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冬の登山でグローブを「1双」で済ませる前提は、そもそも成り立ちません。警察庁が全国の都道府県警察の情報をまとめた「令和6年冬山情報」の冬山装備チェックリストには、「手袋(グローブ)・予備手袋」と「オーバーグローブ」が別々の独立項目として並んでいます。つまり公的な標準リストの時点で、手袋は複数枚+オーバーグローブという構成が前提になっているわけです。
数字で見ると理由がはっきりします。気象庁の平年値(1991〜2020年統計)で1月の平均気温を並べると、松本が-0.3℃、軽井沢が-3.3℃、奥日光が-3.9℃、富士山山頂は-18.2℃。同じ「冬の登山」という言葉のなかに、約18℃の開きが同居しています。平均風速も松本2.2m/sに対して富士山山頂は15.9m/s、約7倍。1双のグローブでこの幅を全部カバーしようとすれば、どこかで必ず暑すぎるか寒すぎるかになります。
そこで本記事は、冬のグローブを「1つの製品を当てる問題」ではなく「インナー・メイン・オーバーの3層をどう組み合わせるか」という問題として整理します。編集部の整理では、最小構成はインナー+オーバーの2層=合計132g(公表重量の単純合計)から。厳冬期に寄せると3層で365gになります。この差の意味を、公表スペックだけを使って説明していきます。
この記事でわかること
- 冬のグローブを選ぶときに見るべき基準は「防水か防滴か」「保温力(重量が目安)」「層の枚数と操作性」の3つだけであること
- 気温帯(1月平年値の実例)と行動の種類(歩行中/休憩中/稜線)を突き合わせた、必要な層数の早見表
- インナー・メイン・オーバーの代表的な構成3案の重量・価格・役割分担(各社の公表スペックのみで比較)
- 手を濡らさない・冷やさないための運用フローと、予備の枚数の決め方
冬のグローブは「暖かさ」ではなく3つの基準で決まる
グローブのレイヤリングとは、肌に触れる保温層・防風防水の主役となる層・その上から被せる防護層を、状況に応じて足し引きできる形で組む考え方のことです。ウェアの重ね着と発想は同じで、詳しくは登山のレイヤリング(重ね着)の基本で扱っている考え方を、そのまま手先に持ち込むイメージになります。
店頭で並んでいるグローブを前にすると、つい「どれが一番暖かいか」を探しがちですよね。ただ冬の手先で起きるトラブルは、保温力不足だけが原因ではありません。濡れ、風、そして「厚すぎて何もできない」という操作性の問題が絡み合います。だから基準は3つに絞ります。
基準1:防水か、防滴か
モンベルは冬山グローブの構造を「表地→防水透湿性素材→裏地→インナー」の4層構造として説明しており、防水モデルは縫い目に防水処理が施されている一方、防滴モデルは縫い目から浸水し得るかわりに軽量・低価格であるとしています。これは製品の優劣ではなく、割り切り方の違いです。
言い換えると、雪をはたく程度の用途なら防滴で足りるけれど、湿った雪を素手同然で掴み続ける行動が入るなら防水側に寄せる、という分岐になります。同じモンベルの製品でも、防水透湿素材スーパードライテックを使う「アルパイン ライトグローブ」は108g・8,900円(2026年8月確認時点)と軽く、上位の「2 in 1 アルパイン テックグローブ」は241g・23,500円(2026年8月確認時点)。重量で約2.2倍、価格で約2.6倍の開きがあります。
基準2:保温力は「公表重量」から当たりをつける
保温力そのものを数値で比べる共通指標は、各社の公表情報のなかにはありません。そこで編集部が代わりの目安として使っているのが公表重量です。中綿と裏地が増えれば重くなるので、同じカテゴリの製品どうしなら、重量はおおまかな保温力の代理指標になります。
重量が保温力の代理指標になる、といえる範囲
ブラックダイヤモンドの2製品を公式スペックで比べると、「ガイドグローブ」は312g(Mサイズ)でゴアテックス プラス ウォームテクノロジー+プリマロフト ゴールド170g/m²+ボイルドウール、「ソロイスト グローブ」は261g(Mサイズ)でBD.Dry防水インサート+プリマロフト ゴールド クロスコア170g/m²(甲)+133g/m²(掌)。中綿の主要な数字は近いのに51g違うのは、シェルやライニングの構成差です。つまり重量は目安にはなっても、それだけで序列は決められません。
基準3:層を足すほど操作性は落ちる
3つめの基準が、いちばん見落とされます。層を重ねれば暖かくなりますが、指の可動域は確実に狭くなる。ザックのバックルを外す、地図を出す、行動食の袋を開ける——冬の山でも手を使う場面はなくなりません。
編集部の判断としては、「厳冬期の一番寒い瞬間」を基準に1双を選ぶのは失敗しやすい買い方だと考えています。その1双は、行動中のほとんどの時間で暑すぎて邪魔になるからです。層で組むのは、ケチだからではなく、脱げるようにするためです。
ここまでの3基準は、冬山装備全体のなかでの位置づけを押さえておくと使いやすくなります。手袋以外の項目とあわせて見直したい場合は、冬山登山の装備リストで全体像を確認してから戻ってきてください。
気温帯と行動の種類から、必要な層数を先に決める
製品を選ぶ前に決めるべきなのは「何層必要か」です。ここが決まらないまま製品ページを見比べても、判断軸がないので価格でしか比べられません。順番は、チェックリスト→早見表→構成の比較、の3手です。
まず、自分の山行を3問で判定する
- 行き先の冬期の平均気温は、松本の1月平年値(-0.3℃)と奥日光・軽井沢クラス(-3.9℃/-3.3℃)と、富士山山頂クラス(-18.2℃)のどれに近いか
- 樹林帯だけで完結するか、それとも風の抜ける稜線に出るか(富士山山頂の1月平均風速は15.9m/s、松本は2.2m/s)
- 手を止めて停滞する時間があるか(休憩、アイゼン装着、撮影、道迷い時の待機)
3問めが特に効きます。歩いているあいだは体が熱を作るので薄手でも成立しますが、止まった瞬間に必要な保温力は跳ね上がる。同じ日の同じ山でも、必要な層数は行動の種類で変わります。
早見表:気温帯 × 行動の種類 → 必要な層
| 気温帯の目安(1月平年値の実例) | 歩行中(樹林帯) | 休憩・停滞中 | 稜線・強風下 |
|---|---|---|---|
| 平均-0.3℃クラス (松本/低山の雪道) |
インナー1枚 | インナー+メイン | インナー+メイン |
| 平均-3〜-4℃クラス (軽井沢-3.3℃/奥日光-3.9℃) |
インナー+メイン | インナー+メイン+オーバー | インナー+メイン+オーバー |
| 平均-18℃クラス (富士山山頂1月-18.2℃) |
インナー+メイン | インナー+メイン+オーバー (+予備インナーへの交換) |
インナー+メイン+オーバーを外さない |
※気温帯の欄は気象庁の平年値(1991〜2020年統計)に実在する観測地点の数値を「クラスの目安」として置いたものです。実際の行き先の気温は標高・地形で変わるため、当日の予報と現地情報で必ず確認してください。


構成3案の比較:役割分担で選ぶ
層数が決まったら、実際の組み合わせに落とします。以下はモンベルの公式オンラインストアの公表スペック(2026年8月確認時点)だけを使い、重量と価格を単純合計した3案です。
| 構成 | 中身(公表重量) | 合計重量 | 合計価格 (2026年8月確認時点) |
主な役割 | 弱点 |
|---|---|---|---|---|---|
| A:軽量2層 | メリノウール グローブ タッチ 34g +オーバーグローブ 98g |
132g | 8,600円 | 低山の雪道・残雪期。歩行中はインナー1枚、風が出たら被せる | 停滞時の保温力が薄い。厳冬期の稜線には足りない |
| B:中間3層 | ウール トレールグローブ 74g +アルパイン ライトグローブ 108g +トリガーフィンガー オーバーミトン ロング 110g |
292g | 18,470円 | 高原〜山地の一般的な冬山。3段階で調整できる | 3枚を出し入れする手間が増える |
| C:厳冬期3層 | メリノウール グローブ タッチ 34g +2 in 1 アルパイン テックグローブ 241g +オーバーミトン 90g |
365g | 31,800円 | 低温・強風下。メインが取外式インナー付きで単体の保温力が高い | 行動中は暑くなりやすく、細かい操作がしにくい |
合計重量で見ると、Cの365gはAの132gの約2.8倍。金額の差はもっと大きく、約3.7倍になります。ここで言いたいのは「高いほうがいい」ではありません。Aで足りる山にCを持っていくと、暑さと操作性の悪さという別の失敗が起きるということです。
決め方の順番はこれだけ
① 行き先の気温帯クラスを決める → ② 停滞時間と稜線の有無で層数を決める → ③ 層数に合う構成をA・B・Cから選ぶ。
製品名から入らず、層数から入る。これが冬のグローブ選びで迷わないための唯一のコツです。
層ごとの役割と、公表スペックの読み方
ここからは各層を個別に見ていきます。層ごとの役割とは、保温・防風防水・防護のうち、その1枚に何を担当させるかという分担の設計のことです。1枚に全部を担わせないのが、冬の組み方の基本になります。なお編集部は各製品を使用していないため、以下はすべてメーカーおよび正規代理店の公表スペックにもとづく整理です。
インナー層:薄さと「外さない」ことが仕事
インナーの役割は、メインやオーバーを脱いだ瞬間に手が素肌にならないようにすることです。厳冬期に一瞬でも素手になる状況を避けるための保険、と考えるとわかりやすいでしょう。
| 製品 | 重量 | 価格(2026年8月確認時点) | 素材の公表内容 |
|---|---|---|---|
| モンベル メリノウール グローブ タッチ | 平均34g | 2,200円 | ウール67%+ポリエステル26%+アクリル4%+ポリウレタン3% |
| モンベル ウール トレールグローブ | 74g | 2,970円 | ウール混紡(公式ストア表記) |
| モンベル アルパイングローブ ライナー Men's | 106g | 5,280円 | 化繊系ライナー(公式ストア表記) |
34gから106gまで、インナーだけで3倍以上の幅があります。薄手はメインの中に入れても指が窮屈になりにくく、厚手は単体でも歩ける。この選択は「メインの中に何ミリ余裕があるか」に依存するので、メインと同時に決めるのが安全です。
メイン層:防水か防滴かで価格帯が分かれる
いちばん予算がかかるのがこの層です。モンベルの防水透湿素材を使ったモデルで見ると、108g・8,900円(2026年8月確認時点)のアルパイン ライトグローブから、245g・15,500円(2026年8月確認時点)の2 in 1 アルパイングローブ、241g・23,500円(2026年8月確認時点)の2 in 1 アルパイン テックグローブまで連続的に並びます。やぎ革とスーパードライテックを組み合わせたウインター レザーグローブは198g・16,500円(2026年8月確認時点)。
他社に目を移すと、素材の公表内容がより細かいものもあります。ザ・ノース・フェイスの「マウンテングローブ」は22,000円(2026年8月確認時点)で、表地リップストップドビーナイロン、掌部に天然ヤギ革、インサートにGORE-TEX、裏地にPERTEX QUANTUM。中綿はプリマロフト ブラック インサレーション ライズ170gとプリマロフト ゴールド インサレーション エコ ウィズ グリップ コントロール133gを組み合わせると公表されています。同社の「ガイドオーバーグローブ」は21,450円(2026年8月確認時点)で、20D Recycled Nylon GORE-TEX C-Knit Backer(3層)と天然ヤギ革の掌部。
整理すると、こういうことです。防水膜の有無と中綿の量が上がるほど価格は上がり、同時に重量も増える。ただし前述のブラックダイヤモンドの例のように、中綿量が同等でもシェル素材で50g前後の差が出るので、スペック表は「膜」「中綿」「シェル」の3点セットで読むのが実用的です。
ブランドごとに得意な温度帯は違う
ここまでに挙げた各社は、同じ「冬用グローブ」の棚にあっても設計の重心が違います。アルパインクライミング寄りの構成、汎用の冬山寄りの構成、レザー主体の構成——選ぶ前に、そのブランドが何を主戦場にしているかを知っておくと外しにくくなります。各社の成り立ちと得意分野は登山ブランドの特徴まとめに整理してあります。
オーバー層:軽くて安い、最後の防護
意外に思われるかもしれませんが、オーバー層は3層のなかでいちばん安上がりです。モンベルの公式ストアで見ると、オーバーグローブが98g・6,400円(2026年8月確認時点)、オーバーミトンが90g・6,100円(2026年8月確認時点)、トリガーフィンガー オーバーミトン ロングが110g・6,600円(2026年8月確認時点)。3つとも100g前後で、価格も6,000円台に収まります。
この層の仕事は、風と雪の直撃からメイン層を守ることです。メインが濡れなければ保温力は落ちにくい。つまりオーバーは「暖かくするための層」というより「メインの性能を維持するための層」で、100g前後の追加でそれができるなら費用対効果は高いという判断になります。警察庁の冬山装備チェックリストにオーバーグローブが独立項目で載っているのも、この位置づけと整合します。
予算を削るなら、編集部としてはメインのグレードを一段下げてでもオーバー層を確保する順番を推します。オーバーが無い状態でメインを風雪に晒すと、高いメインほど回復に時間がかかるからです。
手を濡らさない・冷やさないための運用フロー
ここが本記事でいちばん書きたかったところです。冬の手先のトラブルは、製品選びの失敗より「運用の失敗」で起きます。運用フローとは、いつ層を足し、いつ交換し、どこに予備を入れておくかを、行動の前に決めておく手順のことです。
予備の枚数は「濡れる回数」から逆算する
警察庁の冬山装備チェックリストには「手袋(グローブ)・予備手袋」と、予備がセットで書かれています。では何枚か。編集部の決め方はこうです。
- インナーの予備は必ず1枚。汗と雪でいちばん先に濡れるのがこの層で、34gの製品なら重量の負担はほぼありません。
- 停滞や撮影で手を出す回数が多い山行は、インナーの予備を2枚に。出し入れの回数がそのまま濡れる機会になります。
- メインの予備は、行程が長い/エスケープが遠い場合のみ。241gクラスをもう1双持つ判断は重量に直結するので、オーバー層でメインを守る設計に切り替えるほうが合理的です。
濡れたときの交換手順
手が冷たいと感じてから対応を始めると、ほぼ間に合いません。感覚が鈍る前に動くのが原則です。
やってはいけない交換の仕方
風が抜ける稜線上で、ザックを下ろして予備を探し始める。これが最悪の手順です。探している数分間、手は素手か薄手1枚のまま風に晒されます。交換は必ず風を避けられる場所まで下げてから。そして予備は「ザックの奥」ではなく、立ったまま片手で届く場所に入れておくこと。ザックのヒップベルトポケットや雨蓋のように、下ろさずにアクセスできる収納があるかは冬用ザックを選ぶ段階の判断材料になります(ミレーのザックのように、ポケット構成が明記されているモデルは事前に確認しやすいです)。
手順としてはシンプルです。①風を避けられる場所へ移動する ②オーバー層を先に外し、メインを裏返さないように脱ぐ ③濡れたインナーを予備と交換する ④濡れたインナーはウェアの内側に入れて体温で乾かす ⑤オーバーまで戻して行動を再開する。予備が尽きたら、その時点で行動を切り上げる判断をします。


冷えを甘く見ないための、公的な記録
警察庁「令和6年冬山情報」には、各県警察が寄せた実際の事案が記載されています。栃木県警察の情報として「令和3年12月、単独登山者が、吹雪で身動きがとれなくなり、避難小屋へ避難するも凍傷で歩行困難となる事故が発生」、長野県警察の情報として「令和4年1月、東天狗頂上付近で下山中の登山者が吹雪と疲労により、1人が死亡、2人が手足の凍傷となる事案が発生」と記されています。山梨県警察の情報では、金峰山で単独登山中に道に迷い手に軽傷の凍傷を負った事案も記録されています。
同資料は富士山について「冬の富士山は気象条件が厳しく、氷点下30度の気温、風速30mの強風も希ではありません」とも記述しています。数字の桁が変わる世界だということです。
応急処置と医療の線引き
国際山岳医が運営する専門家団体である山岳医療救助機構は、凍傷に対してマッサージは組織を破壊するため行わないこと、水疱は破らないことを説明しています。ここに書けるのはその範囲までです。症状の判断や治療は本記事の扱える領域ではないため、異常を感じた場合は自己判断せず医療機関を受診してください。あわせて、深部体温が35℃以下に低下した状態を低体温症と定義する解説が日本登山医学会のサイトに掲載された資料にあります。手先の冷えは全身の冷えと切り離せないため、低体温症の予防と対処もセットで確認しておいてください。
なお冬季は登山道の状況そのものが夏と別物になります。行動計画を立てる段階で、登山地図アプリや最新の登山道情報で現地のコンディションを必ず確認してください。
ここまでに整理した層の考え方に当てはまるのが、外側はブラックダイヤモンドのソロイスト、内側はアイスブレーカーの200 オアシス グローブライナーという組み合わせです。ソロイストは厚手側を担当し、グローブライナーはその内側で汗を扱う層になります。2つで1つの構成なので、片方だけを買っても本文で書いた「予備を含めて3つの役割」は埋まりません。公表スペックの出典は上の表と同じです。価格と在庫は変動するので、最新はリンク先で確認してください。
3つ目の役割「予備」に何を選ぶかも書いておきます。ノースフェイスのシンプルトレッカーズグローブのような薄手のユニセックスモデルは、予備として持つ前提なら価格と軽さで選んでよい枠です。スマホのタッチパネルに対応しているモデルなら、地図アプリの操作で外す回数も減らせます。
本文で「予備は必須扱い」と書いた理由は、手袋がいちばん失いやすい装備だからです。ザックの開け閉め、地図の操作、行動食を出す——手は繰り返し露出します。風の強い稜線で片方を飛ばした瞬間から、行動そのものが制限される。予備は高性能でなくてよく、あることに意味があります。
ここからが本番の2つです。予備と違い、こちらは性能で選ぶ枠になります。
まず外側を担当するのがブラックダイヤモンドのソロイストです。厚手側の役割は、停滞と稜線で手を守ること。行動中はこれを外して薄手に替える前提なので、着脱のしやすさも見ておく項目になります。
ここからは予備ではなく、性能で選ぶ2つに入ります。行動中と停滞中で手に求めるものが変わるので、1双で兼ねようとせず役割ごとに分けて考えてください。まず外側がブラックダイヤモンドです。
そして内側が、アイスブレーカーの200 オアシス グローブライナーです。メリノのインナーグローブで、外側の厚手グローブの中に履きます。役割は保温そのものではなく汗の処理。行動中に手が汗ばむと、休憩で一気に冷えます。もうひとつの利点は、外側を外して細かい作業をするときに素手にならずに済むことです。冬にカラビナやジッパーを扱うとき、この一枚があるかどうかで指の動きが変わります。
外側が決まったら、次はその内側です。厚手を1双だけ持つ構成では、細かい作業のたびに素手になります。ここを埋めるのがアイスブレーカーのインナー層になります。
この組み方が向かない人・3層構成のデメリット
ここまで層で組むことを勧めてきましたが、全員に当てはまるわけではありません。正直に書いておきます。
- 年に1〜2回、低山の雪道を歩くだけの人。松本の1月平均気温-0.3℃クラスの環境で樹林帯だけを歩くなら、構成Aの2層(132g・8,600円・2026年8月確認時点)でも過剰なくらいです。3層をそろえる31,800円(同)は、使用頻度に対して見合いません。
- 細かい手作業が多い人。撮影、ロープワーク、器具の調整など指先の精度が要る行動が中心なら、重ねるほど作業効率は落ちます。この場合は層数を増やすより、操作性の高いメイン1枚+短時間だけ被せるオーバー、という割り切りのほうが機能します。
- 荷物を極限まで削りたい人。構成Cの365gは構成Aの約2.8倍。手袋だけで見れば小さな差ですが、軽量化を積み上げている人にとっては無視できない数字でしょう。
デメリットも3つあります。1つめは、単純に手間が増えること。層を足し引きするたびに立ち止まる必要があり、パーティで歩いていれば待たせることにもなります。2つめは、重ね過ぎると操作性が落ちること。特にオーバーミトンを被せた状態では、指を分けた作業はほぼできません。3つめは、初期費用です。3層をゼロからそろえると、モンベルの構成Cで31,800円(2026年8月確認時点)。1双で済ませる発想より高くつくのは事実です。
それでも編集部が層を推すのは、失敗したときのリカバリー幅が違うからです。1双構成は、その1双が濡れた時点で選択肢が尽きます。層構成なら、どれか1枚が使えなくなっても組み替えて下山までつなげる。保険としての意味が大きいと考えています。
ちなみに、同じ「グローブ」でも夏と冬では要求される性能がまったく違います。夏に使っているものを冬に流用できるか迷っている場合は、夏の登山用グローブで夏側の役割を確認してから判断すると、流用の可否がはっきりします。
よくある質問
Q. 冬の登山にグローブは何双持っていけばいいですか。
A. 警察庁の冬山装備チェックリストは「手袋(グローブ)・予備手袋」と「オーバーグローブ」を別項目で挙げているため、最低でも「メイン+予備+オーバー」の考え方が標準と読めます。編集部の整理では、インナーの予備1枚を必ず加えたうえで、停滞や手を出す回数が多い山行では予備を2枚に増やす、という決め方をおすすめしています。
Q. サイズはきつめとゆるめ、どちらを選べばいいですか。
A. まず自分の手の寸法を測るのが先です。モンベルはグローブのサイズを「掌囲」(親指を除く4本指の付け根ひとまわりの長さ)で表記しており、XSが18.5〜20.5cm、XXLが28.5〜30.5cmの6段階展開です。測り方は、左手の生命線の始点と、小指付け根のシワ・手首付け根のシワを結んだ線を手首側から1/3の位置を通ってぐるりと一周した長さ、と説明されています。ミズノも同様に「手囲い」で測る方法を案内しています。インナーを重ねる前提なら、その分の余裕を見込んだサイズ選びが必要になるため、実際の組み合わせを決めてから店頭で合わせるのが確実です。
Q. 「防水」と「防滴」は何が違いますか。
A. モンベルの説明では、防水モデルは縫い目に防水処理が施されているのに対し、防滴モデルは縫い目から浸水し得るかわりに軽量・低価格である、とされています。同社は冬山グローブの構造を「表地→防水透湿性素材→裏地→インナー」の4層構造として解説しており、防水膜の有無だけでなく縫製処理まで含めて違いが生まれる仕組みです。
Q. オーバーグローブとオーバーミトン、どちらを選べばいいですか。
A. モンベルの公表スペックでは、オーバーグローブが98g・6,400円(2026年8月確認時点)、オーバーミトンが90g・6,100円(2026年8月確認時点)、トリガーフィンガー オーバーミトン ロングが110g・6,600円(2026年8月確認時点)。重量も価格も大差はありません。編集部の整理では、指が分かれている形状ほど細かい操作がしやすく、指をまとめる形状ほど手のなかで熱を分け合いやすいという構造上の性質があるため、行動中に手を使う頻度で選ぶのが実用的です。トリガーフィンガー型はその中間にあたります。
Q. グローブをしたままスマートフォンを操作できますか。
A. モンベルの「メリノウール グローブ タッチ」のように、タッチ操作を想定した名称の製品も存在します。ただし対応の可否や画面の反応範囲は製品と端末の組み合わせで変わるため、購入前に各メーカーの製品ページで最新の仕様を確認してください。冬期は端末のバッテリーが冷えて消耗しやすい点も、あわせて計画に織り込んでおくと安心です。
Q. 手だけ対策すれば凍傷は防げますか。
A. 警察庁「令和6年冬山情報」に記載された事案を見ると、鳥取県警察の情報として「令和4年2月、登山道を下山中の登山者2人が、悪天候と疲労により歩行困難となり、1人が死亡、1人が凍傷で救助される事案が発生」とあるように、悪天候・疲労・行動不能といった要素が重なった状況で発生しています。手袋だけの問題として切り離せるものではありません。症状や処置の判断は医療機関に委ねるべき領域であり、本記事では扱いません。足元の装備も同じ考え方が必要になるため、雪山用の登山靴とあわせて全身の構成を見直してください。
まとめ:今日やることは、掌囲を測ることだけ
冬のグローブ選びで最初につまずくのは、製品比較ではなくサイズです。掌囲がわからないままオンラインで注文すると、インナーを入れた瞬間に指が詰まる、あるいは大きすぎて中で泳ぐ、という結果になりがち。逆に言えば、寸法さえ手元にあれば、あとは層数を決めて構成をA・B・Cから選ぶだけの作業に変わります。
今日やること:メジャーで左手の掌囲を1回測る。それだけです。
親指を除く4本指の付け根ひとまわり。この1つの数字が、この記事の内容すべてを実行可能にします。
- 掌囲を測る。モンベルの表記基準(XS 18.5〜20.5cm 〜 XXL 28.5〜30.5cm の6段階)に自分がどこで当たるかを確認します。
- 行き先の気温帯クラスと、停滞時間・稜線の有無を決める。早見表に戻り、必要な層数を確定させます。
- 層数に合う構成を選び、インナーの予備1枚を必ず足す。最小構成Aなら132g・8,600円(2026年8月確認時点)から始められます。
手先の装備は、冬山の装備計画のなかの一部にすぎません。全体の抜けを確認するなら冬山登山の装備リストへ、当日の気象判断や行動計画は登山地図アプリと最新の現地情報で。準備は、数字を1つ測るところから前に進みます。
参考・出典
- モンベル公式オンラインストア グローブ一覧(2026年8月8日確認)
- モンベル「手を暖かく快適に!冬山グローブの選び方」(2026年8月8日確認)
- モンベル公式オンラインストア「サイズについて」(2026年8月8日確認)
- ゴールドウィン公式 ザ・ノース・フェイス マウンテングローブ / 同 ガイドオーバーグローブ(2026年8月8日確認)
- ロストアローオンラインストア ブラックダイヤモンド ガイドグローブ / 同 ソロイスト グローブ(2026年8月8日確認)
- 警察庁「令和6年冬山情報」(令和6年11月26日現在)(2026年8月8日確認)
- 気象庁 過去の気象データ検索 富士山(山頂)平年値 / 軽井沢 / 松本 / 奥日光(日光)(統計期間1991〜2020年・2026年8月8日確認)
- 山岳医療救助機構「(救助版)低体温症・雪崩・凍傷-2022update」(国際山岳医が運営する専門家団体/2026年8月8日確認)
- 日本登山医学会サイト掲載 講義資料「低体温症」(2026年8月8日確認)
- ミズノ公式ユーザーサポート「【手袋】サイズの測定方法」(2026年8月8日確認)
