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軽アイゼンの選び方は、爪の本数ではなく「行く山の条件」で決まる
軽アイゼンとは、前爪を持たず土踏まず部だけに爪を配置した、4〜6本爪の滑り止め器具である。モンベル公式の登山装備ガイドは、その想定用途を「凍結面や雪が少ない低山ハイク」と書いている。裏を返せば、深雪や急斜面、岩稜はこの道具の担当ではない。
冬の登山用品店で、チェーンスパイク・軽アイゼン・10〜12本爪アイゼンが同じ棚に並んでいるのを見ると、値段と爪の数で選びたくなる。けれど選択の順番は逆だ。先に決まるのは「行く山がどんな状態か」と「手持ちの靴にコバがあるか」の2つで、爪の本数はその答えとして後から出てくる。
この記事は、アイゼン側から見た判定の順序と、装着方式ごとの靴の適合をメーカー公式の言葉で並べたものです。編集部⛰️はこれらの製品を雪山で使っていないため、書けるのは公表値と公式の区分だけ。歩き方や、その日その斜面に入るかどうかの判断は、この記事では扱いません。
この記事でわかること
- チェーンスパイク・軽アイゼン・10〜12本爪の、メーカー公式が示す想定用途と「使ってはいけない場面」の境目
- ワンタッチ/セミワンタッチ/ベルト式が、それぞれ靴のどこにコバを要求するか
- 行く山の条件(斜度・凍結の程度・岩稜の有無)から1つに絞る判定チェックリスト
- この3種では足りず、ピッケルと技術の領域に入る線がどこか
先に結論:軽アイゼンとチェーンスパイク、どっちを選ぶか
凍った登山道を歩く冬の低山で、付けたり外したりを繰り返す日ならチェーンスパイク。傾斜の緩い残雪の道や、靴裏に雪が団子状に付きやすい日なら、スノープレート付きの軽アイゼン(4〜6本爪)が候補になります。雪の稜線や凍った急斜面に入るなら、どちらでもなく10〜12本爪と冬靴の組み合わせです。重さはチェーンスパイクのほうが軽く、Lサイズどうしの公表値で軽アイゼンの6割弱(下の比較表)。その差よりも「行く道の状態」で決めるほうが外れにくい、というのがこの記事の答えです。
装備の全体像から確認したい方は、冬の登山装備リストで足まわり以外の持ち物もあわせて見てください。アイゼンは冬装備の一部でしかなく、単体で完結する買い物ではありません。
3種の比較(メーカー公式の想定用途で並べる)
下の表は、爪の形と本数ではなく、公式が「どこで使う道具だと言っているか」を軸に並べています。「未確認」と書いた欄は、公式の解説に記載が見当たらない項目です。
| 種類 | 爪の本数と配置 | メーカー公式の想定用途 | 使ってはいけない場面 |
|---|---|---|---|
| チェーンスパイク | 短い爪が足裏全体に配置される。本数はモデルにより異なり、モンベル公式の一般解説に具体的な本数の記載はない(未確認) | モンベル公式「冬の低山ハイク、軽度の凍結対策」 | 凍りついた雪面や岩稜。公式の区分ではそこは10〜12本爪の領域 |
| 軽アイゼン(4〜6本爪) | 前爪なし。土踏まず部のみに爪を配置 | モンベル公式「凍結面や雪が少ない低山ハイク」 | 深雪・急斜面・岩稜など、前爪を蹴り込む必要がある地形 |
| 10〜12本爪アイゼン | 前爪あり。靴底の全周に配置 | モンベル公式「凍りついた雪面や雪の付いた岩稜など、雪山でのさまざまな状況に対応するために必要」 | コバのないトレッキングシューズへのワンタッチ/セミワンタッチでの装着 |
出典:モンベル「登山装備ガイド 雪山編」(2026年8月11日確認時点)。チェーンスパイクそのものの詳細はチェーンスパイクの公式スペックと使いどころで個別に整理しています。
編集部の見立て:この表でいちばん読んでほしいのは右端の列です。左3列だけを見ると「上位互換を買えば安心」に見えますが、公式が線を引いているのは用途であって値段ではありません。
軽アイゼンとチェーンスパイクの違いと、いつから要るか
違いは「爪の形」「付け方」「重さ」の3点
チェーンスパイクは、ゴム状のバンドを靴にかぶせ、足裏に回したチェーンに短いスパイクを並べた滑り止めです。モンベルのチェーンスパイク(#1129740)の公式ページは「靴の上から靴下を履くような感覚で簡単に装着できます」と説明しており、スパイクとチェーンはステンレス鋼、バンドはエラストマーです。一方の軽アイゼンは、金属の爪を土踏まずの下にまとめ、ベルトやバックルで靴に締めて固定する道具です。エバニューの6本爪アイゼン(EBY014)はラチェット式のバックルで締める「バックル式」で、雪が団子状に付くのを防ぐスノープレートが付属しています。
- 爪:チェーンスパイクは短いスパイクが足裏全体に並ぶ。軽アイゼンは前爪がなく、土踏まずの下に4〜6本
- 付け方:チェーンスパイクはバンドをかぶせるだけ。軽アイゼンはベルトやバックルで締める
- 重さ:Lサイズどうしの公表値で、モンベルのチェーンスパイクが287g、エバニューの6本爪アイゼンが520g(どちらもペア)
呼び方には重なりもあります。モンベルのオンラインストアでは、チェーンスパイクが「軽アイゼン」のカテゴリに入っています。売り場や通販で「軽アイゼン」と書かれていても、チェーン式なのか、爪を束ねたベルト式なのかは、商品写真と仕様欄で見分けてください。
どちらも、公式が本格的な雪山の道具として位置づけていない点は共通です。モンベルはチェーンスパイクの適した用途を「冬の低山や夏の雪渓歩行」とし、本格的な雪山登山には使わないよう明記しています。エバニューは6本爪アイゼンを「冬の低山や傾斜の緩やかな残雪の山、夏の雪渓歩き」向けと案内しています(いずれも2026年9月30日確認)。チェーンスパイク単体の選び方やサイズ合わせは、チェーンスパイクの選び方と使いどころで詳しく扱っています。
いつから要るか:奥日光の平年値で見る目安
凍結や積雪がいつ始まるかは、山の標高や斜面の向き、その年の天候で変わるため、月で言い切ることはできません。目安として、気象庁が公表している奥日光(栃木県日光市)の観測点の平年値(1991〜2020年の30年平均)を並べます。
| 月 | 日最低気温の平年値 | 月最深積雪の平年値 |
|---|---|---|
| 10月 | 5.7℃ | 0cm |
| 11月 | 0.2℃ | 3cm |
| 12月 | -4.9℃ | 15cm |
| 1月 | -7.9℃ | 31cm |
| 2月 | -7.8℃ | 30cm |
| 3月 | -4.6℃ | 30cm |
| 4月 | 0.2℃ | 10cm |
出典:気象庁「過去の気象データ検索 平年値(年・月ごとの値) 奥日光」 https://www.data.jma.go.jp/obd/stats/etrn/view/nml_sfc_ym.php?prec_no=41&block_no=47690&year=&month=&day=&view= (2026年9月30日確認)
日最低気温の平年値が0.2℃まで下がる11月は、朝の日陰や湿った木道・岩が凍っていても不思議ではない時期です。月最深積雪の平年値が3cmから15cmへ増える11月から12月にかけて、備える対象が「凍結」から「雪」へ広がっていきます。4月も日最低気温の平年値は0.2℃で、残雪期の朝の凍結にも同じ考え方が当てはまります。
平年値は30年間の平均で、年ごとの振れがあり、標高や地域が違えば数字も変わります。出かける前には、登山口の自治体や山小屋が出す最新の状況と、気象庁の予報・注意報を確かめてください。
選ぶ基準は4つ:爪・取り付け方式・重さ・対応サイズ
- 爪の本数と配置:チェーンスパイク(足裏全体に短いスパイク)、軽アイゼン(前爪なしの4〜6本)、10〜12本爪(前爪あり)の順に、公式が想定する地形が雪山側へ移ります。前爪があるかどうかが、急な雪面や凍った斜面を想定しているかの分かれ目です。
- 取り付け方式と靴のコバ:ベルトやバックルで締める方式は、系統としてコバのない靴にも付けられます。セミワンタッチは踵に、ワンタッチはつま先と踵の両方にコバが要ります(詳しくは次の節)。
- 重さ:下の表の公表値では、ペアで287g(チェーンスパイクL)から964g(12本爪)まで、3倍以上の幅があります。行く道に対して重すぎる道具は、ザックに入れたまま使われなくなりがちです。
- 対応サイズ:モンベルのチェーンスパイクはS〜XLの4サイズ(20.5〜31.0cm)、エバニューの6本爪アイゼンはS・Lの2サイズ(22.0〜28.0cm)です。モンベルは、靴の形状によっては対応サイズ内でも装着できない場合があると注記しています。
| 商品 | 爪 | 取り付け方式 | 重量(ペア) | 対応サイズ | 公式の想定用途 |
|---|---|---|---|---|---|
| モンベル チェーンスパイク(#1129740) | チェーンで連結したスパイクが足裏全面 | エラストマーのバンドを靴にかぶせる | 242g(S)〜316g(XL)。Lは287g | S 20.5〜23.5cm/M 23.0〜26.0cm/L 25.5〜28.5cm/XL 28.0〜31.0cm | 冬の低山や夏の雪渓歩行 |
| エバニュー 6本爪アイゼン(EBY014) | 6本爪。スノープレート付き | バックル式(ラチェット式バックル) | 500g(S)/520g(L) | S 22.0〜24.5cm/L 25.0〜28.0cm | 冬の低山や傾斜の緩やかな残雪の山、夏の雪渓歩き |
| グリベル G10 EVO・ニュークラシック | 10本爪 | ニュークラシック(ベルト式の系統) | 806g | 製品ページに靴サイズの数値の記載なし | 低山から中級山岳の雪山歩き |
| グリベル G12 EVO・ニュークラシック | 12本爪 | ニュークラシック(踵にコバのない登山靴でも使用可能) | 964g | 製品ページに靴サイズの数値の記載なし | 耐久性の高いオールラウンドな雪山登山 |
| グリベル エアーテックライトEVO・ニューマチック | 12本爪(アルミ製) | ニューマチック(踵にコバのある靴専用) | 564g | 製品ページに靴サイズの数値の記載なし | ツアースキー等、荷物の重量を抑えたい人向け。岩場の歩行には不向き |
出典:モンベル公式オンラインストア「チェーンスパイク #1129740」 https://webshop.montbell.jp/goods/disp.php?product_id=1129740 /エバニュー公式オンラインショップ「6本爪アイゼン EBY014」 https://outdoor.evernew.co.jp/products/detail/1191 /マジックマウンテン(グリベル日本正規代理店)「G10 EVO」 https://www.magic-mountain.jp/products/grivel/p_cramp_g10_evo.php 、「G12 EVO ニュークラシック」 https://www.magic-mountain.jp/products/grivel/p_cramp_g12_evo_nc.php 、「エアーテックライトEVO・ニューマチック」 https://www.magic-mountain.jp/products/grivel/p_cramp_airtec_light_evo_nm.php (いずれも2026年9月30日確認)。
エバニューの6本爪アイゼン(EBY014)は、ラチェット式バックルで締めるバックル式の軽アイゼンで、雪の付着を抑えるスノープレートが付属します。チェーンスパイクより重くなる代わりに、傾斜の緩やかな残雪の山まで公式の用途に入ります。サイズはSとLの2展開です。
モンベルのチェーンスパイク(#1129740)は、エラストマーのバンドを靴にかぶせるだけで付けられるチェーン式の滑り止めです。Lサイズでペア287gと軽く、S〜XLの4サイズがあります。公式の用途は冬の低山や夏の雪渓歩行で、凍った区間だけ付け外ししたい人に向きます。
軽さを取るならチェーンスパイク、雪の付きにくさと爪の食い込みを取るなら6本爪の軽アイゼン、というのが表から読める分かれ方です。エバニューの6本爪アイゼンは、公式が「幅広いシューズにも対応が出来る」としていますが、コバの要否についての記載は公式ページにありません。手持ちの靴に付くかは、店頭で合わせて確かめるのが確実です。
装着方式を決めるのはアイゼンではなく、靴のコバである
コバとは、登山靴のつま先とかかとの外周に張り出した、金具を引っかけるための溝または縁のことである。これがあるかないかで、その靴に付けられるアイゼンの方式が機械的に決まる。好みや慣れの問題ではありません。
玄関に靴を出して、つま先とかかとを指でなぞってみてください。爪が引っかかる段差があるかどうか。それだけで、売り場で見るべき棚が3分の1に減ります。
| 装着方式 | 必要なコバ | 対応する靴(モンベル公式の目安) | 固定のしかた |
|---|---|---|---|
| ワンタッチ(ニューマチック) | つま先・かかとの両方 | 厳冬期アルパイン用。ソールが「とても硬い」モデル | 前後を金具とレバーで固定 |
| セミワンタッチ | かかとのみ | 残雪期・冬山用。ソールが「硬い」モデル | かかとのみレバーで固定し、つま先はベルト |
| ベルト(テープ/ニュークラシック) | 不要 | トレッキングシューズなど、ソールが「やや硬い」〜「柔らかい」モデル | 紐(ベルト)で靴に締めて固定 |
出典:モンベル「登山装備ガイド 雪山編」(2026年8月11日確認時点)。なおモンベル公式はソールの硬さを「とても硬い/硬い/やや硬い/柔らかい」という自社の4段階の言葉で表しており、記号による国際的な硬度規格を用いていません。この記事でも記号での硬度表記は使いません。
合わない組み合わせは、歩いている最中に外れます
コバのない靴にワンタッチやセミワンタッチのアイゼンを無理に装着すると、歩行中に外れる危険があるとメーカー公式が注意を促しています。さらにグリベルの国内正規代理店は、コバのある靴であっても「靴の形状によっては対応サイズ内でも装着できない場合がある」と案内しています。通販で型番だけを合わせて完結させず、履いている靴を店舗に持ち込んで合わせるのが前提だと考えてください。
靴の側から逆に引きたい場合は雪山の登山靴とコバ・ソール硬さの関係を、幅で悩んでいる方は幅広の足に合う登山靴の選び方を見てください。コバの有無は幅やサイズとは別の軸なので、両方を満たす一足を探すことになります。
そして、これは書いておかなければならないことです。スニーカーで登山ができるかを検討した記事でも触れていますが、ソールが柔らかく踵の形も一定しないスニーカーは、ベルト式であっても締め込みが効きません。アイゼンを付ける前提の靴ではない、と考えるのが安全側の整理です。
行く山の条件から1つに絞る、3つの入口
判定とは、迷いを減らすために順番を固定する作業である。ここでは「靴」「地形」「斜度」の3つを、この順で通します。途中で1つでも引っかかったら、その先には進みません。
入口①:手持ちの靴のコバを確認する
- コバなし → 選べるのはベルト式のみ(チェーンスパイクを含む)
- かかとだけにコバあり → セミワンタッチまで
- つま先とかかとの両方にコバあり → ワンタッチまで選べる
入口②:行く場所がどんな状態か
- 冬の低山ハイクで、軽度の凍結対策 → チェーンスパイク
- 低山で雪は少ないが、凍結面がある → 軽アイゼン(4〜6本爪)
- 凍りついた雪面や、雪の付いた岩稜 → 10〜12本爪アイゼン
入口③:斜度と、ピッケルの要否
- 傾斜が緩い区間 → トレッキングポールを使う場面(モンベル公式の役割分担)
- 斜度のきつい雪面を登る/滑落停止が必要 → ピッケルと、それを使う技術の領域
ここで注意したいのが、入口①と入口②の答えがずれる場合です。「凍った雪面や岩稜」に行きたいのに靴にコバがない、という状態は、アイゼンを買っても解決しません。順序としては靴が先に来ます。
入口③のポールとピッケルは、アイゼン選びと並走するもう一つの軸です。緩斜面のバランス確保に使う道具と、滑落を止めるための道具は別物なので、片方でもう片方の代わりにはなりません。手に持つ道具の側はトレッキングポールの選び方と使いどころで整理しています。
編集部の見立て:3つの入口のうち、買い物の失敗がいちばん多く起きるのは①です。②と③は現地で調べれば分かりますが、①は自宅の玄関で30秒あれば確認できるのに、なぜか後回しにされます。
公表スペックで見る3モデル(値は公式に確認できたものだけ)
製品紹介とは、売れ筋を並べる行為ではなく、公表値と用途の対応を示す作業である。ここでは公式に確認できた値だけを書き、確認できていない項目はそのように明示します。
コバなしの靴で、冬の低山を歩くなら
スノーライン チェーンセンプロは、足裏全体に短い爪を配したチェーンスパイク型の滑り止めです。型番はSL44UES001。ただし、爪の本数・重量・メーカー公式の想定用途は確認できていません。カテゴリとしてのチェーンスパイクにモンベル公式が与えている用途は「冬の低山ハイク、軽度の凍結対策」であり、この記事はその区分の範囲でだけ扱います。凍った斜面や岩稜に持ち出す道具としては公式が別の区分を用意しています。
チェーンスパイクの利点は、コバのない靴でも使えて、着脱が速いことです。逆にいえば、その手軽さが判断を鈍らせる場面もある。「これで足りるか」を毎回考え直す余地を残しておいてください。
コバのない靴に10本爪を付けられる、ベルト式という選択肢
グリベル G10 EVO・ニュークラシック(型番GV-RAG10NCEF)は10本爪のアイゼンです。名前にある「ニュークラシック(New-Classic)」は、グリベル自社のバインディング系統のうちベルト(紐)式にあたる区分で、系統としてはコバのない靴にも装着できるものです。国内正規代理店の製品ページでは、重量は左右1組で806g、用途は「低山から中級山岳の雪山歩きに適したクランポン」と案内されています(2026年9月30日確認)。
ここは誤解が起きやすい箇所なので、はっきり書きます。「コバなしの靴に10本爪を装着できること」と「その靴と技量でその山に行けること」は別の話です。10〜12本爪にモンベル公式が与えている用途は「凍りついた雪面や雪の付いた岩稜」であり、そこは同時にピッケルと歩行技術が求められる領域でもあります。道具が付いたことを、行ける根拠にしないでください。
かかとにコバのある靴で、軽さを優先するなら
グリベル エアーテックライトEVO・ニューマチック(型番GV-RAATLNMEF)は12本爪、重量は左右1組で564gです。500mlのペットボトル1本を少し超えるくらい、と考えると持ち上げた感じが想像しやすいはずです。装着方式はニューマチックで、踵にコバのある靴専用。前後にコバのある靴にも使えます。
もう一点、公式が明記している限定があります。国内正規代理店の製品ページは、このモデルを「ツアースキー等、荷物の重量を抑えたいユーザー向けのクランポン」と位置づけ、岩場の歩行には不向きだと書いています。12本爪だから何にでも対応できる、という読み方ができないモデルです。軽さには、その分だけ用途の限定が付いてくる。
足元の小物として、雪や雨の侵入を抑えるスパッツも同じ日に必要になります。モンベル GORE-TEX ライトスパッツ セミロング(#1129430)はペア129g(2026年8月11日確認時点)。サイズはS(22-24cm)/M(24-26cm)/L(26-28cm)の3展開です。129gは鶏卵2個ぶんほどで、ザックの隙間に押し込める重さといえます。なお公式ページに、特定のアイゼン装着方式との適合を示す記載はありません。長さや素材の違いはスパッツ(ゲイター)の選び方で比べられます。
用途別の結論:凍結した低山・残雪の入門・本格的な雪山
11月からの凍結した低山なら:チェーンスパイク
雪はほとんどなく、朝の日陰や北向きの道だけが凍っている低山なら、チェーンスパイクがいちばん手軽です。モンベルのチェーンスパイクはLサイズでペア287g。バンドをかぶせるだけなので、凍った区間の手前で付け、乾いた道に出たら外す、という使い方に向いています。コバのない登山靴やトレッキングシューズでもそのまま使えます。
グリベルのG12 EVO・ニュークラシックは、前から2番目の爪が長く前方へ向いた12本爪で、代理店はオールラウンドな雪山登山向けと案内しています。ニュークラシックは踵にコバのない登山靴でも使用可能なシステムです。冬靴と合わせて本格的な雪山へ進む人の候補になります。
傾斜の緩い残雪・雪の少ない低山なら:6本爪の軽アイゼン
雪が薄く残り、靴裏に雪が団子のように付きやすい道なら、スノープレート付きの軽アイゼンが候補です。エバニューの6本爪アイゼン(EBY014)は、公式の用途が「冬の低山や傾斜の緩やかな残雪の山」。重さはチェーンスパイクより増えますが、爪で雪面をとらえる道具です。エバニューは、バックルやテープは経年劣化が避けられないとして、シーズン前にヒビや亀裂がないかを確認し、劣化があれば交換を依頼するよう案内しています(2026年9月30日確認)。
雪の稜線・本格的な雪山なら:10〜12本爪と冬靴
凍った雪面や雪の付いた岩稜に入るなら、選ぶのは10〜12本爪です。グリベルの国内正規代理店は、G10 EVOを「低山から中級山岳の雪山歩きに適した」10本爪、G12 EVOを「耐久性の高いオールラウンドな雪山登山に適した」12本爪と案内しています。G12 EVOは前から2番目の爪が長く前方へ向いていて、急な氷雪斜面では最前列の爪とともに斜面へ食い込む設計です。ニュークラシックは、踵にコバのない登山靴でも使用可能なシステムとされています(2026年9月30日確認)。
ただし、10〜12本爪は冬靴とセットで考える道具です。ソールの硬さとコバの有無で付けられる方式が決まるため、靴から先に選ぶ流れは雪山用の登山靴の選び方で整理しています。店頭で合わせるときは、冬に履く厚手の靴下を履いた状態で靴とアイゼンを試すと、当日の足元に近い条件で確かめられます。靴下の素材と厚みは冬の登山用靴下の選び方を見てください。
12本爪が靴に付くことと、その山に行けることは別です。急な雪面や滑落の危険がある場所では、ピッケルとそれを使う技術、雪山講習での練習が前提になります。道具をそろえた日を、行き先を決める根拠にしないでください。
最初の1回は借りるという選び方
雪山の入門で、冬靴とアイゼンを一度にそろえるか迷っているなら、最初の1回は借りるという選択肢もあります。やまどうぐレンタル屋
の公式サイトでは、「冬山用アイテム」として冬用登山靴、アイゼン・チェーンスパイク、冬用登山靴とアイゼン(12本爪)とスパッツのセットなどが掲載されています(https://www.yamarent.com/ 、2026年9月30日確認)。借りて歩いてみると、自分の行く山にどの爪が要るのか、冬靴の重さや硬さがどう感じられるのかを、買う前に確かめられます。レンタル事業者ごとの品目や受け取り方の違いは登山用品レンタルの比較にまとめています。
この3種では足りないケースがある
アイゼンとは、雪や氷に爪を差し込んで滑りを抑える道具であって、斜面を登る技術そのものではない。だから「どれを買うか」で答えが出ない場面が存在します。
モンベル公式は、傾斜が緩いところではトレッキングポールを、斜度のきつい雪面を登る際や滑落停止にはピッケルを、と役割を分けて説明しています。つまり滑落停止が視野に入る斜面は、アイゼンの選定だけで準備が終わる場所ではありません。ピッケルは持っているだけでは働かず、止めるための動作を身体が覚えている必要があります。
数字を1つだけ置きます。警察庁生活安全局の「令和6年における山岳遭難の概況等」によれば、令和6年の山岳遭難は発生2,946件・遭難者3,357人。うち死者265人(7.9%)と行方不明35人(1.0%)を合わせて300人(8.9%)、負傷1,390人(41.4%)、無事救出1,667人(49.7%)でした。この統計は装備の良し悪しを直接示すものではありませんし、態様別の内訳をここで断定するつもりもありません。ただ、遭難者のうち半数近くが負傷しているという事実は、装備選びを「好みの問題」にしない理由にはなります。
技術と判断は、この記事の外にあります。アイゼンやピッケルの使い方、雪質や斜面の見立て、その日に入るか引き返すかの判断は、文章で代替できるものではありません。各地の山岳連盟や山岳会が開く雪山講習、ガイド資格を持つ専門家の指導、警察・自治体や気象庁が出す注意報・積雪情報といった公的な情報にあたってください。編集部が書けるのは、公表されている数値と公式の区分までです。
雪山そのものが初めてなら、装備の前に段取りを確認しておくほうが早い。雪山登山を始めるときの順序にまとめてあります。
編集部の見立て:3種のうちどれを買うかより、「今回はこの3種の範囲で収まる山か」を先に判定するほうが、事故の芽は減ると考えています。範囲を外れた日は、道具ではなく行き先を変えるのが最短です。
よくある質問
Q. 軽アイゼンとチェーンスパイクは、どちらを先に買えばいいですか
行き先の状態で決まります。モンベル公式の区分では、チェーンスパイクが「冬の低山ハイク、軽度の凍結対策」、軽アイゼンが「凍結面や雪が少ない低山ハイク」です。凍結面を踏む可能性があるなら軽アイゼン側、雪が薄く滑り止めの範囲で足りるならチェーンスパイク側、という順序になります。どちらも本格的な雪山用として公式が位置づけている道具ではありません。
Q. コバのない登山靴に、12本爪のアイゼンを付けられますか
ワンタッチとセミワンタッチは付けられません。前者はつま先とかかとの両方に、後者はかかとにコバが必要で、無理に装着すると歩行中に外れる危険があるとメーカー公式が注意を促しています。ベルト式なら系統としてはコバなしの靴にも装着できますが、装着できることと、その山に行ってよいことは別です。靴の側を先に見直すのが順序としては正しいと考えます。
Q. 12本爪を1つ持っておけば、低山でも兼用できますか
公式の限定を確認してから決めてください。たとえばグリベル エアーテックライトEVO・ニューマチックは、代理店公式が「ツアースキー等、荷物の重量を抑えたいユーザー向け」で岩場の歩行には不向きと明記しています。本数が多いことは、すべての地形に対応することを意味しません。加えて、踵にコバのある靴が必要になるため、低山ハイク用の靴で兼用する前提そのものが成り立たない場合があります。
Q. エバニューの6本爪アイゼンは、コバのない靴にも付けられますか
エバニューの6本爪アイゼン(EBY014)はラチェット式バックルで締める「バックル式」で、公式は「幅広いシューズにも対応が出来る」と案内しています。一方で、コバの要否についての記載は公式ページにありません(2026年9月30日確認)。サイズはS(22.0〜24.5cm)とL(25.0〜28.0cm)の2展開なので、手持ちの靴を店頭に持ち込み、サイズと固定の具合を合わせて確かめてください。
まとめ:今日やることは、玄関で靴のコバを見ることだけ
買い物の前に確認すべきことは1つです。手持ちの登山靴に、つま先とかかとのコバがあるかどうかを見る。ここが決まらないと、どの表を読んでも選択肢が絞れません。
- 靴を出して、つま先とかかとを指でなぞる。段差があるか、あるならどちらにあるかを確認する。コバなしならベルト式のみ、かかとのみならセミワンタッチまで、前後にあるならワンタッチまでが選択範囲になります。
- 行き先の状態を、公式の3区分に当てはめる。冬の低山で軽い凍結ならチェーンスパイク、凍結面があり雪は少ないなら軽アイゼン、凍った雪面や雪の付いた岩稜なら10〜12本爪。ここで①と食い違うなら、買うのは靴です。
- その靴を持って店頭で合わせる。対応サイズ内でも靴の形状によっては装着できない場合があると代理店公式が案内しています。通販で型番だけを合わせて終わりにしない。
そして、斜度がきつい雪面や滑落停止が関わる場所へ進むなら、道具の前に講習です。装備表を眺めている時間より、雪の上で教わる半日のほうが確実に効きます。
参考・出典
- モンベル「登山装備ガイド 雪山編(アイゼン・ピッケル)」 https://www.montbell.jp/generalpage/disp.php?id=849 (2026年8月11日確認時点)
- モンベル「登山装備ガイド 雪山編(登山靴・ソールの硬さ区分)」 https://www.montbell.jp/generalpage/disp.php?id=680 (2026年8月11日確認時点)
- マジックマウンテン(グリベル日本正規代理店)「エアーテックライトEVO・ニューマチック」 https://www.magic-mountain.jp/products/grivel/p_cramp_airtec_light_evo_nm.php (2026年8月11日確認時点)
- GRIVEL 公式(グローバルサイト)クランポン一覧 https://www.grivel.com/collections/crampons (2026年8月11日確認時点)
- モンベル公式ウェブストア「GORE-TEX ライトスパッツ セミロング #1129430」 https://webshop.montbell.jp/goods/disp.php?product_id=1129430 (2026年8月11日確認時点)
- 警察庁生活安全局「令和6年における山岳遭難の概況等」 https://www.npa.go.jp/publications/statistics/safetylife/r06_sangakusounan_gaikyou.pdf (2026年8月11日確認時点)
- モンベル公式オンラインストア「チェーンスパイク #1129740」 https://webshop.montbell.jp/goods/disp.php?product_id=1129740 (2026年9月30日確認)
- エバニュー公式オンラインショップ「6本爪アイゼン EBY014」 https://outdoor.evernew.co.jp/products/detail/1191 (2026年9月30日確認)
- マジックマウンテン(グリベル日本正規代理店)「G10 EVO」 https://www.magic-mountain.jp/products/grivel/p_cramp_g10_evo.php (2026年9月30日確認)
- マジックマウンテン(グリベル日本正規代理店)「G12 EVO ニュークラシック」 https://www.magic-mountain.jp/products/grivel/p_cramp_g12_evo_nc.php (2026年9月30日確認)
- 気象庁「過去の気象データ検索 平年値(年・月ごとの値) 奥日光」 https://www.data.jma.go.jp/obd/stats/etrn/view/nml_sfc_ym.php?prec_no=41&block_no=47690&year=&month=&day=&view= (2026年9月30日確認)
- やまどうぐレンタル屋 公式サイト https://www.yamarent.com/ (2026年9月30日確認)
