 八丁尾根で2件の遭難、2人が死亡
令和7年(2025年) 77件86人(暫定値) 7月13日に死亡1件・行動不能1件、6月に死亡1件・重傷1件・落石2人など
令和8年(2026年)3月31日時点 15件15人 2月22日、単独40代男性の転倒・重傷1件

この三年分を並べて読めることが一つあります。事故が起きている時期が、夏山シーズンだけに固まっていないという点です。令和8年の事例は2月22日です。「季節を選べば安全になる山」という読み方は、この公表データからは出てきません

公表された数字の大きさだけで山を比べないでください。登山者の数が多い山ほど、件数は増えます。ここで見るべきなのは件数の大小ではなく、同じ山で複数年にわたって死亡事例が公表されているという事実のほうです。特に八丁尾根については、埼玉県警が「非常に危険」と書いていることと、令和6年の死亡2人という公表が、同じ方向を向いています。

編集部の見立て:単独・40代・転倒という令和8年の事例の書き方は、読んでいて考えさせられます。特別な条件がひとつも無いからです。ベテランでも初心者でもなく、悪天でもなく、特殊な装備の話でもない。両神山で起きていることの多くは、そういう普通の場面で起きているのだろうと受け止めています。

公表の書き方についても、読み方のこつがあります。令和7年・令和8年の公表には、両神山の事例が日付・人数・態様(死亡、重傷、行動不能、落石)の形で並んでいます。この並びから読み取れるのは、両神山で起きている事故が一種類ではないということです。滑落だけでも、転倒だけでもなく、落石や行動不能も含まれています。対策を一つに絞れば安全になる山ではない、というのがデータの示す形です

また、令和8年の事例には「単独」という属性が明記されています。単独行が危険だと一般化するための材料としては、公表データは足りません。ただし、単独の場合は行動不能になった時点で自力の連絡が必要になる、という構造上の差は残ります。この記事で登山届の提出を繰り返し勧めているのは、その差を埋める手段が届出しかないためです。

もう一点だけ付け加えます。埼玉県警の統計は「暫定値」と明記されているものがあります。集計が確定していない段階の数字です。この記事に書いた数字も、参照したページが更新されれば変わります。数字を引用するときは、確認日とセットで扱ってください。

2026年6月時点で通れない区間と、清滝小屋の扱い

計画段階でまず除外するべき区間があります。埼玉県および埼玉県警が公表している、2026年6月時点の通行止めです。いずれも「当面の間」「期間未定」とされており、解除の予定日は公表されていません。

スポンサーリンク


区間 状態 備考
上落合橋登山口―両神山山頂 通行止め(当面の間) 埼玉県の公表
坂本―八丁峠 通行止め(当面の間) 八丁尾根方面へのアプローチ
諏訪山山頂―八丁峠 通行止め 2026年6月4日から
七滝沢コース 通行止め 日向大谷側の派生コース
八丁トンネル登山口への車両 通行止め(期間未定) 林道金山志賀坂線の崩落による

この表は2026年6月時点の公表内容を、2026年9月7日に確認したものです。通行止めは、解除も追加も予告なく起こります。出発前には、埼玉県の登山道情報のページ、埼玉県警(小鹿野警察署)の山岳情報、小鹿野町の観光情報を、それぞれ自分の目で開いてください。この記事の表を最新情報として使わないでください。

とくに注意したいのが、林道金山志賀坂線の崩落による車両通行止めです。これは登山道そのものではなく、登山口へたどり着く道の話です。登山道が生きていても、そこへ行く道が死んでいれば計画は成立しません。登山道の可否と、アプローチ路の可否は別々に確認します。

編集部の判断:通行止めの情報は、書いた瞬間から古くなります。それでも表にして残すのは、「こういう種類の通行止めが起きる山だ」という構造を先に知ってもらうためです。両神山では、登山道の崩落と林道の崩落が別々に発生し、別々の主体が公表しています。確認先が一つではない、という事実のほうが、個々の区間名より長く役に立ちます。

次に、清滝小屋についてです。日向大谷ルートの途中にある施設で、計画上「ここで一息つける」「最悪ここに泊まれる」と考えたくなる位置にあります。ただし、この記事では宿泊できるかどうかを断定しません。

小鹿野町の令和7年度の資料には、将来的には管理人を在駐させて再開させるという趣旨の記載があります。また施設計画には、物資搬入路が確保できた際に宿泊受入れの再開を検討するという記載があります。どちらも将来の方針を述べたもので、現時点でどういう状態にあるかを直接示した公式の記載を、確認できていません(2026年9月7日確認時点)。

清滝小屋に泊まれる前提で計画を組まないでください。町の資料が触れているのは「再開の検討」であって、現在の営業状態ではありません。宿泊の可否は、登山者自身が出発前に小鹿野町の最新情報で確認する必要があります。行程が遅れたときの逃げ場として小屋を数に入れると、遅れが致命的になったときに逃げ場が消えます。

編集部の見立て:山小屋の現況は、公式が「今こうです」と書いてくれていない場合がかなりあります。個人の登山記録には「無人の避難小屋だった」といった記述がありますが、それは訪問日の状態であって、行政の公表ではありません。歯切れが悪くなるのを承知で、断定を避ける側に倒しました。

もうひとつ、白井差新道という有料のコースがあります。ただし、確認した範囲では、有料であること以上の最新の利用条件(受付の方法や可否)を公式に確認できていません。利用を検討する場合は、運営者に直接確認してください。この記事では条件を書きません。

日没と最終便から、山頂の門限を逆算する

ここまでで「どのルートを検討対象にできるか」が絞れました。次は時間です。両神山の日帰りで、いちばん現実的に起こる失敗は、鎖場でも道迷いでもなく、時間切れです。

逆算の考え方はいつも同じです。ゴールから引いていきます。ただし両神山の場合、ゴールが二つあります。公共交通で行く人は町営バスの最終便、車で行く人は日没です。どちらか早いほうが、その日の締切になります。

その日の締切の決め方:締切=(町営バスの最終便の発車時刻)と(日没時刻)の早いほう − 余裕60分。余裕60分は、遅れの吸収ではなく、遅れに気づいてから対処する時間として確保します。バスの時刻と日没時刻は日によって変わるため、この記事では確定値を書きません。小鹿野町の公式時刻表と、当日の日の入り時刻を、出発前に自分で確認してください。

次に、締切から出発時刻を引きます。使う数字は、公式の約7.4時間(7時間24分)だけです。ここに休憩60分と鎖場での待ち20分を足すと、登山口を離れている時間は8時間44分になります。

逆算の段階 計算例 この数字の出どころ
その日の締切(仮に最終便16:30の日) 16:30 公式時刻表で各自が確認する値(この例は仮の値)
余裕60分を引いた下山完了目標 15:30 本記事の考え方
往復に必要な時間 8時間44分 公式の約7.4時間+休憩60分+待ち20分
登山口を出発する時刻 6:46 15:30から8時間44分を引いた値
山頂の門限(引き返し時刻) 12:10前後 下りに要する時間を仮に往復の4割と置いた場合(後述)

表の最下段にある「往復の4割」は、この記事が置いた仮定であって、公式の値ではありません。両神山の区間別コースタイムは公式に公表されていないため、登りと下りの配分を裏づける一次情報がありません。実際の配分は、自分の過去の山行で「登りと下りの比率がどうだったか」を当てはめて置き換えてください。仮定は仮定として持っておけば使えますが、公式値のつもりで持つと危険です

編集部の見立て:門限を「山頂に立つ時刻」ではなく「引き返す時刻」として持つのが肝心だと考えています。山頂まであと20分という場所で12時10分を迎えたとき、人はほぼ必ず登ります。だから門限は、山頂の手前で発動する約束として、出発前に紙かスマホのメモに書いておく。決めるのは、体が疲れる前の自分の仕事です。

車で行く場合の締切についても書いておきます。マイカーなら最終便に縛られないので、締切は日没だけになります。ここで多いのが「バスが無いぶん、遅くまで行動できる」という読み替えです。実際には逆の負担が増えます。下山後に運転が控えているうえ、日向大谷へ向かう道は暗くなると走りにくくなります。車の場合、締切が緩むのではなく、締切の後ろに運転という工程が足されると考えるほうが実態に合います

ヘッドランプを持っているから日没後も歩ける、という前提で計画を組まないでください。ヘッドランプは、予定外に暗くなったときに事故を避けるための道具であって、行動時間を延ばすための道具ではありません。両神山の上部には鎖場があり、暗い中で通過する状況を計画に組み込むべき地形ではありません。

ただし、持たないという選択肢もありません。往復の行動時間は8時間を超える可能性があり、引き返し時刻を守ってもなお、下りで予定が崩れる余地は残ります。ヘッドランプが要るのは「暗くなってから歩くため」ではなく、「暗くなってしまったときに、走らずに済ませるため」です。無いまま日没を迎えると、足元が見えないことより先に、焦りが判断を奪います

選ぶときに見るのは明るさの数字だけではありません。ザックの中で勝手に点灯しないこと、電池の残りが事前に分かること、手袋をしたままスイッチを押せること。日帰りの装備の中で、いちばん「使わないまま持ち帰る」道具なので、軽さと確実さのほうが効きます。ブラックダイヤモンドの Spot 400 は、その置きっぱなし前提の一台として選べる位置づけです。

  1. 前日までに、当日の日の入り時刻と、帰りに使う便の最終発車時刻を調べる。二つのうち早いほうを、その日の締切として1つの数字に決める
  2. 締切から60分引いた時刻を「下山完了目標」とし、そこから8時間44分(公式の約7.4時間+休憩60分+待ち20分)を引いて、登山口の出発時刻を出す
  3. 下山完了目標から、自分の過去の山行での下り所要時間を引いて「引き返し時刻」を出す。その時刻を出発前にメモへ書き、山頂に着いていなくても引き返す

逆算の枠組みは山ごとに使い回せます。乗り物の最終便が下山の締切になるタイプの山は他にもあり、たとえばアルプス入門の記事では、山小屋泊を挟むことで締切そのものを作り替える考え方を扱っています。両神山の日帰りで時間が足りないと感じた場合、次に検討するのは「早く歩く」ではなく「泊まる計画に変える」ほうです。

ここまでが、入るかどうか・いつ引き返すかという判断の話です。両神山で最初に決めるべきことは、道具ではなく、そもそも入るかどうかと、いつ戻るかの二つです。ここから先は、その判断を済ませた人が、実際に歩くために何を足すかという別の話に移ります。判断を装備で置き換えることはできません。

岩と鎖の区間で、足元に何が要るか

日向大谷ルートの上部には、鎖場があります。埼玉県警が濡れた岩と鎖への注意を呼びかけているとおり、この区間で問題になるのは、足を置いたときに滑るかどうかです。柔らかいソールの靴では、岩の小さな出っ張りに乗ったときに靴底がたわみ、荷重が逃げます。足首が自由に動く靴では、傾いた岩の上で足首が返り、体の軸が崩れます。

この節での選び方の基準:両神山の日向大谷ルートで足元に求められるのは、(1)岩の小さな出っ張りに乗ってもソールがたわまないこと、(2)傾いた面で足首が返らないミッドカット以上の高さ、(3)濡れた岩と濡れた鎖への注意が公表されている以上、水に強い仕様であること、の三つです。この三つのうちどれを優先するかで、選ぶ靴が変わります。以下は、その優先順位ごとに候補を並べたものです。順番は良い順ではありません。

読み方を先に決めておきます。登山靴をまだ持っていない人と、ローカットの靴で低山を歩いてきて岩のある山に移る人と、すでに登山靴を持っていて買い替え時期に来ている人では、選ぶべきものが違います。以下の三つは、その三つの立場に対応させています。自分がどれに当てはまるかを決めてから、並びを見てください。

そこで足元の候補として挙げるのが、キャラバンの登山靴 C1_02S です。この靴は、くるぶしを包む高さのあるミッドカットで、ソールに一定の硬さを持たせた構成になっています。街履きのスニーカーやローカットのトレッキングシューズと何が違うかというと、足首の自由度をあえて減らし、傾いた面の上で足の向きが勝手に変わらないようにしている点です。登山靴を1足目として選ぶ人、または今までローカットの靴で歩いてきて鎖場のある山に移る人に向いた位置づけの靴です。サイズ感や細かな仕様は個体差もあるため、商品ページの表記を確認してから選んでください。

二つめは、濡れた岩を優先する場合です。キーンのトレッキングシューズ TARGHEE III MID WP は、商品名にあるとおりミッドカットで、ウォータープルーフの仕様を持つモデルです。埼玉県警が濡れた岩と鎖への注意を呼びかけている山では、朝露や前日の雨で足元が湿っている前提を先に置いておけます。沢沿いの道や、落ち葉の下が濡れている時期の下りを多く歩く人、雨の可能性がある日程を後ろにずらせない人はこちらが向きます。

三つめは、すでに登山靴を持っていて、岩の要素がある山を続けて計画している場合です。ザ・ノース・フェイスの SCRAMBLER MID GTX スクランブラー ミッド は、GORE-TEX を採用したミッドカットのモデルです。両神山の上部のように、手を使う区間と普通の登山道が交互に来る地形では、岩に立つときの足裏の感覚と、長い下りでの歩きやすさの両方が要ります。年に何度も岩のある山へ行く人、両神山のあとに妙義山や瑞牆山を計画している人向けの位置づけです。

足元の話の最後に、手元の道具を一つ足しておきます。埼玉県警が日向大谷口コースについて書いている「ストックを収納すること」という一文は、裏を返せば、収納できない形のストックはこの山と相性が悪いという意味になります。長いまま縮むタイプは、ザックの横に挿すと岩に当たります。Hiking Life のトレッキングポールは折り畳み式で、商品名に収納サイズ34cm・重量202gと明記されています。鎖場の手前でザックの中や側面に収めきれる長さかどうかが、この山では実用上の分かれ目になります。登山口から山頂まで一度も畳まずに済む山ではない、という前提で選んでください。

編集部の判断:靴の話をここまで後ろに置いたのは、順番の問題です。靴を先に書くと「良い靴を買えば行ける」という物語ができてしまいます。両神山で靴が効くのは、入る判断と引き返す時刻を先に決めた人だけです。逆に、その二つを決めていない人にとっては、どんな靴でも結果は変わりません。

もう一点、靴に関して実務的な注意があります。新しい靴を買って、その日が初めての実戦、という組み合わせを避けることです。硬いソールの靴は、履き慣れるまで下りで足指が当たります。両神山の下りは長く、7時間台の行程の後半に来ます。

  • その靴で、標高差のある山を最低2回は歩いているか(下りを含む)
  • 下りで足指が靴の先に当たらないよう、靴紐の締め方を変えられるか
  • ソールの溝がすり減っていないか。減った靴は濡れた岩で滑る
  • ストックを収納したとき、両手が完全に空く状態にできるか

靴を替えても、埼玉県警が八丁尾根について書いた「熟達者向けの非常に危険なコース」という位置づけは変わりません。装備は、行ける道の難度を上げるためのものではなく、行くと決めた道を安定して歩くためのものです。この区別が曖昧なまま買い物をすると、判断のほうが後退します。

日帰りの荷物を、両手が空く形にまとめる

両神山の日帰りで、荷物に求められる条件ははっきりしています。行動時間は8時間を超える可能性があり、途中に手を使う区間がある。つまり「一日分の水と食料と防寒を入れられて、なおかつ背中で暴れないザック」が要ります。容量が大きすぎると、鎖場で岩に当たり、体が岩から離れます。

候補として挙げるのがグレゴリーのナノ20です。容量20Lという数字が示すとおり、日帰り登山の荷物をひととおり収めつつ、体の幅から大きく張り出しにくいサイズに収まっています。大型のザックと何が違うかというと、背面のパネルと荷重の受け方が「軽い荷物を安定させる」側に振られている点です。数泊の縦走を考えている人ではなく、日帰りから小屋泊まりの範囲で歩く人に向いた容量です。細かい仕様や重量は商品ページの表記を確認してください。

編集部の見立て:ザックの容量選びで多いのが「大は小を兼ねる」という考え方です。手を使う山ではこれが逆に働きます。中身がスカスカの30Lは、体の後ろで振れます。振れは、岩の上でバランスを取る動作を一つ増やします。両神山のように鎖場が上部に集まる山では、容量を絞るほうが安全側です。

もう一つの選び方が、容量そのものより体への固定を優先する形です。オスプレーの Talon 22L は、商品名にあるとおり22リットルで、ヒップベルトが付いた軽量のハイキングバックパックです。ヒップベルトがあると荷重の一部が肩から腰へ移り、上体を動かしたときに背中の荷物が遅れて振られる量が減ります。鎖場で体を岩に近づける動作が続く区間では、この振れの少なさがそのまま足元の安定につながります。20L前後では少し足りないが30Lは大きすぎる、と感じている人があいだを埋める容量として選べます。

荷造りの中身についても、両神山特有の条件を一つ挙げておきます。行程が長いため、水の量は「登り切るまで」ではなく「下り終わるまで」で計算します。上部の鎖場を越えたあと、下りで消耗する時間のほうが長くなる場面があります。

もうひとつ、パッキングの順番にも両神山特有の条件があります。上部で手を使う区間に入る前に、ザックを下ろして中身を入れ替える余裕のある場所は限られます。したがって、行動中に出し入れするもの(水、行動食、防寒の一枚、地図とスマートフォン)は、上部に取りつく前の段階で、外側の取りやすい位置へまとめておきます。鎖場の手前で荷物を組み替えるのではなく、登山口を出る前に組んでおくのが正しい順番です

その「外側の取りやすい位置」を、ザックの本体だけで作るのは案外難しいものです。サイドポケットは背負ったままだと手が届きにくく、届く位置に挿したものは鎖場で岩に当たります。ショルダーハーネス側にボトルを固定する形のポケットを足すと、ザックを下ろさずに水が取れるようになります。ミレーの ライト ボトル ポケット は、その用途の小物です。飲む手間が増えると、人は飲む回数のほうを減らします。行動時間が8時間を超える日に、水を飲む回数を落とさないための仕掛けだと考えてください。

荷物の考え方は、行き先の性格でかなり変わります。岩の要素がある山を続けて計画するなら、瑞牆山の記事で扱っている「標高差は中程度なのに岩で難度が上がる山」の荷造りが近い発想になります。逆に、稜線歩きが主体の山では、水と防寒の比重が変わります。

ザックのサイドポケットに、外れやすい物を挿したまま鎖場に入らないでください。落とした物を取りに戻ることはできませんし、下に人がいれば落石と同じ結果になります。埼玉県警の公表事例には、落石による負傷が両神山の項に掲載されています(令和7年、2026年9月7日確認時点)。

稜線の冷えと、天候の変わり方に備える

標高1,723mという数字は、防寒を軽く見積もらせる方向に働きます。ただし、体感を決めるのは標高ではなく風です。両神山の上部は岩稜が続く地形で、樹林に守られない場所が出てきます。同じ気温でも、風が抜ける場所では体温の奪われ方が変わります。

そこで挙げるのが、コロンビアのライトキャニオン ソフトシェルジャケットです。ソフトシェルという分類は、雨具のレインジャケットとは役割が違います。レインウェアは水を通さないことを最優先にするぶん、動いている間の蒸れが出ます。ソフトシェルは、風を止めて表面の水を弾きつつ、行動中の熱を逃がす側に寄せた一枚です。稜線で風に当たるたびにレインウェアを出し入れするのが煩わしい人、行動中に脱ぎ着を減らしたい人に向きます。防水性能や素材の詳細は商品ページの表記を確認してください。

編集部の判断:ソフトシェルはレインウェアの代わりにはなりません。ここを混ぜて書くと事故につながります。両神山の日帰りでも、雨具は別に持ちます。ソフトシェルが担うのは「濡れないため」ではなく「止まったときに一気に冷えないため」の役割です。役割の名前を正しく持っておくと、当日に迷いません。

その「別に持つ雨具」についても、候補を一つ挙げておきます。モンベルのサンダーパス ジャケットは、商品名にあるドライテックを使ったレインウェアです。ソフトシェルと役割が違うのは、風だけでなく水そのものを止める側に振ってある点です。両神山で雨具が要るのは、雨の日に登るためではありません。7時間台の行程の後半で降られたとき、濡れたまま鎖場の順番待ちで立ち止まる状況を避けるためです。年に数回の登山で、まだ雨具を山用に切り替えていない人が最初に持つ一枚として置ける位置づけです。

雨具を「降ってから出すもの」として扱わないでください。両神山の上部で手を使う区間に入ってから羽織るのは、足場の限られた場所での作業になります。降り出しそうな空になった時点で、鎖場の手前で着ておくほうが安全です。

体温が落ちる場面は、歩いているときではなく止まったときに来ます。両神山の場合、止まる場面が読めています。鎖場での順番待ちです。前の人の通過を待つ数分、体は動いていないのに風には当たっています。汗で濡れた状態でそこに立つと、行動中とは別の速さで熱が抜けます。この山で防寒が要る理由は、山頂の寒さではなく、待ち時間の存在です

だからこそ、脱ぎ着に手間のかからない一枚を、取り出しやすい場所に入れておく意味があります。ザックの底に押し込んだ防寒具は、数分の待ちのためには出しません。出さなければ持っていないのと同じです。

天候そのものの確認についても、一つ付け加えます。両神山の行程は7時間台です。出発時の天気だけを見て入ると、後半の変化に対応できません。前日の予報と当日朝の予報の両方を見て、変化の向きを把握してから出発します。

濡れた岩と濡れた鎖については、埼玉県警が名指しで注意を呼びかけています(2026年6月19日更新/2026年9月7日確認時点)。雨が降っていなくても、朝露や前日の雨で岩が濡れていることがあります。「今日は晴れているから乾いている」という推測を、取りつく前の確認の代わりにしないでください。

秋に近隣エリアも含めて計画を組みたい場合は、群馬の秋の登山をまとめた記事が候補の広げ方の参考になります。両神山と同じ日程で回れるという意味ではなく、「同じ季節に、性格の違う山をどう組み合わせるか」という視点で読むと使えます。

登山届と、出発前にやること

登山届は、埼玉県警が提出方法を公表しています。2026年1月23日更新のページによれば、方法は三つです。パソコンやスマートフォンからの電子申請、携帯版の登山届、そして紙で作成して管轄の警察署・交番・登山口の登山ポストへ提出する方法です(2026年9月7日確認時点)。

実務上、いちばん取りこぼしが少ないのは電子申請です。同ページには、移動中の車内からでも提出できる旨が示されています。登山口に着いてからポストを探すと、出発が遅れます。逆算した出発時刻を守るためにも、届出は前日までに終わらせておくのが合理的です。

編集部の見立て:登山届を「書類仕事」として捉えると、面倒でしかありません。ただ、この記事で扱ってきた通行止め・遭難統計・注意喚起は、すべて行政が持っている情報です。届を出すというのは、その仕組みの側に自分の予定を渡しておくことです。捜索が必要になったとき、渡してあるかどうかで最初の一手が変わります。

  1. 前日までに登山届を電子申請で提出する。ルート名(日向大谷コースなのか、それ以外か)と下山予定時刻を、逆算で出した値で書く
  2. 出発前日と当日朝に、埼玉県の登山道情報・埼玉県警(小鹿野警察署)の山岳情報・小鹿野町の観光情報を、それぞれ開いて通行止めの追加が無いか見る
  3. 逆算した「引き返し時刻」をメモに書き、同行者にも共有する。単独の場合は、家族か知人に下山予定時刻を伝えておく

通行止めの確認先を一つに絞らないでください。登山道の状態は埼玉県と埼玉県警、林道と車両のアクセスは埼玉県、施設や観光の情報は小鹿野町と、公表の主体が分かれています。片方だけを見ると、片方の通行止めを見落とします。

どちらのルートを選ぶか、そして次にどこへ行くか

ここまでの材料をもとに、判断の分かれ道を整理します。ラベルではなく、条件の形で置きます。

選択の基準:八丁尾根は、2026年6月時点で複数区間が当面の間・期間未定の通行止めであり、加えて埼玉県警が熟達者向けの非常に危険なコースと明記しています。この二つが重なっている以上、登山歴1〜3年の読者にとって、この記事が検討対象として置けるのは日向大谷ルートのほうです。八丁尾根は、通行止めが解除された将来において、鎖場の経験を十分に積んだ人が改めて検討する対象になります。

  • 逆算した出発時刻に、実際に登山口に立てる交通手段があるか(無ければ日程を変える)
  • 引き返し時刻を決め、同行者と共有したか
  • 公式の約7.4時間に休憩と待ちを足した値で、行動時間を見積もったか
  • 清滝小屋の宿泊を計画に数えていないか
  • 出発前日と当日朝に、三つの公表先で通行止めを確認したか

編集部の判断:この記事は、八丁尾根に行くための情報を集めた記事ではありません。八丁尾根が「今そこにある選択肢ではない」ことを確認するための記事です。行けない理由を先に書くのは地味ですが、行ける理由だけを並べた記事は、通行止めが出た瞬間に読者を危険側へ押します。

両神山は日本百名山の一座です。百名山という枠組みでどこから手をつけるか、どの山が条件つきなのかを俯瞰したい場合は、日本百名山の全体像をまとめた記事を見てください。両神山のように「標高の数字と難度が一致しない山」は、百名山の中に他にもあります。

編集部の見立て:両神山を検討している人の多くは、次に岩のある山へ進みたいと考えているはずです。その順番を、標高の低い順ではなく、鎖と岩の経験が積める順に組み替えるのが良いと考えています。数字の低い山が易しいとは限らない、というのが、この記事全体で言いたかったことでもあります。

よくある質問

Q. 両神山は初心者でも登れますか

条件つきです。日向大谷ルートについて、埼玉県警は鎖場での三点支持、鎖を補助として使うこと、ストックの収納、濡れた岩と鎖への注意を呼びかけています(2026年6月19日更新/2026年9月7日確認時点)。この注意喚起が成立する前提は、両手が空いた状態で岩を越えられることです。鎖場の通過経験が無い場合、まずは経験を積める山を先に選ぶという判断が現実的です。なお、埼玉県には公式の山岳グレーディング表が無いため、この記事では「初級」「中級」といったラベルは使いません。

Q. 日向大谷ルートの区間別コースタイムを教えてください

公式に確認できませんでした。小鹿野町観光協会が掲載しているのは、日向大谷コース全体の約7.4時間という値です(2026年9月7日確認時点)。会所・清滝小屋・産泰尾根といった区間ごとの時間は、小鹿野町・埼玉県警のいずれの公式資料にも掲載がありません。この記事では推測での区間分割は書いていません。

Q. 八丁尾根には今行けますか

2026年6月時点の公表では、上落合橋登山口―両神山山頂、坂本―八丁峠、諏訪山山頂―八丁峠(2026年6月4日から)が通行止めとされ、八丁トンネル登山口への車両も林道金山志賀坂線の崩落により期間未定で通行止めです。いずれも「当面の間」「期間未定」とされ、解除の予定日は公表されていません。最新の可否は、埼玉県警(小鹿野警察署)と埼玉県、小鹿野町の公式ページで直前に確認してください。

Q. 清滝小屋に泊まれますか

断定できません。小鹿野町の令和7年度資料には将来的に管理人を在駐させて再開させる趣旨の記載があり、施設計画には物資搬入路が確保できた際に宿泊受入れの再開を検討する旨の記載があります。いずれも将来の方針で、現況を直接示した公式記載を確認できていません(2026年9月7日確認時点)。宿泊できるかどうかは、登山者自身が最新情報を確認する必要があります。計画は日帰りで完結する形で組んでください。

Q. 白井差新道はどうですか

有料のコースであることは知られていますが、確認した公式資料の範囲では、受付方法や料金、利用の可否といった最新の通行条件を確認できませんでした。利用を検討する場合は、運営者に直接確認してください。この記事では条件を書きません。

Q. 登山届はどこに出せばいいですか

埼玉県警のページによれば、パソコン・スマートフォンからの電子申請、携帯版の登山届、紙で作成して管轄警察署・交番・登山口の登山ポストへ提出する方法の三つがあります(2026年1月23日更新/2026年9月7日確認時点)。電子申請は移動中の車内からも提出できると同ページに示されています。前日までに済ませておくと、当日の出発時刻がぶれません。

まとめ:今日やることは1つ

両神山について、この記事が繰り返し置いてきたのは一つのことです。標高1,723mという数字は、道の内訳を教えてくれません。教えてくれるのは、埼玉県警の説明文言と、公表されている遭難データと、現在の通行止めのほうです。

八丁尾根は熟達者向けの非常に危険なコースと明記され、令和6年に2件の遭難で2人が亡くなり、2026年6月時点で複数区間が通行止めです。日向大谷ルートには公式の所要時間があり、鎖場での注意喚起がなされています。この二つを同じ山の別コースとして並べるのではなく、別の計画として扱うのが、この記事の結論です

今日やることは1つだけです。埼玉県警(小鹿野警察署)の山岳情報のページを開いて、更新日と通行止めの記載を自分の目で見てください。この記事の内容は2026年9月7日時点の確認であり、そこから先は変わります。

  1. 埼玉県警(小鹿野警察署)の山岳情報を開き、更新日と通行止め区間を確認する。あわせて埼玉県の登山道情報も開く
  2. 行く日を決めたら、その日の日の入り時刻と帰りの最終便を調べ、早いほうから60分引いて「下山完了目標」を出す
  3. 下山完了目標から逆算して「登山口の出発時刻」と「引き返し時刻」を決め、登山届を電子申請で前日までに出す

編集部の見立て:両神山の記事を書き終えて残ったのは、「数字が低い山ほど、文字情報を丁寧に読む必要がある」という感覚です。3,000m級なら誰でも身構えます。1,723mでは身構えません。だからこそ、行政が書いた一文一文を、そのまま読む価値がある山だと考えています。

出典

  • 小鹿野町「両神山」 https://www.town.ogano.lg.jp/ryoukamisantop/ (2026年9月7日確認)
  • 小鹿野町観光協会「トレッキング」 https://kanko-ogano.jp/trekking/ (2026年9月7日確認)
  • 埼玉県警察 小鹿野警察署「山岳情報」 https://www.police.pref.saitama.lg.jp/p0240/kenke/ogano-sangakujouhou.html (2026年6月19日更新/2026年9月7日確認)
  • 埼玉県警察「山岳遭難」 https://www.police.pref.saitama.lg.jp/p0240/homepageytaro.html (2025年6月5日更新/2026年9月7日確認)
  • 埼玉県警察「山岳遭難発生状況」 https://www.police.pref.saitama.lg.jp/d0010/kurashi/sangakujouho.html (2026年9月7日確認)
  • 埼玉県警察「登山届の提出」 https://www.police.pref.saitama.lg.jp/d0010/kurashi/sangaku.html (2026年1月23日更新/2026年9月7日確認)
  • 埼玉県「上落合橋周辺の通行規制」 https://www.pref.saitama.lg.jp/soshiki/b0504/tozanjoho/tsukokise/kamiotiaibasi.html (2026年9月7日確認)
  • 環境省「秩父多摩甲斐国立公園」 https://www.env.go.jp/park/chichibu/intro/index.html (2026年9月7日確認)

スポンサーリンク