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由布岳(標高1,583m・由布市公式の観光ページより)の山頂は、東峰と西峰の2つに分かれています。その2つの峰のあいだにある山頂火口の縁を、ぐるりと歩いて回るのが「お鉢巡り」です。由布市の公式「由布岳登山ルートマップ」では「お鉢まわり」と書かれ、「山頂火口を一周するコース」、所要時間は西峰⇔東峰で約90分と案内されています(2026年9月13日確認時点)。
正面登山口から登ってきて、東峰と西峰の分岐点であるマタエに着いた時点で、選べる道は大きく3つあります。東峰だけに登って戻る、西峰まで行って戻る、そしてお鉢を一周する。この記事は、その分かれ道でどれを選ぶかを、由布市公式マップの区間時間、別府市の登山規制情報に書かれた注意喚起、亀の井バスの最終便という3つの材料で決めるためのものです。
正面登山口からマタエまでの登り方や、登山口までのアクセスの基本は、由布岳の登山口・コース・バスの段取りをまとめた記事で先に押さえておいてください。ここではマタエから先の判断に話を絞ります。
先に考え方の形だけ示しておくと、お鉢巡りは「自分に行けるかどうか」を気合いで決める行程ではありません。マタエで何時か、足がどれだけ残っているか、風と雨がどうか。この3つを見て決める行程です。公式マップが「経験者向き」と書いている以上、3つのどれかが欠けた日は、東峰か西峰で引き返す判断に筋が通ります。
- お鉢巡り(お鉢まわり)の約90分は「西峰⇔東峰」の区間の時間で、マタエとの往復は含まれていないこと
- マタエ⇔東峰は片道10分、マタエ⇔西峰は片道20分という公式マップの区間表示から、3つの選択肢の長さを自分で組み立てる方法
- 公式マップが「ガレ場や足場のかなり悪い難所もあり、経験者向き」「登頂後の疲れた足では危険」と書いている意味
- 別府市の登山規制情報では、東峰だけで戻る区間も含めて同じ注意喚起の対象になっており、「登山可能」の区間とは書き分けられていること
- 西峰付近の「鎖場危険!」表示と、公式マップの「最低鞍部付近は危険 雨風等注意」を、引き返す線にどう置き換えるか
- 由布登山口の最終バス(別府方面18:15・由布院方面は平日18:57/土日祝18:56、2026年3月14日現在)と日没の早いほうから、下山の締切を出す手順
- 大分県警の遭難統計「由布・鶴見」48件が由布岳単独の数字ではないこと、そして件数が出ていない部分の読み方
お鉢巡りをするか、東峰か西峰で戻るかは何で決まるか
由布岳の山頂部で迷うのは、「せっかく来たのだから一周したい」という気持ちと、「思っていたより足が重い」という感覚が、同じタイミングでぶつかるからです。マタエは両方の峰に向かう分岐で、ここを過ぎると選んだ道の性格が一気に変わります。だから判断はマタエで下すのが基本になります。
まず整理しておきたいのは、3つの選択肢がそれぞれ何を含むかです。東峰だけで戻るなら、マタエ⇔東峰の往復だけで山頂部の行程は終わります。西峰まで行って戻るなら、公式マップで西峰付近に表示された鎖場の区間が加わります。お鉢を一周するなら、それに加えて火口の縁を約90分かけて歩く区間が乗ります。行程が長くなるほど、含まれる難所も増える構造です。
由布市の公式マップは、お鉢まわりについて「ガレ場や足場のかなり悪い難所もあり、経験者向き。登頂後の疲れた足では危険ですので、十分注意してトライしましょう」と書いています(2026年9月13日確認時点)。ここで大事なのは、公式が「経験」だけでなく「疲れた足」を名指ししている点です。技量が足りていても、その日の消耗次第で同じ道の危険度が変わる、という書き方になっています。
判断の4つの軸:お鉢巡りに入るかどうかは、①マタエに着いた時刻と帰りの締切までの持ち時間、②登りで使った足の残り具合、③風・雨・視界の状態、④ガレ場や鎖場を含む岩場の経験、の4つで決まります。4つのうち1つでも欠けていたら、お鉢には入らず東峰か西峰で戻る、というのがこの記事の基本線です。
ここで「公式の難易度ランクは何か」を知りたくなるかもしれません。ただ、2026年9月13日時点で、大分県や由布市が由布岳のお鉢巡りに公的なグレードを付けた一覧は確認できていません。そのためこの記事では、ランクを名乗らず、公式マップの区間時間と、鎖場・ガレ場の表示だけを材料に話を進めます。
もう1つ前提として押さえておきたいのは、東峰だけで戻る選択も「楽な散歩道」ではないことです。後の章で詳しく見ますが、別府市の登山規制情報では、マタエ⇔東峰の区間も、お鉢巡りの区間と同じ注意喚起の対象として書かれています。つまり3つの選択肢は、安全な道と危ない道の二択ではありません。注意が必要な道のうち、どこまで長く歩くかの選択です。
この見方に立つと、判断の中身も変わります。「自分はお鉢に行けるレベルか」という問いは、答えが出にくく、気持ちに流されやすい問いです。代わりに「今日のこの時刻、この足、この天気で、あと何分の岩場を足すか」と問い直すと、数字と条件で答えが出せます。この記事の後半で扱う表や手順は、すべてこの問い直しのための道具です。
編集部の見立て:由布岳のお鉢巡りで判断を誤りやすいのは、技量が足りない人よりも、登りが順調だった人のほうだと考えています。マタエまで予定どおりに来ると、残りの行程を軽く見積もりがちです。公式が「登頂後の疲れた足」と書いているのは、まさにその油断を指しているように読めます。
お鉢巡りの前にマタエで決める3つのこと
マタエは、東峰にも西峰にも向かえる分岐点です。ここで立ち止まって決めることを先に決めておくと、山頂部で迷う時間が減ります。迷いながら歩き出すと、判断が「なんとなく進む」に流れやすく、引き返すきっかけを失います。マタエで決めることは、次の3つに絞れます。
1つ目は時刻です。マタエに着いた時刻を必ず確認し、帰りの締切までにどれだけ時間が残っているかを出します。締切の出し方は後の章で詳しく扱いますが、基準になるのは由布登山口の最終バスと日没の早いほうです。お鉢を一周する場合、公式の区間値を合計するとマタエに戻るまでに約2時間かかります。この2時間を足しても下山の締切に余裕があるかどうかが、最初のふるいになります。
2つ目は足の残り具合です。由布市の公式マップは、正面登山口から山頂までの平均所要時間を約2時間30分としています(体力・天候・装備等で異なるとの注記つき、2026年9月13日確認時点)。この目安と、自分が実際にかかった時間を比べてみてください。大きく上回っているなら、その日の自分のペースは公式の平均より遅いということです。お鉢の約90分も、公式の目安どおりには進まないと見込むのが自然です。
3つ目は風と雨、そして視界です。公式マップには「最低鞍部付近は危険 雨風等注意」という表示があります。マタエの時点で風が強い、雨が降り出しそう、雲が山頂部にかかり始めている。そうした条件があるなら、火口の縁を回る区間に入る理由は薄くなります。
- マタエに着いた時刻を時計で確認し、メモか頭の中に置いたか
- 帰りの基準(別府方面18:15か、由布院方面18:56〜18:57か)と、その日の日没時刻の早いほうを出発前に決めてあるか
- 正面登山口から山頂までの公式の平均約2時間30分に対して、自分のペースがどのくらいだったかを把握しているか
- 太ももやふくらはぎに、下りで踏ん張れないほどの張りが出ていないか
- 山頂部の風・雨・雲のかかり方が、登り始めより悪くなっていないか
この5項目のうち、1つでも「いいえ」があれば、お鉢巡りは次回に回す判断に傾けてよいと考えます。反対に、すべて「はい」でも、それは「入ってもよい条件がそろった」というだけです。お鉢に入ったあとも、途中で条件が変われば判断をやり直します。
マタエで判断を先送りして「とりあえず西峰まで行ってから考える」とすると、西峰付近の鎖場を越えたあとに疲れがまとめて出ることがあります。西峰に着いた時点で戻る道も、同じ鎖場の区間を下ることになります。先送りは選択肢を増やすように見えて、実際には戻るための体力を削る動きです。
決めた内容は、同行者がいるなら声に出して共有しておくのがおすすめの段取りです。「14時の時点でお鉢の途中にいたら、そこから先へ進むか戻るかを話し合う」といった具体的な約束にしておくと、疲れて判断が鈍ったときにも、事前に決めた線に戻れます。単独で登る場合は、その約束を自分との約束として書き出しておくと効果があります。なお、由布市は滑落事故への注意喚起の中で単独登山を避けるよう案内しています。
編集部の判断:マタエで決める3つのうち、いちばん軽く扱われやすいのが「足の残り具合」です。時刻や天気は目で見て分かりますが、足の消耗は歩き出すまで自覚しにくいものです。だからこそ、公式の平均約2時間30分との差という数字で、自分の消耗を外から測る方法をすすめています。
お鉢巡りの約90分は、何にかかる時間か
由布市公式マップの「約90分」は、西峰⇔東峰の区間、つまり火口の縁を回る部分にかかる時間です。マタエから西峰、東峰からマタエといった区間は、この90分に含まれていません。ここを読み違えると、行程全体の見積もりが大きくずれます。
公式マップの表記は「西峰←(90分)→東峰」の形で、方向による時間の違いは書かれていません。そのため、この記事では西峰から回っても東峰から回っても約90分として扱います。どちら回りが歩きやすいかについては、公式の記載がないため、ここでは書きません。
では、その90分は何に使われる時間なのか。公式マップは、お鉢まわりに「ガレ場や足場のかなり悪い難所」があると書いています。ガレ場は、崩れた岩や石が積み重なった斜面のことで、足を置いた石が動くことがあります。こうした場所では、平らな道のように一定のリズムで歩けません。一歩ごとに足場を選び、体重を移す前に安定を確かめる時間が必要になります。
加えて、公式マップには「大崩危険!」「最低鞍部付近は危険 雨風等注意」という表示もあります。崩落のある場所の近くや、風を受けやすい鞍部では、立ち止まって状況を見る時間も加わります。90分は「歩く距離の時間」というより、「足場を選びながら慎重に進む時間」として読むほうが実態に近いと考えられます。
お鉢巡りの区間ごとの距離や標高差は、由布市の公式マップの本文・図に数値として見当たりません(2026年9月13日確認時点)。区間の時間は分かっても、何メートル歩いて何メートル上り下りするかは、公式資料からは出せないということです。そのため、この記事でも距離や標高差の数字は使っていません。
もう1つ、一周コースならではの性質があります。途中まで進んだあとに戻る判断をすると、戻り道は進んだ分をそのまま引き返す道になります。つまり、お鉢の中ほどで「やはりやめよう」と思っても、そこから先へ進むのと戻るのとで、残りの時間に大きな差が出にくい場面があり得ます。お鉢に入るかどうかの判断が、入口でほぼ決まってしまうのはこのためです。
この性質を踏まえると、お鉢の約90分は「途中でやめられる90分」ではなく、「入ったらおおむね最後まで歩き切る前提の90分」として予算を組むのが安全側の考え方です。マタエでの時刻判断が重いのは、ここに理由があります。
ここで足元の話にも少し触れておきます。ガレ場や足場の悪い区間では、靴底が岩をとらえるか、足首まわりが安定するかで、同じ90分でも疲れ方が変わります。たとえば、ラ・スポルティバの「Spire GTX」は、商品名にGTX(ゴアテックス)を冠した防水のハイキングシューズです。雨上がりで岩が湿っている日にもお鉢巡りを視野に入れる人や、スニーカー型の軽い靴から一段しっかりした靴に替えたい人の候補になります。
靴を替えても、ガレ場で浮いた石を踏めば足元は崩れます。靴は「足場を選ぶ時間」を短くするものではありません。慎重に足を置く時間を前提にしたうえで、その時間を少しでも楽にする道具として考えてください。
編集部の見立て:「90分なら行ける」と感じる人は多いと思います。ただ、この90分にはマタエとの行き来が入っておらず、中身もガレ場を選びながら進む時間です。数字の短さに安心するより、「入ったら戻りにくい90分」だと読み替えておくほうが、判断を誤りにくいと考えています。
マタエ→東峰10分・マタエ→西峰20分から、3つの行程の長さを出す
由布市の公式マップには、山頂部の区間時間として、マタエ→東峰10分、マタエ→西峰20分という地図上の表示があります(2026年9月13日確認時点)。この2つと、お鉢まわりの約90分を組み合わせると、マタエを起点にした3つの行程の長さが出せます。
ただし、ここから先の数字には注意が必要です。公式マップが示しているのは片道の区間表示で、「往復何分」という値は書かれていません。以下の表の往復や合計は、公式の区間表示を単純に足した値であり、公式が出している往復の所要時間ではありません。下りの時間が上りと同じになるとも限りません。
| マタエからの行程 | 使う公式の区間表示 | 公式の区間値を合計すると |
|---|---|---|
| 東峰だけで戻る | マタエ⇔東峰 片道10分 | 約20分(単純合計・公式の往復時間ではない) |
| 西峰だけで戻る | マタエ⇔西峰 片道20分 | 約40分(単純合計・公式の往復時間ではない) |
| お鉢を一周してマタエへ | マタエ→西峰20分+西峰⇔東峰約90分+東峰→マタエ10分 | 約2時間(単純合計・公式の総計ではない) |
表にすると、3つの選択肢の差ははっきりします。東峰だけなら約20分、西峰だけなら約40分、お鉢を一周するなら約2時間。東峰止まりとお鉢一周では、公式の区間値を合計しただけでも、およそ6倍の差があります。マタエでの判断が、行程全体の長さを大きく左右することが分かります。


この差は、そのまま下山の締切に効いてきます。たとえば、マタエに着いた時点で締切まで持ち時間が少ないとき、東峰だけなら収まっても、お鉢一周の約2時間は収まらないことがあります。持ち時間を出してから、表のどの行が入るかを当てはめる。これがマタエでの時刻判断の中身です。
マタエでの時刻判断の式:マタエを最後に離れる時刻 = 下山の締切 − 自分の下山時間 − 余裕。この時刻から、表の合計値(約20分・約40分・約2時間)を引いた時刻が、それぞれの行程に「入ってよい最後の時刻」になります。お鉢一周は、マタエを最後に離れる時刻の約2時間前までに歩き出せる日だけの選択肢です。
ここでいう「自分の下山時間」は、公式マップに明記がありません。そのため、この記事では具体的な分数を置かず、読者自身の値を入れる形にしています。登りにかかった時間や、過去に似た山を下ったときの実績から、自分の値を決めてください。
表の約20分・約40分・約2時間は、休憩や写真撮影、すれ違いの待ち時間を足し込んだ値ではありません。公式マップの区間表示をそのまま足しただけです。計画ではこの値に自分のペースと余裕を上乗せし、「表の数字どおりに歩ければ間に合う」という組み方をしないでください。
行程が延びると、行動中にかく汗の量も増えます。山頂部で風を受けると、濡れた肌着が体を冷やす原因になります。ファイントラックの「ドライレイヤーベーシックT 女性用(FUW0422)」は、肌に一番近い層に着るドライレイヤーのTシャツです。お鉢一周まで視野に入れて行動時間が長くなりそうな人や、汗冷えしやすいと感じている人が、肌着選びを見直す候補になります。
編集部の判断:表の3行を並べてみると、東峰止まりとお鉢一周の差は「少し延ばす」程度ではないことが分かります。マタエで持ち時間を出したら、まず東峰だけの行に収まるかを見て、次に西峰、最後にお鉢と、短い順に当てはめていくのが迷わない順番だと考えています。
西峰付近の鎖場とカニノヨコバイは、自分に向いているか
由布市の公式マップには、障子戸の「カニノヨコバイ」と鎖場の難所があり、地図上に「鎖場危険!」という表示があります(2026年9月13日確認時点)。この表示は西峰付近に示されています。西峰だけで戻る選択も、西峰を経由するお鉢巡りも、この区間と向き合うことになります。
「カニノヨコバイ」という名前は、岩壁に沿って体を横向きに移動する地形を指す呼び名として、各地の山で使われています。足を横に運びながら、手で岩や鎖をつかんで体を支える動きになります。前を向いて歩く通常の登山道とは、体の使い方が根本から違います。
ここで、「自分は鎖場に行けるか」を気持ちで決めるのはやめておきましょう。代わりに、次の条件を1つずつ確かめる形にします。条件を満たしていないことは恥ではありません。その日の選択肢から西峰を外す根拠になるだけです。
- 鎖場や岩場で、両手両足のうち3点で体を支え、1点ずつ動かす「三点支持」を、手順として実行できるか
- 足元の下が見える高さのある場所で、体が固まらずに次の一手を考えられるか
- 鎖に全体重をぶら下げず、足で立ちながら鎖を補助として使えるか
- 登りだけでなく、同じ鎖場を下る動きを想像して、怖さより手順が先に浮かぶか
- 岩が雨や霧で湿っているとき、乾いた岩と同じようには足を置けないと理解しているか
このチェックで特に重く見てほしいのは、4つ目の「下り」です。西峰だけで戻る場合も、お鉢巡りで西峰側を通る場合も、鎖場の区間を下る場面が出てきます。多くの人にとって、岩場は登りより下りのほうが足元が見えにくく、体重移動も難しくなります。登れたから下れる、とは限りません。
鎖場で三点支持をどう使うか、鎖に頼りすぎるとなぜ危ないのかは、山を問わず共通の基本があります。由布岳に向かう前に、鎖場・岩場の通過で三点支持を使う場面と、鎖に頼ってはいけない場面をまとめた記事で、動きの手順を一度頭に入れておくと、現地で落ち着いて判断しやすくなります。
鎖場の通過手順を簡単にまとめると、次のようになります。これは由布岳に限らない、鎖場の一般的な動き方です。
- 取りつく前に立ち止まり、次に手をかける場所と足を置く場所を、目で2手先まで決める。決まらないうちは体を動かさない
- 3点が安定していることを確かめてから、手か足を1つだけ動かす。手と足を同時に動かさない
- 鎖は体を引き上げる綱ではなく、バランスを保つための手すりとして握る。体重は足に乗せたまま、腰を岩に寄せて立つ
前の人が鎖を使っている最中に、同じ鎖を握って進まないでください。鎖が揺れて、前の人のバランスを崩すことがあります。混雑で待ち時間が延びるときは、その待ち時間も行程に入れて、マタエで出した時刻判断をやり直します。
鎖場やカニノヨコバイでは、脚を大きく上げたり横に開いたりする動きが入ります。脚まわりが突っ張るズボンだと、足を置きたい位置に届きにくくなります。ザ・ノース・フェイスの「バーサタイルパンツ メンズ」は、登山から日常まで幅広く使う前提で名付けられたパンツです。山頂部の岩場で脚の動きを妨げない1本を探している男性の候補になります。
編集部の見立て:西峰を外すことを「負け」と感じる必要はないと考えています。由布岳は東峰だけでも山頂に立てる山です。鎖場の下りを具体的に想像して、手順より怖さが先に浮かぶなら、その日は東峰で戻る判断に十分な理由があります。
別府市の注意喚起と「登山可能」の区分を読み分ける
由布岳の登山道の状況は、別府市が「登山規制情報」のページで区間ごとに案内しています(2025年12月1日更新、2026年9月13日確認時点)。このページでは、お鉢巡りに関わる区間について、原文で次のように書かれています。
「崩落、地割れ、亀裂箇所があり、死亡事故も多発しています。十分な注意が必要です。」
この表記が付いているのは、「マタエ⇔東峰、西峰」「由布岳頂上 東峰⇔西峰(お鉢巡り)」「剣ノ峰⇔東峰、西峰(お鉢巡り)」「大崩近辺(お鉢巡り)」の各区間です。一方で、同じページの中には「登山可能」と書かれた区間もあります。両者を並べると、書き分けがよく分かります。
| 別府市のページの区間 | 書かれている扱い(2025年12月1日更新) |
|---|---|
| 正面登山口⇔合野越⇔マタエ | 登山可能 |
| 西登山口⇔飯盛ヶ城⇔合野越⇔マタエ | 登山可能 |
| 東登山口⇔日向越⇔剣ノ峰(山頂) | 登山可能 |
| 東登山口⇔日向越⇔日向岳⇔合野越⇔マタエ | 登山可能ですが、日向越・日向岳ルートは遭難が多い状況 |
| マタエ⇔東峰、西峰/東峰⇔西峰(お鉢巡り)/剣ノ峰⇔東峰、西峰(お鉢巡り)/大崩近辺(お鉢巡り) | 崩落・地割れ・亀裂箇所についての注意喚起(原文は本文に引用) |
ここから読み取れることは2つあります。1つ目は、この注意喚起が「通行止め」や「通行禁止」を告げるものではないという点です。別府市のページは、お鉢巡りの区間にそうした語を使っていません。「登山可能」の区間と並べたうえで、注意の必要な区間として書き分けています。
2つ目は、マタエから東峰だけに登って戻る区間も、お鉢巡りと同じ注意喚起の対象に入っているという点です。東峰止まりにすれば注意喚起の外に出られる、という読み方はできません。3つの選択肢の違いは、注意の必要な区間に「いる時間の長さ」と「通る難所の数」の違いだと理解してください。
同じような注意の記載は、由布市が公開している2016年8月3日現在の規制情報PDFにも見られます。そこでは剣ノ峰⇔東峰・西峰(お鉢巡り)に崩落・地割れ・亀裂箇所があり、特に注意と書かれています。2016年時点の記録でも、2025年12月更新の現行ページでも同様の危険箇所が案内されていることから、この記事では一時的な告知ではなく、常に意識しておくべき注意喚起として扱っています。ただし、2016年の資料はいまの状態を示すものではありません。現在の状況は別府市の現行ページで確認してください。
もう1点、公式マップは「お鉢まわり」を「山頂火口を一周するコース」と書いています。これは火口の縁を回る道という意味です。火口の内部に降りることを想定した記載ではありません。火口の内側への立ち入りについては、この記事では扱いません。
注意喚起が「通行止めではない」ことは、「安全に歩ける」ことを意味しません。崩落や亀裂のある場所では、足を置いた地面そのものが崩れる可能性があります。登山道の端や、崩れた斜面の縁に近づいて写真を撮る行動は避けてください。由布市も、危険箇所に近づかないよう案内しています。
登る日が近づいたら、別府市の登山規制情報のページを自分で開いて、更新日と区間ごとの記載が変わっていないかを確かめてください。この記事の内容は2026年9月13日に確認した時点のものです。
編集部の見立て:この注意喚起で見落とされやすいのは、東峰だけで戻る区間も同じ扱いになっている点だと思います。「お鉢に行かなければ関係ない」と受け取ると、東峰への往復で気が緩みます。区間の書き分けを表で見比べておくと、どこから先で慎重さを一段上げるべきかがはっきりします。
火口縁の岩場と強い風の中で、足元と両手を確保する装備
お鉢巡りに入るかどうかを最終的に決めるのは、時刻と足と天候、そして経験です。大事なのは判断であって道具ではありません。そのうえで、判断の結果として山頂部に入ると決めた人にとって、足元と両手の確保に関わる装備は、岩場での疲れ方を左右します。この章では、その選び方の基準を整理します。
選ぶ基準は3つです。1つ目は、ガレ場や岩の上で靴底が滑りにくく、足首まわりが安定するかどうか。2つ目は、鎖場や岩場で両手を空けられるように、荷物を背中にまとめて体に密着させられるかどうか。3つ目は、岩や鎖をつかむ手を守りつつ、指先の感覚を失わないかどうかです。靴・ザック・手袋を、この3つの基準で見ていきます。
| 商品名(型番・表記) | 分類 | お鉢巡りで見るべき点・向く人 |
|---|---|---|
| メレル MOAB 3 | ローカットのハイキングシューズ | 足首を締めつけないローカット。普段の低山から一段しっかりした靴にしたい人 |
| サロモン OUTpulse GTX W(L41689700) | 女性用ハイキングシューズ | 商品名にGTXを冠した女性用。湿った岩の日も視野に入れる女性 |
| メデン Bear Peak | リュック・バックパック | 男女兼用のリュック。日帰りの荷物を背中にまとめたい人 |
| マムート Lithium 20 | バックパック | 登山ブランドの日帰り向けバックパック。鎖場で荷物を体に寄せたい人 |
| プロモンテ トレッキンググローブ(GB061U) | UVケアのトレッキンググローブ | 岩や鎖をつかむ手を覆いたい人。日差しを遮るUVケアを求める人 |
表の中身をもう少し具体的に見ていきます。スペックの数値は、この記事では商品名と型番に含まれる情報以外は扱っていません。重さや素材の細かい数値は、各商品のページで確認してください。
まず靴です。メレルの「MOAB 3」はローカットのハイキングシューズで、足首を締めつけずに歩きたい人に向きます。普段は整備された低山を歩いていて、由布岳のような岩の混じる山に合わせて、スニーカーから一段しっかりした靴に替えたい人の最初の候補になります。
サロモンの「OUTpulse GTX W(L41689700)」は、女性用として作られたハイキングシューズで、商品名にGTX(ゴアテックス)を冠しています。朝方に岩が湿っている日や、天気の崩れを想定しながら山頂部まで行きたい女性に向きます。
次にザックです。メデンの「Bear Peak」は、メンズ・レディース兼用のリュックです。男女で共有して使いたい人や、日帰りの荷物をまとめて背負い、鎖場で両手を空けたい人に向きます。
マムートの「Lithium 20」は、登山ブランドが出している日帰り向けのバックパックです。岩場で体をひねったときに荷物が振られないよう、背中に寄せて背負えるザックを探している人の候補になります。
最後に手袋です。プロモンテの「トレッキンググローブ(GB061U)」は、UVケアをうたう登山用の手袋です。今回のカードはマゼンダのSサイズの表記です。鎖や岩をつかむ手を覆いたい人や、日差しの強い日に手の甲の日焼けを避けたい人に向きます。サイズは手に合うものを商品ページで選んでください。
手袋をすると、鎖や岩をつかんだときの指先の感覚が変わります。初めて使う手袋を由布岳の鎖場でいきなり試すのは避け、事前に近所の岩場や手すりで握り心地を確かめておいてください。靴も同じで、履き慣らしていない新しい靴で山頂部の岩場に入ると、靴擦れで下りの判断が鈍ります。
編集部の判断:装備を整えると「これで行ける」と気が大きくなりがちです。ただ、靴やザックが解決するのは足元の安定と両手の自由までで、時刻や疲れ、風の判断は代わってくれません。道具はマタエでの判断を済ませたあとに、その判断を支えるものとして選ぶのがよいと考えています。
東峰だけで戻る/西峰まで行く/お鉢を一周する、3つの選び方
ここまでの材料を、マタエでの選び方として1つの表にまとめます。表の「選ぶ条件」は、公式の区間時間と、公式マップ・別府市のページの記載をもとに、この記事が整理した判断の目安です。公式が定めた基準ではありません。
| 選択肢 | 公式の区間値を合計した長さ | 含まれる難所(公式の表示) | 選ぶ条件の目安 |
|---|---|---|---|
| 東峰だけで戻る | 約20分 | 別府市の注意喚起の対象区間(マタエ⇔東峰) | 時刻・足・天候のどれかに不安がある日は、まずこれ |
| 西峰まで行って戻る | 約40分 | 「鎖場危険!」表示のある西峰付近の鎖場・カニノヨコバイ | 持ち時間に余裕があり、鎖場の下りを手順で考えられる日 |
| お鉢を一周する | 約2時間 | 鎖場に加え、ガレ場や足場のかなり悪い難所、「大崩危険!」「最低鞍部付近は危険 雨風等注意」の表示 | 時刻・足・天候・経験の4つがすべてそろった日だけ |
表で推しとして色を付けたのは、「東峰だけで戻る」の行です。これは、東峰止まりが最も価値のある選択だという意味ではありません。迷ったときの出発点として、まずこの行に収まるかを確かめてから、条件がそろっているかに応じて下の行へ進む、という順番を示すためです。
西峰まで行く選択は、時間の面では東峰止まりより約20分増えるだけです。ただ、そこには鎖場の区間が含まれます。時間だけを見て「あと20分なら」と決めるのではなく、前の章のチェックリストで鎖場の下りに不安がないかを確かめてから選んでください。
お鉢を一周する選択は、時間・難所ともに最も重い選択です。公式マップが「経験者向き」「登頂後の疲れた足では危険」と書いているのは、この行にあたります。4つの条件のうち1つでも迷いがある日は、お鉢を次回に回すのが基本と考えてください。
選び方の順番:①マタエで持ち時間を出す → ②東峰だけの約20分が入るかを見る → ③入るなら、西峰の約40分と鎖場の条件を確かめる → ④さらに、お鉢一周の約2時間と4つの条件がすべてそろうかを確かめる。どの段階で止まっても、それがその日の正解です。
火口の縁を回る「お鉢巡り」は、ほかの山にもある行程です。回るか引き返すかをどう分けるかという考え方は、山が違っても共通する部分があります。規模や小屋との位置関係が異なる例として、羊蹄山のお鉢巡りを回るか引き返すかを整理した記事と見比べると、由布岳のお鉢の性格がつかみやすくなります。
同行者がいる場合は、いちばん条件の弱い人に合わせて選ぶのが原則です。グループの中で1人でも足に不安がある、鎖場の下りが怖いという人がいれば、全員で東峰止まりにする、あるいはその人をマタエで1人にしないという判断が必要になります。由布市は単独登山を避けるよう案内しており、山頂部でメンバーを分けて1人にする行動は、その趣旨に反します。
山頂部で行程を延ばすほど、風を受けて立ち止まる時間も増えます。マムートの「Ultimate VII SO Hooded Jacket AF」は、フードの付いたソフトシェルジャケットです。西峰や東峰で風を受けながら判断を下す時間に、行動しながら羽織れる上着を探している人の候補になります。
編集部の見立て:3つの選択肢を「難しさの順」ではなく「条件がそろったら1段ずつ進む階段」として見ると、選び方に迷いが減ると考えています。東峰で戻る日は、階段の1段目で止まっただけで、登山として欠けているわけではありません。
雨・風・視界が変わったときに引き返す線
山頂部の天候は、登り始めより悪くなることがあります。由布市の公式マップには「最低鞍部付近は危険 雨風等注意」という表示があり、由布市の登山注意喚起(2022年12月19日更新)でも、気象が急に変わったときには引き返すよう案内しています(いずれも2026年9月13日確認時点)。
ただし、公式の記載には「風速何メートルで中止」「視界何メートルで引き返し」といった数値の基準はありません。霧による視界の悪化を名指しした記載も、公式マップ・大分県・気象庁のいずれにも見当たりません。そのため、ここからは公式の「雨風等注意」を出発点に、自分で引き返す線を決める方法を扱います。
まず、判断する場所を決めておきます。天候の判断は、どこででも同じようにできるわけではありません。引き返しやすい場所で判断しておくほど、選べる手が多く残ります。
- マタエで判断する:雨が降り出している、風で体があおられる、雲が山頂部にかかっているなら、お鉢には入らない。東峰か西峰だけにするか、山頂部に上がらずに下山するかを決める
- 西峰で判断する:お鉢に入る前に、西峰で風と視界をもう一度見る。マタエより条件が悪くなっていれば、お鉢に入らずマタエへ戻る
- お鉢の途中で判断する:入ったあとに雨風が強まったら、進むのと戻るのとで、どちらが早く安全な場所に着くかを考え、崩落の表示や鞍部のような風を受けやすい場所に長くとどまらない
風の強さを自分の中止基準に置き換えるには、気象の段階表を知っておくと役に立ちます。
稜線での風の目安は、平地の天気予報の風速とは感じ方が違います。気象庁の風の段階表をもとに、自分の中止基準をどう作るかは登山で風速何m/sまで歩けるかを段階表から決める手順の記事で整理しています。また、ガスに巻かれたときに進む・待つ・引き返すをどう分けるかは、登山でガス・霧に巻かれたときの判断を5つの条件で分けた記事が参考になります。
お鉢巡りは火口の縁を回る稜線歩きです。霧で視界が悪いと、足元の崩れや道の方向を見失いやすくなります。公式に霧を名指しした注意はありませんが、視界が悪い日は、稜線の上に長くとどまる行程を選ばないという一般的な考え方で判断してください。
雨で岩が濡れると、鎖場や岩場の足元は乾いているときと同じようには使えません。登りで問題なく越えた鎖場でも、帰りに雨が降り出せば、下りの危険度は上がります。雨の気配を感じた時点で、まだ鎖場を越えていないなら越えない判断に切り替えてください。
判断材料になるのは、体に感じる変化です。帽子やフードが風で飛ばされそうになる、体が横に押されて足を踏み直す、前の人の姿が霧で薄くなる。こうした変化を「気のせい」で片付けず、決めておいた判断場所で立ち止まるきっかけにします。
天候が崩れかけたときに体を守る上着として、カリマーの「arete LT parka」はトレッキング用のソフトシェルです。雨風が強まる前の段階で、動きながら羽織れる1枚を持っておきたい人の候補になります。雨が本降りになる場面では、別に雨具を用意する前提で考えてください。
編集部の判断:公式に数値の基準がない以上、引き返す線は自分で先に決めておくしかありません。その線を「マタエ」「西峰」「お鉢の途中」という場所ごとに置いておくと、天候の変化に気づいたときに迷わず立ち止まれます。現地で考え始めるより、場所で決めておくほうが確実だと考えています。
最終バスと日没の早いほうから、下山の締切を逆算する
由布岳の正面登山口の最寄りとなる亀の井バスの「由布登山口」バス停には、別府方面と由布院方面の路線が通っています。亀の井バスの時刻表(2026年3月14日現在、2026年9月13日確認時点)では、由布登山口を通過する最終便は次のとおりです。
| 帰る方面 | 曜日 | 由布登山口の最終(通過) | 終点側の到着 |
|---|---|---|---|
| 別府方面 | 平日 | 18:15 | 別府駅西口 18:51着 |
| 別府方面 | 土日祝 | 18:15 | 別府駅西口 18:52着 |
| 由布院方面 | 平日 | 18:57 | 由布院駅前 19:12着 |
| 由布院方面 | 土日祝 | 18:56 | 由布院駅前 19:11着 |
この時刻は、あくまで帰りの足が残っている最後の時刻です。9月から秋にかけては日が短くなるため、日没のほうが最終バスより早く来る日も考えられます。暗くなってからの下山は、足元の確認に時間がかかり、道迷いのもとにもなります。締切の基準は、最終バスと日没の早いほうに置きます。
編集部の見立て:別府方面に帰る人にとって、18:15という時刻は由布院方面より40分ほど早い締切です。宿やその日の帰り道を決めた時点で、どちらの最終便が自分の基準になるのかが決まります。登る前に方面を決めておかないと、山頂部での時刻判断そのものができません。
日没時刻は、この記事には数字で書いていません。登る日が決まったら、国立天文台の「こよみの計算」のページで、由布院付近の地点を指定して、その日の日没時刻を自分で調べてください。そのうえで、次の手順で締切を出します。
| 出す時刻 | 出し方 |
|---|---|
| 基準の時刻 | 自分が乗る方面の最終バス(別府方面18:15/由布院方面18:56〜18:57)と、その日の日没時刻の早いほう |
| 登山口に戻る締切 | 基準の時刻 − バス停までの移動と待ちの余裕(自分で決める) |
| マタエを最後に離れる時刻 | 登山口に戻る締切 − 自分の下山時間 − 余裕 |
| 各行程に入る最後の時刻 | マタエを最後に離れる時刻 − 約20分(東峰だけ)/約40分(西峰だけ)/約2時間(お鉢一周)。いずれも公式の区間値の単純合計 |
この表で、具体的な時刻を記入していない欄があるのには理由があります。由布市の公式マップには、マタエや山頂から登山口までの下山時間が明記されていません。そのため、この記事では「何時までにマタエを出れば間に合う」という時刻を断定していません。下山時間は自分のペースで見積もり、多めに見て早めに動いてください。
最終バスに間に合わせることだけを目標にすると、下りを急いで足元がおろそかになります。岩場やガレ場の下りで急ぐのは、滑落のきっかけになります。締切から逆算した時刻は「その時刻までに動けばよい」ではなく、「その時刻を過ぎたら行程を短くする」線として使ってください。
秋の山では、日没と行動の遅れが重なりやすくなります。日没から引き返す時刻を決める考え方や、秋に事故が増えると言われる理由の統計的な裏付けは、秋の登山の遭難を警察庁統計の態様別実数で読み、日没から引き返し時刻を決める記事で詳しく扱っています。
バスの時刻表は改正されることがあります。この記事の時刻は2026年3月14日現在の時刻表によるものです。登る前に、亀の井バスの公式サイトで、その日に有効な時刻表を自分で確認してください。
お鉢に向かない日を見分ける:疲れた足・秋の日の短さ・火入れの予定
ここまでで、時刻・天候・鎖場の条件を扱ってきました。この章では、それ以外に「この日はお鉢を選ばないほうがよい」と判断できる材料を、公式の記載で確かめられる範囲だけ整理します。
1つ目は、登りで足を使い切っている日です。公式マップは、お鉢まわりについて「登頂後の疲れた足では危険」と明記しています。ここでいう疲れは、息が上がっているかどうかより、下りで踏ん張れる力が残っているかどうかで見るのが実用的です。立ち止まったときに太ももが震える、段差を下りるときに膝が抜けるような感覚がある。そうした日は、お鉢のガレ場で足場を選び続ける力が残っていないと考えてください。
2つ目は、秋で日が短くなっている時期に、出発が遅れた日です。前の章で扱ったとおり、下山の締切は最終バスと日没の早いほうで決まります。日没が早まる時期ほど、マタエで使える持ち時間は短くなります。出発が予定より遅れた日は、その時点で「今日はお鉢を外す」と決めておくと、山頂部で迷わずに済みます。
3つ目は、別府市の火入れ(野焼き)の予定がある日の前後です。別府市の「火入れ実施予定」のページでは、由布岳付近で2026年9月24日にも火入れが予定されています(2026年9月13日確認時点)。天候や現地の状況で変更があると書かれています。
火入れの当日に登山道がどう扱われるかは、2026年9月13日時点で、確認した別府市のページに記載が見つかりません。9月24日前後に由布岳へ登る予定の人は、出発前に別府市へ確認してください。なお、同じページで実施予定とされていた9月5日・6日については、実際に実施されたかどうかをこの記事では確認していません。
もう1つ、由布岳が活火山であることにも触れておきます。気象庁の火山の活動状況のページでは、2026年9月13日確認時点で「噴火予報(活火山であることに留意)」とされ、現在「特段の警戒事項はありません」と書かれています。これは山全体についての記載で、火口の縁やお鉢巡りに限った内容ではありません。
大分県は、活火山に登る人に向けた一般的な注意として、異常な火山活動で入山規制などが行われた場合には、規制範囲の外へ移動するよう案内しています。これもお鉢巡りに限った記載ではありませんが、火口の縁を回る行程である以上、登る前に気象庁の火山のページを開いて、発表の内容が変わっていないかを確かめる習慣をつけておくと安心です。
- 登りの時点で、公式の平均約2時間30分を大きく上回るペースになっていないか
- 出発が予定より遅れ、マタエの持ち時間が計画より短くなっていないか
- 登る日が9月24日前後なら、別府市に火入れの扱いを確認したか
- 気象庁の由布岳の火山のページで、登る日の発表内容を確かめたか
- 別府市の登山規制情報の更新日と記載内容を、出発前に見直したか
このチェックは、お鉢に入るかどうかの最終判断の手前で使うものです。1つでも引っかかる項目があれば、その日は東峰か西峰で戻る計画を最初から立てておくと、山頂部での判断が楽になります。
編集部の判断:お鉢に向かない日の多くは、山に着く前から分かっています。出発の遅れ、火入れの予定、火山の発表は、どれも自宅や登山口で確認できる材料です。山頂部で悩むより、朝の段階で「今日はお鉢を外す日」と決めてしまうほうが、判断の質は上がると考えています。
由布岳の遭難情報をどう読むか:件数が公表されていない部分の扱い
お鉢巡りの判断では、「実際にどのくらい事故が起きているのか」を知りたくなります。ただ、この点については、公表されている数字と、公表されていない部分を分けて読む必要があります。
由布市は、登山の注意喚起(2022年12月19日更新)で、由布岳で滑落事故が多発していると書いています。ただし、件数や発生した場所、お鉢巡りに限った内訳は公表していません(2026年9月13日確認時点)。同じく、別府市の登山規制情報の注意喚起にも事故が多いことは書かれていますが、件数は示されていません。
数字として確認できるのは、大分県警が公表している山系別の遭難統計です。過去5年間で、「由布・鶴見」の山系は48件、全体の20.7%とされています(2026年9月13日確認時点)。
48件の読み方:この48件は「由布・鶴見」という山系をまとめた数字で、由布岳単独の件数でも、お鉢巡りに限った件数でもありません。由布岳のお鉢巡りで何件の事故が起きたか、という数字は公表されていないと理解したうえで、山系全体として遭難が一定の割合を占めている、という読み方にとどめてください。
件数が公表されていないことは、事故が少ないことを意味しません。由布市が「多発」と書き、別府市も注意の必要な区間として書き分けている以上、数字がないからといってリスクを小さく見積もる理由はありません。反対に、48件という数字をお鉢巡りの危険度として受け取るのも正確ではありません。
数字が足りない中でできることは、公式が案内している対策を行動に移すことです。由布市の注意喚起では、次のような点を案内しています。
- 単独での登山を避ける
- 登山届を出す
- 通信手段を確保する
- 十分な装備で登り、ルートから外れない
- 危険な箇所に近づかない
- 気象が急に変わったときは引き返す
この6つを、お鉢巡りの判断に重ねてみると、ここまでの章の内容とつながります。単独を避けるのはマタエで1人にならないため、通信手段は山頂部で何かあったときに連絡するため、危険箇所に近づかないのは崩落の表示がある場所で端に寄らないため、そして気象の急変で引き返すのは、場所ごとに決めた線に戻るためです。
別府市のページでは、お鉢巡り以外にも「東登山口⇔日向越⇔日向岳⇔合野越⇔マタエ」について「登山可能ですが、日向越・日向岳ルートは遭難が多い状況」と書かれています。お鉢巡りに向かう前後で、ほかのルートを使って下山する計画を立てる場合も、区間ごとの記載を確かめてから決めてください。
遭難統計や注意喚起は、読んで怖がるためのものではなく、行動の優先順位を決めるための材料です。件数が出ていない部分は「出ていない」とそのまま受け取り、代わりに公式の対策を1つずつ実行する。この読み方が、数字の不足を埋めるいちばん確かな方法です。
編集部の見立て:遭難の数字が見つからないと、つい「大したことはない」か「とても危ない」のどちらかに振れがちです。由布岳のお鉢巡りについては、件数は公表されていないが、公式が注意の必要な区間として書き分けている、という中間の事実をそのまま持って行くのが妥当だと考えています。
よくある質問
Q. お鉢巡りの約90分には、マタエとの往復も含まれていますか?
含まれていません。由布市公式マップの約90分は、西峰⇔東峰の区間、つまり火口の縁を回る部分の時間です(2026年9月13日確認時点)。マタエからお鉢を一周してマタエに戻る場合は、マタエ→西峰20分、東峰→マタエ10分を足す必要があり、公式の区間値を合計すると約2時間になります。これは単純に足した値で、公式の総計ではありません。
Q. 別府市の注意喚起があるということは、お鉢巡りは通行止めですか?
別府市の登山規制情報(2025年12月1日更新)は、お鉢巡りの区間について通行止めとは書いていません。崩落・地割れ・亀裂箇所があるとして、十分な注意を呼びかける書き方です。「登山可能」の区間とは書き分けられており、マタエ⇔東峰の区間も同じ注意喚起の対象です。状況は変わることがあるので、登る前に別府市のページを自分で確認してください。
編集部の見立て:「通行止めではない」と「気軽に歩ける」はまったく別の話です。この違いを取り違えないことが、お鉢巡りの判断の出発点になると考えています。
Q. 東峰だけで戻るなら、どのくらいの時間を見ればよいですか?
公式マップのマタエ⇔東峰は片道10分の表示です。往復にすると単純合計で約20分ですが、これは公式の往復時間ではありません。下りで足元を確かめる時間や、すれ違いの待ち時間は含まれていないので、自分のペースと余裕を上乗せして見積もってください。
Q. 由布岳のお鉢巡りで事故は何件起きていますか?
お鉢巡りに限った件数は公表されていません。由布市は滑落事故が多発していると書いていますが、件数や場所別の内訳は示していません。大分県警の山系別統計では、過去5年間で「由布・鶴見」48件(20.7%)とされていますが、これは山系をまとめた数字で、由布岳単独やお鉢巡り限定の件数ではありません。
Q. 帰りのバスに間に合わせるには、何時までにマタエを出ればよいですか?
公式マップに下山時間の明記がないため、この記事では具体的な時刻を断定していません。由布登山口の最終バスは、別府方面が18:15、由布院方面が平日18:57・土日祝18:56です(亀の井バス、2026年3月14日現在)。この時刻とその日の日没時刻(国立天文台のこよみの計算で確認)の早いほうを基準に、自分の下山時間と余裕を引いて、マタエを最後に離れる時刻を出してください。
編集部の判断:締切の時刻を記事から借りるのではなく、自分の下山時間で出すことをすすめているのは、同じ由布岳でも人によって下りの時間が大きく違うからです。数字を自分で入れる手間が、そのまま山頂部での判断の確かさになります。
まとめ:今日やることは1つ
由布岳のお鉢巡りは、火口の縁を約90分かけて回る、公式マップが「経験者向き」とする行程です。マタエでの選択肢は、東峰だけで戻る(公式の区間値の単純合計で約20分)、西峰まで行って戻る(約40分)、お鉢を一周する(約2時間)の3つ。選ぶ材料は、時刻・足の残り・天候・経験の4つです。
別府市の注意喚起は通行止めの告知ではありませんが、東峰だけで戻る区間も含めて注意の必要な区間として書き分けられています。帰りの締切は、由布登山口の最終バス(別府方面18:15、由布院方面18:56〜18:57、2026年3月14日現在)と日没の早いほうから、自分の下山時間を引いて出します。
編集部の見立て:この記事で伝えたかったのは、お鉢巡りを「行けるかどうか」で考えるのをやめて、「今日の条件で、どこまで足すか」で考えることです。東峰で戻る日も、お鉢を一周する日も、同じ判断の手順から出てきた結論なら、どちらも正しい選択だと考えています。
今日やることは1つです。登る日の帰りの方面を決めて、最終バスと日没の早いほうの時刻を1つだけ書き出してください。その時刻が決まれば、マタエでの判断はすべてそこから逆算できます。
- 帰る方面(別府方面か由布院方面か)を決め、亀の井バスの公式サイトでその日の最終便の時刻を確認する。国立天文台のこよみの計算で由布院付近の日没時刻を調べ、早いほうを基準の時刻として書き出す
- 別府市の登山規制情報と火入れ実施予定のページ、気象庁の由布岳の火山のページを開き、更新日と内容が変わっていないかを確かめる
- 基準の時刻から自分の下山時間と余裕を引いて「マタエを最後に離れる時刻」を出し、そこから約20分・約40分・約2時間を引いた3つの時刻をメモして山に持って行く
編集部の判断:3つの手順のうち、山に入ってからできることは1つもありません。どれも前日までに済ませられる準備です。マタエで立ち止まったときにメモの時刻と時計を見比べるだけで判断できる状態にしておくことが、お鉢巡りに向き合ういちばん確実な準備だと考えています。
出典
- 由布市「由布岳登山ルートマップ(日本語版)」(お鉢まわりの所要時間・区間表示・難所の記載・危険表示・正面登山口から山頂の平均所要時間)https://www.city.yufu.oita.jp/uploads/files/2023/11/yufudakemapjapanese(1).pdf(2026年9月13日確認)
- 由布市「由布岳」観光ページ(標高1,583m)https://www.city.yufu.oita.jp/kankou/kankou-2/kankou_cate1_1/yufudake(2026年9月13日確認)
- 由布市「登山の注意喚起」(2022年12月19日更新)https://www.city.yufu.oita.jp/cate_2/article_81247(2026年9月13日確認)
- 由布市「由布岳登山規制情報」(2016年8月3日現在)https://www.city.yufu.oita.jp/wp-content/uploads/2016/08/yufudaketozankiseijyouhou.pdf(2026年9月13日確認)
- 別府市「登山規制情報」(2025年12月1日更新)https://www.city.beppu.oita.jp/sangyou/nourinsuisan/tozankisei.html(2026年9月13日確認)
- 別府市「火入れ実施予定」https://www.city.beppu.oita.jp/sangyou/nourinsuisan/hiire.html(2026年9月13日確認)
- 亀の井バス 時刻表(2026年3月14日現在・平日)https://kamenoibus.com/scheduled_tt/pdf/202603/36d.pdf(2026年9月13日確認)
- 亀の井バス 時刻表(2026年3月14日現在・土日祝)https://kamenoibus.com/scheduled_tt/pdf/202603/36e.pdf(2026年9月13日確認)
- 気象庁「由布岳の火山活動の状況」https://www.data.jma.go.jp/vois/data/report/activity_info/514.html(2026年9月13日確認)
- 大分県「火山地域での登山・観光の注意」https://www.pref.oita.jp/soshiki/13550/volcano-mountaineering-sightseeing.html(2026年9月13日確認)
- 大分県警察 山岳遭難の発生状況(山系別統計)https://www.pref.oita.jp/uploaded/life/2306947_4527843_misc.pdf(2026年9月13日確認)
- 国立天文台「こよみの計算」https://eco.mtk.nao.ac.jp/cgi-bin/koyomi/koyomiy.cgi(2026年9月13日確認)
